人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 抜け路から王城へと戻った私は早速宰相様の元へ行く。
 今回は宰相様はご自分の政務室にいらした。
「失礼します、宰相様」
「無事戻られましたか、王妃」
 宰相様は席から立ち上がって私を出迎えて下さった。
「心配しておりました。もし万が一王妃に何かあれば俺が陛下に殺されます」
「大丈夫ですよ。陛下と合流する為にわざと捕まったのですから。ちゃんと陛下にもお会い出来ましたし、それに、暗部の方を付けて下さっていたのでしょう?」
 私は宰相様にニッコリと笑って見せた。
 この方は抜かりがない。陛下はいつもそう言っている。
 易々と私を危険な所に一人、送ったりしない。
 だって、私に何かあったら陛下が悲しむとわかってるんだもの。
 宰相様は頭を掻いて笑っている。
「……あらぁ……バレてましたか。王妃は本当に我らの事をよくわかってらっしゃるのですね」
 私はいつだって陛下の信頼する臣下の方達に守られてる。
 私が城の中を自由に動き回ってる間も、神経を尖らせて護衛してくれてる衛士や兵士達。
 その人選も本当に自分達の信頼できる者達から選りすぐって下さっている事も知ってる。
「いつもありがとうございます。宰相様」
 私は心からのお礼を言った。
 宰相様は少しキョトンとした後、いつもの様に笑って下さった。
「礼には及びませんよ。それが我らの務めです」
 宰相様はいつだって陛下の意を汲んで先回りしてアレコレと気を回している。
 こんなに優秀な方なのにいつも謙虚にそれが務めですからと笑ってらっしゃる。
 でも、陛下の重臣の皆さんはその忠誠心故にとても厳しく怖い一面もある事を私は理解しているつもりだ。それはきっと、彼らが皆んな軍人である事も大きいのだと思う。
 私の知りうる限り、軍人というものは命のやり取りをする人達で、いつだって自分の身一つを賭けて戦っている。
 そこには厳しい選択も冷酷な判断も、そしてそんな気持ちすら必要無いくらいの場所で生きた経験のある人達だ。
 ある時は人を数字だけで見なければいけなくて、多少の犠牲を覚悟しなければいけない事もある。
 人間性なんてちっぽけな物差しでは測れない状況と環境で戦ってきた人達。
 そんな人達の持つ忠誠心は私の慮れる範囲を優に超えているのだろうと思う。
 だから彼らが行き過ぎる、と言った陛下の言葉に納得した。
 止める人間は確かに必要だ。
「それで、陛下とどんなお話を?」
「ああ、そうですね。ぼんやりしてしまいました。それをお話ししようと思ってこちらに参りました」
 私は改めて宰相様にしっかり目を合わせる。
「先ずは三日後……いえ、もう二日後です。ロロテアの港に商船が停泊する手筈になっています。それを抑える様にとの仰せでした」
「……ロロテアか。やはりな」
「? ロロテアだと予測されていたのですか?」
「ああ、はい。グレーゲル達が供述した港には法則がありまして。アタリを付けていた内の一港なんです」
「法則?」
「先ず一つ、ある程度の規模があるんです。恐らく見つかった時に補給だという言い訳が立つからでしょう。二つ目が山の入江になっていて見通しが悪く陸から山陰に大型船を隠せる。荷受けを漁民に見つけられない様に、という事でしょう」
 私は感心しながら言った。
「同じ供述を聞いていたのに思い至りもしませんでした……。宰相様は凄いですね」
 宰相様はニッコリと私に笑う。
「俺は海軍の軍人ですから。少なくともこの辺りの海域の海図や地図は頭に入ってます。仕事で必ず使う知識だからってだけですよ」
 多分宰相様は海図だけじゃなく、内陸の地図も全部頭に入っているのだろう。
「それから?」
 宰相様は先を促す。私はそれに答える。
「はい。これは変更があるやもです。ただ、陛下が仰るには十中八九、変更はないだろうと仰っておられました。変更のない様に話しを持っていくつもりだと」
「そうですか。変更のある場合はテームを通すと?」
「ええ、そうです」
 一番言い難い事を伝える事を忘れていた……。
 私はおずおずと切り出す。
「それから……その、僭越なのですが……『王妃に従え』との仰せです」
「元よりそのつもりでしたが、御意」
 私は宰相様の恭しく下げられた頭を見て、気持ちの引き締まる思いがした。
 背筋を伸ばして王妃らしく命じる。
「では、ヴェルウェルトの親戚筋のエドガーという男の素性を調べて下さい。これがマルコです。それからエドガーの従兄弟だという、次期代表と目されるヴァルタル・ハンバル・ヴェルウェルトについても。きっと陛下が直にお会いする事になるでしょう」
「御意」
「そのマルコ……いえ、エドガーの言うには、密輸はそもそも出航の時から手筈が全て整っている様です。今外洋に出ているヴェルウェルトの船は帰り次第全て調べられる様に準備もお願いしますね」

「御意。一網打尽にしてご覧に入れます、王妃」

 宰相様は頭を上げると一瞬、その瞳に何か獲物を見定めた獣の様な光を宿した。
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