身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻

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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される(新婚編)

五話『新婚旅行〜藤岡少佐の恋人?〜』

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 その噂が戦艦璃月に流れ始めたのは、璃月が抑留された日本人を復員させる為に、満州に向かった頃だった。
「間違いは、ないのか?」
「はい。疾風の艦長と、その女性が浜辺を歩いているのを他の若い水兵が何人か見ています」
 副長の大谷智勝が、艦長室で報告する。

「艦長」
 康介が呼び出しを受け、艦長室に入る。
「ああ、来たか。まあ、座れ」
「はい」
 示された椅子に、康介が腰を下ろすと艦長の杉原翔哉は珈琲のカップを置いた。
「藤岡、お前・・・女房が死んで、何年になる?」
「えと、六年ーーーいえ、今年七年になります」
「そろそろ、再婚を考えたらどうだ?」
「え」
 康介の顔が強張る。
 翔哉はそれを見て、康介が花に恋慕を抱いていると確信した。

「なあ、康介?お前、彼女はいるのか」
「いえ」
「そうか・・なら、俺が世話してもいいし、なんなら」
「いえ、大丈夫です。今は、そんな気持ちはありません」
「そうか?なら、いい。よし、仕事にもどれ」
「はい」
 康介の後ろ姿を眺め、翔哉はため息を吐いた。
「バカタレ、実のない恋をして、何になんだよ」

     ✢✢✢✢✢✢
 そんな話があるとはつゆ知らず、花と義孝は足湯を楽しんでいた。
「はぁ、きもちいい」
「夏でも、足を温めて苦にならないな」
「はい。風が乾いているからでしょうか」
 さらさらと吹く風に、花と義孝は笑顔になる。
「眺めもいいですね」
「はい」
 二人で眼下にある宿場町を見ながら、お茶を飲んでいた。

「今度、お義母さんも連れてきてあげたい。腰痛は治ったみたいですけど」
「たしかに、温泉はリウマチや腰痛に効能がありますからね。・・花さん」
「はい?」
「いつも、ありがとうございます。母のこと、家のこと」
 花はにっこり笑う。
「いえいえ、お礼を言われることはしてません。私は好きでしていますから。義孝さんやお義母さんと暮らす前は、私は家族として扱われていませんでした。だから、今はとても幸せです」
 ふふ、と花は笑った。
「そうですか?こんな年甲斐もなく嫉妬する夫で、面倒臭くないですか?」
「面倒なんて!私の方こそ、泣き虫だし・・・あの、後悔しませんか?」
「する筈はありません。するくらいなら、最初に会った時点で断りますよ」
「ふふ、私もです。面倒臭く思うくらいなら、偽旗作戦で聞かれた時に逃げています」
 額をくっつけて、笑い合う。
 
 ーーー僭越ながら、年齢は関係ないかと。

 以前、若い士官が言った。
 祖父母が長寿で、未だに円満で睦まじいと、彼は言っていた。
(私も、そうありたい。だが、それは叶わぬ願いだ。花さんが晩年の時、私はこの世にいないだろう)
 悲観する訳では無いが、つい先を考え、あのような手紙を書いてしまった。
 自分はいつ死んでも惜しくないが、一人で残る花はそうはいかない。

「ふふ」
 隣で花は、実に幸せ顔だ。
 その笑顔を見るだけで、こちらも幸せな気持ちになれる。
「あと二日もある」
 くすくす、と花は微笑んだ。

  ✢✢✢ 疾風・副長室 ✢✢✢ 
 杉田中佐は若い士官から、信じられない報告を受けていた。

「それは、間違いなく・・・艦長の奥方、だったんだな?」
「はい」
「間違いありません」
 花が璃月の藤岡少佐と歩いているのを、何人かの海兵が見たのだ。
「まずいな。艦長が聞いたら、ただですまないぞ」
「ただの知り合いかも知れませんし、道を聞いていた可能性も否めないかと思いはしましたが」
「艦長の奥方は、毒キノコのことも、見破った方ですし」
 道を覚えないはずがない。
「では、お前達は艦長が艦を降りるまでは、話題にしなかった・・・・という訳だな?」
「はい」
「不確かな噂を、艦長の耳に入れたくはありません」
「あんなに睦まじい二人の仲を、裂きたくありませんから」

 実に、懸命な判断だ。
 義孝は部下に慕われ、敬われている。やはり、名取大佐とは器が違うと、杉田中佐は感心した。

「そうか、では皆に通達。今後も、秘密は厳守。破った者は、厳罰に処すとな」
「はっ!」
 二人は敬礼し、副長室を出た。

「さて、どうしたものかね」
 深いため息を吐いた。
 義孝が知れば、ただでは済まないだろう。

   ✢✢ 宿屋『宝月』✢✢
 花と義孝は、夕食を食べていた。
「すごいですよね。旅館のご飯って、彩り、味、盛り付け、全部にスキが無くて」
「花さんも、料理が上手ですよ。この半年近く、失敗したことがないでしょ」
「家庭料理だけです。洋食やお店のご飯は、だいたい味付けの見当はつきますけど。失敗したら、あとが悲惨ですし」
「ふうむ。確かにーーーとんでもなく不味いと、確かに辛いですね」
「でしょう?腹ペコでまっずいご飯を出されたら、病気になりますよ。まあ、義孝さんが家で洋食食べたいなら、頑張りますけど」
「はは、いや、今のままでいいですよ」
「良かったぁ」
 はにゃあ、と花が笑った。

 二人で夕食を食べながら、ふと花は側にある円い窓を見る。そして、ぽぽと頬を染める。
「どうしました?」
「い、いえ」
 花は微笑んだ。

 窓から、この部屋の露天風呂が、丸見えなのだ。
「花さん?」
 義孝が不審に思い、窓を見る。
「あ」
「ゔ」
 バレた。
 花はリンゴのように真っ赤で、そんな花を義孝は可愛らしいと思ったのだ。
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