103 / 140
第三章
第百二話 目的の果実
しおりを挟む◆◇◆◇◆◇
資源ダンジョン〈紅果の森〉の名の由来になっている紅色の果実は、正式な名称を〈珠玉の迷果〉と言う。
〈紅果の森〉の奥地にしか自生していない魔法的な力を持つ果実であり、色合いは名前の通り赤色で、サイズはリンゴより一回りほど小さい。
リンゴに似た甘くて瑞々しい味だけでなく、食べた後の体力と魔力の回復力の一時的な強化を齎らしてくれる。
これだけでも珠玉というアイテム名に恥じない効果を持つ希少な果実ではあるが、同じく迷果というアイテム名に相応しい副次的な効果も有していた。
「これは微弱な毒状態になる迷果だな。そしてこっちは酩酊状態になる迷果だ」
「マイナス効果ばかりですねー」
「プラス効果の迷果は中々見当たりませんね」
「プラス効果付きの迷果は全体の1割と言われてるからな。確率的にもこんなものだろう」
紅果こと〈珠玉の迷果〉は、主要効果である体力魔力の一時的な回復力強化以外にも、個体ごとに異なるランダム効果を有している。
実質的にはこのランダム効果こそが、迷果がその価値を高めるに至った理由だ。
マイナス効果の迷果を食べると毒などといった様々な状態異常効果が齎され、プラス効果の迷果だと筋力や防御力などプラスになるような各種効果が付与される。
どちらであっても効果は一時的なものだが、その効力は丸一日続く。
また、迷果には果実の状態から加工すると主要効果もランダム効果も失われるという特徴があり、マイナス効果の迷果であってもジュースなどにすれば問題ないため、プラスもマイナスも共に需要があり、今も未来も高値で売買されていた。
「とはいえ、本命はコレじゃないんだけど」
木に実っている全ての迷果を採取し、そのどれもがマイナス効果付きであることを確認すると、【堕天の蔵】の収納空間へと次々と放り込んでいく。
俺と同じように【堕天の蔵】の出入り口である黄金の渦へと迷果を投げ入れていたリリアとマリヤが、この俺の呟きに反応してきた。
「本当にあるんですか? 迷果以外の紅果なんて聞いたことないんですけど」
「私もありません。ネットで検索しても紅色の果実は迷果しか出てきませんでしたよ」
「そりゃあ、存在を知っている極少数の奴らが隠してるからな。競争相手が増えるからネットで情報を拡散したりしないさ」
「リーダーはよく知ってましたね」
「異能のおかげだ」
「……クロヤさん。なんでも異能の力だと言っておけばいいと思っていませんか?」
「気のせいだ」
リリアからの鋭い指摘を躱しつつ回収作業を続ける。
今回のダンジョンアタックの真の目的とも言える迷果以外の紅果という存在が表舞台に出たのは、回帰前の世界だと今から約3年後。
とある探索者が運良く入手し、深く考えずにSNSにあげたのがきっかけだった。
それまでは大企業のトップや大型ギルドのギルドマスターなど極一部の者達しか存在を知らなかったが、この一件を境に情報が拡散した。
今の時期ならば世間には知られていないので競争相手も限られている。
だから、リハビリも兼ねてじっくりと探してみるには良い機会だと考えた。
仮にその限られた競争相手がタイミングよく此処に来ていても、迷果の方が狙いだと思うはずなので大して気にすることはないだろう。
「む。プラスの迷果か」
両眼に同化中の鑑定系アーティファクト〈月神の賢眼〉が、進行方向先の木に実っている迷果がプラス効果付きであることを教えてくれた。
残念ながら目的の果実ではなかった。
迷果の効果を調べるにはアイテム鑑定系のスキルが必須だ。
アーティファクトである〈月神の賢眼〉の簡易版の〈鑑定宝玉〉が開発されるまでは、人やアイテムを鑑定するには鑑定スキルを持つ覚醒者に頼るしかなかった。
そのため、資源ダンジョン〈紅果の森〉の深部で直接迷果の良し悪しを調べるには、鑑定スキル持ちを現場に連れてくる必要があるが、貴重かつ高給取りの鑑定持ちが危険なダンジョン内に出てくることは殆どない。
なので、現状では鑑定スキルがなければ目に付いた迷果を適当に採取し、効果がプラスかマイナスかを確認せずに売却するしかなかった。
売却の前に鑑定費用を支払って効果を調べるかどうか、その探索者次第だ。
そういった事情と元々の数の少なさも相まって、プラス効果付きの迷果はマイナス効果付きの迷果の数十倍以上の価格で取引されている。
アイテム鑑定用の鑑定宝玉が普及すれば、ダンジョン内で直接鑑定する者も増え、市場に流れるプラスの迷果の数も増えるに違いない。
プラス効果付きの迷果で稼ぐならば今しかないが、目的の果実ではないので他の迷果と同様に収納していった。
その後も時折プラス効果付きの迷果を見つけていったが、真の目的である迷果以外の紅色の果実は一向に見つからなかった。
「うーん。財宝王の装備があっても見つからないな……」
身に付けている〈財宝王の四宝具:財を漁る魔宝環〉と〈財宝王の四宝具:命運握る首飾り〉には、それぞれ【財宝探知】と【財運招福】という能力がある。
名前の通り、希少かつ高価なモノを探すのに役立つ能力なのだが、見つかるのはプラスの迷果だけだった。
共に〈財宝王の四宝具シリーズ〉のマジックアイテムであり、全部で4種あるこのアイテムを全て揃えた先着1名は、ユニーククラス〈財宝王〉を獲得できる。
回帰前の未来における〈財宝王〉の力を知っている身としては、そのユニーククラスの力の一端である2つの能力には期待していた。
だが、たった2つだけでは、目的の果実を探し出すには力不足のようだった。
「……仕方ない。先にユニーククラス獲得を目指すか。2人共、今週は時間はあるか?」
「大丈夫ですよ」
「私も時間はありますよ」
「それなら良かった。明日……は準備があるだろうから、明後日からF県にあるダンジョンに行くぞ」
回帰前の記憶が確かならば、財宝王シリーズのアイテムの1つはそこで手に入ったはずだ。
残る1つに関しては時期的にまだ手に入らないから、一先ずこのアイテムを手に入れるとしよう。
20
あなたにおすすめの小説
日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。
wakaba1890
ファンタジー
召喚獣。
それは向こう側とされる所から、10歳を迎えた日本人の子供の下に召喚されるモンスターのことである。
初代天皇・神武天皇が日本を建国した際に書かれた絵画には彼は金鵄と呼ばれる金色に輝く鵄(とび)と契約したのが原初となっている。
そして、縄文、弥生、古墳、飛鳥、平安、戦国時代から近代から今に至るまで、時代を動かしてきた人物の側には確かに召喚獣は介在していた。
また、奇妙な事に、日本国に限り、齢10歳を迎えた日本在住の日本人にのみ体のどこかから多種多様な紋章が発現し、当人が念じると任意の場所から召喚陣が現れ、人ならざるモンスターを召喚される。
そして、彼らモンスターは主人である当人や心を許した者に対して忠実であった。
そのため、古来の日本から、彼ら召喚獣は農耕、治水、土木、科学技術、エネルギー、政治、経済、金融、戦争など国家の基盤となる柱から、ありとあらゆる分野において、今日に至るまで日本国とアジアの繁栄に寄与してきた。
そして、建国から今まで、国益の基盤たる彼ら数万種類以上をも及ぶ召喚獣を取り締まり管理し、2600年以上と脈々と受け継がれてきた名誉ある国家職がーーーーー国家召喚獣管理官である。
新世機生のアポストル 〜Restart with Lost Relic〜
黒城白爵
ファンタジー
異界から突如出現したモンスターによって、古き世界は終わりを告げた。
新たな世界の到来から長い年月が経ち、人類は世界各地に人類生存圏〈コロニー〉を築いて生き残っていた。
旧人類、新人類、コロニー企業、モンスター、魔力、旧文明遺跡、異文明遺跡……etc。
そんな様々な物が溢れ、廃れていく世界で生きていた若きベテランハンターのベリエルは、とある依頼で負った怪我の治療費によって一文無しになってしまう。
命あっての物種、だが金が無ければ何も始まらない。
泣く泣く知り合いから金を借りてマイナススタートを切ることになったベリエルは、依頼で危険なコロニーの外へと向かい、とある遺物を発見する……。
この世界にダンジョンが現れたようです ~チートな武器とスキルと魔法と従魔と仲間達と共に世界最強となる~
仮実谷 望
ファンタジー
主人公の増宮拓朗(ましみやたくろう)は20歳のニートである。
祖父母の家に居候している中、毎日の日課の自宅の蔵の確認を行う過程で謎の黒い穴を見つける。
試にその黒い穴に入ると謎の空間に到達する。
拓朗はその空間がダンジョンだと確信して興奮した。
さっそく蔵にある武器と防具で装備を整えてダンジョンに入ることになるのだが……
暫くするとこの世界には異変が起きていた。
謎の怪物が現れて人を襲っているなどの目撃例が出ているようだ。
謎の黒い穴に入った若者が行方不明になったなどの事例も出ている。
そのころ拓朗は知ってか知らずか着実にレベルを上げて世界最強の探索者になっていた。
その後モンスターが街に現れるようになったら、狐の仮面を被りモンスターを退治しないといけないと奮起する。
その過程で他にもダンジョンで女子高生と出会いダンジョンの攻略を進め成長していく。
様々な登場人物が織りなす群像劇です。
主人公以外の視点も書くのでそこをご了承ください。
その後、七星家の七星ナナナと虹咲家の虹咲ナナカとの出会いが拓朗を成長させるきっかけになる。
ユキトとの出会いの中、拓朗は成長する。
タクロウは立派なヒーローとして覚醒する。
その後どんな敵が来ようとも敵を押しのける。倒す。そんな無敵のヒーロー稲荷仮面が活躍するヒーロー路線物も描いていきたいです。
アポカリプスな時代はマイペースな俺に合っていたらしい
黒城白爵
ファンタジー
ーーある日、平穏な世界は終わった。
そうとしか表現できないほどに世界にモンスターという異物が溢れ返り、平穏かつ醜い世界は崩壊した。
そんな世界を自称凡人な男がマイペースに生きる、これはそんな話である。
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
ダンジョン学園サブカル同好会の日常
くずもち
ファンタジー
ダンジョンを攻略する人材を育成する学校、竜桜学園に入学した主人公綿貫 鐘太郎(ワタヌキ カネタロウ)はサブカル同好会に所属し、気の合う仲間達とまったりと平和な日常を過ごしていた。しかしそんな心地のいい時間は長くは続かなかった。
まったく貢献度のない同好会が部室を持っているのはどうなのか?と生徒会から同好会解散を打診されたのだ。
しかしそれは困るワタヌキ達は部室と同好会を守るため、ある条件を持ちかけた。
一週間以内に学園のため、学園に貢献できる成果を提出することになったワタヌキは秘策として同好会のメンバーに彼の秘密を打ちあけることにした。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!
おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。
ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。
過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。
ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。
世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。
やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。
至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる