人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

文字の大きさ
113 / 200

113

しおりを挟む
 しばしレイティアを愛でた儂は、起き上がり、衣服を整える。
 そして未だ惚けているレイティアの瞼にキスを落として耳元に囁く。
「良いか?お前は今日初めて会った無頼の男に手篭めにされて茫然自失となっている。わかったか?」
 レイティアはぼんやりとこちらに向き直り、コクリと頷いた。
 髪を撫で、手の甲で頬を撫ぜる。
「ここで待っていろ。仕事の話をしてくる」
 レイティアは再びコクリと頷く。
 儂は後ろ髪を引かれる思いでその部屋を出た。
 階段を降りて話し込んでいる様子の男達の輪に入る。
「待たせたな」
「えらく気に入った様だな」
 レイティアを捕らえていた男が訳知り顔でニヤついてそう言った。
 この男は確かアイラを襲っていた男だ。その向こうにいる男二人も見覚えがある。
「ああ」
 マルコが儂に訊ねる。
「あんた本当に報酬はあの女でいいのか? あの女はちょっと不味い話を聞かれて、捕まえた女だそうだ。俺達の持ち物じゃねぇ。それにその内容をペラペラ喋られちゃ敵わん」
 儂は腰に手を当ててマルコを見る。
「黙らせた。心配要らん」
「確かに、静かになったな」
 マルコは階段の方を眺めて言った。
「その不味い話を含めての報酬だ。俺の管理下にあるなら問題ないだろう?」
 マルコはしばし考え込んで、儂と目を合わせる。
「……まぁ、あんたがそう言うなら俺は別に構わんぜ?」
 どうやらマルコは儂を信頼する事に決めたらしい。見る目の無い男だ。
「で? どこまで進んだ?」
 マルコに仕事の話を促す。
「まだ大した話はしてねえよ。今回の仕事はロロテア港だ。積荷は大型商船に積んである。その荷受けだ。漁船に詰め替えて偽装する」
 儂は兼ねてからの質問をする。
「前にも聞いたが、商船の乗組員は買収済みだという事か?」
 マルコは得意気に答える。
「ああ。乗組員達も問題ない。ロロテアに行きゃ引き渡しだけだ」
「えらく手慣れてるな。この仕事は長いのか?」
 マルコはニヤリと笑って脚を組んだ。そして仰け反って椅子の背凭れに背を預けた。
「ああ、俺ぁこの仕事を10年やってるが前回みたいなヘマやらかしたのは初めてだ。その前には俺の叔父貴がこの仕事をしてたが、代替わりしたんだよ」
「ほう。実績があるなら安心だ」
 これだけ長く密輸をしてるなら必ずタガが外れている。バレない確信を積み重ねているからだ。
 恐らくガサ入れすれば目録や帳簿が絶対に見つかる。数の多い大掛かりな密輸の収支を頭の中だけで覚える事は通常は困難だ。複数の人間が関わればそれだけ帳簿類は必要になる。
 そしてこの密輸の手の混み具合から見て、商会の幹部はもちろん、末端まで関わってる可能性がかなり高い。
 今頃宰相辺りは露見した後の後釜の商会の目処をつけている所だろう。
 さて、こちらはどうやって尻尾を掴んでやろうか。
 窓の外を見てみる。
 そろそろ朝日が登ろうかという時間だ。
「で、仕事はいつなんだ?」
 儂は腕を組んで壁に凭れ掛かり、マルコに訊ねた。
「3日後の予定だった。だが俺が捕まっちまったからな。変更が無いかお伺いを立てなきゃなんねぇ」
「詳しい事が決まる前に一つ提案だ」
「なんだ?」
「漁船に偽装すると言ってたな。だったら武装船も潜り込ませろ。万一巡回中の海軍に見つかっても切り抜けてやる自信はあるぞ?
 そうだな、5隻与えてくれたら逃げ切ってやる」
「武装船か……。確かに今回もそういうのがありゃ易々と捕まらずに済んだんだ。……にしても、たった5隻で逃げ切れるなんぞ、大きく出たな。グリムヒルトの海軍相手に何処から来るんだ、その自信は」
 マルコは儂を値踏みする様な眼付きで見つめてくる。
 相手の心の奥を探ろうという眼付きだ。
 幾らでも覗けばいい。
 この男に儂の底が見抜けるとは思えない。
「昔軍人の様な事をやってたんでな。勝てと言われたら無理だが、逃げ切れと言われたら可能だ、と言うだけだ」
 マルコの目をジッと見て答えてやった。
「……あんた、ホントに面白い男だな! いいぜ、元締めに会わせてやるよ」
「ほう?」
「あんたなら他にも色々役に立ってくれるだろうしな。そう言やぁ、あんたはアナバスってんだろ? 俺は名乗ってなかったな。マルコって通り名だ」
 とっくに知ってるがな、と心の中で呟いてマルコに手を差し出す。
「よろしく頼む、マルコ」
 マルコは儂の手を取り、手を組み合う形で握手を交わした。
「今から呑むぜ! どうせ使いをやんなきゃなんねえからな!」
 マルコはカウンターの向こうの主人に葡萄酒ワインを注文する。
「おい、グレーゲル! お前も呑めよ! 俺の奢りだ!」
 マルコは何やら上機嫌になり、どんどん酒が進む。
 レイティアを捕らえていた男の名はグレーゲルと言うらしい。
 この男は先程からこちらを見てニヤついている。
 樽杯を受け取り様に儂に耳打ちする。
「嫁から聞いてるだろ? 俺ぁ味方だ」
 儂はグレーゲルに一瞥をくれる。それだけで充分に了解している意は伝わった様だ。
 なかなか聡い男だ。レイティアはこういう人を感知する能力が高い。
 城で仲の良くなる衛士達や騎士達、兵士達を見ていても敢えて選んでいるのではないかと勘繰るほどに、手腕や人格に優れた者達だ。
 ただ、レイティアにそれとなくその者達の為人を聞いてみても、一貫して「いい人」だという感想以上は返ってこない。
 恐らくその者の能力などに対する着眼は無いのだろう。
 本能なのか、偶然なのか、レイティアの人選はハズレが無い。
 それがレイティアの持って生まれた強運や人徳というものなのだろう。
 そのレイティアが一時的にとは言え信用した男だ。恐らくただのボンクラだという事は無い。
 使える男なら今後も飼ってやってもいい。
 こうして、男ばかりで酒を酌み交わしていると、レイティアが堅い表情で階段を降りてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

イケメンとテンネン

流月るる
恋愛
ある事情から、イケメンと天然女子を毛嫌いする咲希。彼らを避けて生活していた、ある日のこと。ずっと思い続けてきた男友達が、天然女子と結婚することに! しかもその直後、彼氏に別れを告げられてしまった。思わぬダブルショックに落ち込む咲希。そんな彼女に、犬猿の仲である同僚の朝陽が声をかけてきた。イケメンは嫌い! と思いつつ、気晴らしのため飲みに行くと、なぜかホテルに連れ込まれてしまい――!? 天邪鬼なOLとイケメン同僚の、恋の攻防戦勃発!

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...