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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される(新婚編)
二十八話『不穏な視線』
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四月、東京のあちこちで桜が開花した。
花と義孝も、千代や鹿江達と河川敷に花見に出た。
「晴れて良かったですね」
花が桜を見上げた。
「ええ。あとは天気だけが心配でしたが」
義孝に千代、使用人達。
大好きな人達と、のんびり過ごせる。花はどれだけ、この日を夢見ただろうか。
「桜は毎年、同じように咲きますが、見ている人の心は毎年違うそうですよ」
重松が茶に浮かんだ花びらを見つめ、呟いた。
「たしかにそうかも。去年は私、毎年一人で見上げてた。去年はお義母さんが隣にいましたけど」
「ああ、確かに。買い物中に見ましたね。まだ咲き始めでしたけど、春だなぁって」
「はい。あの頃には、私の運命は大きく変わっていました」
使用人として、ずっと継母と義妹に虐げられる日々が、愛される日々に変化した。
誰かに恋をして、愛し愛されて・・・今では幸せを噛み締めている。
「ふふ、今とは違います」
花が微笑んだ。
「私の日常も、賑やかになりましたよ」
「たしかに、家族が増えましたからねぇ」
千代が笑った。
食事は笑い声と会話が途切れない。いつも、きゃあきゃあと誰かが喋る。
「義孝と二人の時は、こうはいきません。女の子がいてこそ」
「それは、おおいに共感しますよ。千代様」
鹿江が頷く。
「うちは、女の子が三人もいますからね」
花と双子が笑った。
「私がきゃあきゃあ言ったら、気持ち悪いでしょう」
「たしかに、男が黄色い声だしたらねぇ」
重松が言った言葉に、皆が吹き出した。
皆でお弁当を食べて、お喋りして。花は思う、家でも外でも変わらない家族の姿に、幸せを感じられると。
「義孝さんはあまり、お喋りしない方なんですよね」
「え・・・まあ、そうですね」
「なら、重松と合う筈ですね。重松も寡黙な方ですから」
よく、重松と話しているのを見かける。
「あれこれ、桐島家のことを聞いていたんですよ」
「お嬢様が生まれてから、お嫁に行くまでの。儂から見た、お嬢様をね」
「え?」
おにぎりを頬張り、モキュモキュしていた花が固まる。
「可愛い一面や、優しい場面を聞きました」
「え、えっ?」
ぽぽ、と頰を染める。
「まあ、子供らしい行動です」
「ああ、それなら」
千代が微笑んだ。
「私も、鹿江さんから聞きましたね。可愛い、子供らしい発想を」
「賢い人も、子供の頃は同じだと」
花は義孝の子供時代に興味がある。
「じゃあ、私も知りたいです。義孝さんが、どんな子供だったのか」
「私の、ですか?聞いても、たいして」
「お義母さんが言うには、かなりの腕白だったとか。どんな悪戯をしたんですか?」
目をきらきらさせ、花が訊ねる。
「えーっと?」
義孝が目を泳がせる。
ゾクリ
義孝の背中を、悪寒に似た感覚が駆け抜ける。
「!」
ハッとして、重松と義孝は同じ方を見る。
「義孝さん、重松?」
花は二人を交互に見る。
「どうしました?」
千代も訊ねる。
「いや、今なんか視線を」
「重松さんも、ですか」
「なんか、嫌な感じが」
花は視線を辿る。
「通行人の誰かが、とかでは?たくさん居ますし」
カタカタと震える。
「・・・そうですね」
義孝は息を吐く。
「中には、嫌な視線で見る人もいますね」
「そ、そうですよ」
誰が見るというのか、自分達を悪意を込めて。
義孝が、やわらかく微笑んだ。
「花さんが言うように、気の所為ですね」
「はい、気の所為です。重松も、ね?」
「はい」
重松も、感の鋭いところがある。一抹の不安を感じながらも、花は胸をなでおろす。
(・・・嫌な感じの視線と言われ、私は義妹の聡美を思った。聡美は継母と散財して作った借金のカタに、身売りに出されたと義孝さんが話した。だけど、その後の弁護士さんの報告で、身売りではなく。厳格な邸での奉公が決まったのだという)
「まさか、ね?」
花は嫌な予感に、身震いがした。
楽しい時間は、瞬く間に過ぎてゆく。お弁当を食べて、お喋りを楽しんで・・・・。
帰るときには、すっかり視線の事など忘れていた。
(義孝さんの子供の頃の話を聞いて、私はすっかり忘れていた。その視線のことも、聡美のことも、懸念するのを忘れていたのだ)
✢✢✢◇◇✢✢✢
上がり框に座り、花は義孝の行動に見惚れていた。
(・・・やっぱり、格好いいな。スーツ姿も)
軍令部で見る軍服姿も格好いいけれど、通勤の為のスーツとソフト帽の出で立ちも素敵だ。
「やっぱり、義孝さんは格好いいです。外国の方々に並んでも、日本男児!って感じで」
「日本男児ですか?もう、五十路前のおじさんですが」
「はい!格好いいです」
頰を染め、花が笑った。
「あの、ちょっと屈んでくれますか?お帽子を外して」
「はい?」
義孝は言われたままに。
「義孝さん、今日もお仕事・・頑張って下さいね」
撫で撫で、ぎゅ~っ。
義孝が固まる。
・・・・・。
「花さん、なぜ?」
ドギマギしながら、義孝は訊ねる。
「い、いえ、その」
花はタジタジ。
「・・・こうすれば、元気になるかなぁ、って」
「ーーーーあ、なるほど」
「あの、お嫌でしたか?」
潤っ、と花が見上げた。
「い、いえ、嫌な理由は。花さんが、私の為に考えたことならば・・・」
ふしゅーっ、全身が熱い。
「あ、暑いな」
「は、はい。もう、四月ですしっ」
いってらっしゃいませ。
門の外に出て、見送る。
いつもの、幸せな朝だった。
花と義孝も、千代や鹿江達と河川敷に花見に出た。
「晴れて良かったですね」
花が桜を見上げた。
「ええ。あとは天気だけが心配でしたが」
義孝に千代、使用人達。
大好きな人達と、のんびり過ごせる。花はどれだけ、この日を夢見ただろうか。
「桜は毎年、同じように咲きますが、見ている人の心は毎年違うそうですよ」
重松が茶に浮かんだ花びらを見つめ、呟いた。
「たしかにそうかも。去年は私、毎年一人で見上げてた。去年はお義母さんが隣にいましたけど」
「ああ、確かに。買い物中に見ましたね。まだ咲き始めでしたけど、春だなぁって」
「はい。あの頃には、私の運命は大きく変わっていました」
使用人として、ずっと継母と義妹に虐げられる日々が、愛される日々に変化した。
誰かに恋をして、愛し愛されて・・・今では幸せを噛み締めている。
「ふふ、今とは違います」
花が微笑んだ。
「私の日常も、賑やかになりましたよ」
「たしかに、家族が増えましたからねぇ」
千代が笑った。
食事は笑い声と会話が途切れない。いつも、きゃあきゃあと誰かが喋る。
「義孝と二人の時は、こうはいきません。女の子がいてこそ」
「それは、おおいに共感しますよ。千代様」
鹿江が頷く。
「うちは、女の子が三人もいますからね」
花と双子が笑った。
「私がきゃあきゃあ言ったら、気持ち悪いでしょう」
「たしかに、男が黄色い声だしたらねぇ」
重松が言った言葉に、皆が吹き出した。
皆でお弁当を食べて、お喋りして。花は思う、家でも外でも変わらない家族の姿に、幸せを感じられると。
「義孝さんはあまり、お喋りしない方なんですよね」
「え・・・まあ、そうですね」
「なら、重松と合う筈ですね。重松も寡黙な方ですから」
よく、重松と話しているのを見かける。
「あれこれ、桐島家のことを聞いていたんですよ」
「お嬢様が生まれてから、お嫁に行くまでの。儂から見た、お嬢様をね」
「え?」
おにぎりを頬張り、モキュモキュしていた花が固まる。
「可愛い一面や、優しい場面を聞きました」
「え、えっ?」
ぽぽ、と頰を染める。
「まあ、子供らしい行動です」
「ああ、それなら」
千代が微笑んだ。
「私も、鹿江さんから聞きましたね。可愛い、子供らしい発想を」
「賢い人も、子供の頃は同じだと」
花は義孝の子供時代に興味がある。
「じゃあ、私も知りたいです。義孝さんが、どんな子供だったのか」
「私の、ですか?聞いても、たいして」
「お義母さんが言うには、かなりの腕白だったとか。どんな悪戯をしたんですか?」
目をきらきらさせ、花が訊ねる。
「えーっと?」
義孝が目を泳がせる。
ゾクリ
義孝の背中を、悪寒に似た感覚が駆け抜ける。
「!」
ハッとして、重松と義孝は同じ方を見る。
「義孝さん、重松?」
花は二人を交互に見る。
「どうしました?」
千代も訊ねる。
「いや、今なんか視線を」
「重松さんも、ですか」
「なんか、嫌な感じが」
花は視線を辿る。
「通行人の誰かが、とかでは?たくさん居ますし」
カタカタと震える。
「・・・そうですね」
義孝は息を吐く。
「中には、嫌な視線で見る人もいますね」
「そ、そうですよ」
誰が見るというのか、自分達を悪意を込めて。
義孝が、やわらかく微笑んだ。
「花さんが言うように、気の所為ですね」
「はい、気の所為です。重松も、ね?」
「はい」
重松も、感の鋭いところがある。一抹の不安を感じながらも、花は胸をなでおろす。
(・・・嫌な感じの視線と言われ、私は義妹の聡美を思った。聡美は継母と散財して作った借金のカタに、身売りに出されたと義孝さんが話した。だけど、その後の弁護士さんの報告で、身売りではなく。厳格な邸での奉公が決まったのだという)
「まさか、ね?」
花は嫌な予感に、身震いがした。
楽しい時間は、瞬く間に過ぎてゆく。お弁当を食べて、お喋りを楽しんで・・・・。
帰るときには、すっかり視線の事など忘れていた。
(義孝さんの子供の頃の話を聞いて、私はすっかり忘れていた。その視線のことも、聡美のことも、懸念するのを忘れていたのだ)
✢✢✢◇◇✢✢✢
上がり框に座り、花は義孝の行動に見惚れていた。
(・・・やっぱり、格好いいな。スーツ姿も)
軍令部で見る軍服姿も格好いいけれど、通勤の為のスーツとソフト帽の出で立ちも素敵だ。
「やっぱり、義孝さんは格好いいです。外国の方々に並んでも、日本男児!って感じで」
「日本男児ですか?もう、五十路前のおじさんですが」
「はい!格好いいです」
頰を染め、花が笑った。
「あの、ちょっと屈んでくれますか?お帽子を外して」
「はい?」
義孝は言われたままに。
「義孝さん、今日もお仕事・・頑張って下さいね」
撫で撫で、ぎゅ~っ。
義孝が固まる。
・・・・・。
「花さん、なぜ?」
ドギマギしながら、義孝は訊ねる。
「い、いえ、その」
花はタジタジ。
「・・・こうすれば、元気になるかなぁ、って」
「ーーーーあ、なるほど」
「あの、お嫌でしたか?」
潤っ、と花が見上げた。
「い、いえ、嫌な理由は。花さんが、私の為に考えたことならば・・・」
ふしゅーっ、全身が熱い。
「あ、暑いな」
「は、はい。もう、四月ですしっ」
いってらっしゃいませ。
門の外に出て、見送る。
いつもの、幸せな朝だった。
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