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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
二十六話『茸の毒』
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夕刻になり、義孝がいつも通りに仕事を終えた。しかし、いつも通りに出迎えた花が、義孝の顔を見て戸惑う。
「あの・・・義孝さん?どうかされましたか?」
「はて、どうかしたように見えますか」
義孝が微笑みながら言う。
一瞬その様子に躊躇ったものの、花は思い切って伝えることにした。
「なんだか、難しい顔をされているように見えたもので」
明らかに悩むような、疲れているような、そんな表情。それを指摘した花に、義孝が苦笑する。
「分かってしまうものなのですね。普通にしていたつもりだったのですが、ああ・・・花さんは無関係ですからね」
花をじっと見て、何やら考え込んでいる。その視線に、花の背筋が自然と伸びた。
義孝に見つめられていると、なんだか落ち着かない気持ちになる。海軍の新兵達も同じ気持ちなのだろうか、と花が考えていた時だった。
「・・・花さん」
「は、はい?」
「少し、話しを訊いてもらってもいいですか?」
義孝の申し出に、花は目をぱちくりさせた。
「話ですか?私で良ければ」
「お願いします」
義孝はスーツ姿のまま、居間へと移動した。
そうして花は、ちゃぶ台を挟んで座る彼から、緊張しつつ話しを聞くことになった。
話の内容は、とある艦船内にて最近になり船酔いを起こす、乗員が増えているというものだった。
今日、軍司令部の部下から義孝の耳に入ったという。一番酷い症状を訴えたのが艦長だという話や、噂を教えてくれた部下との会話後に他の者に訊ねて集めた詳細な情報・・それらも、機密情報に当たらぬ範囲内で、彼は花に話した。
「今の話で、何か気付くことがあれば、教えてはもらえませんか」
花は顎先に手を当て考える。
「最近・・・ということは、以前はそのようなことはなかったということですね?」
「通常とは異なる様子で、軍医にも原因がわからないそうです。感染症が流行っている様子にもなくて」
「原因・・・」
花は、聞いた話の内容を頭の中で反芻する。通常よりも多い、謎の船酔い。
軍医にも解らない原因、感染症でもない。不調が出るのは、艦の乗員全てではなく、その一部。そして、一番酷い症状なのは艦長・・・。
「―――以前、お義母さんより聞いたのですが、艦内では士官以上の方と一般の海兵さんでは、お食事の内容が異なるそうですね」
「ええ」
「使う食材は、同じなのでしょうか?」
「食材は、特に違いはないかと」
「なるほど。では、お食事の際には皆さん、お酒は飲まれますか?」
「士官の昼食の際には、軽めの酒がメニューに含まれています。一般の兵は、戦闘に備えて常飲するわけにはいきませんが、士気を保つために適度飲む機会は設けられています。基本は、艦内で保酒を開けた際に、必要な者はそこで購入して飲んでいますよ」
保酒とは、軍の内部に設けられた日用品や、嗜好品を売る売店のことだ。海軍では軍艦の中にも存在している。
そこで並ぶ品の管理は、艦の艦長と副長を筆頭に据え酒保委員が行っており、販売も士官の中から選ばれた酒保長が補佐の兵と共に行っていた。
「ただ酒に関しては、酒の購入できる規定がありますね」
義孝のその補足に、ふむ、と花は考える。
「・・・・ということは、『お酒が原因ではない』と軍ではお考えなのですね」
「ええ。症状が醉いということで、酒は真っ先に疑ったようです。不調を来した者は酒を飲んでおりましたが、飲んだ者全員が不調という訳ではありません。また、兵が規定の量を超えて飲んだりはしていないようです」
「なるほど、節制はされていたのですね」
艦長も、大量の酒を飲んだりはしていない。ということは、乗員を襲った船酔いは、酒の飲み過ぎが原因ではない。
そこまで考えて花は、あることに思い至る。
「・・・茸」
「きのこ?」
「茸の中では、食い合わせが悪い場合にのみ中毒症状を起こすものがあります。特に、お酒と一緒に食べた際に危険な症状が出ることもあると・・・お酒を飲み過ぎるなど、悪酔いしたのと同じ状態になるのだと」
「船酔いではなく、食した茸によって増強された酒の悪酔い、そういう可能性がある、ということですか」
「そうです。お酒を飲まなければ、問題なく食せることから、毒茸ではないとされている種類もあります。例えば、ヒトヨタケなど、味が悪くないものなら地域によっては普通に食されているそうです」
「・・・なるほど。それなら、辻褄があう」
「思い当たることがございますか?」
納得する義孝に、花は訊ねた。
「ええ、艦内でも食材として茸が使われることはあります。それに、重い症状が出たのは、艦長をはじめ、将校達だけだったのですが、下戸の副長だけは元気だったようで・・・そうか、それなら・・・」
義孝は何やら思い当たることがあったのだろう。神妙な顔で頷く。
「花さん、すぐに出ている症状を抑えるなど、対処法はあるでしょうか?」
「原因が何かハッキリしないので一概にはいえませんが・・・もし、私が想定するのと同じ症状ですので、同じように対処すれば醉いが抜けるのも、早くなるかと思います」
「水を飲む、日光などの刺激のない場所で休ませるなどでしょうか」
「ええ。早急に体内からアルコールを抜くということが、肝要かと。それから・・・酒醉いというのは、頭痛と吐き気などは不調の理由がそれぞれ異なるそうです。なので、それぞれ異なる対処が必要になります」
花の医学的知識は、医者レベルだった。
「あの・・・義孝さん?どうかされましたか?」
「はて、どうかしたように見えますか」
義孝が微笑みながら言う。
一瞬その様子に躊躇ったものの、花は思い切って伝えることにした。
「なんだか、難しい顔をされているように見えたもので」
明らかに悩むような、疲れているような、そんな表情。それを指摘した花に、義孝が苦笑する。
「分かってしまうものなのですね。普通にしていたつもりだったのですが、ああ・・・花さんは無関係ですからね」
花をじっと見て、何やら考え込んでいる。その視線に、花の背筋が自然と伸びた。
義孝に見つめられていると、なんだか落ち着かない気持ちになる。海軍の新兵達も同じ気持ちなのだろうか、と花が考えていた時だった。
「・・・花さん」
「は、はい?」
「少し、話しを訊いてもらってもいいですか?」
義孝の申し出に、花は目をぱちくりさせた。
「話ですか?私で良ければ」
「お願いします」
義孝はスーツ姿のまま、居間へと移動した。
そうして花は、ちゃぶ台を挟んで座る彼から、緊張しつつ話しを聞くことになった。
話の内容は、とある艦船内にて最近になり船酔いを起こす、乗員が増えているというものだった。
今日、軍司令部の部下から義孝の耳に入ったという。一番酷い症状を訴えたのが艦長だという話や、噂を教えてくれた部下との会話後に他の者に訊ねて集めた詳細な情報・・それらも、機密情報に当たらぬ範囲内で、彼は花に話した。
「今の話で、何か気付くことがあれば、教えてはもらえませんか」
花は顎先に手を当て考える。
「最近・・・ということは、以前はそのようなことはなかったということですね?」
「通常とは異なる様子で、軍医にも原因がわからないそうです。感染症が流行っている様子にもなくて」
「原因・・・」
花は、聞いた話の内容を頭の中で反芻する。通常よりも多い、謎の船酔い。
軍医にも解らない原因、感染症でもない。不調が出るのは、艦の乗員全てではなく、その一部。そして、一番酷い症状なのは艦長・・・。
「―――以前、お義母さんより聞いたのですが、艦内では士官以上の方と一般の海兵さんでは、お食事の内容が異なるそうですね」
「ええ」
「使う食材は、同じなのでしょうか?」
「食材は、特に違いはないかと」
「なるほど。では、お食事の際には皆さん、お酒は飲まれますか?」
「士官の昼食の際には、軽めの酒がメニューに含まれています。一般の兵は、戦闘に備えて常飲するわけにはいきませんが、士気を保つために適度飲む機会は設けられています。基本は、艦内で保酒を開けた際に、必要な者はそこで購入して飲んでいますよ」
保酒とは、軍の内部に設けられた日用品や、嗜好品を売る売店のことだ。海軍では軍艦の中にも存在している。
そこで並ぶ品の管理は、艦の艦長と副長を筆頭に据え酒保委員が行っており、販売も士官の中から選ばれた酒保長が補佐の兵と共に行っていた。
「ただ酒に関しては、酒の購入できる規定がありますね」
義孝のその補足に、ふむ、と花は考える。
「・・・・ということは、『お酒が原因ではない』と軍ではお考えなのですね」
「ええ。症状が醉いということで、酒は真っ先に疑ったようです。不調を来した者は酒を飲んでおりましたが、飲んだ者全員が不調という訳ではありません。また、兵が規定の量を超えて飲んだりはしていないようです」
「なるほど、節制はされていたのですね」
艦長も、大量の酒を飲んだりはしていない。ということは、乗員を襲った船酔いは、酒の飲み過ぎが原因ではない。
そこまで考えて花は、あることに思い至る。
「・・・茸」
「きのこ?」
「茸の中では、食い合わせが悪い場合にのみ中毒症状を起こすものがあります。特に、お酒と一緒に食べた際に危険な症状が出ることもあると・・・お酒を飲み過ぎるなど、悪酔いしたのと同じ状態になるのだと」
「船酔いではなく、食した茸によって増強された酒の悪酔い、そういう可能性がある、ということですか」
「そうです。お酒を飲まなければ、問題なく食せることから、毒茸ではないとされている種類もあります。例えば、ヒトヨタケなど、味が悪くないものなら地域によっては普通に食されているそうです」
「・・・なるほど。それなら、辻褄があう」
「思い当たることがございますか?」
納得する義孝に、花は訊ねた。
「ええ、艦内でも食材として茸が使われることはあります。それに、重い症状が出たのは、艦長をはじめ、将校達だけだったのですが、下戸の副長だけは元気だったようで・・・そうか、それなら・・・」
義孝は何やら思い当たることがあったのだろう。神妙な顔で頷く。
「花さん、すぐに出ている症状を抑えるなど、対処法はあるでしょうか?」
「原因が何かハッキリしないので一概にはいえませんが・・・もし、私が想定するのと同じ症状ですので、同じように対処すれば醉いが抜けるのも、早くなるかと思います」
「水を飲む、日光などの刺激のない場所で休ませるなどでしょうか」
「ええ。早急に体内からアルコールを抜くということが、肝要かと。それから・・・酒醉いというのは、頭痛と吐き気などは不調の理由がそれぞれ異なるそうです。なので、それぞれ異なる対処が必要になります」
花の医学的知識は、医者レベルだった。
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