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私はふと心配に思う。
「あの……お尋ねしてもいいでしょうか……?」
国王陛下は笑みを浮かべたまま私の髪を撫でた。
「なんだ?」
「陛下は寝巻きをお召しですが、もしかしてどこか御体調がお悪いのですか?」
よく改めてみると、陛下は薄手の白いガウンの様なものをお召しで、長い三つ編みを右肩に細く垂らしている。
もう昼過ぎだ。
自分の父親も国の大小の差はあっても国王だった。
今の時間だと政務に追われて政策やら工事計画やらに頭を悩ませている時間だ。
グリムヒルト国王陛下は何故この時間に寝巻きでいるのだろう?
体調が悪い中、わざわざ顔を出してくれたのだろうか?
「儂は普段からこの格好だ。」
「えぇ⁉︎」
事もなげに仰る陛下を見上げて心底驚く。
「おかしいか? しかし所詮は儂ら海の民は海賊だ。則も何もそもそもがあったものではない。流石に催事の際は正装ぐらいはするがな」
「……あ……あの……私もその、国では威信も則も守らずに怒られてばかりでしたが……」
陛下がくつくつと笑う。
「ならば、お前にそれらを諌められる心配はないな。
それよりも姫。姫のことを聞かせろ。」
「えっ、私の事ですか?」
「そうだ。もっと姫の事が知りたい。」
陛下のお顔が近づく。
あまりに綺麗なお顔の陛下に心臓が弾むのがわかる。
陛下は私よりずっと背がお高いので、前屈みに私の顔を覗き込み、包み込まれる様な形になってなんだか照れてしまう。
「どうした?」
陛下は優しく笑う。
そのお顔を見ているのが恥ずかしくなって、俯いてしまう。
「へ……っ陛下……っお顔が近いです……」
陛下はとても美しい方だと思った。
綺麗なお顔立ちはもちろん、海を思わせる色をお持ちなのも印象的だ。
沿岸の澄んだ海のエメラルドグリーンの瞳。
その波飛沫の様な銀色の髪。
ここに来るまでに見た、美しい南国の海そのものみたいで全てがキラキラ輝く様だった。
私はこんな綺麗な人を見たのは初めてで、とても緊張する。
「先程生意気に啖呵を切った者と同一人物とは思えんな」
陛下が可笑しそうに仰ってふいに私を抱き上げる。
「へっ⁉︎ へっ⁉︎ 陛下⁉︎」
私はビックリしてつい変な声を上げてしまう。
「あちらに長椅子がある。菓子でも用意させよう。ゆっくり聞かせてくれ」
「あのっ……! 重いですからっ……! どうか、降ろして下さいっ……!」
「軽いぞ?」
侍女にお茶の準備を申しつけた陛下は私を抱き上げたまま二つ先の扉の開いたままの部屋に歩み進む。
着いた部屋には大きな長椅子とテーブルがあって、長椅子に私を降ろして座らせた後、その隣に陛下も腰掛けた。
侍女が手早くお茶とお菓子を用意する。
私はお菓子をマジマジと見つめてしまった。
だって、見た事もないお菓子が山の様にあったから。
陛下は侍女に下がる様に命じ、部屋は二人きりになる。
「どうした?食べても良いぞ?」
「いえ、その、珍しいお菓子がたくさんあって、つい見入ってしまいました」
グリムヒルトは隣国なので、基本的な事は勉強嫌いだった私でも知っている。
グリムヒルトは他大陸の国々との交易でその経済を回している。
でも、この大陸の国々とは国交も無いし交易もしていない。
だからグリムヒルトの文化は独特だし、国中珍しい物で溢れている。
「私の故郷マグダラスは、とても貧しい国だったので、王族とは言っても贅沢は出来なかったんです。
祭典や特別なお茶会や収穫祭で食べられましたけど、お菓子そのものを食べる機会が滅多になかったものですから、つい……」
恥入ってそう伝えると、陛下は少し意地悪な笑顔を浮かべて言った。
「確かに姫は儂と同じで国の威信とやらに興味がないのだな。
その様な事を儂に明かしてしまって良いのか?」
「あ……。そ、そうでした……」
滅多に出されないとはいえ、重要な催事には必ず出されていたのだから、国として見栄を張っていたんだろう。
それを自分から明かしてしまうなんて、なんて馬鹿なんだろう。
自分がここグリムヒルトにおいて、マグダラスの代表の様なものなのに……。
「姫自身の立場も危うくする。時と場合と人を見ろ。発言には気をつけるが良い」
「はい、今後気をつけます。ありがとうございます、陛下」
私はなんとなく、陛下は優しい人なんだなぁと思った。
こんな忠告をしてくれる人が悪い人のはずはないし、そのまま放っておく様な薄情な人でもない。
自然と笑みが溢れていたみたいで、陛下は私の頭をヨシヨシと撫でた。
あと1年で成人とは言え、私の様な14になったばかりの者なんて大人の男性の陛下から見れば、
お子様にしか見えないんだろうなと思うと、少しだけ、ほんの少しだけガッカリした。
そのまま陛下と今日乗って来た軍船の乗り心地が良かった事だったり、
でも波に慣れずにあまり眠れなかった事だったり、
グリムヒルトの海が初めて見た色でその美しさに心奪われた事だったり、
船を降りた港街の様子が活気に溢れていて驚いた事だったり、
たくさんお喋りをした。
「あの……お尋ねしてもいいでしょうか……?」
国王陛下は笑みを浮かべたまま私の髪を撫でた。
「なんだ?」
「陛下は寝巻きをお召しですが、もしかしてどこか御体調がお悪いのですか?」
よく改めてみると、陛下は薄手の白いガウンの様なものをお召しで、長い三つ編みを右肩に細く垂らしている。
もう昼過ぎだ。
自分の父親も国の大小の差はあっても国王だった。
今の時間だと政務に追われて政策やら工事計画やらに頭を悩ませている時間だ。
グリムヒルト国王陛下は何故この時間に寝巻きでいるのだろう?
体調が悪い中、わざわざ顔を出してくれたのだろうか?
「儂は普段からこの格好だ。」
「えぇ⁉︎」
事もなげに仰る陛下を見上げて心底驚く。
「おかしいか? しかし所詮は儂ら海の民は海賊だ。則も何もそもそもがあったものではない。流石に催事の際は正装ぐらいはするがな」
「……あ……あの……私もその、国では威信も則も守らずに怒られてばかりでしたが……」
陛下がくつくつと笑う。
「ならば、お前にそれらを諌められる心配はないな。
それよりも姫。姫のことを聞かせろ。」
「えっ、私の事ですか?」
「そうだ。もっと姫の事が知りたい。」
陛下のお顔が近づく。
あまりに綺麗なお顔の陛下に心臓が弾むのがわかる。
陛下は私よりずっと背がお高いので、前屈みに私の顔を覗き込み、包み込まれる様な形になってなんだか照れてしまう。
「どうした?」
陛下は優しく笑う。
そのお顔を見ているのが恥ずかしくなって、俯いてしまう。
「へ……っ陛下……っお顔が近いです……」
陛下はとても美しい方だと思った。
綺麗なお顔立ちはもちろん、海を思わせる色をお持ちなのも印象的だ。
沿岸の澄んだ海のエメラルドグリーンの瞳。
その波飛沫の様な銀色の髪。
ここに来るまでに見た、美しい南国の海そのものみたいで全てがキラキラ輝く様だった。
私はこんな綺麗な人を見たのは初めてで、とても緊張する。
「先程生意気に啖呵を切った者と同一人物とは思えんな」
陛下が可笑しそうに仰ってふいに私を抱き上げる。
「へっ⁉︎ へっ⁉︎ 陛下⁉︎」
私はビックリしてつい変な声を上げてしまう。
「あちらに長椅子がある。菓子でも用意させよう。ゆっくり聞かせてくれ」
「あのっ……! 重いですからっ……! どうか、降ろして下さいっ……!」
「軽いぞ?」
侍女にお茶の準備を申しつけた陛下は私を抱き上げたまま二つ先の扉の開いたままの部屋に歩み進む。
着いた部屋には大きな長椅子とテーブルがあって、長椅子に私を降ろして座らせた後、その隣に陛下も腰掛けた。
侍女が手早くお茶とお菓子を用意する。
私はお菓子をマジマジと見つめてしまった。
だって、見た事もないお菓子が山の様にあったから。
陛下は侍女に下がる様に命じ、部屋は二人きりになる。
「どうした?食べても良いぞ?」
「いえ、その、珍しいお菓子がたくさんあって、つい見入ってしまいました」
グリムヒルトは隣国なので、基本的な事は勉強嫌いだった私でも知っている。
グリムヒルトは他大陸の国々との交易でその経済を回している。
でも、この大陸の国々とは国交も無いし交易もしていない。
だからグリムヒルトの文化は独特だし、国中珍しい物で溢れている。
「私の故郷マグダラスは、とても貧しい国だったので、王族とは言っても贅沢は出来なかったんです。
祭典や特別なお茶会や収穫祭で食べられましたけど、お菓子そのものを食べる機会が滅多になかったものですから、つい……」
恥入ってそう伝えると、陛下は少し意地悪な笑顔を浮かべて言った。
「確かに姫は儂と同じで国の威信とやらに興味がないのだな。
その様な事を儂に明かしてしまって良いのか?」
「あ……。そ、そうでした……」
滅多に出されないとはいえ、重要な催事には必ず出されていたのだから、国として見栄を張っていたんだろう。
それを自分から明かしてしまうなんて、なんて馬鹿なんだろう。
自分がここグリムヒルトにおいて、マグダラスの代表の様なものなのに……。
「姫自身の立場も危うくする。時と場合と人を見ろ。発言には気をつけるが良い」
「はい、今後気をつけます。ありがとうございます、陛下」
私はなんとなく、陛下は優しい人なんだなぁと思った。
こんな忠告をしてくれる人が悪い人のはずはないし、そのまま放っておく様な薄情な人でもない。
自然と笑みが溢れていたみたいで、陛下は私の頭をヨシヨシと撫でた。
あと1年で成人とは言え、私の様な14になったばかりの者なんて大人の男性の陛下から見れば、
お子様にしか見えないんだろうなと思うと、少しだけ、ほんの少しだけガッカリした。
そのまま陛下と今日乗って来た軍船の乗り心地が良かった事だったり、
でも波に慣れずにあまり眠れなかった事だったり、
グリムヒルトの海が初めて見た色でその美しさに心奪われた事だったり、
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たくさんお喋りをした。
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