【完結】白き塔の才女マーガレットと、婿入りした王子が帰るまでの物語

恋せよ恋

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Ⅴ ルナリア王国への旅路

1 白き塔に届いた招待状

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 夕方のカルリスタ王宮白き塔。

 夕焼けの陽射しが薄絹のカーテンを静かに照らしていた。机の上には数冊の古文書が開かれたまま。
 マーガレット・レーヴェン伯爵令嬢は、羽ペンをそっと置き、窓の外を見上げた...... (この空の先に、ニコラス殿下も)

 王都の夕焼けは今日も美しい。

(殿下……今日もアルマディスの地でお元気でしょうか......)

 カルリスタ王国第三王子ニコラスが、隣国アルマディス公国との婿入りによる同盟締結のために旅立ってから一年。
 彼が残していった少し意地悪な笑顔と、最後に告げられた「君の叡智は、この国の光だ」という言葉だけが、今もマーガレットの心を支えていた。

 そんな静けさを破るように、侍女がそっと部屋の扉を叩いた。

 「……マーガレット様。アンリ宰相から急ぎの書簡が届いております」

 「えっ、アンリ宰相から? この時間に……?」

 差し出された封書には、見慣れぬ紋章が押されていた__月を抱く三つの星――。

 マーガレットは思わず息を呑む。
「……ルナリア王国の王章!?」

◇◇◇

 大陸北東に広がる深い霧と湖の国。古より「神秘と叡智の座」と呼ばれ、一時は強大な魔導士たちが王に仕え、空に浮かぶ塔で天を測り、星の理を読み解いたと伝えられる。

 だが今、その栄華は遠い昔のもの。王族の血に宿るとされた魔力は薄れ、多くの貴族たちは魔法を失い、ただ古い栄光を語るのみ。それでもなお、ルナリアは知識と学問を重んじ、魔導学と神学の研究においては、いまだ大陸随一を誇っていた。

 そして――

 その国を統べるのは、穏やかで聡明な国王アルベリク陛下と、高潔なる王妃エリセア。王太子レオンと第二王子マルクス、そして月光のように美しい王女リュシアが、国の次代を担う存在として人々の希望とされている。

◇◇◇

 「神秘と叡智の座、ルナリア」
マーガレットは静かに目を閉じた。

 封蝋を割り、滑らかな筆跡を目で追う。その内容に、彼女の表情がゆっくりと変わっていった。

◇◇◇

『カルリスタの白き塔の才女、
マーガレット・レーヴェン伯爵令嬢へ。
ルナリア王国は貴女の叡智と筆の才を讃え、我が国にて古代魔導文献の研究協力をお願いしたく、正式にお招き申し上げます。
王アルベリクおよび王太子レオンの名において――』

◇◇◇

 手が震えた。
 王国の境を越えて、他国からの正式な招請――それは、ただの学問ではなく「国を動かす名誉」だ。

 「わたしが……ルナリアに……?」

 カルリスタの“白き塔”を出て、今度は“蒼月の塔”へと向かうのだ。それは運命が、彼女に新たな試練を示しているようでもあった。

 マーガレットは封書を胸に抱いた。
 白い塔の窓から見える夕焼けの向こう――その遥か彼方に、蒼月の国ルナリアがある。

(殿下……わたし、行くべきでしょうか)

誰にも届かぬ祈りをそっと呟く。
その声は、塔の白壁に吸い込まれるように消えていった。

つづく
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