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しばしレイティアを愛でた儂は、起き上がり、衣服を整える。
そして未だ惚けているレイティアの瞼にキスを落として耳元に囁く。
「良いか?お前は今日初めて会った無頼の男に手篭めにされて茫然自失となっている。わかったか?」
レイティアはぼんやりとこちらに向き直り、コクリと頷いた。
髪を撫で、手の甲で頬を撫ぜる。
「ここで待っていろ。仕事の話をしてくる」
レイティアは再びコクリと頷く。
儂は後ろ髪を引かれる思いでその部屋を出た。
階段を降りて話し込んでいる様子の男達の輪に入る。
「待たせたな」
「えらく気に入った様だな」
レイティアを捕らえていた男が訳知り顔でニヤついてそう言った。
この男は確かアイラを襲っていた男だ。その向こうにいる男二人も見覚えがある。
「ああ」
マルコが儂に訊ねる。
「あんた本当に報酬はあの女でいいのか? あの女はちょっと不味い話を聞かれて、捕まえた女だそうだ。俺達の持ち物じゃねぇ。それにその内容をペラペラ喋られちゃ敵わん」
儂は腰に手を当ててマルコを見る。
「黙らせた。心配要らん」
「確かに、静かになったな」
マルコは階段の方を眺めて言った。
「その不味い話を含めての報酬だ。俺の管理下にあるなら問題ないだろう?」
マルコはしばし考え込んで、儂と目を合わせる。
「……まぁ、あんたがそう言うなら俺は別に構わんぜ?」
どうやらマルコは儂を信頼する事に決めたらしい。見る目の無い男だ。
「で? どこまで進んだ?」
マルコに仕事の話を促す。
「まだ大した話はしてねえよ。今回の仕事はロロテア港だ。積荷は大型商船に積んである。その荷受けだ。漁船に詰め替えて偽装する」
儂は兼ねてからの質問をする。
「前にも聞いたが、商船の乗組員は買収済みだという事か?」
マルコは得意気に答える。
「ああ。乗組員達も問題ない。ロロテアに行きゃ引き渡しだけだ」
「えらく手慣れてるな。この仕事は長いのか?」
マルコはニヤリと笑って脚を組んだ。そして仰け反って椅子の背凭れに背を預けた。
「ああ、俺ぁこの仕事を10年やってるが前回みたいなヘマやらかしたのは初めてだ。その前には俺の叔父貴がこの仕事をしてたが、代替わりしたんだよ」
「ほう。実績があるなら安心だ」
これだけ長く密輸をしてるなら必ずタガが外れている。バレない確信を積み重ねているからだ。
恐らくガサ入れすれば目録や帳簿が絶対に見つかる。数の多い大掛かりな密輸の収支を頭の中だけで覚える事は通常は困難だ。複数の人間が関わればそれだけ帳簿類は必要になる。
そしてこの密輸の手の混み具合から見て、商会の幹部はもちろん、末端まで関わってる可能性がかなり高い。
今頃宰相辺りは露見した後の後釜の商会の目処をつけている所だろう。
さて、こちらはどうやって尻尾を掴んでやろうか。
窓の外を見てみる。
そろそろ朝日が登ろうかという時間だ。
「で、仕事はいつなんだ?」
儂は腕を組んで壁に凭れ掛かり、マルコに訊ねた。
「3日後の予定だった。だが俺が捕まっちまったからな。変更が無いかお伺いを立てなきゃなんねぇ」
「詳しい事が決まる前に一つ提案だ」
「なんだ?」
「漁船に偽装すると言ってたな。だったら武装船も潜り込ませろ。万一巡回中の海軍に見つかっても切り抜けてやる自信はあるぞ?
そうだな、5隻与えてくれたら逃げ切ってやる」
「武装船か……。確かに今回もそういうのがありゃ易々と捕まらずに済んだんだ。……にしても、たった5隻で逃げ切れるなんぞ、大きく出たな。グリムヒルトの海軍相手に何処から来るんだ、その自信は」
マルコは儂を値踏みする様な眼付きで見つめてくる。
相手の心の奥を探ろうという眼付きだ。
幾らでも覗けばいい。
この男に儂の底が見抜けるとは思えない。
「昔軍人の様な事をやってたんでな。勝てと言われたら無理だが、逃げ切れと言われたら可能だ、と言うだけだ」
マルコの目をジッと見て答えてやった。
「……あんた、ホントに面白い男だな! いいぜ、元締めに会わせてやるよ」
「ほう?」
「あんたなら他にも色々役に立ってくれるだろうしな。そう言やぁ、あんたはアナバスってんだろ? 俺は名乗ってなかったな。マルコって通り名だ」
とっくに知ってるがな、と心の中で呟いてマルコに手を差し出す。
「よろしく頼む、マルコ」
マルコは儂の手を取り、手を組み合う形で握手を交わした。
「今から呑むぜ! どうせ使いをやんなきゃなんねえからな!」
マルコはカウンターの向こうの主人に葡萄酒を注文する。
「おい、グレーゲル! お前も呑めよ! 俺の奢りだ!」
マルコは何やら上機嫌になり、どんどん酒が進む。
レイティアを捕らえていた男の名はグレーゲルと言うらしい。
この男は先程からこちらを見てニヤついている。
樽杯を受け取り様に儂に耳打ちする。
「嫁から聞いてるだろ? 俺ぁ味方だ」
儂はグレーゲルに一瞥をくれる。それだけで充分に了解している意は伝わった様だ。
なかなか聡い男だ。レイティアはこういう人を感知する能力が高い。
城で仲の良くなる衛士達や騎士達、兵士達を見ていても敢えて選んでいるのではないかと勘繰るほどに、手腕や人格に優れた者達だ。
ただ、レイティアにそれとなくその者達の為人を聞いてみても、一貫して「いい人」だという感想以上は返ってこない。
恐らくその者の能力などに対する着眼は無いのだろう。
本能なのか、偶然なのか、レイティアの人選はハズレが無い。
それがレイティアの持って生まれた強運や人徳というものなのだろう。
そのレイティアが一時的にとは言え信用した男だ。恐らくただのボンクラだという事は無い。
使える男なら今後も飼ってやってもいい。
こうして、男ばかりで酒を酌み交わしていると、レイティアが堅い表情で階段を降りてきた。
そして未だ惚けているレイティアの瞼にキスを落として耳元に囁く。
「良いか?お前は今日初めて会った無頼の男に手篭めにされて茫然自失となっている。わかったか?」
レイティアはぼんやりとこちらに向き直り、コクリと頷いた。
髪を撫で、手の甲で頬を撫ぜる。
「ここで待っていろ。仕事の話をしてくる」
レイティアは再びコクリと頷く。
儂は後ろ髪を引かれる思いでその部屋を出た。
階段を降りて話し込んでいる様子の男達の輪に入る。
「待たせたな」
「えらく気に入った様だな」
レイティアを捕らえていた男が訳知り顔でニヤついてそう言った。
この男は確かアイラを襲っていた男だ。その向こうにいる男二人も見覚えがある。
「ああ」
マルコが儂に訊ねる。
「あんた本当に報酬はあの女でいいのか? あの女はちょっと不味い話を聞かれて、捕まえた女だそうだ。俺達の持ち物じゃねぇ。それにその内容をペラペラ喋られちゃ敵わん」
儂は腰に手を当ててマルコを見る。
「黙らせた。心配要らん」
「確かに、静かになったな」
マルコは階段の方を眺めて言った。
「その不味い話を含めての報酬だ。俺の管理下にあるなら問題ないだろう?」
マルコはしばし考え込んで、儂と目を合わせる。
「……まぁ、あんたがそう言うなら俺は別に構わんぜ?」
どうやらマルコは儂を信頼する事に決めたらしい。見る目の無い男だ。
「で? どこまで進んだ?」
マルコに仕事の話を促す。
「まだ大した話はしてねえよ。今回の仕事はロロテア港だ。積荷は大型商船に積んである。その荷受けだ。漁船に詰め替えて偽装する」
儂は兼ねてからの質問をする。
「前にも聞いたが、商船の乗組員は買収済みだという事か?」
マルコは得意気に答える。
「ああ。乗組員達も問題ない。ロロテアに行きゃ引き渡しだけだ」
「えらく手慣れてるな。この仕事は長いのか?」
マルコはニヤリと笑って脚を組んだ。そして仰け反って椅子の背凭れに背を預けた。
「ああ、俺ぁこの仕事を10年やってるが前回みたいなヘマやらかしたのは初めてだ。その前には俺の叔父貴がこの仕事をしてたが、代替わりしたんだよ」
「ほう。実績があるなら安心だ」
これだけ長く密輸をしてるなら必ずタガが外れている。バレない確信を積み重ねているからだ。
恐らくガサ入れすれば目録や帳簿が絶対に見つかる。数の多い大掛かりな密輸の収支を頭の中だけで覚える事は通常は困難だ。複数の人間が関わればそれだけ帳簿類は必要になる。
そしてこの密輸の手の混み具合から見て、商会の幹部はもちろん、末端まで関わってる可能性がかなり高い。
今頃宰相辺りは露見した後の後釜の商会の目処をつけている所だろう。
さて、こちらはどうやって尻尾を掴んでやろうか。
窓の外を見てみる。
そろそろ朝日が登ろうかという時間だ。
「で、仕事はいつなんだ?」
儂は腕を組んで壁に凭れ掛かり、マルコに訊ねた。
「3日後の予定だった。だが俺が捕まっちまったからな。変更が無いかお伺いを立てなきゃなんねぇ」
「詳しい事が決まる前に一つ提案だ」
「なんだ?」
「漁船に偽装すると言ってたな。だったら武装船も潜り込ませろ。万一巡回中の海軍に見つかっても切り抜けてやる自信はあるぞ?
そうだな、5隻与えてくれたら逃げ切ってやる」
「武装船か……。確かに今回もそういうのがありゃ易々と捕まらずに済んだんだ。……にしても、たった5隻で逃げ切れるなんぞ、大きく出たな。グリムヒルトの海軍相手に何処から来るんだ、その自信は」
マルコは儂を値踏みする様な眼付きで見つめてくる。
相手の心の奥を探ろうという眼付きだ。
幾らでも覗けばいい。
この男に儂の底が見抜けるとは思えない。
「昔軍人の様な事をやってたんでな。勝てと言われたら無理だが、逃げ切れと言われたら可能だ、と言うだけだ」
マルコの目をジッと見て答えてやった。
「……あんた、ホントに面白い男だな! いいぜ、元締めに会わせてやるよ」
「ほう?」
「あんたなら他にも色々役に立ってくれるだろうしな。そう言やぁ、あんたはアナバスってんだろ? 俺は名乗ってなかったな。マルコって通り名だ」
とっくに知ってるがな、と心の中で呟いてマルコに手を差し出す。
「よろしく頼む、マルコ」
マルコは儂の手を取り、手を組み合う形で握手を交わした。
「今から呑むぜ! どうせ使いをやんなきゃなんねえからな!」
マルコはカウンターの向こうの主人に葡萄酒を注文する。
「おい、グレーゲル! お前も呑めよ! 俺の奢りだ!」
マルコは何やら上機嫌になり、どんどん酒が進む。
レイティアを捕らえていた男の名はグレーゲルと言うらしい。
この男は先程からこちらを見てニヤついている。
樽杯を受け取り様に儂に耳打ちする。
「嫁から聞いてるだろ? 俺ぁ味方だ」
儂はグレーゲルに一瞥をくれる。それだけで充分に了解している意は伝わった様だ。
なかなか聡い男だ。レイティアはこういう人を感知する能力が高い。
城で仲の良くなる衛士達や騎士達、兵士達を見ていても敢えて選んでいるのではないかと勘繰るほどに、手腕や人格に優れた者達だ。
ただ、レイティアにそれとなくその者達の為人を聞いてみても、一貫して「いい人」だという感想以上は返ってこない。
恐らくその者の能力などに対する着眼は無いのだろう。
本能なのか、偶然なのか、レイティアの人選はハズレが無い。
それがレイティアの持って生まれた強運や人徳というものなのだろう。
そのレイティアが一時的にとは言え信用した男だ。恐らくただのボンクラだという事は無い。
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