45 / 116
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される(新婚編)
五話『新婚旅行〜藤岡少佐の恋人?〜』
しおりを挟む
その噂が戦艦璃月に流れ始めたのは、璃月が抑留された日本人を復員させる為に、満州に向かった頃だった。
「間違いは、ないのか?」
「はい。疾風の艦長と、その女性が浜辺を歩いているのを他の若い水兵が何人か見ています」
副長の大谷智勝が、艦長室で報告する。
「艦長」
康介が呼び出しを受け、艦長室に入る。
「ああ、来たか。まあ、座れ」
「はい」
示された椅子に、康介が腰を下ろすと艦長の杉原翔哉は珈琲のカップを置いた。
「藤岡、お前・・・女房が死んで、何年になる?」
「えと、六年ーーーいえ、今年七年になります」
「そろそろ、再婚を考えたらどうだ?」
「え」
康介の顔が強張る。
翔哉はそれを見て、康介が花に恋慕を抱いていると確信した。
「なあ、康介?お前、彼女はいるのか」
「いえ」
「そうか・・なら、俺が世話してもいいし、なんなら」
「いえ、大丈夫です。今は、そんな気持ちはありません」
「そうか?なら、いい。よし、仕事にもどれ」
「はい」
康介の後ろ姿を眺め、翔哉はため息を吐いた。
「バカタレ、実のない恋をして、何になんだよ」
✢✢✢✢✢✢
そんな話があるとはつゆ知らず、花と義孝は足湯を楽しんでいた。
「はぁ、きもちいい」
「夏でも、足を温めて苦にならないな」
「はい。風が乾いているからでしょうか」
さらさらと吹く風に、花と義孝は笑顔になる。
「眺めもいいですね」
「はい」
二人で眼下にある宿場町を見ながら、お茶を飲んでいた。
「今度、お義母さんも連れてきてあげたい。腰痛は治ったみたいですけど」
「たしかに、温泉はリウマチや腰痛に効能がありますからね。・・花さん」
「はい?」
「いつも、ありがとうございます。母のこと、家のこと」
花はにっこり笑う。
「いえいえ、お礼を言われることはしてません。私は好きでしていますから。義孝さんやお義母さんと暮らす前は、私は家族として扱われていませんでした。だから、今はとても幸せです」
ふふ、と花は笑った。
「そうですか?こんな年甲斐もなく嫉妬する夫で、面倒臭くないですか?」
「面倒なんて!私の方こそ、泣き虫だし・・・あの、後悔しませんか?」
「する筈はありません。するくらいなら、最初に会った時点で断りますよ」
「ふふ、私もです。面倒臭く思うくらいなら、偽旗作戦で聞かれた時に逃げています」
額をくっつけて、笑い合う。
ーーー僭越ながら、年齢は関係ないかと。
以前、若い士官が言った。
祖父母が長寿で、未だに円満で睦まじいと、彼は言っていた。
(私も、そうありたい。だが、それは叶わぬ願いだ。花さんが晩年の時、私はこの世にいないだろう)
悲観する訳では無いが、つい先を考え、あのような手紙を書いてしまった。
自分はいつ死んでも惜しくないが、一人で残る花はそうはいかない。
「ふふ」
隣で花は、実に幸せ顔だ。
その笑顔を見るだけで、こちらも幸せな気持ちになれる。
「あと二日もある」
くすくす、と花は微笑んだ。
✢✢✢ 疾風・副長室 ✢✢✢
杉田中佐は若い士官から、信じられない報告を受けていた。
「それは、間違いなく・・・艦長の奥方、だったんだな?」
「はい」
「間違いありません」
花が璃月の藤岡少佐と歩いているのを、何人かの海兵が見たのだ。
「まずいな。艦長が聞いたら、ただですまないぞ」
「ただの知り合いかも知れませんし、道を聞いていた可能性も否めないかと思いはしましたが」
「艦長の奥方は、毒キノコのことも、見破った方ですし」
道を覚えないはずがない。
「では、お前達は艦長が艦を降りるまでは、話題にしなかった・・・・という訳だな?」
「はい」
「不確かな噂を、艦長の耳に入れたくはありません」
「あんなに睦まじい二人の仲を、裂きたくありませんから」
実に、懸命な判断だ。
義孝は部下に慕われ、敬われている。やはり、名取大佐とは器が違うと、杉田中佐は感心した。
「そうか、では皆に通達。今後も、秘密は厳守。破った者は、厳罰に処すとな」
「はっ!」
二人は敬礼し、副長室を出た。
「さて、どうしたものかね」
深いため息を吐いた。
義孝が知れば、ただでは済まないだろう。
✢✢ 宿屋『宝月』✢✢
花と義孝は、夕食を食べていた。
「すごいですよね。旅館のご飯って、彩り、味、盛り付け、全部にスキが無くて」
「花さんも、料理が上手ですよ。この半年近く、失敗したことがないでしょ」
「家庭料理だけです。洋食やお店のご飯は、だいたい味付けの見当はつきますけど。失敗したら、あとが悲惨ですし」
「ふうむ。確かにーーーとんでもなく不味いと、確かに辛いですね」
「でしょう?腹ペコでまっずいご飯を出されたら、病気になりますよ。まあ、義孝さんが家で洋食食べたいなら、頑張りますけど」
「はは、いや、今のままでいいですよ」
「良かったぁ」
はにゃあ、と花が笑った。
二人で夕食を食べながら、ふと花は側にある円い窓を見る。そして、ぽぽと頬を染める。
「どうしました?」
「い、いえ」
花は微笑んだ。
窓から、この部屋の露天風呂が、丸見えなのだ。
「花さん?」
義孝が不審に思い、窓を見る。
「あ」
「ゔ」
バレた。
花はリンゴのように真っ赤で、そんな花を義孝は可愛らしいと思ったのだ。
「間違いは、ないのか?」
「はい。疾風の艦長と、その女性が浜辺を歩いているのを他の若い水兵が何人か見ています」
副長の大谷智勝が、艦長室で報告する。
「艦長」
康介が呼び出しを受け、艦長室に入る。
「ああ、来たか。まあ、座れ」
「はい」
示された椅子に、康介が腰を下ろすと艦長の杉原翔哉は珈琲のカップを置いた。
「藤岡、お前・・・女房が死んで、何年になる?」
「えと、六年ーーーいえ、今年七年になります」
「そろそろ、再婚を考えたらどうだ?」
「え」
康介の顔が強張る。
翔哉はそれを見て、康介が花に恋慕を抱いていると確信した。
「なあ、康介?お前、彼女はいるのか」
「いえ」
「そうか・・なら、俺が世話してもいいし、なんなら」
「いえ、大丈夫です。今は、そんな気持ちはありません」
「そうか?なら、いい。よし、仕事にもどれ」
「はい」
康介の後ろ姿を眺め、翔哉はため息を吐いた。
「バカタレ、実のない恋をして、何になんだよ」
✢✢✢✢✢✢
そんな話があるとはつゆ知らず、花と義孝は足湯を楽しんでいた。
「はぁ、きもちいい」
「夏でも、足を温めて苦にならないな」
「はい。風が乾いているからでしょうか」
さらさらと吹く風に、花と義孝は笑顔になる。
「眺めもいいですね」
「はい」
二人で眼下にある宿場町を見ながら、お茶を飲んでいた。
「今度、お義母さんも連れてきてあげたい。腰痛は治ったみたいですけど」
「たしかに、温泉はリウマチや腰痛に効能がありますからね。・・花さん」
「はい?」
「いつも、ありがとうございます。母のこと、家のこと」
花はにっこり笑う。
「いえいえ、お礼を言われることはしてません。私は好きでしていますから。義孝さんやお義母さんと暮らす前は、私は家族として扱われていませんでした。だから、今はとても幸せです」
ふふ、と花は笑った。
「そうですか?こんな年甲斐もなく嫉妬する夫で、面倒臭くないですか?」
「面倒なんて!私の方こそ、泣き虫だし・・・あの、後悔しませんか?」
「する筈はありません。するくらいなら、最初に会った時点で断りますよ」
「ふふ、私もです。面倒臭く思うくらいなら、偽旗作戦で聞かれた時に逃げています」
額をくっつけて、笑い合う。
ーーー僭越ながら、年齢は関係ないかと。
以前、若い士官が言った。
祖父母が長寿で、未だに円満で睦まじいと、彼は言っていた。
(私も、そうありたい。だが、それは叶わぬ願いだ。花さんが晩年の時、私はこの世にいないだろう)
悲観する訳では無いが、つい先を考え、あのような手紙を書いてしまった。
自分はいつ死んでも惜しくないが、一人で残る花はそうはいかない。
「ふふ」
隣で花は、実に幸せ顔だ。
その笑顔を見るだけで、こちらも幸せな気持ちになれる。
「あと二日もある」
くすくす、と花は微笑んだ。
✢✢✢ 疾風・副長室 ✢✢✢
杉田中佐は若い士官から、信じられない報告を受けていた。
「それは、間違いなく・・・艦長の奥方、だったんだな?」
「はい」
「間違いありません」
花が璃月の藤岡少佐と歩いているのを、何人かの海兵が見たのだ。
「まずいな。艦長が聞いたら、ただですまないぞ」
「ただの知り合いかも知れませんし、道を聞いていた可能性も否めないかと思いはしましたが」
「艦長の奥方は、毒キノコのことも、見破った方ですし」
道を覚えないはずがない。
「では、お前達は艦長が艦を降りるまでは、話題にしなかった・・・・という訳だな?」
「はい」
「不確かな噂を、艦長の耳に入れたくはありません」
「あんなに睦まじい二人の仲を、裂きたくありませんから」
実に、懸命な判断だ。
義孝は部下に慕われ、敬われている。やはり、名取大佐とは器が違うと、杉田中佐は感心した。
「そうか、では皆に通達。今後も、秘密は厳守。破った者は、厳罰に処すとな」
「はっ!」
二人は敬礼し、副長室を出た。
「さて、どうしたものかね」
深いため息を吐いた。
義孝が知れば、ただでは済まないだろう。
✢✢ 宿屋『宝月』✢✢
花と義孝は、夕食を食べていた。
「すごいですよね。旅館のご飯って、彩り、味、盛り付け、全部にスキが無くて」
「花さんも、料理が上手ですよ。この半年近く、失敗したことがないでしょ」
「家庭料理だけです。洋食やお店のご飯は、だいたい味付けの見当はつきますけど。失敗したら、あとが悲惨ですし」
「ふうむ。確かにーーーとんでもなく不味いと、確かに辛いですね」
「でしょう?腹ペコでまっずいご飯を出されたら、病気になりますよ。まあ、義孝さんが家で洋食食べたいなら、頑張りますけど」
「はは、いや、今のままでいいですよ」
「良かったぁ」
はにゃあ、と花が笑った。
二人で夕食を食べながら、ふと花は側にある円い窓を見る。そして、ぽぽと頬を染める。
「どうしました?」
「い、いえ」
花は微笑んだ。
窓から、この部屋の露天風呂が、丸見えなのだ。
「花さん?」
義孝が不審に思い、窓を見る。
「あ」
「ゔ」
バレた。
花はリンゴのように真っ赤で、そんな花を義孝は可愛らしいと思ったのだ。
108
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
好感度0になるまで終われません。
チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳)
子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。
愛され続けて4度目の転生。
そろそろ……愛されるのに疲れたのですが…
登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。
5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。
いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。
そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題…
自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。
王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする
葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。
そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった!
ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――?
意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
『番外編』イケメン彼氏は警察官!初めてのお酒に私の記憶はどこに!?
すずなり。
恋愛
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の身は持たない!?の番外編です。
ある日、美都の元に届いた『同窓会』のご案内。もう目が治ってる美都は参加することに決めた。
要「これ・・・酒が出ると思うけど飲むなよ?」
そう要に言われてたけど、渡されたグラスに口をつける美都。それが『酒』だと気づいたころにはもうだいぶ廻っていて・・・。
要「今日はやたら素直だな・・・。」
美都「早くっ・・入れて欲しいっ・・!あぁっ・・!」
いつもとは違う、乱れた夜に・・・・・。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんら関係ありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる