身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻

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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される(新婚編)

三〇話『男女逆転シンデレラ』

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「え、お芝居にですか?」
「そう、出し物はね」

 美沙が「じゃじゃん!」と出したのは、『灰かぶり姫』の台本だった。

「灰かぶり姫かぁ」
 佳代がにぱぁ、と笑う。
「やだ、なにこれ?」
「どうしたの、佳代」
「ね、美沙?誰が書いたの、この台本」
 ふるふると、佳代が笑いを噛み殺す。
「え?」
「花ちゃん、配役を見て?」
 くくっ、と一人で悶絶している。

 王子・・・時東花。
 継母・・・杉田中佐。

「え?男女が、逆」
「うん、継母が杉田中佐なんて、ぴったりじゃない?」
「ぷ」 
 花は杉田中佐を思う。
 綺麗な女顔で、中性的な色香がある。
「でも、私が王子はちょっと、チビすぎない?海軍は大きい人ばかり」 
「大丈夫よ、考えてるから」

「なになに、魔法使いは中原中将?やだぁ」
 吹き出してしまう。
「中原中将は乗り気よ」
「たしかに、気前よく受けてくれそう」
「えと、継妹が白勢大志。あ、佳代の義弟さんね」
「ふふ、大志くんがねえ」
「どう。間違いない配役でしょう?みんな、色っぽい感じ」
「ふふ、魅力的な人ばかりだもんね」

 しかし、灰かぶり姫の配役に、花が固まる。

 灰かぶり姫・・・時東義孝

「え?」
「どう、花ちゃん」
「どう、って」
 ふるふると震える。
「む、無理、じゃないかな」
「嫌がると、想うけど?」
 佳代は呟く。

   ✢✢✢◇◇◇✢✢✢
「義孝さん」
 帰宅した義孝は案の定落ち込んでいた。
「花さん」
「はい」
「無理です」
「あ」
「私に、ドレスは合いません」
「・・・っ」
「配役、変えて下さいと頼んで下さい」
 ふるっ、と花が泣きそうになる。
「だめ?」
「む、無理、です」
 そっぽを向く義孝を、花が覗き込む。

「っ」
 潤んだ瞳、四つん這いで見上げる、縋る表情の花。
「だめ?」
「・・・・ズルいですよ」
「私は、義孝さんとしたいです。他の方が灰かぶり姫じゃ、気分が乗りません。中原中将も杉田中佐も、快く引き受けて下さったそうです」
「・・・杉田中佐が」
「はい。病気の子供に寄付するバザーの出し物ですから、皆様が気持ちよく」
 
 ーーーーね?

 人差し指を頬骨に添えて、小首を傾げる。

 ーーーーはぁ。

 盛大に、溜息を吐いた。
「あの、花さん」
「はい?」
「見えてますが」
「え?」
 花は目線を自分の身体に落とした。

「や、やだぁ」
 浴衣が少し崩れ、胸元が見えかけている。
「な、なんで」
「・・・四つん這いだから、では?」
「あ、そうか!」
「まぁ、こんな可愛い王子をみるのも、いいかもしれませんね」
「え」
 義孝の手が、花を抱き寄せる。

「あ、あのっあの」
「・・・賢いのに、抜けてますね」

 夜は、静かに更けた。

   ✢✢✢◇◇✢✢✢
「良かった、時東さんが受けてくれて」
「いえ」

 ーーーね、どうして説得したの?

 美沙に訊かれ、花は赤くなる。
「えと、普通に頼んだの。『だめ?』って。皆が引き受けたのに、駄々こねないでって」
「なるほど」
「奥さんの頼みなら、聞くんだぁ」
「ん、まあ。大体は」
 昨晩の事が蘇り、花はふしゅーっと茹で上がる。

「じゃあ、練習しますか。皆さん、記憶力に長けた方ばかりですけど、配置とか」

 ーーーーはーい。

 こうして、劇の練習は始まった。

   ✢✢✢◇◇◇✢✢✢

 昔々、ある国に『よしこ』という、美しく賢い子がいました。
「シクシク、シクシク」
 よしこが五歳の春、お母さんが亡くなり、お父さんが再婚しました。
「シクシク」
 このお母さん、最初は優しい方でしたが・・・・。

   ✢✢✢◇◇✢✢✢

 鹿江の舞台進行に合わせ、次々に人が舞台に出る。
「くくっ」
 美沙と佳代が笑う。
「杉田中佐、美しい」
「ホント、美人」
 かつらを付けた杉田中佐は、化粧無しでも美人だ。
「ほんと、おきれい」
 花も見惚れるばかり。

 ーーーこれ、灰かぶり!

 舞台で喚く。
 中原中将が吹き出した。

「いかん、傑作だ」
 ガハハ、と笑い声が響いた。
「こりゃ、大ウケだな」

 複雑な顔の義孝。
 なんで、自分が灰かぶり姫なのか。

 ーーー全く、無能だね。

 ーーーーすみません、ぐす。

 皆が高身長で端正な顔立ちにため、化粧映えするのだ。特に 杉田中佐は切れ長の二重に、長い睫毛が卑猥な色香だった。

「なんか、色っぽいよね」
「うん。妙に、色っぽい」
「杉田中佐、きれい」
 花が見惚れる。
「花ちゃん、駄目だよ?」
「時東さん、杉田中佐を殺しちゃうよ?」
「え?」
 花はハッとする。
「私、そんな顔してる?」
「うん。恍惚、って感じ」
「駄目だよ」

 幸い、義孝は気付いていない。

「大丈夫、私は義孝さん一筋だもん」
 うん、と花は頷く。
「あれだよ、杉田中佐には憧れだよ。舞台俳優とか、映画俳優な」

 ーーーー恋、じゃないし。

 花は舞台に上がる。
 義孝と向き合う。

(私が恋しているのは、義孝さんだけだもん)

「そこの、美しいお嬢様。わたしと、踊っていただけ」
 
 どん、と義孝を押し退け。

「いけません、王子様。私は、人妻ですわ」
「あら、やだ、お母様」
 大志が突き飛ばし。
「私よ、私!」

 台本にあったかなぁ?
 花は首を傾げた。

 もしや、日頃の鬱憤晴らし?
 
 美沙、佳代、花は青ざめた。

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