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第一章
第二十九話 現在の強さ
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「……」
「……」
単独でエリアボスを倒した謎の美女と、その戦いを途中から観戦していた謎の男こと俺が無言で見つめ合う。
見つめ合うと聞くと、個人的にはなんだか色っぽい感じがする表現だが、実際には互いを警戒して口を閉ざしているだけだった。
亜麻色の長髪に紫色の瞳をした、どちらかと言うと可愛い系の美貌。
女性の年齢を推測するのは難しいが、今の俺と同じくらいに見えるから、たぶん20代前半だろう。
コルセット風の革鎧に白いブラウスとロングスカートといった装いに汚れはなく、魔力を感じることからマジックアイテムであることが分かる。
豊かな胸部に括れのある細い腰、ほどよいサイズの臀部に長い脚と、顔だけでなくスタイルまで良い美女だ。
そんな美女が持つメイスに、撲殺した〈腐死体〉系エリアボスの肉片や腐液が付着している光景だけが異質だった。
まぁ、異常という点だけを見るならば気になるところは他にもあるのだが……。
「えっと、エリアボス討伐おめでとう」
「……ありがとうございます」
良し。取り敢えず反応はしてくれるみたいだな。
「まさか俺以外で此処に潜っている人がいるとは思わなかったよ」
「私も初めて人に会いました」
「そっかー。本当に不人気なんだな、このダンジョンって」
どうやら、この撲殺美女は以前から〈不浄墓地〉を利用しているらしい。
そんな不人気ダンジョンで何故1人で狩りをしているのか気になったが、それを言ったら俺も同様だから聞かないでおくことにした。
自己紹介でもしようかとも思ったが、あまり絡むとナンパ野郎だと勘違いされそうだから、このまま退散するとしよう。
「途中から観戦していた俺が言うのもなんだが、これ以上邪魔しちゃ悪いからお暇させてもらうよ。お互い頑張ろうな」
「そうですね、頑張りましょう」
「では、また機会があれば。それでは」
横を通り過ぎてエリアボスがいた広場を後にする。
暫く俺の背中に視線が突き刺さっていたが、彼女の気配をギリギリ感じ取れるぐらいに離れた頃になって、漸く俺に向けられていた視線が途切れた。
「結構警戒心が強かったな。いや、1人でダンジョンに潜るなら当然のことか」
性別に関わらずダンジョン内で初対面の他人を警戒するのは当たり前だが、男性と女性なら女性の方が危険な目に可能性が高いので、あの警戒心の高さも納得である。
それにしても、単独でエリアボスを討伐できるほどに強くて、あれだけの美女なら前世でも有名になってそうだが、彼女を見たのは初めてだった。
偶々話題にならなかっただけか、ダンジョンに潜ることを辞めたか……或いは亡くなってしまったのかもしれないな。
「エリアボスを倒せなかったのは残念だが、楽をできたと思うことに……したかったんだけどな」
物陰から飛来してきた杭状の骨を上半身を反らすことで躱わしてから、そちらに顔を向ける。
数多もの骨が組み合わせてムカデのような形態を構築している〈無骨殻百足〉が、鎌首をもたげるように立ち上がって俺を見下ろしていた。
自分の担当エリア内を徘徊するタイプのエリアボスであり、先ほどの美女が倒したエリアボスを討伐したら遭遇する可能性があるエリアボスだ。
デカい図体をしているが、徘徊するエリアが広いため、意図して遭遇するのが地味に難しいエリアボスなのだが、速攻で遭遇してしまったな。
「普通なら運が悪いと言うべきなんだろうが、肩透かしを喰らった今の俺にとっては運が良い」
このエリアボスに用事はなかったが、会ってしまったのなら仕方がない。
倒して宝箱を得るとしようか。
「グラトニア」
「GEGE!」
「喰らえ」
【捕喰ノ牙】で具現化した〈捕喰ノ牙〉が、蛇のような魔力体を飛翔させてスケルトン・センチピードに絡み付いていた。
振り落とされないように体勢を固定したグラトニアが骨の身体に噛みつく度に、大した抵抗もなく骨の外殻が喰われていった。
身体のサイズが大人と子供みたいに違うが、優勢なのはグラトニアの方だ。
スケルトン・センチピードが全身から骨の杭を発射してグラトニアを倒そうとするが、元よりグラトニアは魔力体なので骨の杭程度の攻撃では致命傷にならない。
魔力体に空いた穴も、骨を捕喰して得たエネルギーを使って即座に再生されるため、スケルトン・センチピードにできる攻撃では倒すことは不可能だろう。
「となると、残りの手段は術者の俺になるわけだが、それが分かるくらいの知性はあるらしいな」
斉射されてきた大量の骨杭を回避すると、動きの速いスケルトン・センチピードの周りを、更に上回る速さで縦横無尽に走り回り撹乱する。
グラトニアによる継続的な攻撃も合わさることで生まれた隙に、神聖属性魔力を表面に纏わせ、内部に爆属性魔力を宿らせた〈八咫烏の三翅刀〉を投擲した。
スケルトン・センチピードの頭部に突き立った短刀が爆発し、纏っていた神聖属性魔力も共に拡散する。
爆発によって頑丈な骨の外殻を砕き、爆発で脆くなった頭部をアンデッド特効の神聖属性魔力が侵していく。
この程度ではまだ討伐できないが、頭部を失って動きが鈍ればそれでいい。
頭部を失った今ならば、その骨の巨体に押し潰される危険性も下がっているため、接近戦を仕掛けることができる。
フィジカル特化型の戦士系覚醒者ならばこんな面倒な過程を踏む必要はないんだろうが、俺は万能型の特殊系覚醒者とも表現すべきタイプの覚醒者なので、手間をかける必要があった。
「彼を知り己を知れば百戦殆からず、だったかな?」
今の俺にぴったりのことわざを思い浮かべながら、精霊剣バアルに纏わせる神聖属性魔力を増大させて、更に第5層能力【形状変換】で擬似的に長剣から大剣へと変化させた。
その聖なる大剣を振り上げつつ跳び上がると、動きの鈍っているスケルトン・センチピードへと大剣を叩き込み、そのままの勢いで骨の巨体を左右真っ二つに斬り裂いていった。
──〈魔喰の精霊剣バアル〉の【魔を喰らう刃】が発動します。
──対象への能力行使に成功しました。
──筋力値が10ポイント増大します。
──耐久値が12ポイント増大します。
──敏捷値が5ポイント増大します。
──スキル【射出】を獲得しました。
この大量の戦利品、やはりボスモンスターは素晴らしいな!
俺の斬撃を器用に躱わしたグラトニアが、出現した宝箱に身体を巻き付かせて持ってくるのを眺めながら、今の自分の強さを実感する。
これなら後一つの隠しアイテムを手に入れた後、そのままの勢いでダンジョンボスまで倒せそうだ。
「……いや、止めておくか。ダンジョンボスは依頼している防具が完成してからでも遅くはない」
危うく上がったテンションのまま挑むところだった。
反省しつつ、グラトニアが持ってきた宝箱を開けた。
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