2 / 6
初デートは戦場
しおりを挟む
「今日の君は、一段と慎ましくて可愛らしいね」
初デートの日。マーロンが差し向けた馬車に乗り込んだサブリナは、わざと襟の擦り切れた一番「マシ」なワンピースを着て、怯えた小動物のように俯いていた。
(……よし、この『可哀想な私』演出なら、同情を誘ってダービン領の減税特権まで引き出せるはず!)
サブリナの脳内では、既に今期の利益確定申告が始まっている。
一方のマーロンも、完璧な王子の微笑みを崩さない。
(まずは高級店に連れて行き、身分差を思い知らせて縮み上がらせてやる。その後に優しくして、僕なしではいられないように依存させるのさ)
マーロンが自信満々にエスコートしたのは、王都で今最も勢いのある宝石店『ル・シエル』。
「サブリナ、君に似合うものを贈りたいんだ」
(げっ!……よりによって、ここ!?)
サブリナは顔を引きつらせた。
ここは彼女が運営する「エアハート商会」の直営店であり、彼女がデザイン案から資金繰りまで全てを仕切っている、いわば「本陣」だった。
店に足を踏み入れると、熟練の店員たちが一斉にこちらを見た。
当然、彼らは「真のオーナー」であるサブリナの顔を熟知している。
(やめて! 挨拶しないで! 跪かないで!)
サブリナは必死に目配せを送る。
「今は地味な貧乏令嬢なの! 余計なことしたらクビよ!」という殺気を込めて。
店員たちは一瞬で状況を察し、プロ根性で「死んだ魚のような目」をして接客を開始した。
「いらっしゃいませ、ダービン侯爵令息様。……そして、ご同行の、ええっと......お嬢様?」
マーロンはわざと、サブリナの家の一年分の予算を軽く超えるような、青いダイヤのネックレスを指差しました。
「これはどうかな? 君の瞳に合うと思って」
(それ、私が仕入れ値を3割叩ききって輸入したやつ……!)
サブリナは心の中で叫ぶが、表向きは「ひええ」という顔で震えて見せる。
「そ、そんな……! 私のような者に、こんな高価な……怖くて身につけられませんわ!」
「遠慮しないでいいよ。僕の隣に立つなら、これくらいは当然だ」
マーロンがサブリナの首筋に手を伸ばし、ネックレスを試着させようとした、その時。
「ちょっと待て。その石、クラック(傷)があるんじゃないか?」
マーロンの鋭い指摘。彼は彼で、審美眼だけは本物だった。
「いえ、そんなはずは……」と慌てる店員。
サブリナは思わず、商売人としてのプライドが勝ってしまった。
「……いえ、それはクラックではなく、内包物の角度による屈折ですわ。光を45度から当てれば、最高の輝きを放つようにカッティングしてあるはず……あ」
マーロンが、ゆっくりと首を傾げた。
「詳しいね。まるで、この店の商品を熟知しているみたいだ」
(しまったああああ!!)
サブリナは慌てて眼鏡をクイッと上げ、どもりながら誤魔化す。
「……い、以前、道端に落ちていた……宝石の図鑑を拾って、暗記するまで読んだんですの! 貧乏なので、せめて夢だけでも見ようと……!」
「……そうか。勤勉なんだね」
マーロンは納得したふりをして微笑みんだが、その目は笑っていない。
(図鑑? 嘘をつけ。今の話し方は、完全に『売る側』の視点だったぞ……)
結局、ネックレスは買って貰えたが、サブリナの心境は複雑だった。
(自分の店に、カモの金で利益を献上してしまった……。嬉しいけど、正体がバレるリスクが高すぎる!)
一方のマーロンも、サブリナを見る目が変わり始めていた。
(ただの大人しい女じゃない。何を隠している?……面白い。剥いでやりたくなった、その化けの皮を)
「次は、僕の領地の話でもしようか。サブリナ」
マーロンのその言葉に、サブリナの商売魂が再び火を吹く。
嘘告白から始まった関係は、早くも「正体の探り合い」という名の密室ゲームへと突入するのでした。
豪華な自室に戻ったマーロンは、先ほどサブリナに贈った(自社買いさせた)ネックレスの空箱を眺めながら、低く笑った。
「図鑑で覚えた、か。……苦しい言い訳だな」
あの瞬間の彼女の瞳。怯える小動物のふりをしながら、宝石を見る目は熟練の鑑定士そのものだった。
彼は壁の影に向かって、短く命じる。
「……いるか。エアハート子爵令嬢、サブリナの身辺を洗え。特に最近の金の流れと、彼女の放課後の足取りだ。鼠一匹逃さず報告しろ」
影が揺れ、隠密が音もなく消える。
マーロンは優雅にワインを口に含み、嗜虐的な笑みを浮かべた。
「化けの皮を剥がされるのが先か、僕に溺れるのが先か。……楽しい『恋人ごっこ』になりそうだ」
一方、子爵家の自室(という名の商会作戦本部)に帰還したサブリナは、速攻で地味なドレスを脱ぎ捨て、計算機を叩いていた。
「危なかった……! 完全にプロの視点で語っちゃったわ。でも、おかげで売上は計上できた。自分のお金じゃないから実質100%利益ね!」
しかし、すぐに彼女の顔が引き締まる。相手はあのダービン侯爵家だ。今日の言動で、マーロンが疑いを持ったのは間違いない。
「調査が入るのは時間の問題ね。……だったら、正体がバレて破談になる前に、商談を成立させるしかないわ!」
彼女はデスクから一通の書類を取り出した。
それは、ダービン領内での『商考作戦・物流独占契約書』。
「マーロン様が私に『嘘の愛』を囁いているうちに、この紙切れにサインをもらう。そうすれば、たとえ正体がバレて振られたって、契約は有効! むしろ清々するわ!」
鼻息を荒くするサブリナ。
彼女にとって、マーロンの甘い囁きは「契約締結までのBGM」に過ぎないのだ。
_____________
エール📣いいね❤️お気に入り⭐️応援宜しくお願いします🙇
初デートの日。マーロンが差し向けた馬車に乗り込んだサブリナは、わざと襟の擦り切れた一番「マシ」なワンピースを着て、怯えた小動物のように俯いていた。
(……よし、この『可哀想な私』演出なら、同情を誘ってダービン領の減税特権まで引き出せるはず!)
サブリナの脳内では、既に今期の利益確定申告が始まっている。
一方のマーロンも、完璧な王子の微笑みを崩さない。
(まずは高級店に連れて行き、身分差を思い知らせて縮み上がらせてやる。その後に優しくして、僕なしではいられないように依存させるのさ)
マーロンが自信満々にエスコートしたのは、王都で今最も勢いのある宝石店『ル・シエル』。
「サブリナ、君に似合うものを贈りたいんだ」
(げっ!……よりによって、ここ!?)
サブリナは顔を引きつらせた。
ここは彼女が運営する「エアハート商会」の直営店であり、彼女がデザイン案から資金繰りまで全てを仕切っている、いわば「本陣」だった。
店に足を踏み入れると、熟練の店員たちが一斉にこちらを見た。
当然、彼らは「真のオーナー」であるサブリナの顔を熟知している。
(やめて! 挨拶しないで! 跪かないで!)
サブリナは必死に目配せを送る。
「今は地味な貧乏令嬢なの! 余計なことしたらクビよ!」という殺気を込めて。
店員たちは一瞬で状況を察し、プロ根性で「死んだ魚のような目」をして接客を開始した。
「いらっしゃいませ、ダービン侯爵令息様。……そして、ご同行の、ええっと......お嬢様?」
マーロンはわざと、サブリナの家の一年分の予算を軽く超えるような、青いダイヤのネックレスを指差しました。
「これはどうかな? 君の瞳に合うと思って」
(それ、私が仕入れ値を3割叩ききって輸入したやつ……!)
サブリナは心の中で叫ぶが、表向きは「ひええ」という顔で震えて見せる。
「そ、そんな……! 私のような者に、こんな高価な……怖くて身につけられませんわ!」
「遠慮しないでいいよ。僕の隣に立つなら、これくらいは当然だ」
マーロンがサブリナの首筋に手を伸ばし、ネックレスを試着させようとした、その時。
「ちょっと待て。その石、クラック(傷)があるんじゃないか?」
マーロンの鋭い指摘。彼は彼で、審美眼だけは本物だった。
「いえ、そんなはずは……」と慌てる店員。
サブリナは思わず、商売人としてのプライドが勝ってしまった。
「……いえ、それはクラックではなく、内包物の角度による屈折ですわ。光を45度から当てれば、最高の輝きを放つようにカッティングしてあるはず……あ」
マーロンが、ゆっくりと首を傾げた。
「詳しいね。まるで、この店の商品を熟知しているみたいだ」
(しまったああああ!!)
サブリナは慌てて眼鏡をクイッと上げ、どもりながら誤魔化す。
「……い、以前、道端に落ちていた……宝石の図鑑を拾って、暗記するまで読んだんですの! 貧乏なので、せめて夢だけでも見ようと……!」
「……そうか。勤勉なんだね」
マーロンは納得したふりをして微笑みんだが、その目は笑っていない。
(図鑑? 嘘をつけ。今の話し方は、完全に『売る側』の視点だったぞ……)
結局、ネックレスは買って貰えたが、サブリナの心境は複雑だった。
(自分の店に、カモの金で利益を献上してしまった……。嬉しいけど、正体がバレるリスクが高すぎる!)
一方のマーロンも、サブリナを見る目が変わり始めていた。
(ただの大人しい女じゃない。何を隠している?……面白い。剥いでやりたくなった、その化けの皮を)
「次は、僕の領地の話でもしようか。サブリナ」
マーロンのその言葉に、サブリナの商売魂が再び火を吹く。
嘘告白から始まった関係は、早くも「正体の探り合い」という名の密室ゲームへと突入するのでした。
豪華な自室に戻ったマーロンは、先ほどサブリナに贈った(自社買いさせた)ネックレスの空箱を眺めながら、低く笑った。
「図鑑で覚えた、か。……苦しい言い訳だな」
あの瞬間の彼女の瞳。怯える小動物のふりをしながら、宝石を見る目は熟練の鑑定士そのものだった。
彼は壁の影に向かって、短く命じる。
「……いるか。エアハート子爵令嬢、サブリナの身辺を洗え。特に最近の金の流れと、彼女の放課後の足取りだ。鼠一匹逃さず報告しろ」
影が揺れ、隠密が音もなく消える。
マーロンは優雅にワインを口に含み、嗜虐的な笑みを浮かべた。
「化けの皮を剥がされるのが先か、僕に溺れるのが先か。……楽しい『恋人ごっこ』になりそうだ」
一方、子爵家の自室(という名の商会作戦本部)に帰還したサブリナは、速攻で地味なドレスを脱ぎ捨て、計算機を叩いていた。
「危なかった……! 完全にプロの視点で語っちゃったわ。でも、おかげで売上は計上できた。自分のお金じゃないから実質100%利益ね!」
しかし、すぐに彼女の顔が引き締まる。相手はあのダービン侯爵家だ。今日の言動で、マーロンが疑いを持ったのは間違いない。
「調査が入るのは時間の問題ね。……だったら、正体がバレて破談になる前に、商談を成立させるしかないわ!」
彼女はデスクから一通の書類を取り出した。
それは、ダービン領内での『商考作戦・物流独占契約書』。
「マーロン様が私に『嘘の愛』を囁いているうちに、この紙切れにサインをもらう。そうすれば、たとえ正体がバレて振られたって、契約は有効! むしろ清々するわ!」
鼻息を荒くするサブリナ。
彼女にとって、マーロンの甘い囁きは「契約締結までのBGM」に過ぎないのだ。
_____________
エール📣いいね❤️お気に入り⭐️応援宜しくお願いします🙇
565
あなたにおすすめの小説
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。
鍋
恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。
キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。
けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。
セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。
キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。
『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』
キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。
そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。
※ゆるふわ設定
※ご都合主義
※一話の長さがバラバラになりがち。
※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。
※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
彼女の離縁とその波紋
豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる