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七色に輝く牡丹と、黒き企て
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お茶会の直前、ステファニーの自室では、ステファニーのドレスの最終調整をしていたデザイナーのメラニーの手が、ガタガタと震えていた。
「……メラニー。あなた、どうかしたの?」
(さっきから『焦げたキャラメル』みたいな苦い匂いがするわよ)
ステファニーが鏡越しに静かに告げると、メラニーの肩がびくりと跳ねた。
彼女はしばらく唇を噛みしめ、震える指でドレスの裾を整えようとして――それ以上、耐えきれなかったのだろう。
「……申し訳、ございません……」
かすれた声と同時に、メラニーはその場に膝をついた。着付けをしていた手は力なく垂れ、彼女はエプロンの内側に手を差し入れる。
「実は……今朝……」
そう言って、胸元から一通の手紙を取り出し、震える両手でステファニーへ差し出した。
差出人の名はなく、封はすでに開かれている。
――今朝、差出人不明で届いた一通の手紙だった。
『お前の実家の生地屋が、明日も無事でいたいなら、この薬液をステファニー・オラニエ侯爵令嬢のドレスの裾に仕込め。お茶会の陽光を浴びた瞬間、そのドレスは泥を被ったように黒く汚れ、二度と落ちることはないだろう』
何者かが、メラニーの「職人としての誇り」と「家族への愛」を秤にかけ、彼女を裏切り者へ仕立て上げようとしていたのだ。
「ステファニー様、申し訳ございません……。私は、お嬢様を裏切ることなど……でも、実家の家族が……っ」
「……そう。そんなことがあったのね」
ステファニーは、メラニーの横に座り、その震える肩をマシュマロのような手で包み込んだ。
「メラニー、安心なさいな。わたくしの従者(エリオとエメリー)は、『悪いネズミの捕まえ方』もよく知っていますわ。今ごろ、あなたのご実家には、オラニエ侯爵家の私兵が護衛に向かっているはずよ」
ステファニーが語り終わると、影からエリオが音もなく現れ、静かに頷いた。
「メラニーの実家の皆さんは無事です。脅迫状を届けた男も、先ほど拘束いたしました」
メラニーは目を見開いた。
自分一人が地獄にいると思っていた間、ステファニーたちはとっくに全てを把握し、守ってくれていたのだ。
「さあ、メラニー。卑劣な敵に、わたくしたちの『最高のお返し』を届けて差し上げましょう? その薬液、わたくしに貸してくださる?」
王妃主催のお茶会は、王宮の温室で開かれた。色とりどりの花々が咲き誇るその場所は、陽光が降り注ぎ、心地よい香りに満ちている。
しかし、ステファニーの目には、その華やかさの裏に潜む「濁り」が映っていた。
彼女は、メラニーが心を込めて仕立ててくれた新作のドレスを身にまとっている。淡い桃色のシルクは、光を含んだ朝露のようにやわらかく、ふくよかな身体の線を優しく整え、花弁のようなフリルとともに、気品ある佇まいを描き出していた。
胸元から流れる金糸の刺繍は、決して横へ広がらず、視線を自然と縦へ導く。豊かなフリルは量を誇示することなく、波打つように落ち、まるで咲き誇る牡丹の花弁が一枚一枚、丁寧に重ねられているかのようだ。
高めに取られた腰回りは、彼女の柔らかな丸みを“隠す”のではなく、“整える”。
ふくよかな身体は決して重たく見えず、むしろ生命力と余裕を湛えた気品として、自然にそこに在った。
――なるほど、と見た者は思う。
このドレスは、誰のためでもない。このぽっちゃり体型の令嬢のために仕立てられたものなのだと。
デザイナーのメラニーは、きっと最初から分かっていたのだろう。ステファニーの“丸み”は欠点ではなく、祝福だということを。
淡い桃色は膨張するどころか、境界を溶かし、彼女を一輪の花へと変えていた。
――華やかで、柔らかく、そして誰よりも高貴な牡丹へと。
その姿を前にして、誰も「ぽっちゃり」などとは思わない。ただ、こう感じるだけだ。
「ああ、この方は――愛されるために生まれてきたのだ!」と。
この「ステメラニー製ドレス」は、すでに王宮の婦人たちの間で話題沸騰。皆が好奇の目を向けてくる。
「ステファニー様、とてもお似合いでございます」
傍らに立つメラニーは、そう言って、心なしか誇らしげだった。彼女のオーラは、先ほどまでの「焦げたキャラメル色」が薄れ、再び情熱的な赤色を取り戻している。
お茶会が和やかに進む中、ステファニーは、ある一人の貴婦人の視線が、やけに自分のドレスに集中していることに気づいた。その夫人からは、甘い香水の奥に、微かな「粘りつくような黒いオーラ」が漏れ出ている。
(……この人、ロンデール伯爵と同じ匂いがするわ)
その夫人が、わざとらしい仕草でティーカップをソーサーに戻した瞬間、彼女の袖口から、ごく小さな小瓶が滑り落ちた。
小瓶は音もなく、ステファニーのドレスの裾元へと転がっていく。
ステファニーの「彩光の目」が、その小瓶から漏れ出す「ぎらつくような腐敗の緑」と、ドレスの白い生地に吸い込まれていく「瞬間的に変色する濁った赤」を捉えた。
(……これは、光に当たると色が汚く変わる薬品か、あるいは……)
彼女は冷静だった。ここで騒げば、王妃の面目を潰し、メラニーの努力も水の泡となる。
「あら、素敵な小瓶ですわね」
ステファニーは、とっさに自分の大きなスカートの裾で小瓶を覆い隠すと、さりげなくフォークを落とした。
「あ、すみません。少々手が滑ってしまって」
フォークを拾い上げるふりをして、小瓶を回収する。その間も、メラニーは背後でドレスの裾が乱れないよう、細心の注意を払っていた。
ステファニーは、小瓶を握りしめたまま、貴婦人へと優しく微笑んだ。
「あの、夫人。わたくし、このお菓子がとても気に入ったのですけれど、もし差し支えなければ、もう一ついただいてもよろしいかしら?」
貴婦人は、ステファニーの行動を全く読んでいなかった。彼女は毒が仕込まれたドレスに意識が集中しているため、ステファニーの何気ない笑顔の裏に潜む「彩光の目」の存在に気づいていない。
「ええ、もちろん、ステファニー様。どうぞご自由に」
貴婦人は、伯爵から与えられた「任務が成功した」と確信し、内心でほくそ笑んでいた。
(この娘のドレスが、この晴れやかなお茶会の場で汚れる瞬間が楽しみだわ。王妃も、さぞかし顔色をなくすことでしょう)
その時。お茶会会場の影で控えていたエリオとエメリーは、ステファニーと貴婦人のやり取りを静かに見守っていた。
エリオは、主人の視線が貴婦人の手元に向けられた瞬間に、その意図を察していた。エメリーは、ステファニーがフォークを落とした際に、何かを回収したことを、微かな音で把握している。
「……何か、仕掛けたようね」
エメリーが呟くと、エリオは無言で頷いた。
「ああ。お嬢様のあの顔、間違いないな」
「これで、もう、相手は詰んだわね」
二人の従者は、ステファニーが、すでに敵の狙いを看破していることを確信していた。
ステファニーは、手の中にある小瓶の「腐敗の緑色」を、自らの指先から伝わる温かな「彩光」で包み込んだ。
(この薬品、光を反射する性質があるわ。……なら、色を消そうとするんじゃなくて、色を足してしまえばいいのね!)
彼女は隠し持っていた色とりどりの金平糖のような砂糖菓子を、そっと小瓶の中へ放り込んだ。賢者アストラルから教わった「浄化の光」を意識しながら、自身のオーラを小瓶へと流し込む。
すると、毒々しかった液体は、ステファニーの魔力と砂糖菓子の色素が混ざり合い、まるで「オーロラを溶かし込んだような輝く液体」へと変貌を遂げた。
「ねえ、メラニー。ちょっと手伝ってくれる?」
ステファニーは、背後で緊張していたメラニーを手招きした。
「このドレス、最高に素敵だけど、少しだけ『輝き』が足りない気がするの。……この魔法の香水を、裾に振り撒いてみてくれる?」
メラニーは驚いたが、ステファニーの紫の瞳に迷いがないことを見て取り、即座に動いた。
彼女はステファニーから受け取った小瓶の液体を、霧吹きのようにドレスの裾へと優雅に振りかけた。
――その瞬間。温室に差し込む陽光が、ステファニーのドレスに当たった。
本来なら、薬品が変色して醜いシミを作るはずだった。だが、そこに現れたのは、光の角度によって七色に揺らめく、幻想的な輝きだった。
「……まぁ!!」
「なんて美しいのかしら……!」
「見事な虹が!」
貴婦人たちから感嘆の声が上がる。
ステファニーが歩くたびに、ドレスの裾から宝石を散りばめたような光の粉が舞い、温室全体が魔法にかけられたような空間に変わったのだ。
罠を仕掛けた貴婦人は、顔を青ざめさせて立ち尽くした。
「な、なぜ……。こんなはずでは……!」
「夫人、どうかされましたの? そんなに震えて。……ああ、もしかして、わたくしのドレスのあまりの美しさに感動してくださったのかしら?」
会場の隅で、腰を抜かした貴婦人に、ステファニーはそっと耳打ちした。
「夫人、伯爵様によろしくお伝えして。……わたくしのドレスは、泥をかけられても『真珠』に変わりますの。お腹が空いているのなら、今度美味しいマシュマロをお送りしますわ、と」
その微笑みは、天使のようでいて、悪意だけを正確に粉砕する笑顔だった。そして、その言葉は、貴婦人にとっては何よりの恐怖だった。自分の仕掛けた毒が、相手をより輝かせるための「素材」にされたのだ。
会場の隅では、サミュエル宰相が満足げに頷き、王妃エマニュエルは扇の影で「ふふっ」と優雅に笑った。
「メラニー、あなたの腕はやっぱり最高だわ。……こんなに素敵な演出を考えてくれるなんて」
「お、お嬢様……」
メラニーの目から、安堵の涙がこぼれ落ちる。
彼女を縛っていた「黒い脅迫」は、ステファニーの機転によって、最高の「名声」へと書き換えられた。
翌朝。王宮中が、ステファニーの「七色に輝くドレス」と、それを作った「ステメラニー」の話題でもちきりになった。
対して、ロンデール伯爵の執務室からは、怒号と共に高級な花瓶が粉砕される音が響き渡ったという。
なお、その花瓶は三つ目だったそうだ。部下は、もう数を数えるのをやめていた。
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「……メラニー。あなた、どうかしたの?」
(さっきから『焦げたキャラメル』みたいな苦い匂いがするわよ)
ステファニーが鏡越しに静かに告げると、メラニーの肩がびくりと跳ねた。
彼女はしばらく唇を噛みしめ、震える指でドレスの裾を整えようとして――それ以上、耐えきれなかったのだろう。
「……申し訳、ございません……」
かすれた声と同時に、メラニーはその場に膝をついた。着付けをしていた手は力なく垂れ、彼女はエプロンの内側に手を差し入れる。
「実は……今朝……」
そう言って、胸元から一通の手紙を取り出し、震える両手でステファニーへ差し出した。
差出人の名はなく、封はすでに開かれている。
――今朝、差出人不明で届いた一通の手紙だった。
『お前の実家の生地屋が、明日も無事でいたいなら、この薬液をステファニー・オラニエ侯爵令嬢のドレスの裾に仕込め。お茶会の陽光を浴びた瞬間、そのドレスは泥を被ったように黒く汚れ、二度と落ちることはないだろう』
何者かが、メラニーの「職人としての誇り」と「家族への愛」を秤にかけ、彼女を裏切り者へ仕立て上げようとしていたのだ。
「ステファニー様、申し訳ございません……。私は、お嬢様を裏切ることなど……でも、実家の家族が……っ」
「……そう。そんなことがあったのね」
ステファニーは、メラニーの横に座り、その震える肩をマシュマロのような手で包み込んだ。
「メラニー、安心なさいな。わたくしの従者(エリオとエメリー)は、『悪いネズミの捕まえ方』もよく知っていますわ。今ごろ、あなたのご実家には、オラニエ侯爵家の私兵が護衛に向かっているはずよ」
ステファニーが語り終わると、影からエリオが音もなく現れ、静かに頷いた。
「メラニーの実家の皆さんは無事です。脅迫状を届けた男も、先ほど拘束いたしました」
メラニーは目を見開いた。
自分一人が地獄にいると思っていた間、ステファニーたちはとっくに全てを把握し、守ってくれていたのだ。
「さあ、メラニー。卑劣な敵に、わたくしたちの『最高のお返し』を届けて差し上げましょう? その薬液、わたくしに貸してくださる?」
王妃主催のお茶会は、王宮の温室で開かれた。色とりどりの花々が咲き誇るその場所は、陽光が降り注ぎ、心地よい香りに満ちている。
しかし、ステファニーの目には、その華やかさの裏に潜む「濁り」が映っていた。
彼女は、メラニーが心を込めて仕立ててくれた新作のドレスを身にまとっている。淡い桃色のシルクは、光を含んだ朝露のようにやわらかく、ふくよかな身体の線を優しく整え、花弁のようなフリルとともに、気品ある佇まいを描き出していた。
胸元から流れる金糸の刺繍は、決して横へ広がらず、視線を自然と縦へ導く。豊かなフリルは量を誇示することなく、波打つように落ち、まるで咲き誇る牡丹の花弁が一枚一枚、丁寧に重ねられているかのようだ。
高めに取られた腰回りは、彼女の柔らかな丸みを“隠す”のではなく、“整える”。
ふくよかな身体は決して重たく見えず、むしろ生命力と余裕を湛えた気品として、自然にそこに在った。
――なるほど、と見た者は思う。
このドレスは、誰のためでもない。このぽっちゃり体型の令嬢のために仕立てられたものなのだと。
デザイナーのメラニーは、きっと最初から分かっていたのだろう。ステファニーの“丸み”は欠点ではなく、祝福だということを。
淡い桃色は膨張するどころか、境界を溶かし、彼女を一輪の花へと変えていた。
――華やかで、柔らかく、そして誰よりも高貴な牡丹へと。
その姿を前にして、誰も「ぽっちゃり」などとは思わない。ただ、こう感じるだけだ。
「ああ、この方は――愛されるために生まれてきたのだ!」と。
この「ステメラニー製ドレス」は、すでに王宮の婦人たちの間で話題沸騰。皆が好奇の目を向けてくる。
「ステファニー様、とてもお似合いでございます」
傍らに立つメラニーは、そう言って、心なしか誇らしげだった。彼女のオーラは、先ほどまでの「焦げたキャラメル色」が薄れ、再び情熱的な赤色を取り戻している。
お茶会が和やかに進む中、ステファニーは、ある一人の貴婦人の視線が、やけに自分のドレスに集中していることに気づいた。その夫人からは、甘い香水の奥に、微かな「粘りつくような黒いオーラ」が漏れ出ている。
(……この人、ロンデール伯爵と同じ匂いがするわ)
その夫人が、わざとらしい仕草でティーカップをソーサーに戻した瞬間、彼女の袖口から、ごく小さな小瓶が滑り落ちた。
小瓶は音もなく、ステファニーのドレスの裾元へと転がっていく。
ステファニーの「彩光の目」が、その小瓶から漏れ出す「ぎらつくような腐敗の緑」と、ドレスの白い生地に吸い込まれていく「瞬間的に変色する濁った赤」を捉えた。
(……これは、光に当たると色が汚く変わる薬品か、あるいは……)
彼女は冷静だった。ここで騒げば、王妃の面目を潰し、メラニーの努力も水の泡となる。
「あら、素敵な小瓶ですわね」
ステファニーは、とっさに自分の大きなスカートの裾で小瓶を覆い隠すと、さりげなくフォークを落とした。
「あ、すみません。少々手が滑ってしまって」
フォークを拾い上げるふりをして、小瓶を回収する。その間も、メラニーは背後でドレスの裾が乱れないよう、細心の注意を払っていた。
ステファニーは、小瓶を握りしめたまま、貴婦人へと優しく微笑んだ。
「あの、夫人。わたくし、このお菓子がとても気に入ったのですけれど、もし差し支えなければ、もう一ついただいてもよろしいかしら?」
貴婦人は、ステファニーの行動を全く読んでいなかった。彼女は毒が仕込まれたドレスに意識が集中しているため、ステファニーの何気ない笑顔の裏に潜む「彩光の目」の存在に気づいていない。
「ええ、もちろん、ステファニー様。どうぞご自由に」
貴婦人は、伯爵から与えられた「任務が成功した」と確信し、内心でほくそ笑んでいた。
(この娘のドレスが、この晴れやかなお茶会の場で汚れる瞬間が楽しみだわ。王妃も、さぞかし顔色をなくすことでしょう)
その時。お茶会会場の影で控えていたエリオとエメリーは、ステファニーと貴婦人のやり取りを静かに見守っていた。
エリオは、主人の視線が貴婦人の手元に向けられた瞬間に、その意図を察していた。エメリーは、ステファニーがフォークを落とした際に、何かを回収したことを、微かな音で把握している。
「……何か、仕掛けたようね」
エメリーが呟くと、エリオは無言で頷いた。
「ああ。お嬢様のあの顔、間違いないな」
「これで、もう、相手は詰んだわね」
二人の従者は、ステファニーが、すでに敵の狙いを看破していることを確信していた。
ステファニーは、手の中にある小瓶の「腐敗の緑色」を、自らの指先から伝わる温かな「彩光」で包み込んだ。
(この薬品、光を反射する性質があるわ。……なら、色を消そうとするんじゃなくて、色を足してしまえばいいのね!)
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すると、毒々しかった液体は、ステファニーの魔力と砂糖菓子の色素が混ざり合い、まるで「オーロラを溶かし込んだような輝く液体」へと変貌を遂げた。
「ねえ、メラニー。ちょっと手伝ってくれる?」
ステファニーは、背後で緊張していたメラニーを手招きした。
「このドレス、最高に素敵だけど、少しだけ『輝き』が足りない気がするの。……この魔法の香水を、裾に振り撒いてみてくれる?」
メラニーは驚いたが、ステファニーの紫の瞳に迷いがないことを見て取り、即座に動いた。
彼女はステファニーから受け取った小瓶の液体を、霧吹きのようにドレスの裾へと優雅に振りかけた。
――その瞬間。温室に差し込む陽光が、ステファニーのドレスに当たった。
本来なら、薬品が変色して醜いシミを作るはずだった。だが、そこに現れたのは、光の角度によって七色に揺らめく、幻想的な輝きだった。
「……まぁ!!」
「なんて美しいのかしら……!」
「見事な虹が!」
貴婦人たちから感嘆の声が上がる。
ステファニーが歩くたびに、ドレスの裾から宝石を散りばめたような光の粉が舞い、温室全体が魔法にかけられたような空間に変わったのだ。
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「夫人、どうかされましたの? そんなに震えて。……ああ、もしかして、わたくしのドレスのあまりの美しさに感動してくださったのかしら?」
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「夫人、伯爵様によろしくお伝えして。……わたくしのドレスは、泥をかけられても『真珠』に変わりますの。お腹が空いているのなら、今度美味しいマシュマロをお送りしますわ、と」
その微笑みは、天使のようでいて、悪意だけを正確に粉砕する笑顔だった。そして、その言葉は、貴婦人にとっては何よりの恐怖だった。自分の仕掛けた毒が、相手をより輝かせるための「素材」にされたのだ。
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「お、お嬢様……」
メラニーの目から、安堵の涙がこぼれ落ちる。
彼女を縛っていた「黒い脅迫」は、ステファニーの機転によって、最高の「名声」へと書き換えられた。
翌朝。王宮中が、ステファニーの「七色に輝くドレス」と、それを作った「ステメラニー」の話題でもちきりになった。
対して、ロンデール伯爵の執務室からは、怒号と共に高級な花瓶が粉砕される音が響き渡ったという。
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