人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 隣に座るレイティア姫がうつらうつらと舟を漕ぐ。

 慣れぬ船旅、よく眠れなかったらしい上に菓子で腹を満たし、喋り疲れ、午後2時という時刻。

 無理もないだろうと、しばし黙っていてやると、次第に寝息を立て始めた。
 長椅子に横たわらせ、その頭を膝の上に置く。

 その寝顔を覗き込み、柔らかい髪を撫でてみる。
「ん……」小さく声を上げ顔を背ける。くすぐったかったのかもしれない。

 一目見た時に感じた絶世の美女に逢った様な感覚は今はもう持たないが、その容姿も性格も好ましいと思う。

 何より儂個人が生来、他者に対して持つ煩わしさや虚しさをこの娘は感じさせない。
 会話をする事が愉快で、目まぐるしく変わる表情を見ているだけで飽きなかった。

 肘を突き頬杖をついて、無防備な寝顔を見つめていると、儂も徐々に睡魔に誘われていった……。ーーーーーーーー


 ーーーーーー……か、へいか……?
 薄らとした意識の中で心地よい声が聴こえる。

 起こされる声だと気がついたが、不快感はない。
 微睡む中ゆっくり目を開くと、膝の上にあった筈の顔が困り顔で覗き込んでいた。

「陛下? 起きられましたか?」

「……ああ。」

「よかったぁ。こんな所で眠られてはお風邪をひいてしまいます。……それに申し訳ありません。私も眠ってしまって……、その、陛下のお膝に……」

「……ああ、あれは儂が寝かせた。気にするな」
 そう答えながら意識が明瞭になるにつれ、緩々と驚愕はやって来た。

(儂が人前で眠ってしまうとは……)

 儂は眠りに縁の薄い質で、寝付くのも難しく、眠り自体浅い。
 睡眠時間も短く、人前では決して眠れず、他者の気配で眠りが妨げられる。

 こうして、他者と空間を共有していて、眠る事など有り得なかった。

「レイティア姫。お前に頼みがある」

「? なんでしょうか?」

「今宵から儂と一緒に閨を共にしてくれぬか?」
 レイティア姫の顔が一気に赤くなる。

「わ……私とですか⁉︎ ……で、でも私は正式なお輿入れもまだですし、そ、そ、それにっ……わっ私、あの……っ」
 顔だけでなく、耳や首まで真っ赤にして、動揺するレイティア姫の反応を見て、まだ子供なのだと突きつけられた様な気分になる。

「儂は眠りが浅くてな。
 どうも姫が隣にいると眠れるらしい。添い寝をしてくれれば良いのだ」

「は……っ、そっ、そいね、ですか?」

「ああ。それ以上の事はせぬ」

 実際、成人に満たない輿入れ前の他国の王女に手出しをする気はない。
 それに姫自身の覚悟もまだまだの様子でもあるし、儂自身も子供に手を出すのは趣味に合わない。

「……あの、陛下が眠れるなら、……喜んで……」
 顔の熱が未だ冷めやらない様で、恥ずかしそうに俯いて、そう言った。
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