8 / 200
8
しおりを挟む
私はふと心配に思う。
「あの……お尋ねしてもいいでしょうか……?」
国王陛下は笑みを浮かべたまま私の髪を撫でた。
「なんだ?」
「陛下は寝巻きをお召しですが、もしかしてどこか御体調がお悪いのですか?」
よく改めてみると、陛下は薄手の白いガウンの様なものをお召しで、長い三つ編みを右肩に細く垂らしている。
もう昼過ぎだ。
自分の父親も国の大小の差はあっても国王だった。
今の時間だと政務に追われて政策やら工事計画やらに頭を悩ませている時間だ。
グリムヒルト国王陛下は何故この時間に寝巻きでいるのだろう?
体調が悪い中、わざわざ顔を出してくれたのだろうか?
「儂は普段からこの格好だ。」
「えぇ⁉︎」
事もなげに仰る陛下を見上げて心底驚く。
「おかしいか? しかし所詮は儂ら海の民は海賊だ。則も何もそもそもがあったものではない。流石に催事の際は正装ぐらいはするがな」
「……あ……あの……私もその、国では威信も則も守らずに怒られてばかりでしたが……」
陛下がくつくつと笑う。
「ならば、お前にそれらを諌められる心配はないな。
それよりも姫。姫のことを聞かせろ。」
「えっ、私の事ですか?」
「そうだ。もっと姫の事が知りたい。」
陛下のお顔が近づく。
あまりに綺麗なお顔の陛下に心臓が弾むのがわかる。
陛下は私よりずっと背がお高いので、前屈みに私の顔を覗き込み、包み込まれる様な形になってなんだか照れてしまう。
「どうした?」
陛下は優しく笑う。
そのお顔を見ているのが恥ずかしくなって、俯いてしまう。
「へ……っ陛下……っお顔が近いです……」
陛下はとても美しい方だと思った。
綺麗なお顔立ちはもちろん、海を思わせる色をお持ちなのも印象的だ。
沿岸の澄んだ海のエメラルドグリーンの瞳。
その波飛沫の様な銀色の髪。
ここに来るまでに見た、美しい南国の海そのものみたいで全てがキラキラ輝く様だった。
私はこんな綺麗な人を見たのは初めてで、とても緊張する。
「先程生意気に啖呵を切った者と同一人物とは思えんな」
陛下が可笑しそうに仰ってふいに私を抱き上げる。
「へっ⁉︎ へっ⁉︎ 陛下⁉︎」
私はビックリしてつい変な声を上げてしまう。
「あちらに長椅子がある。菓子でも用意させよう。ゆっくり聞かせてくれ」
「あのっ……! 重いですからっ……! どうか、降ろして下さいっ……!」
「軽いぞ?」
侍女にお茶の準備を申しつけた陛下は私を抱き上げたまま二つ先の扉の開いたままの部屋に歩み進む。
着いた部屋には大きな長椅子とテーブルがあって、長椅子に私を降ろして座らせた後、その隣に陛下も腰掛けた。
侍女が手早くお茶とお菓子を用意する。
私はお菓子をマジマジと見つめてしまった。
だって、見た事もないお菓子が山の様にあったから。
陛下は侍女に下がる様に命じ、部屋は二人きりになる。
「どうした?食べても良いぞ?」
「いえ、その、珍しいお菓子がたくさんあって、つい見入ってしまいました」
グリムヒルトは隣国なので、基本的な事は勉強嫌いだった私でも知っている。
グリムヒルトは他大陸の国々との交易でその経済を回している。
でも、この大陸の国々とは国交も無いし交易もしていない。
だからグリムヒルトの文化は独特だし、国中珍しい物で溢れている。
「私の故郷マグダラスは、とても貧しい国だったので、王族とは言っても贅沢は出来なかったんです。
祭典や特別なお茶会や収穫祭で食べられましたけど、お菓子そのものを食べる機会が滅多になかったものですから、つい……」
恥入ってそう伝えると、陛下は少し意地悪な笑顔を浮かべて言った。
「確かに姫は儂と同じで国の威信とやらに興味がないのだな。
その様な事を儂に明かしてしまって良いのか?」
「あ……。そ、そうでした……」
滅多に出されないとはいえ、重要な催事には必ず出されていたのだから、国として見栄を張っていたんだろう。
それを自分から明かしてしまうなんて、なんて馬鹿なんだろう。
自分がここグリムヒルトにおいて、マグダラスの代表の様なものなのに……。
「姫自身の立場も危うくする。時と場合と人を見ろ。発言には気をつけるが良い」
「はい、今後気をつけます。ありがとうございます、陛下」
私はなんとなく、陛下は優しい人なんだなぁと思った。
こんな忠告をしてくれる人が悪い人のはずはないし、そのまま放っておく様な薄情な人でもない。
自然と笑みが溢れていたみたいで、陛下は私の頭をヨシヨシと撫でた。
あと1年で成人とは言え、私の様な14になったばかりの者なんて大人の男性の陛下から見れば、
お子様にしか見えないんだろうなと思うと、少しだけ、ほんの少しだけガッカリした。
そのまま陛下と今日乗って来た軍船の乗り心地が良かった事だったり、
でも波に慣れずにあまり眠れなかった事だったり、
グリムヒルトの海が初めて見た色でその美しさに心奪われた事だったり、
船を降りた港街の様子が活気に溢れていて驚いた事だったり、
たくさんお喋りをした。
「あの……お尋ねしてもいいでしょうか……?」
国王陛下は笑みを浮かべたまま私の髪を撫でた。
「なんだ?」
「陛下は寝巻きをお召しですが、もしかしてどこか御体調がお悪いのですか?」
よく改めてみると、陛下は薄手の白いガウンの様なものをお召しで、長い三つ編みを右肩に細く垂らしている。
もう昼過ぎだ。
自分の父親も国の大小の差はあっても国王だった。
今の時間だと政務に追われて政策やら工事計画やらに頭を悩ませている時間だ。
グリムヒルト国王陛下は何故この時間に寝巻きでいるのだろう?
体調が悪い中、わざわざ顔を出してくれたのだろうか?
「儂は普段からこの格好だ。」
「えぇ⁉︎」
事もなげに仰る陛下を見上げて心底驚く。
「おかしいか? しかし所詮は儂ら海の民は海賊だ。則も何もそもそもがあったものではない。流石に催事の際は正装ぐらいはするがな」
「……あ……あの……私もその、国では威信も則も守らずに怒られてばかりでしたが……」
陛下がくつくつと笑う。
「ならば、お前にそれらを諌められる心配はないな。
それよりも姫。姫のことを聞かせろ。」
「えっ、私の事ですか?」
「そうだ。もっと姫の事が知りたい。」
陛下のお顔が近づく。
あまりに綺麗なお顔の陛下に心臓が弾むのがわかる。
陛下は私よりずっと背がお高いので、前屈みに私の顔を覗き込み、包み込まれる様な形になってなんだか照れてしまう。
「どうした?」
陛下は優しく笑う。
そのお顔を見ているのが恥ずかしくなって、俯いてしまう。
「へ……っ陛下……っお顔が近いです……」
陛下はとても美しい方だと思った。
綺麗なお顔立ちはもちろん、海を思わせる色をお持ちなのも印象的だ。
沿岸の澄んだ海のエメラルドグリーンの瞳。
その波飛沫の様な銀色の髪。
ここに来るまでに見た、美しい南国の海そのものみたいで全てがキラキラ輝く様だった。
私はこんな綺麗な人を見たのは初めてで、とても緊張する。
「先程生意気に啖呵を切った者と同一人物とは思えんな」
陛下が可笑しそうに仰ってふいに私を抱き上げる。
「へっ⁉︎ へっ⁉︎ 陛下⁉︎」
私はビックリしてつい変な声を上げてしまう。
「あちらに長椅子がある。菓子でも用意させよう。ゆっくり聞かせてくれ」
「あのっ……! 重いですからっ……! どうか、降ろして下さいっ……!」
「軽いぞ?」
侍女にお茶の準備を申しつけた陛下は私を抱き上げたまま二つ先の扉の開いたままの部屋に歩み進む。
着いた部屋には大きな長椅子とテーブルがあって、長椅子に私を降ろして座らせた後、その隣に陛下も腰掛けた。
侍女が手早くお茶とお菓子を用意する。
私はお菓子をマジマジと見つめてしまった。
だって、見た事もないお菓子が山の様にあったから。
陛下は侍女に下がる様に命じ、部屋は二人きりになる。
「どうした?食べても良いぞ?」
「いえ、その、珍しいお菓子がたくさんあって、つい見入ってしまいました」
グリムヒルトは隣国なので、基本的な事は勉強嫌いだった私でも知っている。
グリムヒルトは他大陸の国々との交易でその経済を回している。
でも、この大陸の国々とは国交も無いし交易もしていない。
だからグリムヒルトの文化は独特だし、国中珍しい物で溢れている。
「私の故郷マグダラスは、とても貧しい国だったので、王族とは言っても贅沢は出来なかったんです。
祭典や特別なお茶会や収穫祭で食べられましたけど、お菓子そのものを食べる機会が滅多になかったものですから、つい……」
恥入ってそう伝えると、陛下は少し意地悪な笑顔を浮かべて言った。
「確かに姫は儂と同じで国の威信とやらに興味がないのだな。
その様な事を儂に明かしてしまって良いのか?」
「あ……。そ、そうでした……」
滅多に出されないとはいえ、重要な催事には必ず出されていたのだから、国として見栄を張っていたんだろう。
それを自分から明かしてしまうなんて、なんて馬鹿なんだろう。
自分がここグリムヒルトにおいて、マグダラスの代表の様なものなのに……。
「姫自身の立場も危うくする。時と場合と人を見ろ。発言には気をつけるが良い」
「はい、今後気をつけます。ありがとうございます、陛下」
私はなんとなく、陛下は優しい人なんだなぁと思った。
こんな忠告をしてくれる人が悪い人のはずはないし、そのまま放っておく様な薄情な人でもない。
自然と笑みが溢れていたみたいで、陛下は私の頭をヨシヨシと撫でた。
あと1年で成人とは言え、私の様な14になったばかりの者なんて大人の男性の陛下から見れば、
お子様にしか見えないんだろうなと思うと、少しだけ、ほんの少しだけガッカリした。
そのまま陛下と今日乗って来た軍船の乗り心地が良かった事だったり、
でも波に慣れずにあまり眠れなかった事だったり、
グリムヒルトの海が初めて見た色でその美しさに心奪われた事だったり、
船を降りた港街の様子が活気に溢れていて驚いた事だったり、
たくさんお喋りをした。
10
あなたにおすすめの小説
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています
木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。
少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが……
陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。
どちらからお読み頂いても話は通じます。
イケメンとテンネン
流月るる
恋愛
ある事情から、イケメンと天然女子を毛嫌いする咲希。彼らを避けて生活していた、ある日のこと。ずっと思い続けてきた男友達が、天然女子と結婚することに! しかもその直後、彼氏に別れを告げられてしまった。思わぬダブルショックに落ち込む咲希。そんな彼女に、犬猿の仲である同僚の朝陽が声をかけてきた。イケメンは嫌い! と思いつつ、気晴らしのため飲みに行くと、なぜかホテルに連れ込まれてしまい――!? 天邪鬼なOLとイケメン同僚の、恋の攻防戦勃発!
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる