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私とヘリュ様は狼の後をついて行く。
どんどん林の奥深くへ入ると林は森になり、より深く鬱蒼としていく。
「どこまで行くの?」
私は狼に尋ねた。
『もうちょっと』
「何があるの?」
『むら。そこにむらのひととすこしだけげんじゅういる』
「え⁈幻獣がいるの⁈」
『うん、いる』
と、いう事は、その邑は純血の人しかいない邑という事なんだろうか?
「ねえ、それって…」
私が疑問を尋ねようと口を開いた瞬間に、狼が顔をくいっと上げた。
『ここ』
そこは大きな洞窟で暗い大きな口をポッカリ開けていた。
「この奥に邑があるの?」
『うん』
洞窟に入る前に旅立ち前に揃えた装備の中にランタンがあったのを思い出して、私とヘリュ様の分を魔法で火を灯す。
「足元に気をつけられよ」
ヘリュ様が足場の悪い岩場で私の手を取ってくれる。
「ありがとうございます」
そうしてヘリュ様のお気遣いを受けながら、洞窟を進んでいく。
すると開けた場所に出て、幾つもの分かれ道があった。
『こっち』
帰り道がわからなくなったら困るので、ヘリュ様のカトラスで壁に傷をつけて目印をつける。
そうして道々で目印をつけながら狼の後について行くと、細い一本の道の暗闇の奥に少し月明かりが見えた。
「あそこ?」
私が狼に尋ねると、狼は首肯する様に頭を振った。
『そう。あそこ』
洞窟を抜けると、そこには小さな邑が本当にあった。
「……こんな所に隠れ住んでいたのね……」
『こっち、きて』
狼が私達を促す。
邑を横切って狼に促されるまま進んでいると、声が上がる。
「! 余所者だ!」
「!」
私はその声の方を振り向くと、ポツンポツンとあった家々から灯りを持った人達が集まって来た。
ヘリュ様はいつでも抜刀出来る様に柄に手をかけている。
「待って! 私達はそこの狼に言われてここに来ただけなの!」
狼が住民達と私達の間に立ちはだかる。
「……オレリアが? 言われたってどういう事だ?」
「そのままの意味よ?この仔、念話が出来るみたいで、ここに来て欲しいって言われて連れて来てもらったのよ」
「……念話だと⁈オレリアの声が聴けるのか⁈」
「え?……ええ。聴こえるわよ?今も貴方達に一生懸命やめてって言ってる」
「あんたも純血なのか⁈」
私はこれでこの邑の秘密がなんとなくわかった。
「私は純血だけど、マグダラスから来たの」
「マグダラスって言うのは、あれだろ?巫女様の治められてる国だろ?」
「そうよ」
「オレリアの声は巫女様にしか聴こえないって婆様が言ってた……。あんた、巫女様か⁈」
私は戸惑う。でもここで嘘をついてもあまり良い事態にならない様な気がしたから、自分の出自を素直に言う。
「私はマグダラスの王家の者よ。……つまり巫女の子孫ね」
住民達はそれを聞いた瞬間、涙ぐんで私の前に叩頭し始める。
「待って⁈そんな事する必要ないわよ⁈」
「巫女様っ! 我々はずっとお待ちしておりました!」
私は膝をついて彼らに問いかける。
「あの、なんとなく事情は察しているけど、順を追って説明して欲しいの」
泣き崩れる住民達の背後から杖をついたお婆さんがゆっくりと歩いてきたので、私はそちらを見る。
お婆さんは私の前に進み出て、足が悪そうなのに膝をつこうとしたので慌てて止める。
「叩頭なんてしなくていいですから。楽にして?」
「巫女様……。ありがとうございます。私らはこの地で隠れ住んで以来、ずっと巫女様をお待ちしておったのです」
「ずっと、という事は、グリムヒルト侵攻からここに隠れて住んでいたの?」
「はい、私らはとにかく生き延びなさいという巫女様のお言葉を支えに今日までやってまいりました」
「……そうだったの……。とても大変だったでしょう?」
私のその言葉に叩頭した人達は嗚咽を上げて泣き始めた。
アウグスト様の進めたグリムヒルト侵攻の時、マグダラスの地まで逃げ延びられなかった人達がいたのは想像出来る。
そしてそういう人達は捕まってしまうか、そうでなければこうして隠れ住むかして、難が過ぎるのを待つしかなかっただろう。
捕まってしまった人達はアウグスト様のなさり様を見聞しているととても無事だったとは思えない。
そして小さな邑を見渡しても、充分に物資が揃ってる様には見えない。
貧しい生活を強いられていたのは明らかだ。
「あの、ね?誤解のない様に先に説明しておくけれど、私は今のグリムヒルト王に嫁いでいるの。でも決して悪い様にしないわ」
この人達を守る事はきっと私にしか出来ない。
陛下に一生懸命説明してこの人達の安心できる良い形で保護しなきゃ。
「……今のグリムヒルト王は、厳しい方だとお聞きしております。本当に大丈夫なのですか?」
叩頭していた内の一人の男の人が顔を上げて私の方を見て尋ねる。
「大丈夫よ?私を正妃にして下さってる時点で純血に対しての想いはわかるでしょう?……貴方達が不安なら、この邑の事はしばらく黙っていても構わない。…
…でも、ずっとこのままという訳にはいかないでしょ?」
お婆さんが私に向かって頭を下げる。
「私らは巫女様のご指示に従います。……もうこうして隠れ住む事にも疲れてしまいました。巫女様の思し召し通りに致します。」
叩頭した人達は皆んな、お婆さんの言う事に反論は無い様でやはり啜り泣いている。
もう本当に限界だったのだろう。
いつ見つかるかとビクビクと怯えながら生活するというのは大変な労力を要するだろうと思う。
「もう大丈夫。グリムヒルトには地の民への偏見もあるけれど、昔みたいに殺されたりはしないから。それに貴方達の事は私が絶対守るから」
私のその言葉に叩頭した人達は更に背中を丸めて泣き崩れる。
皆んなの安堵が伝わってきて、私はこれからの自分の務めを思うと身の引き締まる思いがした。
どんどん林の奥深くへ入ると林は森になり、より深く鬱蒼としていく。
「どこまで行くの?」
私は狼に尋ねた。
『もうちょっと』
「何があるの?」
『むら。そこにむらのひととすこしだけげんじゅういる』
「え⁈幻獣がいるの⁈」
『うん、いる』
と、いう事は、その邑は純血の人しかいない邑という事なんだろうか?
「ねえ、それって…」
私が疑問を尋ねようと口を開いた瞬間に、狼が顔をくいっと上げた。
『ここ』
そこは大きな洞窟で暗い大きな口をポッカリ開けていた。
「この奥に邑があるの?」
『うん』
洞窟に入る前に旅立ち前に揃えた装備の中にランタンがあったのを思い出して、私とヘリュ様の分を魔法で火を灯す。
「足元に気をつけられよ」
ヘリュ様が足場の悪い岩場で私の手を取ってくれる。
「ありがとうございます」
そうしてヘリュ様のお気遣いを受けながら、洞窟を進んでいく。
すると開けた場所に出て、幾つもの分かれ道があった。
『こっち』
帰り道がわからなくなったら困るので、ヘリュ様のカトラスで壁に傷をつけて目印をつける。
そうして道々で目印をつけながら狼の後について行くと、細い一本の道の暗闇の奥に少し月明かりが見えた。
「あそこ?」
私が狼に尋ねると、狼は首肯する様に頭を振った。
『そう。あそこ』
洞窟を抜けると、そこには小さな邑が本当にあった。
「……こんな所に隠れ住んでいたのね……」
『こっち、きて』
狼が私達を促す。
邑を横切って狼に促されるまま進んでいると、声が上がる。
「! 余所者だ!」
「!」
私はその声の方を振り向くと、ポツンポツンとあった家々から灯りを持った人達が集まって来た。
ヘリュ様はいつでも抜刀出来る様に柄に手をかけている。
「待って! 私達はそこの狼に言われてここに来ただけなの!」
狼が住民達と私達の間に立ちはだかる。
「……オレリアが? 言われたってどういう事だ?」
「そのままの意味よ?この仔、念話が出来るみたいで、ここに来て欲しいって言われて連れて来てもらったのよ」
「……念話だと⁈オレリアの声が聴けるのか⁈」
「え?……ええ。聴こえるわよ?今も貴方達に一生懸命やめてって言ってる」
「あんたも純血なのか⁈」
私はこれでこの邑の秘密がなんとなくわかった。
「私は純血だけど、マグダラスから来たの」
「マグダラスって言うのは、あれだろ?巫女様の治められてる国だろ?」
「そうよ」
「オレリアの声は巫女様にしか聴こえないって婆様が言ってた……。あんた、巫女様か⁈」
私は戸惑う。でもここで嘘をついてもあまり良い事態にならない様な気がしたから、自分の出自を素直に言う。
「私はマグダラスの王家の者よ。……つまり巫女の子孫ね」
住民達はそれを聞いた瞬間、涙ぐんで私の前に叩頭し始める。
「待って⁈そんな事する必要ないわよ⁈」
「巫女様っ! 我々はずっとお待ちしておりました!」
私は膝をついて彼らに問いかける。
「あの、なんとなく事情は察しているけど、順を追って説明して欲しいの」
泣き崩れる住民達の背後から杖をついたお婆さんがゆっくりと歩いてきたので、私はそちらを見る。
お婆さんは私の前に進み出て、足が悪そうなのに膝をつこうとしたので慌てて止める。
「叩頭なんてしなくていいですから。楽にして?」
「巫女様……。ありがとうございます。私らはこの地で隠れ住んで以来、ずっと巫女様をお待ちしておったのです」
「ずっと、という事は、グリムヒルト侵攻からここに隠れて住んでいたの?」
「はい、私らはとにかく生き延びなさいという巫女様のお言葉を支えに今日までやってまいりました」
「……そうだったの……。とても大変だったでしょう?」
私のその言葉に叩頭した人達は嗚咽を上げて泣き始めた。
アウグスト様の進めたグリムヒルト侵攻の時、マグダラスの地まで逃げ延びられなかった人達がいたのは想像出来る。
そしてそういう人達は捕まってしまうか、そうでなければこうして隠れ住むかして、難が過ぎるのを待つしかなかっただろう。
捕まってしまった人達はアウグスト様のなさり様を見聞しているととても無事だったとは思えない。
そして小さな邑を見渡しても、充分に物資が揃ってる様には見えない。
貧しい生活を強いられていたのは明らかだ。
「あの、ね?誤解のない様に先に説明しておくけれど、私は今のグリムヒルト王に嫁いでいるの。でも決して悪い様にしないわ」
この人達を守る事はきっと私にしか出来ない。
陛下に一生懸命説明してこの人達の安心できる良い形で保護しなきゃ。
「……今のグリムヒルト王は、厳しい方だとお聞きしております。本当に大丈夫なのですか?」
叩頭していた内の一人の男の人が顔を上げて私の方を見て尋ねる。
「大丈夫よ?私を正妃にして下さってる時点で純血に対しての想いはわかるでしょう?……貴方達が不安なら、この邑の事はしばらく黙っていても構わない。…
…でも、ずっとこのままという訳にはいかないでしょ?」
お婆さんが私に向かって頭を下げる。
「私らは巫女様のご指示に従います。……もうこうして隠れ住む事にも疲れてしまいました。巫女様の思し召し通りに致します。」
叩頭した人達は皆んな、お婆さんの言う事に反論は無い様でやはり啜り泣いている。
もう本当に限界だったのだろう。
いつ見つかるかとビクビクと怯えながら生活するというのは大変な労力を要するだろうと思う。
「もう大丈夫。グリムヒルトには地の民への偏見もあるけれど、昔みたいに殺されたりはしないから。それに貴方達の事は私が絶対守るから」
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