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レイティアが堅い表情で儂をジッと見つめる。
「ウチに帰して」
レイティアが呟く様に言った。
儂は席を立ちレイティアに歩み寄る。
そして腕を掴んで儂の隣の席に座らせる。
「お前は俺の酌でもしてろ」
「ウチに帰りたいの」
「お前はもう俺のものだ。帰すと思うか?」
「…………」
レイティアは悔しそうな表情で儂を睨み据えた。
演技と分かっていてもこういう普段見せない表情に唆られる。
レイティアの肩に腕を回し、抱き寄せた。
そして言い放つ。
「他の男に同じ目に遭わされたくはないだろう?大人しくしてろ」
レイティアは悔しそうに俯く。
儂はレイティアの耳元で囁いた。
「待っていろと言った筈だが?」
レイティアは顔を上げて儂を仰いだあと、首を横に振った。
待っていられなかった、という事だろう。
「まぁいい。酌をしろ」
樽杯を差し出して、レイティアに促す。
レイティアは儂を睨みつけながら葡萄酒の入った大きなデカンタを両手に取り、儂の樽杯に注ぎ入れた。
「すっかり大人しくなっちまったな、姉ちゃん」
マルコは揶揄う様にレイティアに言った。
レイティアはマルコをキッと睨みつけた。
「おいおい、アナバス、あんたこの女、ちゃんと手懐けたのか?」
笑いめかしながら、マルコは儂に言う。
「誰にでも簡単に手懐けられる様な女に興味は無い」
レイティアの頭を撫でる。
「やめてよ」
レイティアは儂の手を振り払った。
普段ならば頬を染めて嬉しそうに儂を見るのだが、こういう反応もまた新鮮だ。
マルコはその様子を笑い、儂に言う。
「こりゃ確かに簡単には行かなさそうだな!」
これ以上レイティアに興味を持たれるのも不愉快なので、儂は話を逸らす。
「マルコ、お前その名は通り名だと言ってたな」
「あぁ、俺ぁ本当の名はエドガーだよ」
「ほう、いいのか?新参の俺に簡単に名を明かして」
「あんたはこれから俺の相棒としてやってもらいたいんだよ。俺達で儲けようぜ」
何やらマルコは儂をいたくお気に召したらしい。よくわからんがこれだけ饒舌に喋ってくれるなら願ったり叶ったりだ。
「なら聞くが、元締めはかなりデカい組織なんだろう?」
マルコは樽杯に口をつけ、笑いながら言った。
「アナバス。あんたはどう思ってんだよ?」
「大型船の乗組員を全て黙らせるだけの権威ある組織だという事だろう?」
マルコは得意気に樽杯を掲げて言った。
「ああ、そういうこった。前の仕事の大型船の乗組員に一人クソ真面目な奴がいてな、黙ってりゃいいのに騒ぎ立てやがってな。船員全員で、女から貰う珠があるだろ? あれを奪って海に落としちまったらしいぜ?」
レイティアの顔色がみるみる青くなっていく。
「……それって……もしかして……ねぇ! その人の名前は⁈」
マルコはレイティアを見てニヤリと笑った。
「オリヤン……なんつったかな、覚えてねえよ」
レイティアはマルコの語った名を小さく呟く。
「……オリヤン……」
儂はテーブルの下でレイティアの手を握ってやる。
「それで、『今回は』と言っていたが、積荷の引き渡し場所は毎回違うのか?」
「ああ、違うぜ? 同じだと足が付いちまうからな」
「大型船は予め停泊する港を指示されてるのか?」
「あぁ、そうだよ。出航前から積荷の指示からその隠し方、荷受けの場所、全部最初から計画されてる」
「変更があった場合はどうしている?」
「今回は陸から合図を送る」
「ほう、光か?」
「なんで光だとわかるんだ?」
「陸からの連絡手段など狼煙か光位だろう。狼煙では目立ち過ぎる。なら光だろう。昼なんだろう?」
マルコは何故か妙に嬉しそうに葡萄酒を呷ると儂に問う。
「アナバス、お前は本当に頭の切れる男だな! じゃあ何故昼だと思うんだ?」
儂は樽杯を呷って葡萄酒で喉を潤す。
「……夜では漁船が多数出払う方が不自然だ。商船が夜に小さな港に立ち寄る事も言い訳が出来ん。それに夜、光で信号を送れば目立つ」
「はははっ! その通りだよ! あんたみたいな男が相棒とは頼もしいぜ」
上機嫌のマルコはどんどん酒を呷る。葡萄酒だけでは飽き足らず、糖酒に手を出し始めた。
酒を呷る毎に酔いどれ、上機嫌になるマルコは自分の生い立ちやこの仕事に付いた経緯などを聞いてもいないのに話し始める。
「俺だってよ、本家に産まれてりゃこんな危ない橋渡らずに済んだんだ」
儂は樽杯の葡萄酒を呷りながら相槌を打ってやる。
「本家の奴らは正当な売上の他に、お前達が危ない橋を渡って得た売上の何割かを持って行く訳だな。安全な場所から」
「そうなんだよ! 従兄弟にヴァルタルって奴が居るんだがよ? 本家に産まれたってだけで元締めの次期代表だぜ? 馬鹿馬鹿しくてやってらんねえよ」
ヴァルタルと言えば、ヴァルタル・ハンバル・ヴェルウェルト。
ヴェルウェルト商会の次期代表だ。やはり密輸の主導は商会そのものなのだろう。
「ウチに帰して」
レイティアが呟く様に言った。
儂は席を立ちレイティアに歩み寄る。
そして腕を掴んで儂の隣の席に座らせる。
「お前は俺の酌でもしてろ」
「ウチに帰りたいの」
「お前はもう俺のものだ。帰すと思うか?」
「…………」
レイティアは悔しそうな表情で儂を睨み据えた。
演技と分かっていてもこういう普段見せない表情に唆られる。
レイティアの肩に腕を回し、抱き寄せた。
そして言い放つ。
「他の男に同じ目に遭わされたくはないだろう?大人しくしてろ」
レイティアは悔しそうに俯く。
儂はレイティアの耳元で囁いた。
「待っていろと言った筈だが?」
レイティアは顔を上げて儂を仰いだあと、首を横に振った。
待っていられなかった、という事だろう。
「まぁいい。酌をしろ」
樽杯を差し出して、レイティアに促す。
レイティアは儂を睨みつけながら葡萄酒の入った大きなデカンタを両手に取り、儂の樽杯に注ぎ入れた。
「すっかり大人しくなっちまったな、姉ちゃん」
マルコは揶揄う様にレイティアに言った。
レイティアはマルコをキッと睨みつけた。
「おいおい、アナバス、あんたこの女、ちゃんと手懐けたのか?」
笑いめかしながら、マルコは儂に言う。
「誰にでも簡単に手懐けられる様な女に興味は無い」
レイティアの頭を撫でる。
「やめてよ」
レイティアは儂の手を振り払った。
普段ならば頬を染めて嬉しそうに儂を見るのだが、こういう反応もまた新鮮だ。
マルコはその様子を笑い、儂に言う。
「こりゃ確かに簡単には行かなさそうだな!」
これ以上レイティアに興味を持たれるのも不愉快なので、儂は話を逸らす。
「マルコ、お前その名は通り名だと言ってたな」
「あぁ、俺ぁ本当の名はエドガーだよ」
「ほう、いいのか?新参の俺に簡単に名を明かして」
「あんたはこれから俺の相棒としてやってもらいたいんだよ。俺達で儲けようぜ」
何やらマルコは儂をいたくお気に召したらしい。よくわからんがこれだけ饒舌に喋ってくれるなら願ったり叶ったりだ。
「なら聞くが、元締めはかなりデカい組織なんだろう?」
マルコは樽杯に口をつけ、笑いながら言った。
「アナバス。あんたはどう思ってんだよ?」
「大型船の乗組員を全て黙らせるだけの権威ある組織だという事だろう?」
マルコは得意気に樽杯を掲げて言った。
「ああ、そういうこった。前の仕事の大型船の乗組員に一人クソ真面目な奴がいてな、黙ってりゃいいのに騒ぎ立てやがってな。船員全員で、女から貰う珠があるだろ? あれを奪って海に落としちまったらしいぜ?」
レイティアの顔色がみるみる青くなっていく。
「……それって……もしかして……ねぇ! その人の名前は⁈」
マルコはレイティアを見てニヤリと笑った。
「オリヤン……なんつったかな、覚えてねえよ」
レイティアはマルコの語った名を小さく呟く。
「……オリヤン……」
儂はテーブルの下でレイティアの手を握ってやる。
「それで、『今回は』と言っていたが、積荷の引き渡し場所は毎回違うのか?」
「ああ、違うぜ? 同じだと足が付いちまうからな」
「大型船は予め停泊する港を指示されてるのか?」
「あぁ、そうだよ。出航前から積荷の指示からその隠し方、荷受けの場所、全部最初から計画されてる」
「変更があった場合はどうしている?」
「今回は陸から合図を送る」
「ほう、光か?」
「なんで光だとわかるんだ?」
「陸からの連絡手段など狼煙か光位だろう。狼煙では目立ち過ぎる。なら光だろう。昼なんだろう?」
マルコは何故か妙に嬉しそうに葡萄酒を呷ると儂に問う。
「アナバス、お前は本当に頭の切れる男だな! じゃあ何故昼だと思うんだ?」
儂は樽杯を呷って葡萄酒で喉を潤す。
「……夜では漁船が多数出払う方が不自然だ。商船が夜に小さな港に立ち寄る事も言い訳が出来ん。それに夜、光で信号を送れば目立つ」
「はははっ! その通りだよ! あんたみたいな男が相棒とは頼もしいぜ」
上機嫌のマルコはどんどん酒を呷る。葡萄酒だけでは飽き足らず、糖酒に手を出し始めた。
酒を呷る毎に酔いどれ、上機嫌になるマルコは自分の生い立ちやこの仕事に付いた経緯などを聞いてもいないのに話し始める。
「俺だってよ、本家に産まれてりゃこんな危ない橋渡らずに済んだんだ」
儂は樽杯の葡萄酒を呷りながら相槌を打ってやる。
「本家の奴らは正当な売上の他に、お前達が危ない橋を渡って得た売上の何割かを持って行く訳だな。安全な場所から」
「そうなんだよ! 従兄弟にヴァルタルって奴が居るんだがよ? 本家に産まれたってだけで元締めの次期代表だぜ? 馬鹿馬鹿しくてやってらんねえよ」
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