人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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「陛下?レイマさんはどういう方なのですか?」
「アレは元々諜報だった男だ」
 キヴィレフト商会を立ち上げたのはそもそも、除隊、退役した軍人達の受け皿としてだった。
 怪我や病気、それ以外の事情等があって軍人として働けなくなった重臣達の部下達の働き口を確保、斡旋する為だ。
 大きな利益を求めて立ち上げた商会ではない。
 故に四肢の欠損した者なども多くいる。
 レイマ・ルーカス・パーシオは元々諜報に所属していた男で、儂の傍に付いていたが片目を失って退役。キヴィレフト商会に入った。
 今でもこの男から齎される情報は多く、その情報収集能力は現役の諜報に引けを取らない。
「とても話し易い方ですね。その上有能で。私達だけではお店を立ち上げるのに必要な知識が不足していましたけど、全て補って下さいました」
 儂は頬杖をついたまま紅茶のカップを持ち上げた。
「その為に紹介したのだからな」
「ええ、本当に助かりました。このままキヴィレフト商会に仕入れや物販品の製作も全てお任せする事になりました。
 その物販品の製作はマグダラスの織物を使った物にする予定です。
 織物の工房もマグダラスの人達を雇い入れようかと。まぁ、物販に関してはまだまだ先のお話ですけど」
 マグダラスの織物は複雑で他にはない。
 マグダラスの主要産業として国を支えている程だ。
「織れる職人はおるのか?」
「あの織物は実は王都の女の人達が織ってるんですよ」
「あの複雑な柄をか?」
「はい。でも、織り機が少し特殊な物がいるのです。それを作ってもらうのがまた大事になりそうですけど」
「……レイティア」
「はい?」
「その機織り、少し待て」
 レイティアは首を傾げる。
「……はい。……というよりも機織りに関してはまだまだ先の話ですから……。それに……」
「なんだ?」
「あの模様の複雑な色彩は幻獣の羊毛でなければ出ないので、同じ物は作れないんです」
「グリムヒルトには幻獣は現れんからな」
「はい。マグダラスにも王家の所有する馬型の幻獣数頭と羊型の幻獣が20数頭いただけで、殆どシビディアから輸入した幻獣の羊毛を織って出荷していました。グリムヒルトで幻獣の羊毛を仕入れるのは難しいので、街の女の人達が自分達用に織っていた物を商品にしようかと思うんです」
「どんな物だ?」
「普通の糸を染色して手慣らしや練習用に自分達の持ち物を織っていたんです。小さな物ならハンカチや日除けのストール、服の布地もです。大きい物でタペストリーなんかがあります。そのタペストリーを作りたいねって姉さん達と話していて、いずれはそういう物を商品化したいねって」
「それは殆ど他国には流しておらんのだな?」
「はい」
「その話、儂に預らせろ」
「……? はい、構いませんけど……」
「心配するな。悪い様にはせん」
「心配はしておりませんけど、……何かお考えがおありなのですか?」
「まだただの思いつきだからな。いずれ話す」
「わかりました。この件は陛下にお預け致します」
 儂は紅茶を口に含んで喉を潤す。
「お前も機織りをした経験があるのか?」
「はい! 練習用の糸で簡単な模様を一枚織り上げた事はありますよ。でも、手際が悪いので時間はかかりましたけど」
 レイティアの事だ。民に混じって教わっていただろう事は容易に想像出来た。
「デボラ達はどの程度織れる?」
「デボラ姉さんは難しい模様も織れますよ。アリス姉さんとエリー姉さんは一番難しい模様は織れないと言ってました。デボラ姉さんはフルールさんという機織り名人のおばあちゃんのご近所さんで、直接教えてもらっていたんだそうです。とても気難しいおばあちゃんで、気に入った人にしか教えてくれないんですよ」
「お前も教えてもらったのだろう?」
「はい! いっぱい怒られましたけど、一枚織り上げるまで凄く丁寧に教えてくれましたよ」
 レイティアは懐かしむ様な色を湛えた瞳を向ける。
「私はあまり器用ではない様で、出来は良くなかったのですけど、フルールおばあちゃんはよく出来てるって褒めてくれました。織り機が出来たら小さな物でもいいので、また織ってみたいです」
「……そうか」
 レイティアが如何にマグダラスを愛していたのかが、その表情から窺い知る事が出来る。
 レイティアがマグダラスを思い出す時、儂の胸中は穏やかとは言い難かった。
 まるで思い出にレイティアを盗られている様な気分になる。
 レイティアといると自身の狭量と不甲斐なさに何とも言えない自嘲が込み上げる。
「……マグダラスが懐かしいか?」
 レイティアは屈託の無い笑顔を儂に向けて答えた。
「そうですね。お店を開く為に姉さん達とマグダラスの話しをたくさんしていたので、色々な事を思い出しました。グリムヒルトでもマグダラスの物を受け入れてもらえるのなら、嬉しいなって思います」
 儂はカップをソーサーに戻す。
「グリムヒルトには珍しい物がたくさんあるし、新しい物がどんどん入って来るので、マグダラスの物はきっといつか霞んでしまうのでしょうけど……、定番になれる様に尽力したいですね! 出来ればグリムヒルトに根差して欲しいです。……陛下が私を受け入れて下さった様に」
 清廉で澄んだ茶色い瞳がジッと儂を捉える。
 その瞳は儂の事を一片たりとも疑ってはいない。
 この瞳を向けられると、堪らなく愛おしく感じると同時にどうにも嗜虐心を煽られる。
 儂は背もたれから身体を起こし、レイティアの頬に触れる。
「儂にとってのお前は霞む事などない。それを今から教えてやろう」
 頬に触れた手をレイティアの後頭部に移動させる。結われた髪の中に指を入れ、しっかりと掴んでレイティアの頭を固定する。

 ーーーー……決して逃がさない。

 儂の顔が自身の顔に迫ると、レイティアは頬をどんどん朱に染めていく。
 唇同士が触れ合った時、やっと観念した様にレイティアの瞳は閉じられた。
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