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第一章
第五十一話 勝利への道はこれまでの積み重ね
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グルメと戦い始めて、どれほどの時間が経っただろうか。
グレイヴと徒手空拳という違いこそあるが、まだ傍から見れば常識的な戦い方だった戦闘の様相は、時間の経過と共にファンタジー感が増していっていた。
「〈雷光〉!」
「無駄だッ!」
籠手形態のアーティファクト〈黒金雷掌ヤルングレイプ〉からレーザーの如く放たれた黒雷が、グルメの背中に生えた棘に引き寄せられると、そのまま吸収されて掻き消える。
吸収された黒雷がグルメの手から放たれてくるが、ヤルングレイプに備わる〈雷電無効化〉によって直撃した瞬間に黒雷は消滅した。
「……コレも棘に吸収されるのか」
「便利だろ?」
「見た目は悪いけどな」
戦闘開始とともにグルメの背中に生えてきた棘は、一体何なのかと疑問だったが、その効果はヤルングレイプの雷電攻撃を使い出してすぐに判明した。
その時はグルメの動きを止めるために隙をついて〈放電〉を放ったのだが、広範囲に放たれた黒雷の全てが引き寄せられ吸収された。
それならばと、威力と勢いのある〈雷光〉を放ったのだが、結果はこの有り様だ。
「吸収できるのは雷だけか?」
「そこは秘密だよ」
流石にそこまで馬鹿正直に教えてはくれないか。
まだ〈双炎掌〉による炎攻撃もあるが、コレも雷と同様に吸収できて使用された場合、こちらには炎攻撃を無効化できる手段がない。
謎金属の性質変化特性を使えば、ある程度は炎と熱に抵抗出来なくはないだろうが、それでも無効化までは出来ない。
少なからずダメージを受けるだろうし、そうしてできた隙を突いて急所へ〈捕食〉を使われたら負けだ。
「さて、どうしようかな」
「降参するのはどうだい?」
「屠殺されたくはないんでね」
「……金属の場合も屠殺なのかな?」
「……解体かな?」
互いに軽口を叩きながら相手の隙を窺う。
そんな緊張状態の中、グルメが此方を警戒しながら右の手で左の手首に着けた腕環に触れた。
すると、まるで見えない袋の中から物を取り出すような動きで右手が消えて、次の瞬間に再び現れた右手には人の腕が握られていた。
右の掌の口の奥へと腕が消えていくのを見て、その光景に思わずグルメに尋ねていた。
「アーティファクトか?」
「そっ。キミのその籠手と同じだよ。まぁ、これには戦闘能力は無いんだけど、食料を保管したり解体道具を持ち運ぶのには重宝しているよ」
「そうだろうな……アンタを倒せばそれが手に入るとなれば気合いが入るな」
「そうなるといいねッ!」
背中側の肩の辺りに生えていた棘が前方へと向くと、その棘の先から緑色の液体が噴射されてきた。
ジェット噴射のように勢いよく放たれた液体を咄嗟に避けるが、その飛沫までは避け切れず身体に大量に付着する。
「チッ、強酸か!」
白煙を上げながら溶け続ける金属部分を分離し、それ以上のダメージを防ぐ。
が、その行動によって隙が生まれてしまっていた。
強酸攻撃を受けても、グルメとの距離が空いているから大丈夫だと油断したのが拙かった。
「っ!?」
突如としてスタジオの床が蠢くと、足元が僅かに陥没して足首が固定された。
固定自体は然程強力なものではない。
だが、強酸攻撃への対処で生まれた隙を更に伸ばす程度の効果はあった。
凄まじい悪寒を感じてグルメの方を凝視すると、グルメが此方に向かって大きく口を開いていた。
「〈大喰い〉」
グルメのその言葉が聞こえてくるともに、〈死〉が迫ってくるのが本能で理解できた。
その〈死〉の気配が向かってくるのは頭部。
即座に〈骨格稼働〉を使って無理矢理身体を仰け反らせる。
ただ仰け反るのではなく、金属鎧化した身体の表面を抜け殻のように分離して残した上での脱出だ。
更に〈気配希薄〉を最大限に稼働させて俺自身の気配を消し去った。
駄目押しにこれまでに倒した超人の誰かから手に入れた〈擬死〉も使って気配を完全に断つ。
動いたら〈擬死〉の効果は無くなるが、今は好都合だ。
一連の動きを一瞬で済ませた直後、不可視の一撃が抜け殻となった金属鎧の頭部の辺りを纏めて消し去っていった。
その消滅範囲は掌の口の捕食掌底よりも広範囲であり、これまで掌でしか行なわなかったのは、掌の口でしか出来ないと思わせるためだったのだろう。
もしかすると、先ほどの食事は頭部の口での一撃ーー捕食レーザーとでも呼ぼうーーを使うためのエネルギー補給だったのかもしれないな。
「……フフッ、ハハハッ、ハーハッハッハッハッ!! 切り札というのは、勝負の決めどころで切る手札だからこそ切り札と言いますが、まさにその通りですよねぇ! 頭部をやられては流石に死にますか」
足首を固定されて立ったまま動かない首無し金属鎧へとグルメが近付いてくる。
仰け反ったままの俺の周りには、グルメ自身が放った強酸で溶けた床から発生した白煙のおかげで視界が悪く、俺にとっては非常に都合が良い状況だった。
十……八……五……三……二……一、今だ!
「なっ!?」
目の前に立ったグルメに向かって抜け殻となった首無し金属鎧が掴み掛かった。
その動きはまるで人間のようで、凄まじい力でグルメの両手を捻り上げ、首の断面の金属を金属触手としてグルメの首を締め上げて無理矢理顎を閉じさせた。
この首無し金属鎧の精密かつ強靭な動きは、ボスモンスターであるリッチから手に入れた能力〈使役〉の力だ。
普通に使えばグルメの力の前では無力だが、頭部の口による捕食レーザーで消耗している今ならば拘束するのは容易かった。
「あー、死ぬかと思った」
「ッ!? 生き、てたのですか?」
「嫌な予感がしたんでね」
仰け反った状態から元の体勢に戻ると、超至近距離からグルメを見据える。
突然だったので分からなかったが、先ほど感じた死の予感は、リッチから手に入れた上着型アーティファクト〈幻死霊衣ノスフェラトゥ〉の能力の一つ〈死の予兆〉によるものだったのだろう。
今ひとつ理解が難しくて把握するのを後回しにしていたが、今回のことで大体分かったな。
「さて、まずはコレは折っておくか」
鋭く振るわれてきた尻尾を踏み付けると、足裏から金属杭を生み出して床に縫い付けた。
それからグルメの背中に生える棘を全て根本から折ると、断面を謎金属で覆っておく。
更に追加でグルメの全身に追加で謎金属を纏わせ、身体の各所に金属杭を突き刺していった。
この時に判明したのだが、グルメの頭部に金属杭を刺しても彼は即死しなかった。
ダメージはあるようだが、この程度では死にそうに見えない。
「やはり、この手が一番か」
「一体、何を?」
「何って、アンタの息の根を止めるついでに能力の検証をしようと思ってな」
顎と首を抑えられて喋り難そうなグルメに言葉を返してやると、足元から謎金属を生み出して彼を覆い隠すような形に謎金属を操作する。
「あ、忘れてた」
「ぐっ!」
「もしかすると破壊されるかもしれないし、切り離しておかないとな」
グルメの左手を拘束する謎金属を操作して左手首の部分を切断し、腕環型アーティファクトのみを排出させた。
足元に転がってきた腕環を拾いたいところだが、まだこのアーティファクトはグルメに帰属しているため、装着は勿論のこと触れるだけでも再びグルメの元に戻る可能性がある。
なので、直接は触れずにグレイヴの切っ先に引っ掛けてから確保した。
「冥土の土産に電子レンジ内で爆発する卵の気分を味わってくれ」
「まーー」
グルメが何か言おうとしていたのをスルーして、謎金属に拘束された彼を黒い金属製の球体の中に閉じ込めた。
黒球に閉じ込めて間も無く、凄まじい爆発音とともに黒球の形が大きく歪み、その振動はスタジオを揺らすほどだった。
これは、夜間アンデッド炎上ツアー後に手に入れた〈肉片爆発〉を使い、黒球内部のグルメを拘束する全ての謎金属を爆発させた結果だ。
謎金属も全身金属鎧化した俺の身体から分離した俺の身体の一部であるため、〈肉片爆発〉の爆発の条件は満たしている。
黒球を構成する謎金属の壁はかなり厚くしたが、それでも内部からの圧力でここまで歪むとは……この威力は地雷とかでも使えそうだな。
黒球内部からグルメの気配が消えたのを確認してから、グレイヴの切っ先に引っ掛けた腕環型アーティファクトを手に取り装着してみた。
腕環型アーティファクトと何か繋がったような感覚が起きた後、暫く経っても俺の腕から腕環が消えることはなかった。
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