67 / 116
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される(新婚編)
二十六話『生きたいという意志』
しおりを挟む
旅行が終わり花は早速、日本橋にある達哉の店に向かった。
「・・・頼ってくれて、ありがとう。花ちゃん」
達哉は微笑んだ。
そして、順一の病状を書いた帳面を身て、深い溜息を吐く。
「どう?」
花は訊ねる。
「結論から言って、症状を緩和する薬剤を調合は出来るよ。だけどね、完治は難しいと思う」
「・・・やっぱり?」
花の顔が、泣きそうに歪んだ。
「悔しいよ。せっかく、お花ちゃんが僕を頼りにしてくれたのに、治せるって言えないんだもの。僕も漢方医として、相当な勉強と修行は積んだけれど。病を完全に治すまでには至らない」
「達哉さん」
「ごめんね。僕が出来るのは、再発を出来るだけ、遅らせることくらい」
花がふるっ、と涙目になる。
「だめ、なの?」
ぐす、と鼻を鳴らす。
「一度、その方に来て頂けたなら。詳しい話を聞いて、症状や体調を見ないと。腰痛や骨折みたいな、軽いものじゃないから・・癌は」
「わかりました」
ーーーありがとう。
一礼し、花は店を出た。
ふるふると震える後ろ姿に、達哉は胸が痛んだ。
「大切なんだな、その人」
やっと、幸せを掴んだばかり、やっと笑顔になれた花。その花から、また笑顔を奪う出来事が起きようとしている。
「神様はどうして、お花ちゃんに意地悪するんだ」
◇◇◇✢✢◇◇◇
「どうでしたか・・・って、聞くまでもありませんね」
花の泣き腫らした瞳に、義孝は質問を飲み込んだ。
「ずっと、泣いているのよ。うちに帰るなり、わああん!って」
千代の言葉に、言葉をなくす。
ーーーおじちゃん。
「一度、磯崎准将と話せれば、調合出来るかもって、薬屋さんが」
「出来るのですか?」
「わからない、達哉さんは再発を遅らせるとか・・・悪化を抑えるくらいには」
「それでもすごいですよ」
「義孝さん、おじちゃんに」
涙がこぼれ落ちる。
「わかりました」
義孝は電報を出した。
「准将が応じてくだされば良いですが」
「・・・」
花の瞼に浮かぶは、優しい順一の笑顔だ。豪快で男気があって、優しい順一が大好きだった。
そして、義孝の電報は京都の片田舎にいる、順一に届いた。
「花ぼうの、友達がな」
こんな、ジジイに。
その目が、何十年ぶりかに潤む。最後に潤んだ記憶を遡れば、きっと彼の妻が亡くなった二十年前になる。
「いつ、死んでも構わねえと、親は死んでいねえし。親類なんて、いても居ないのと同じでな。あの日・・・女房が死んだ時に考えた。あとは後進の指導だけ終えて、引退したら。いつ死んでも」
肩が震えていた。
ーーーありがとう。
順一が、深く頭を下げた。
「チンケな生命だが、精一杯、生きる努力をしよう。だから、花ほう」
「はい」
「もう、泣くな」
ふ、と泣きそうに歪む。
「おじちゃん」
「あんまりなくと、目を痛めるぞ」
「・・・えっ」
花が声を上げて、泣いた。
ーーーー死なないで!
「もう、嫌なの!」
泣きじゃくる花の背を、無骨な手のひらが優しく撫でた。
「大好きな人が、そんな、もう嫌なの!」
「わかった」
ありがとう。
順一の目から、透明な光が落ちる。
こうして、達哉による問診が始まった。
「では、現在のところは再発や転移は無いのですね?」
「ああ、影がねえ。なあ、俺はまだ、生きられるか?」
「なんとも、ですが・・・僕は、お花ちゃんに泣いてほしくありません。目の前に、可能性のある生命を諦めたくはありません」
「・・・そうか」
順一が笑顔になる。
「なら、努力しねえとな。罰が当たる」
「ええ」
達哉が笑った。
「大事なのは、磯崎さんの生きたいという意志です。それの手伝いを、僕達漢方医はするだけなんです」
「生きる意志ねぇ」
「軍人も、ではないですか?負けると思えば、勝てる勝負も運気が下がるでしょ」
「たしかに」
「医者は生きたいと、元気になりたいと患者が思わなければ、治療が出来ません」
「なるほど。だから、話がしたいって、京都に頼りを寄越したのか」
「はい」
達哉が頷いた。
「で、時に、花ぼうのどういう仲だ」
「昔馴染みです」
「恋慕は」
「前は、ちょっと。だけど、今はありません。普通に友達として、力になりたいです」
「そうか・・・なら、いい」
「え?」
「義孝の奴が、お前さんにヤキモチ焼いたらしい。俺のダチがなぁ・・・くくっ」
えっ、まさか?
「な、有り得んだろ?軍令部全体に、不機嫌な雰囲気を出していたらしい」
「あはは」
「でな、ダチが『貴様、何を不機嫌になっとるか!』と説教したらしい」
「あはは!あの、紳士な旦那様がね」
「いやぁ、奴は存外・・・ガキだぞ。花ぼうに関しては、独占欲丸出しで」
へくしっ。
「義孝さん、風邪ですかぁ?」
潤々の目で、花が気遣う。
「いえ、大丈夫です」
「良かったぁ」
笑顔がほころぶ。
「あの二人の幸せを、壊したくはありませんから」
「いい、ダチを持ったな。花ぼうは」
順一が微笑んだ。
「先生、よろしく頼みます」
深く頭を下げたのだった。
「・・・頼ってくれて、ありがとう。花ちゃん」
達哉は微笑んだ。
そして、順一の病状を書いた帳面を身て、深い溜息を吐く。
「どう?」
花は訊ねる。
「結論から言って、症状を緩和する薬剤を調合は出来るよ。だけどね、完治は難しいと思う」
「・・・やっぱり?」
花の顔が、泣きそうに歪んだ。
「悔しいよ。せっかく、お花ちゃんが僕を頼りにしてくれたのに、治せるって言えないんだもの。僕も漢方医として、相当な勉強と修行は積んだけれど。病を完全に治すまでには至らない」
「達哉さん」
「ごめんね。僕が出来るのは、再発を出来るだけ、遅らせることくらい」
花がふるっ、と涙目になる。
「だめ、なの?」
ぐす、と鼻を鳴らす。
「一度、その方に来て頂けたなら。詳しい話を聞いて、症状や体調を見ないと。腰痛や骨折みたいな、軽いものじゃないから・・癌は」
「わかりました」
ーーーありがとう。
一礼し、花は店を出た。
ふるふると震える後ろ姿に、達哉は胸が痛んだ。
「大切なんだな、その人」
やっと、幸せを掴んだばかり、やっと笑顔になれた花。その花から、また笑顔を奪う出来事が起きようとしている。
「神様はどうして、お花ちゃんに意地悪するんだ」
◇◇◇✢✢◇◇◇
「どうでしたか・・・って、聞くまでもありませんね」
花の泣き腫らした瞳に、義孝は質問を飲み込んだ。
「ずっと、泣いているのよ。うちに帰るなり、わああん!って」
千代の言葉に、言葉をなくす。
ーーーおじちゃん。
「一度、磯崎准将と話せれば、調合出来るかもって、薬屋さんが」
「出来るのですか?」
「わからない、達哉さんは再発を遅らせるとか・・・悪化を抑えるくらいには」
「それでもすごいですよ」
「義孝さん、おじちゃんに」
涙がこぼれ落ちる。
「わかりました」
義孝は電報を出した。
「准将が応じてくだされば良いですが」
「・・・」
花の瞼に浮かぶは、優しい順一の笑顔だ。豪快で男気があって、優しい順一が大好きだった。
そして、義孝の電報は京都の片田舎にいる、順一に届いた。
「花ぼうの、友達がな」
こんな、ジジイに。
その目が、何十年ぶりかに潤む。最後に潤んだ記憶を遡れば、きっと彼の妻が亡くなった二十年前になる。
「いつ、死んでも構わねえと、親は死んでいねえし。親類なんて、いても居ないのと同じでな。あの日・・・女房が死んだ時に考えた。あとは後進の指導だけ終えて、引退したら。いつ死んでも」
肩が震えていた。
ーーーありがとう。
順一が、深く頭を下げた。
「チンケな生命だが、精一杯、生きる努力をしよう。だから、花ほう」
「はい」
「もう、泣くな」
ふ、と泣きそうに歪む。
「おじちゃん」
「あんまりなくと、目を痛めるぞ」
「・・・えっ」
花が声を上げて、泣いた。
ーーーー死なないで!
「もう、嫌なの!」
泣きじゃくる花の背を、無骨な手のひらが優しく撫でた。
「大好きな人が、そんな、もう嫌なの!」
「わかった」
ありがとう。
順一の目から、透明な光が落ちる。
こうして、達哉による問診が始まった。
「では、現在のところは再発や転移は無いのですね?」
「ああ、影がねえ。なあ、俺はまだ、生きられるか?」
「なんとも、ですが・・・僕は、お花ちゃんに泣いてほしくありません。目の前に、可能性のある生命を諦めたくはありません」
「・・・そうか」
順一が笑顔になる。
「なら、努力しねえとな。罰が当たる」
「ええ」
達哉が笑った。
「大事なのは、磯崎さんの生きたいという意志です。それの手伝いを、僕達漢方医はするだけなんです」
「生きる意志ねぇ」
「軍人も、ではないですか?負けると思えば、勝てる勝負も運気が下がるでしょ」
「たしかに」
「医者は生きたいと、元気になりたいと患者が思わなければ、治療が出来ません」
「なるほど。だから、話がしたいって、京都に頼りを寄越したのか」
「はい」
達哉が頷いた。
「で、時に、花ぼうのどういう仲だ」
「昔馴染みです」
「恋慕は」
「前は、ちょっと。だけど、今はありません。普通に友達として、力になりたいです」
「そうか・・・なら、いい」
「え?」
「義孝の奴が、お前さんにヤキモチ焼いたらしい。俺のダチがなぁ・・・くくっ」
えっ、まさか?
「な、有り得んだろ?軍令部全体に、不機嫌な雰囲気を出していたらしい」
「あはは」
「でな、ダチが『貴様、何を不機嫌になっとるか!』と説教したらしい」
「あはは!あの、紳士な旦那様がね」
「いやぁ、奴は存外・・・ガキだぞ。花ぼうに関しては、独占欲丸出しで」
へくしっ。
「義孝さん、風邪ですかぁ?」
潤々の目で、花が気遣う。
「いえ、大丈夫です」
「良かったぁ」
笑顔がほころぶ。
「あの二人の幸せを、壊したくはありませんから」
「いい、ダチを持ったな。花ぼうは」
順一が微笑んだ。
「先生、よろしく頼みます」
深く頭を下げたのだった。
92
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
好感度0になるまで終われません。
チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳)
子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。
愛され続けて4度目の転生。
そろそろ……愛されるのに疲れたのですが…
登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。
5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。
いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。
そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題…
自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。
王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする
葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。
そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった!
ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――?
意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
『番外編』イケメン彼氏は警察官!初めてのお酒に私の記憶はどこに!?
すずなり。
恋愛
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の身は持たない!?の番外編です。
ある日、美都の元に届いた『同窓会』のご案内。もう目が治ってる美都は参加することに決めた。
要「これ・・・酒が出ると思うけど飲むなよ?」
そう要に言われてたけど、渡されたグラスに口をつける美都。それが『酒』だと気づいたころにはもうだいぶ廻っていて・・・。
要「今日はやたら素直だな・・・。」
美都「早くっ・・入れて欲しいっ・・!あぁっ・・!」
いつもとは違う、乱れた夜に・・・・・。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんら関係ありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる