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後編
「えっ……」
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俺は幸せだった。好きな女性と一つになれた。過ぎ去った快楽の中、俺は花宮とりんがいっそう愛おしくなった。
これ以上のない満足感と程良い疲労感の中、俺はそのまま朝まで眠りたかった。
ところが……眠りの深さが、少しだけ浅い方向へ戻されていく。
俺は夢を見ていた。そして……俺は暗闇の中に立っていた。
「えっ……」
ちょっと待ってくれ。嘘だろ?
デジャブと同時に……どうしようもない絶望感が俺を襲った。これは夢。夢の中で暗闇に立っている自分。
俺は一瞬にして、何が起こったのかを察した。察したくなかった。気づきたくはなかった。だが……俺の意思とは関係なく、儀式は進んでいく。
遠い向こうの方に見える小さな白い点が、こっちへ少しづつ向かってきていた。その白い点が俺の視界の中で滲んでいる。どうやら俺は、既に泣いているようだった。
その点が少しづつ大きくなっていく。どうか、そうじゃありませんように。どうか、違いますように。でも俺の祈りは虚しく、覆ることはなかった。
『あーもう! このタイミングだったかぁー』
少し悔しそうに、そしてちょっと嬉しそうに……全身が白く輝いているりんが、そう叫んだ。
「りん……」
『どうやら神様はアタシが17歳の終わりまでってことで、タイマーをセットしたみたいだね。12時を過ぎたら、馬車がカボチャに戻っちゃったよ』
りんの声は明るかった。俺の絶望的な気持ちとは対照的だった。
『もうナオ、そんな暗い顔しないで。明るく送り出してよ』
「りん……そんなこと、できねーよ」
『ナオ……アタシね、本当に幸せだったよ。このアディショナルタイム、もの凄く濃かったって思わない?』
りんは弾む声で続ける。
『琴ちゃんと親友になれたあとさ、学校で修学旅行まで行けて……卒業旅行で、好きな人と一つになれたんだよ。もう思い残すことなんて、何一つないよ』
「そうか……よかったな、りん」
俺はなんとか、声を絞り出した。
『ナオ、もう一度言うね。ありがとう。アタシに出会ってくれて、本当にありがとう』
「りん……俺の方こそ、ありがとう。俺、りんのこと、好きだったぞ!」
『ナオ……』
一瞬だけ、りんの顔が歪んだ。
『もうナオ……そんなこと言われたら、成仏できなくなっちゃうじゃない。これからは、琴ちゃんを大切にしてあげてね。多分ショックを受けると思うから、ちゃんと面倒見てあげるんだよ』
「ああ、わかった」
『じゃあもう行くね。本当に楽しかったよ。ありがとう。元気でねー! バイバーイ!』
「りん!」
俺は「行かないでくれ」という言葉を必死に飲み込んで、闇の中へ遠ざかっていくりんに向かって手を振っていた。りんは時折振り返って『バイバーイ!』と手を大きく振りかえしてくれていたが、最後は小さな点となって見えなくなり……消えていった。
漆黒の闇の中、俺はただ一人で立ち尽くしていた。どうしようもない虚無感、そして理不尽さに対するどうしようもない怒りがこみ上げてくる。
「おいっ! 神様とやら! いるんだろ!? 聞いてるか!?」
俺は叫んでいた。
「どうしてタイマーのセットを、もう一日だけずらしてやらなかったんだよ! 今日はりんの誕生日だったんだぞ! 買物に行って、美味しいものを食べて、一緒にお祝いをする予定だったんだぞ! りんだって、楽しみにしてたんだぞ!」
俺は泣いていた。涙が止まらなかった。
「それだけじゃねぇ! 花宮と一緒に大学の授業を受けることだって、楽しみにしてたんだぞ! なあ、聞いてんのかよ! どうしてもう少しだけ! あともう少しだけっ!……うわぁぁぁぁーー!!」
俺は大声で泣き叫びながら、「神様」にありったけの悪態をついていた。仏の道に身を置こうとする者にあるまじき行為だ。そんなことは分かっている。でも今の俺には耐えることなんてできやしなかった。
だがどんなに俺が泣き叫ぼうとも、どんなに悪態をつこうとも……りんは戻ってこない。その事実は変わらない。
りんは成仏した。この世になんの未練を残すことなく、逝くことができたんだ。俺がそう思うことができるまでに、少しだけ時間がかかってしまった。
俺が目を覚ますと……俺の隣で花宮が裸のまま、ベッドの上で体を起こしていた。
「りんちゃん……」
花宮は呆然としていた。
「花宮……」
「うそだよね? りんちゃん、まだいるんだよね? どこ? どこにいるの? ねえ、返事してよ! ねえ、りんちゃん! りんちゃんてばっ!」
「花宮!」
俺は花宮を強く抱きしめた。花宮はりんちゃん、りんちゃんと泣き叫んでいる。
「花宮。りんは成仏したんだ。言ってただろ? 何も思い残すことはないって。楽しかったって。ありがとうって。言ってただろ?」
俺の涙が嗚咽とともに、花宮の頬に落ちる。
「嫌だよ……りんちゃん、逝っちゃ嫌だ! 今日、誕生日のお祝いしようって言ってたじゃない! 大学だって、一緒に行こうって! 言ってたじゃない!」
花宮と俺はベッドの上で裸で抱き合いながら、二人で部屋中に響き渡るほどの大声で泣いていた。俺と花宮の弔いの涙はそれからしばらく続いた。二人が泣き疲れて、再び深い眠りについてしまうまで。
これ以上のない満足感と程良い疲労感の中、俺はそのまま朝まで眠りたかった。
ところが……眠りの深さが、少しだけ浅い方向へ戻されていく。
俺は夢を見ていた。そして……俺は暗闇の中に立っていた。
「えっ……」
ちょっと待ってくれ。嘘だろ?
デジャブと同時に……どうしようもない絶望感が俺を襲った。これは夢。夢の中で暗闇に立っている自分。
俺は一瞬にして、何が起こったのかを察した。察したくなかった。気づきたくはなかった。だが……俺の意思とは関係なく、儀式は進んでいく。
遠い向こうの方に見える小さな白い点が、こっちへ少しづつ向かってきていた。その白い点が俺の視界の中で滲んでいる。どうやら俺は、既に泣いているようだった。
その点が少しづつ大きくなっていく。どうか、そうじゃありませんように。どうか、違いますように。でも俺の祈りは虚しく、覆ることはなかった。
『あーもう! このタイミングだったかぁー』
少し悔しそうに、そしてちょっと嬉しそうに……全身が白く輝いているりんが、そう叫んだ。
「りん……」
『どうやら神様はアタシが17歳の終わりまでってことで、タイマーをセットしたみたいだね。12時を過ぎたら、馬車がカボチャに戻っちゃったよ』
りんの声は明るかった。俺の絶望的な気持ちとは対照的だった。
『もうナオ、そんな暗い顔しないで。明るく送り出してよ』
「りん……そんなこと、できねーよ」
『ナオ……アタシね、本当に幸せだったよ。このアディショナルタイム、もの凄く濃かったって思わない?』
りんは弾む声で続ける。
『琴ちゃんと親友になれたあとさ、学校で修学旅行まで行けて……卒業旅行で、好きな人と一つになれたんだよ。もう思い残すことなんて、何一つないよ』
「そうか……よかったな、りん」
俺はなんとか、声を絞り出した。
『ナオ、もう一度言うね。ありがとう。アタシに出会ってくれて、本当にありがとう』
「りん……俺の方こそ、ありがとう。俺、りんのこと、好きだったぞ!」
『ナオ……』
一瞬だけ、りんの顔が歪んだ。
『もうナオ……そんなこと言われたら、成仏できなくなっちゃうじゃない。これからは、琴ちゃんを大切にしてあげてね。多分ショックを受けると思うから、ちゃんと面倒見てあげるんだよ』
「ああ、わかった」
『じゃあもう行くね。本当に楽しかったよ。ありがとう。元気でねー! バイバーイ!』
「りん!」
俺は「行かないでくれ」という言葉を必死に飲み込んで、闇の中へ遠ざかっていくりんに向かって手を振っていた。りんは時折振り返って『バイバーイ!』と手を大きく振りかえしてくれていたが、最後は小さな点となって見えなくなり……消えていった。
漆黒の闇の中、俺はただ一人で立ち尽くしていた。どうしようもない虚無感、そして理不尽さに対するどうしようもない怒りがこみ上げてくる。
「おいっ! 神様とやら! いるんだろ!? 聞いてるか!?」
俺は叫んでいた。
「どうしてタイマーのセットを、もう一日だけずらしてやらなかったんだよ! 今日はりんの誕生日だったんだぞ! 買物に行って、美味しいものを食べて、一緒にお祝いをする予定だったんだぞ! りんだって、楽しみにしてたんだぞ!」
俺は泣いていた。涙が止まらなかった。
「それだけじゃねぇ! 花宮と一緒に大学の授業を受けることだって、楽しみにしてたんだぞ! なあ、聞いてんのかよ! どうしてもう少しだけ! あともう少しだけっ!……うわぁぁぁぁーー!!」
俺は大声で泣き叫びながら、「神様」にありったけの悪態をついていた。仏の道に身を置こうとする者にあるまじき行為だ。そんなことは分かっている。でも今の俺には耐えることなんてできやしなかった。
だがどんなに俺が泣き叫ぼうとも、どんなに悪態をつこうとも……りんは戻ってこない。その事実は変わらない。
りんは成仏した。この世になんの未練を残すことなく、逝くことができたんだ。俺がそう思うことができるまでに、少しだけ時間がかかってしまった。
俺が目を覚ますと……俺の隣で花宮が裸のまま、ベッドの上で体を起こしていた。
「りんちゃん……」
花宮は呆然としていた。
「花宮……」
「うそだよね? りんちゃん、まだいるんだよね? どこ? どこにいるの? ねえ、返事してよ! ねえ、りんちゃん! りんちゃんてばっ!」
「花宮!」
俺は花宮を強く抱きしめた。花宮はりんちゃん、りんちゃんと泣き叫んでいる。
「花宮。りんは成仏したんだ。言ってただろ? 何も思い残すことはないって。楽しかったって。ありがとうって。言ってただろ?」
俺の涙が嗚咽とともに、花宮の頬に落ちる。
「嫌だよ……りんちゃん、逝っちゃ嫌だ! 今日、誕生日のお祝いしようって言ってたじゃない! 大学だって、一緒に行こうって! 言ってたじゃない!」
花宮と俺はベッドの上で裸で抱き合いながら、二人で部屋中に響き渡るほどの大声で泣いていた。俺と花宮の弔いの涙はそれからしばらく続いた。二人が泣き疲れて、再び深い眠りについてしまうまで。
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