無自覚人たらしマシュマロ令嬢、王宮で崇拝される ――見た目はぽっちゃり、中身は只者じゃない !

恋せよ恋

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王宮生活の始まり

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 王家への謁見と重臣への顔見せを終えたステファニーは、宰相の案内で、エメリーとエリオと共に長い廊下を歩き、王宮の壮麗さに目を見張った。

「……広いわねぇ。天井が高くて、まるで空まで届きそう」
「絨毯もふかふか……侯爵邸もすごいですが、王宮はさらに格が違いますね」
「廊下だけでも住めそうだな」

 ステファニーと双子の侍従と侍女は、廊下を歩きながら楽しげに会話を交わしていた。その様子をそっと見守る宰相は、眉をひそめつつ心の中で呟いた。
( 使用人……のはずだが、随分と仲が良い関係なのだな……)

 そんなことを思われているとはつゆ知らず、ステファニーは窓の外に目を向け、庭園の緑を眺めた。
(……王宮って、意外と落ち着く場所なのかしら……)
 そう思うと、心の奥がほんのりと温かくなるのを感じた。

 やがて、長い廊下の先に、ステファニーの滞在する居室が現れた。
 扉を開けると、柔らかな日の光が差し込む部屋は、ピンクとクリーム色を基調にした可愛らしい内装で、天井には華奢なシャンデリアが煌めいている。壁には細やかな花柄の壁紙が貼られ、窓辺には小さな花瓶と刺繍のクッションが置かれていた。床は光沢のある大理石で、寝室には柔らかい絨毯が敷かれ、部屋全体に暖かく穏やかな雰囲気が漂っている。

 その時、王妃付きの女官が、柔らかな微笑みを浮かべながら、若い侍女と護衛の二人を従えて現れた。

「私は、エマニュエル王妃殿下付きの女官、ヨアンナです。ステファニー様、どうぞよろしくお願いいたします」
 彼女は軽くお辞儀をすると、にこやかに続けた。
「こちらが、ステファニー様の専属侍女、コレットです。細やかに日常のお世話をさせていただきます」

 コレットは少し緊張した面持ちで軽く頭を下げた。

「そしてこちら、護衛のニコラスでございます。ステファニー様の安全をお守りいたします」
 ニコラスは無表情ながらも、目だけは鋭く周囲を見渡していた。

 ステファニーは、コレットとニコラスににっこりと笑いかけ、軽くお辞儀をした。
「よろしくお願いしますわ、コレットさん、ニコラスさん」

 その目はきらきらと輝き、部屋の広さや豪華さに思わず胸が弾む。
「わぁ……広くて、素敵なお部屋ですわね!まるでお菓子の国みたい……」

 ぽっちゃり体型の小さな体をくねらせながら、手をそっと胸の前で合わせる仕草は、まるでマシュマロを抱きしめるように可愛らしい。

 二人の落ち着いた態度と丁寧な口調に、ステファニーは自然に心を許し、にこりと微笑みを返した。

「これからお世話になりますわ。どうぞよろしくお願いいたします」

 ステファニーは柔らかい口調で二人に尋ねる。
「コレットさん、ニコラスさん、嫌いなものはございますか? 苦手なものは?」

 その時、ステファニーの観察眼は、ふと二人の周囲に漂う色に留まった。

(……あら? コレットさんのオーラは柔らかな黄色。でも一部が少しくすんでいる……何か気にかかることがあるのかしら?)

(ニコラスさんの緑色のオーラも、一部濁っている……少し疲れていたり、心配事があるのかもしれないわね)

 傍らで、エメリーとエリオは笑いをこらえながら見守っていた。
(……お嬢様は、通常運転ですね)

 ステファニーは軽く笑みを浮かべ、心の中で思った。
(ふふ……でも、今日から二人と一緒に過ごすのね。少しずつ、仲良くなれそう……)

 紹介を終えた宰相サミュエルは一礼し、そのまま部屋を辞そうとした。
 その背に向けて、ステファニーがふと声をかける。

「宰相様。ひとつ、お伺いしてもよろしいかしら?」

「なんですかな? 何か不都合でもありましたか」

「いいえ。お部屋も、皆さんにも大満足ですわ。……まったく関係のないことなのですけれど」

 そこまで言ってから、ステファニーは一度、小さく息を吸った。

「先ほど、謁見の間で皆様にご挨拶させていただいた際にいらした――ロンデール伯爵についてですわ」

 その名が口にされた瞬間、宰相サミュエルの表情が、ほんの一瞬だけ硬くなる。
 気づかなければ見逃してしまうほど、かすかな変化だった。

「あのお方は、どのような役職の方でしょうか?」

「……ロンデール伯爵は、農林大臣主席補佐官を務めておりますが」
 そう答えながら、宰相は探るような視線をステファニーに向けた。
「何か、気になる点でも?」

「いいえ。ただ……どんな方なのか、少し気になっただけですわ」
 ステファニーはにこやかに微笑み、首を横に振る。
「どうか、お気になさらず。忘れてくださいませ」

 宰相は一瞬、何か言いかけるように口を開き――だが、結局それ以上は踏み込まず、軽く頷いた。

「……承知しました」

 そうして部屋を後にする宰相の背には、消えきらない警戒の色が滲んでいた。

 ――無邪気な興味にしては、少々、鋭すぎる。
 そのことを、宰相サミュエルだけは、はっきりと感じ取っていた。

 ステファニーは窓際の椅子に腰を下ろす。外の光がカーテン越しに差し込み、部屋を柔らかく照らす。
(……ここで過ごす間、どんな毎日になるのかしら……でも、きっと楽しくなるわ)
 小さな胸に、ワクワクと少しの緊張を抱えながら、十二歳の少女は新しい生活の幕開けを静かに噛み締めた。



「あら、ディーン。お久しぶりですわ」
 ステファニーの、王宮での初めてのアフタヌーンティーは、王宮の筆頭パティシエであるディーン自らが準備していた。

「はい!ステファニー様!これから毎日、最高のお菓子をご提供いたします!ぜひ、忌憚のないご感想をお願い致します!」
 ディーンは目を輝かせ、大好きなステファニーに会えた喜びを全身で表していた。

 その様子を見つめる専属侍女コレットと護衛ニコラスは、思わず目を見開いた。
(なんで……!?筆頭パティシエのディーン様が、あんな顔を……)
(すごいな……ぶんぶん揺れる尻尾が見えるようだ……)

 傍らで、エメリーとエリオは、呆れたような眼差しを浮かべつつ、静かに見守っていた。

「マドレーヌの次は、このチョコレートタルトを……味わってみてください!」
「ええ、いただきますわ!」

 ステファニーのひと言に、ディーンの目が一層輝いた。
「はっ……はい!ステファニー様のために、全力で作りました……!」
 声を張り上げ、まるで舞台に立つ俳優のように手を広げてタルトを差し出す。

 思わずコレットが息を飲む。
「……すごい、まるでお菓子と一体化しているみたい……」

 ニコラスも口元を押さえ、笑いをこらえる。
(なんだ、この熱量……!まるで子犬のように喜んでる……!)

 ディーンはステファニーのひと口に一喜一憂し、頬を赤く染めては、小さくジャンプしながら「美味しいですか!?」「まだ改良の余地は!?」「もっとステファニー様に喜んでほしいです!」と次々に問いかける。

 ステファニーは微笑みながらも落ち着いて頷き、
「ディーン、十分すばらしいですわ。次は少しずつ味わって……」
 と優しく言うと、ディーンはまた床に膝をつきそうな勢いで喜ぶ。

 その場には、甘い香りと笑い声が漂い――王宮の重厚な応接間も、ほんの少しだけ明るく、ほっこりとした空気に包まれていた。
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