人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 次の日、ウルリッカ様にアリス姉さん達の事を相談すると、二つ返事で引き受けてくれた。
 話の流れで私が足抜けだと言いがかりをつけられ、陛下が酷い飲み比べの相手をさせられた事を伝えると、最上の笑顔で「あの店そんな舐めた事しちゃったの?」と言っていた。
 アリス姉さん達の身請け金は全て私が持つことになってる。
 セオの街の売上をこういう事に使えるなら本望だ。

 後日、アリス姉さん、デボラ姉さん、エリー姉さんとウルリッカ様の居館やしきで引き合わせてもらえる事になった。
 私が客間に入ると、3人のお姉さん達は席を立ち上がって私の名を呼んでくれた。
「レイティア様!」
「皆んな、元気そうね!よかった!」
 アリス姉さんは娼館で会った時の様な化粧をした顔ではなく、素顔だったけどやっぱり昔と変わらず綺麗だった。
 久しぶりに会ったデボラ姉さんもエリー姉さんも、相変わらず化粧なんてしてなくてもとても綺麗だ。
「レイティア様…身請けして下さってありがとうございます」
 デボラ姉さんも微笑んでくれる。
「レイティア様、お久しぶりです」
 エリー姉さんは涙で瞳が潤んでいた。
「レイティア様ぁ…本当にありがとうございます」
「本当に久しぶりね!姉さん達皆んな、元気で本当によかった!」
 デボラ姉さんが私に問う。
「レイティア様…、…今は王妃様ですね。王妃様が身請け金を全て出して下さったのでしょう?お聞きしました。そのお金は必ずお返しします」
「そんなのはいいのよ」
 私は首を横に振って固辞する。
 だけど、アリス姉さんもデボラ姉さんと口を揃える。
「ダメですよ、レイティア様。それはちゃんとしておかないといけないお話しですから」
「でも、私ホントに…」
 エリー姉さんが遮って言う。
「この借金は私達が個々に家族の問題で持った借金ですから。レイティア様に出して貰っていいものじゃないです」

 私の後ろに控えていたウルリッカ様が腕を組んで片手を上げて、声をかけて来た。
「ねえ?差し出口、いいかしら?」
 私は後ろを振り返る。
「もちろん。なんですか?」
 私はウルリッカ様に続きを促す。
「貴女達は王妃様に身請け金を返すつもりなのよね?」
 3人は一斉に頷く。
「もちろんです」
「苦界から助けて頂けただけでも大恩ですから」
「一生かかってもお返しします」
 ウルリッカ様はうんうんと頷く。
「そうよね。そうなると貴女達、マグダラスに帰るつもりは無いって事よね?」
「はい」
「そもそも帰るつもりはありませんし…」
「今更帰っても居辛いですし…」
 ウルリッカ様はやっぱりうんうんと頷く。
「ねえ、王妃様?私に提案があるんだけど」
 私はキョトンとウルリッカ様を見る。
「?なんですか?」
「王妃様、お店に出資しない?」
「お店…ですか?」

 ウルリッカ様は人差し指を立てて、にこりと笑う。
「これだけの美人が3人も揃ってるお店なら何やっても儲かるだろうけど、私としては飲食店が嬉しいわ。
 花街に部下を連れて行ける、融通の利くお店が欲しいのよ」
「!それはいいアイデアですね!皆んな料理は得意だもの。…でも花街で女性だけで飲食店なんてやってて危険はないでしょうか?」
「大丈夫よ。海軍の軍人が出入りする店で馬鹿する勇気のある奴は逆に褒めてやりたいくらいよ。それに尻持ちは用意するわ。そこら辺は私に任せて」
「それなら姉さん達も働き口を探さなくていいし、ちょうどいいですね!流石はウルリッカ様です。姉さん達はどう?」
 アリス姉さんが戸惑う様に言う。
「それは…もちろん、とてもありがたいですけれど…」
 デボラ姉さんも同じ様に戸惑った様子で私を見る。
「私達、ただでさえ王妃様に御恩があるのに、そんなに甘えてしまっていいんですか?」
 私はにっこり笑って3人に言う。
「もちろんよ。何も遠慮なんてしないで?ただ雇うってだけなんだから。それに私も花街に行けるお店が出来たら嬉しい」
 ウルリッカ様が3人に言う。
「こないだみたいな事があった時に陛下や王妃様が信頼出来て、頼れる場所も欲しいのよ。それに街の噂話も集めて欲しいの。私達外交官にとって情報は命綱だからね」
「…そういう事でしたら、働かせて頂きます」
 アリス姉さんがふわりと笑って引き受けてくれる。
「本当に?嬉しい!デボラ姉さんとエリー姉さんは?」
「私も、王妃様のお役に立てるのでしたら」
「ええ、私も雇って頂けたら助かります」
「引き受けてもらえてよかった!ありがとう、皆んな」
 私は3人にお礼を言って頭を下げる。
「どうして王妃様が頭を下げるのですか」
 アリス姉さんが慌てた様子で私を止める。
「え?だって普通雇い主ならよろしくお願いしますって言うものでしょ?」
「私達が頭を下げるのが普通だと思いますよ?」
「そうかしら?」
 ウルリッカ様がカラカラと笑いながら言う。
「王妃様らしいわね」
 私はウルリッカ様に訊ねる。
「ウルリッカ様?どんなお店だと海軍の軍人さん達に喜ばれるんでしょうか?」
「私の部下達に関して言うなら、やっぱりガッツリした物を用意してあげて欲しいわ。
 なんせ船の上だと魚メインになるでしょ?
 陸に降りたら肉食べたいわよ、やっぱり。
 特に若い独身連中はこんな美人達のいるお店なら喜んで足繁く通うと思うわ。あいつら喧しいけど勘弁してやってね」
 デボラ姉さんが微笑む。
「ユーセラ閣下のお連れ下さる部下の皆さんはいつもとても良いお客様でしたから、何も心配しておりませんよ」
「ウルリッカ様とデボラ姉さんは顔見知りなんですか?」
「そうよ。デボラさんのいたお店は贔屓にしてるのよ。軍人で押し寄せて行っても嫌な顔せずに受け入れてくれるし、香車おかみも旦那さんも融通が利くのよ。ヴェルウェルトの店は大概質が良かったけど、その中でも特に良いお店なのよ。今やキヴィレフトの傘下に入ったけどね」
 ふと陛下の仰っていた事を思い出す。
「そういえば、陛下も食事もお酒も美味しい娼館だったと仰っておられました」
 デボラ姉さんがにっこりと笑う。
「お店にいらした時、レイティア様の昔話を肴にお酒を美味しそうにお召しでしたよ。お酒のお相手だけさせて頂きました」
 私は赤面しながらその件に関してデボラ姉さんに抗議する。
「そうそう!家出の話までしちゃうなんて!アレは本当に恥ずかしいんだから内緒にしておいて欲しかったわっ!」
 お父様と喧嘩して山の灌木の窪みに隠れていたら、皆んなで山狩りする位の大騒動になってしまった。
 お父様が謝るまで絶対に帰らないと隠れていたけど、見つけ出されてどれほどの騒動になったかわかってしまったら、
 自分の立場を理解せず、短慮を起こした恥ずかしい行動だったと自覚した。
 だって、兵士達や街の皆んなまで繰り出して、本当に大きな騒動になっていたから。
「レイティア様と言えば、あのお話をしない訳にはいきませんもの」
 デボラ姉さんはより笑顔を深めて抗議に答える。
 アリス姉さんもエリー姉さんもうんうんと何やら納得している。
「本当にレイティア様らしい出来事でしたもの」
「レイティア様と言えば、山狩りですよ」
「何それ⁈私にも教えて?」
 ウルリッカ様の好奇心を刺激してしまった様だ。
「そ、そんな事より!お店のお話しを進めましょ⁈」
 私は赤くなって、必死に話を逸らそうと無理矢理お店の話題に戻した。
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