身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻

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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

六話『食事』

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「まあ、お互いに初対面なんだもの、緊張もしますよね」 
 二人の間にいた千代が、ふふと笑った。
「す、すみません、私」
「花さんだけでないですよ、まったく、いい歳なのに」
 ごほん、と義孝が咳払いをした。彼も緊張していたらしい、誤魔化すように肩をすくめたり、緩めたりしている。
 それから一つ息を吐いて、千代と同じ料理に箸を伸ばした。
 摘まれた煮物が一つ、義孝の口に運ばれる。底で狙っていたかのように、千代が傍らから声をかけた。
「今日の料理はね、花さんが作ってくれたものですよ」
「美味しいです、味付けも絶妙で調和が感じられます」
「あ、ありがとうございます」
 食い気味に言われて、花は紅くなる。箸を運ぶ食事の所作は美しいが、軍人というだけあって、食欲が落ち着く年齢であるはずの義孝も、その食いっぷりは見事なものだった。
 苦手な物が思いつかない、千代の言っていた通り、どの皿の料理も綺麗に平らげてしまう。
「すみません、おかわりをいただけますか」
「は、はい」
 花はご飯を盛り付け、渡した。
「花さんも、しっかり食べてくださいね。この勢だと、全部一人で食べてしまうかも」
 いたずらっぽく、千代が囁く。義孝が肩を竦める。
「人聞きの悪い。若い海兵じゃあるまいし、人の分まで取りませんよ。花さん、心配せずにゆっくり食べてください」
「はい」
 頷いて、花も食事を始める。
 
 初めての家の初めて会った人たち、その中でなぜか、花は居心地の良い感覚を覚えた。
 緊張で喉を通らないと思っていた夕食も、食べることが出来た。
(ここでなら、生きてゆけるかもしれない・)
 花はそう感じた。
 優しい千代、穏やかな義孝。そして、自分の三人で――――。

 お腹と心を満たした夕食の後、花は義孝から風呂に入るように進められた。
(内風呂があるなんて、贅沢だな)
 桐島邸にも内風呂はあるが、花は使うことを禁止され、鹿江達と銭湯に通っていた。
(ゆったり、湯につかれるなんて、最高の贅沢―――って。あ)  

 ふと、今日は初夜だと気付く。夜もとっぷりと暮れて、人々が眠りにつく時刻になっていた。千代も、もう就寝すると言って、一足先に寝室へ向かった。
 一日中いっぱいいっぱいだった花は、この一番緊張する瞬間を忘れていた。
(どうしたら、いいのかしら―――?)
 事前に寝室だと案内されていた一室、その入口の襖の前で、花は立ち尽くしていた。

(お風呂にもいれて頂いたのだもの・・・となると)
 入浴で温まった体が、廊下の冷気に冷えてゆく。肌寒さを感じながらも、花は寝室に入れずにいた。
(やっぱり、するのかしら?初夜)

 同衾、夜の営み、男女の交わり。・・・・そういう言葉が、今まさに花の頭の中を、ぐるぐる回る。
 花は男女の婚姻の流れを知らない。貴子には詳しく教えてもらえるわけもなく、頼りの鹿江の知識は四十年近く前に止まる。
 花は夫婦には初夜というものがあり、それがどういうものかは、薄っすら知っているが、それは医学的知識でしかない。
(でも確か、初夜は結婚したあと、最初の夜の事よね?私達はまだ、婚約しただけで・・しないはず。でも・・・もしするのだとしたら)
 花がモヤモヤと考えていた時だった。

「花さん?」
 
 背後でした声が、花はビクッと硬直する。花と同様に風呂上がりの浴衣に着替えているため、食事の際に見た姿と印象が少し違う。髪がおろしているせいか少し、若々しく見える。
「どうしました?」
「あ・・・ちょっと、ボーッとして」
「今日一日、色々あって疲れているでしょ。でも、ここは冷えますから、中へ」
「そ、そうですね」
 気まずさから、目を合わせていられず、花は俯きがちに答えた。

 ・・・足が、重い。
 緊張で身体が強張るのを、何とか花は寝室に足を運んだ。

「では、お休みなさい」
 義孝が、襖を閉めた。
「え」
 義孝から言われた就寝の挨拶に、反射的に疑問の声を上げた。

 ・・・・しまった!

 そう思った時には、時すでに遅しである。
「どうか・・・しましたか?」
「いえ、あの・・・・義孝さんは、眠らないのですか?」
「眠りますよ」
「でも、どちらで?」
「隣の部屋ですが?あ、私の隣では眠れませんか?でしたら、母に」
「い、いえ!そうではなく」
 言いかけて、花は言い淀む。
 義孝は花の意図が分からず、部屋の前で立ち尽くしている。
 急かすこともなく、待ってくれている。その姿に、花は腹を括る。
(義孝さんは夫婦になるのだし・・・お義母様にも、何でも気軽に話すようにと言われたじゃない)

 すぅと息を吐い、花は勇気を出した。

「しょ、初夜とは、・・・いつなのでしょうか、と思って」
「えっ?」
 素っ頓狂な声が響いた。
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