人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 私は皆んなを宥めて、狼の方を振り返る。
「ねえ?邑の皆んなを助ける為に私を連れて来たの?」
 狼はヒタとこちらを見つめて否定した。
『ちがう。ライラぐあいわるい』
「ライラ?」
『ライラ、しし』
「獅子の幻獣?でもどうして邑の外に助けを求めたりしたの?」
 オレリアと呼ばれる狼は小首を傾げる。
『ライラ、そうしなさいっていったから』
 とにかくライラという幻獣に会ってみない事には詳細は掴めそうにない。
 私は邑の皆んなに訊ねる。
「幻獣はたくさんいるの?」
「いいえ、ライラとオレリアと後二頭、狼と馬がいます」
「そう。とにかくそのライラと話をしてみるわね」
 私はそう言うと、狼のオレリアについて行く。
 邑を横切って、真っ直ぐ進むと大きな大きな柊が一本、どしんと構えている。
 その柊には大きな窪みがあって、その中に見事なオパールのような光彩の赤胴金色をした私の身長の倍はありそうな大きな獅子が座っていた。
『ようこそ。アナティアリアス』
「貴方がライラ?」
『そうです。貴女の事を待っていました』
「どうして私を?」
『貴女に儀式を執り行って貰いたいのです』
「儀式?何の?」
『永らく司祭する者がいなかったので、この邑の者達は皆、純血ですけれど、神獣との契約を行なっておりません。この国でそれを行えるのは巫女であるアナティアリアス、貴女だけなのです』
 私は慌てて首を横に振った。
「待って⁈私は確かにマグダラスの王家の者だし、巫女の血は引いてるけれど、契約の儀式なんてやった事ないし、やり方もうろ覚えよ⁈」
『神獣との契約は血に依るものです。貴女の祈りで契約は成立します』
 突然契約を依頼されて私は心底戸惑う。
 マグダラスでは契約の儀式自体はよく見ていた。
 お父様が神獣に祈りを捧げて、その年十になった子供達に祝福を与える。それはマグダラス王家の祭典の中でも最も大事な儀式の一つだ。
「私……グリムヒルトの王家にお嫁に行ってしまっているけど巫女様の家系の者じゃなくなってる事にはならないの?」
『いいえ。神獣との契約は血で行います。貴女の血脈は紛れもなく神獣と人を結ぶ媒介の血脈です』
「祝詞とかあやふやにしか憶えてないけれど、それでも成立するものなの?」
『問題ありません。必要なのは血脈と媒介と宣言です』
「それはわかったけれど、……ライラ、貴方具合が悪いのでしょ?その儀式で元気になったりするの?」
『幻獣には産母種と呼ばれるものとそうでないものとがいます。私は産母種ですが、そこのオレリアは私が産みました。……今新たに身籠っておりますが、神獣との繋がりが薄過ぎて産み落とす事が出来ません。邑の者達に契約を果たして貰い、その上で祈りを捧げてくれれば、新たな子供が産まれます』
 そうなのか……。そんな風にして幻獣は増えているのか。初耳だ。
 そういう事なら協力しない訳にはいかないだろう。私は覚悟を決める。
「わかった。私にしか出来ない事なら喜んで協力する。……神獣はもうこのグリムヒルトを見放してしまったのかしら?」
『神獣と人は血に依る契約でその関係を維持しています。そして祈りによって継続させます。その祈りが薄くなれば近寄る事が出来ない。そしてその関係は他種の血とは相容れないのです。私達は神獣の現し身ですから、知っています。貴方達純血の血は清く美しく心正しい人達の血脈から連なるもので、神獣はその民を尽きるまで愛すと誓ったのです』
「私……そんな話初めて聴いたわ……。それって私達人間が知っていい事なの?」
『構いません。どうか神獣の愛が尽きてしまったのだとは思わないで下さいね、マグダラスの巫女、アナティアリアス』
 マグダラスの王家があれだけ祈りを中心とした祭事を季節毎に行っていた理由がよくわかった。
 神獣との細い細い繋がりを維持する為に欠かしてはいけない事だったのね。
 だからたまに気が向いたように幻獣がひょっこり現れて、王家の誰かに懐いて、そのまま飼われる事があったのは、その祈りのお陰だったんだ。
 私はお父様の祈りの言葉を思い出してみる。
 しばらく腕を組んで唸って見せた。
「……ティア様。今の状況を説明して貰っていいか?」
 ヘリュ様が私の方を見て問いかけた。
「……ああ!幻獣の声は私にしか聞こえないのでしたね」
 かいつまんでヘリュ様に今受けている依頼について教える。
「……そうか。その儀式とやらで貴女に危険はないのか?」
「大丈夫! お父様もやっていた事ですから。危険な事は何もないですよ!」
「ならばいい。私は貴女に従うだけだ」
 私はライラに振り返って笑いかける。
「この人は純血ではないけれど、私を守ってくれている人なの。信頼出来る人だから安心してね」
 ライラは静かに首肯した。赤銅金の立派なたてがみが風に流れる様にふわりと揺れた。
『貴女の信頼は魂の繋がりでわかります。心配していませんよ。さぁ、邑へ戻って儀式を行なって下さい。お願いしますね、アナティアリアス』
 私とヘリュ様と狼のオレリアは邑へと戻った。
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