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陛下は目を閉じて眠ってしまった。
私のせいで大変な無理させてしまった。
皆んなが囃し立てる中でキツい糖酒を呷り続ける陛下を見ている事は本当に生きた心地がしなかった。
陛下がお酒にとても強い事は知っていたけど、だからと言って深酒をして平気な訳はない。
倒れてしまわれるんじゃないかと心配で心配で堪らなかった。
今だって凄くお酒の香りがして、息も粗く眠っている。
私が迂闊に変なのに捕まったせいだ…。
いつも平気そうな顔で何でもこなしてしまうから、見逃されがちだけど、陛下は無意識に無理してる時も多々ある。
陛下ご自身でも気がついてない所で無理を重ねてしまう。
今日の出来事はいい例だ。
本当は倒れ込む程苦しいのに、人前では決してそんな姿を見せない。
期待されればされる程、応えようとされる。
王になる為に育てられて、王として振る舞う事を求められ、それに応えるよう、人前で決して弱味を見せないだけだ。
王である事をとても煩っておられるのに、王としてしか生きられない人…。
陛下の心を揺さぶる矛盾を思うとなんだか切ない気持ちになった。
そんな事を思い馳せながら陛下のお顔を眺めていると、私を抱きしめていた腕の力がフワリと緩む。
深く眠ってしまわれたのだろう。
私は陛下の胸に顔を埋めているけど、その動悸があまりに激しくて心配を煽られる。
私は陛下が起きるまでじっと胸の中に抱かれている事にする。
きっと離れたら目を覚ましてしまうから。
陛下の動悸を聴きながら、じっとお顔を見つめる。
陛下の長い睫毛が苦し気に小さく揺れるのを見つける度に早く酔いが醒めます様にと願う。
じっと見つめていると、次第に陛下の動悸も少しずつ治って来る。
息が整い始め、寝顔から徐々に徐々に苦悶の色が消えて行く。
私はその変化にホッとする。
陛下の温もりに包まれているととても心地良い。
先程までの激しかった動悸は治まっている事がわかる。
安堵してその温もりに浸っていると、
私も徐々に睡魔に襲われてしまって…
眠ってしまった…。
◇◇◇
…目が覚めると、陛下はまだ眠っていた。
グリムヒルトに来てからずっと、殆ど毎日陛下と閨を共にして、目が覚めてこうして目の前に美しいお顔があるのは毎日の事なんだけど、それでもやっぱり陛下の美しさにドキドキしてしまう。
ジッと見つめてみるけれど、さすがにずっとは眺めていてはいけないと思い、私はそぉっと陛下の腕から逃れて、起き出した。
水差しの水がすっかり温くなってしまっていたので、新しい冷たい水を汲みに行こうとドアノブに手をかけた瞬間、
「俺の視界から消えるなと言った筈だが?」
と声がかかり、私はびっくりして振り返る。
「アナバス様…!起きられましたか?」
「あぁ。だが頭が痛い」
陛下は横になったまま目を閉じて、こめかみを指先で揉み解した。
私は陛下に駆け寄る。
「アナバス様?何か欲しいものはありますか?」
「その水をくれ」
陛下は体を起こす。
「新しい冷たいものに取り替えますよ?」
「いや要らん。それでいい。お前は傍を離れるな。お前が傍におらねば良くなるものも良くならん」
「…わかりました」
私はコップに温くなった水差しの水を汲んで陛下に渡す。
「その…アナバス様?」
私は自分の両手をぎゅっと握って、それを見下ろす。
「なんだ?」
「本当にごめんなさい…」
私は俯く。自分の身一つ守れない自分が不甲斐なくて申し訳ない。
私はいつだって陛下に守られてばかりだ。
…本当は私が陛下をお守りしないといけない立場なのに…。
「これは俺が意地を張ったせいで起きた事だ。気にせずとも良い」
陛下はコップの水を呷る。コップに注がれた水を全部飲み干した。
「…でも…」
「本当なら最初から勝負になど乗らずに証文を改めればよかっただけだ。
勝負の席でも相手の杯には水が混ぜてあった時もあったのだろうが、これも改めずに放置した。
幾らでも上手くやり抜く方法はあったが、大人気ない事に意地になった」
陛下はコップをサイドテーブルに置く。
「…お前は俺のものだといつも言っている以上、俺にはお前に対する責任がある。手放した隙に盗られるなど言語道断だ」
「…アナバス様…」
「あの香車に文句の付け所のない勝ち方をしたかった。
俺が勝手に自身に課した事だ。お前はなんら気にする事はない」
陛下はそう言うとまたベッドに横になる。
「アナバス様?」
「もう少し横になる。俺はまだ使い物にならん。ティア、頼みがある」
「なんでしょうか?」
「膝枕をしてくれ」
「…はい。わかりました」
私は陛下の横たわるベッドに座って、陛下の頭を自分の膝に乗せる。
「アナバス様…。助けてくれてありがとうございました」
陛下は私の膝の上から、その翠色の瞳を真っ直ぐに私に向けて言った。
「お前は俺のものだ。お前を守る事は俺自身を守る事と同義だ。礼には及ばん」
「…それでも、ありがとうございます」
私は笑って、陛下のお髪をそっと撫ぜる。
陛下は静かに瞳を閉じた。
私のせいで大変な無理させてしまった。
皆んなが囃し立てる中でキツい糖酒を呷り続ける陛下を見ている事は本当に生きた心地がしなかった。
陛下がお酒にとても強い事は知っていたけど、だからと言って深酒をして平気な訳はない。
倒れてしまわれるんじゃないかと心配で心配で堪らなかった。
今だって凄くお酒の香りがして、息も粗く眠っている。
私が迂闊に変なのに捕まったせいだ…。
いつも平気そうな顔で何でもこなしてしまうから、見逃されがちだけど、陛下は無意識に無理してる時も多々ある。
陛下ご自身でも気がついてない所で無理を重ねてしまう。
今日の出来事はいい例だ。
本当は倒れ込む程苦しいのに、人前では決してそんな姿を見せない。
期待されればされる程、応えようとされる。
王になる為に育てられて、王として振る舞う事を求められ、それに応えるよう、人前で決して弱味を見せないだけだ。
王である事をとても煩っておられるのに、王としてしか生きられない人…。
陛下の心を揺さぶる矛盾を思うとなんだか切ない気持ちになった。
そんな事を思い馳せながら陛下のお顔を眺めていると、私を抱きしめていた腕の力がフワリと緩む。
深く眠ってしまわれたのだろう。
私は陛下の胸に顔を埋めているけど、その動悸があまりに激しくて心配を煽られる。
私は陛下が起きるまでじっと胸の中に抱かれている事にする。
きっと離れたら目を覚ましてしまうから。
陛下の動悸を聴きながら、じっとお顔を見つめる。
陛下の長い睫毛が苦し気に小さく揺れるのを見つける度に早く酔いが醒めます様にと願う。
じっと見つめていると、次第に陛下の動悸も少しずつ治って来る。
息が整い始め、寝顔から徐々に徐々に苦悶の色が消えて行く。
私はその変化にホッとする。
陛下の温もりに包まれているととても心地良い。
先程までの激しかった動悸は治まっている事がわかる。
安堵してその温もりに浸っていると、
私も徐々に睡魔に襲われてしまって…
眠ってしまった…。
◇◇◇
…目が覚めると、陛下はまだ眠っていた。
グリムヒルトに来てからずっと、殆ど毎日陛下と閨を共にして、目が覚めてこうして目の前に美しいお顔があるのは毎日の事なんだけど、それでもやっぱり陛下の美しさにドキドキしてしまう。
ジッと見つめてみるけれど、さすがにずっとは眺めていてはいけないと思い、私はそぉっと陛下の腕から逃れて、起き出した。
水差しの水がすっかり温くなってしまっていたので、新しい冷たい水を汲みに行こうとドアノブに手をかけた瞬間、
「俺の視界から消えるなと言った筈だが?」
と声がかかり、私はびっくりして振り返る。
「アナバス様…!起きられましたか?」
「あぁ。だが頭が痛い」
陛下は横になったまま目を閉じて、こめかみを指先で揉み解した。
私は陛下に駆け寄る。
「アナバス様?何か欲しいものはありますか?」
「その水をくれ」
陛下は体を起こす。
「新しい冷たいものに取り替えますよ?」
「いや要らん。それでいい。お前は傍を離れるな。お前が傍におらねば良くなるものも良くならん」
「…わかりました」
私はコップに温くなった水差しの水を汲んで陛下に渡す。
「その…アナバス様?」
私は自分の両手をぎゅっと握って、それを見下ろす。
「なんだ?」
「本当にごめんなさい…」
私は俯く。自分の身一つ守れない自分が不甲斐なくて申し訳ない。
私はいつだって陛下に守られてばかりだ。
…本当は私が陛下をお守りしないといけない立場なのに…。
「これは俺が意地を張ったせいで起きた事だ。気にせずとも良い」
陛下はコップの水を呷る。コップに注がれた水を全部飲み干した。
「…でも…」
「本当なら最初から勝負になど乗らずに証文を改めればよかっただけだ。
勝負の席でも相手の杯には水が混ぜてあった時もあったのだろうが、これも改めずに放置した。
幾らでも上手くやり抜く方法はあったが、大人気ない事に意地になった」
陛下はコップをサイドテーブルに置く。
「…お前は俺のものだといつも言っている以上、俺にはお前に対する責任がある。手放した隙に盗られるなど言語道断だ」
「…アナバス様…」
「あの香車に文句の付け所のない勝ち方をしたかった。
俺が勝手に自身に課した事だ。お前はなんら気にする事はない」
陛下はそう言うとまたベッドに横になる。
「アナバス様?」
「もう少し横になる。俺はまだ使い物にならん。ティア、頼みがある」
「なんでしょうか?」
「膝枕をしてくれ」
「…はい。わかりました」
私は陛下の横たわるベッドに座って、陛下の頭を自分の膝に乗せる。
「アナバス様…。助けてくれてありがとうございました」
陛下は私の膝の上から、その翠色の瞳を真っ直ぐに私に向けて言った。
「お前は俺のものだ。お前を守る事は俺自身を守る事と同義だ。礼には及ばん」
「…それでも、ありがとうございます」
私は笑って、陛下のお髪をそっと撫ぜる。
陛下は静かに瞳を閉じた。
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