身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻

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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される(新婚編)

二十三話『ずっと恋してる』

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「花さん」
 涙を流す花の背を、義孝が優しく撫でる。

 初めて会った日、まさか・・・これほど大切な存在になるなど、お互いに想像さえしなかった。
「・・・はい」
 花が顔を上げる。
 涙に濡れた頬を、義孝が優しく拭いてやる。

 ーーーー。
 花は目を閉じる。
「部屋に・・・戻りましょうか」
「はい・・・」
 小さく頷いた。

(その夜、私達はまた親しくした)

   ✣✣✣◇◇◇✣✣✣

 夜更け、花は目を覚ました。
「・・・」
 そっと布団を抜け出し、窓辺の椅子に腰を下ろした。

(・・・まるで、雪みたい)
 風に散らされた桜が、ひらひらと雪のように舞う。
「きれい」
 丸くくり抜いたような窓の側、花は月明かりに照らされた庭が一枚の絵画のようだった。

「花さん」
 背後から義孝が抱き寄せる。
「義孝さん」
「隣に居ないので焦りましたよ。何をしているんですか?」
「窓の景色、すごく綺麗です」
「・・・たしかに」
 花びらが風に舞い、置かれた小さな明かりに、ぼんやりとやわらかく浮かび上がる庭。

「桜って、夜もきれいですね。まるで、雪みたい」
「桜は白いですからね、たしかに雪が舞っているみたいだ」
 二人でしばし、夜の庭を眺めながら話し、また口づけた。

「初めての接吻は、蜂蜜味って・・・しっていますか?」
「蜂蜜味、ですか?」
「はい。何で聞いたのか、私もさだかではありません。でも、ずっと夢想していました。義孝さんとする接吻は、何味だろうって」
 ふふ、と花が笑う。

「で?実際は何味ですか」
「塩味」
 ふ、と義孝が吹き出した。
「塩味ですか?」
「はい。蜂蜜味だとか、檸檬味だとか・・・えと、苺味だとか」
 ぽぽ、と頬を染める。
 あまりに少女趣味な話を、義孝はどう考えるだろうか。花は義孝を見やる。
 義孝は優しい眼差しをしていた。
「たぶん、恋愛小説ですね。もしくは、劇場のポスターで見たのかもしれません。恋に無縁な日々の中、いつか・・・私にも恋が訪れたらと」
 誰かを好きになっていいなど、夢にも思わない日々。
「でも、現実の初めての接吻は塩味です。義孝さんと結ばれることが嬉しくて、幸せで涙が流れて」
「ははは、たしかに塩味でしたね」
「でも、幸せの味です。私には大好きな人に抱きしめてもらえた、幸せの涙の味ですよ」
 潤んだ瞳が、見上げていた。
「では、先ほどは?」
「え?」
「先ほども、何度かしましたが・・・何味でしたか?」
 
 カアッ、と花は頰が熱くなる。 

「えとっ?先ほど・・・というと、つまり?」
 頰を隠す手を剥がされ、再び口づけられる。
「ん・・・」
 心臓がバクバクする。
 義孝の伏せられた、長い睫毛が目の前にある。

「何味ですか」 
 艶っぽい眼差しが、花を見つめている。
「えと・・・心臓が、ドキドキする味です」
「ドキドキ?」
「義孝さんの睫毛や鼻筋が綺麗で、心臓が破裂しそうにバクバクしてます」
 義孝が微笑んだ。
「花さん」
「ま、待って」 
 義孝の口唇を指で押さえる。

「ダメですか?」
「ここでは、ちょっと」
 茹で上がるように、花が紅くなる。
「明るいし、恥ずかしいです」
「わかりました」
 義孝が花を抱き上げる。
「あ、あの」
「身体、冷えてますね」
「え、えとっ?」
「温め直す方法、一つだけありますよ」
 
(優しい眼差しに、泣きたくなる。私は腕を伸ばし、義孝さんにしがみつく)

「お願い、します」
 恥ずかしさに、花は小さく震えた。

(私達はこの夜、何度も親しくした)

 夜は、静かに甘く流れた。

   ✣✣✣◇◇◇✣✣✣

 翌朝。

「花さん」
 優しく名前を呼ぶ声に、花は目を覚ました。
「朝食が、運ばれてきましたが、起きられますか」
「・・・はい」
 コク、と頷いた。

「わぁ、すごいご馳走」
「旅館ならば、ですね」
 
 熱々の白ご飯
 味噌汁に漬物
 魚の開き(肉厚)
 菜の花のお浸し
 だし巻き卵
 その他の小鉢二品。

「こんなに食べられるかな?」
「花さんは少食ですからね」
 ふふ、と二人で笑い合う。
「でも、食べます!お腹、ペコペコです」
「まあ、運動しましたからね」
「・・・義孝さ・・・んのっ」

 ーーーいぢわるっ!

 花が涙目で叫んだ。

   ❖❖❖◇◇◇❖❖❖

「おいひぃ」
 ご飯を頬張り、花が笑う。
「ご飯が甘いです」
「たしかに、甘い」
 噛めば噛むほど、甘さが出てくる。
「いくらでも入りますね」
「たしかに、どれも素材を活かした味付けですね」
「流石、料理人ですね」
 きゃあ、きゃあ。
 料理を口に入れるたびに、花は歓声を上げる。
「もう、一年になりますね」
 ふと、義孝が言った。
「はい、もう少しで一年になりますね」
 箸を止め、花が答える。

「去年の春ですか、花さんと会ったのは」
「はい」
 まだ、冷え込みの厳しい春先に、花が時東邸にやって来た。
「あの時は、不安でした。好きになってくれるとさえ思えなくて、怯えながら」
「そんな感じですね」
 小柄で華奢で、顔色も良くなかった。緊張と不安で震えていた。

「でも、義孝さんが受け止めてくれて、恋をしていました。あの夜から、義孝さんに見惚れるばかりです。食事の所作がきれいで・・・靴を履くのや帽子を被るのも」
「子猫みたいに目玉が動いて、可愛らしいと思いましたが」
 幸せな記憶に、二人で笑い合う。
「私、ずっと義孝さんに恋していました。あの夏の海で出会った日から」
 花が笑った。

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