呪われ竜騎士とヤンデレ魔法使いの打算

てんつぶ

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第七話 王子と王太子②

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 リウはグッと腹に力を込める。
「さすがに緊張してたんだ。改めて陛下に激励をいただいたからさ。副団長なんて大役、本当に務まるのかなってな」
 リウは慣れない嘘をつく。
 ぎこちない笑みを浮かべるが、緊張と重責のせいだと思ってくれないだろうか。
 ラーゴはジッとリウを見つめ、それから「リウなら大丈夫ですよ」と口角を上げた。
 その瞬間、会場内からは控えめながら黄色い悲鳴がいくつも聞こえる。
 思わずリウがグルリと周囲を見渡せば、こちらを――いやラーゴを見つめる女性たちの熱視線があった。
 どうやらリウが気付いていなかっただけで、この美しい男に秋波を送る貴婦人たちは多かったようだ。
「お前は随分モテるんだな」
「リウ以外の好意は全て雑音ですよ」
 多くの人間に好意を持たれることをラーゴは否定しない。
 だがその上でリウへの好意を口にするのだ。
 これは恐らく演技なのだと疑っているリウですら、そう言われて悪い気はしないのだから恐ろしい男である。
「眼鏡に認識阻害の魔法を少しはかけているんですけどね。存在を消し去ってしまうと支障がでますし、これだけの人数が相手だとどうしても優先順位に差が付いてしまう」
「認識阻害……以前街でかけていた魔法だな。お前は目立ちすぎるし、醜男になる魔法を使った方がいいんじゃないか」
 存在を曖昧にする魔法はどうやら万能ではない。
 その上そんな眼鏡をかけようとも、ラーゴの美貌を知っている者には無意味だ。
 リウが気付いていなかっただけで、最初からラーゴは注目されていた。
 美貌の認定魔法使い。
 麗しの天才魔法使い。
 実際、リウがこの一ヶ月で知ったラーゴを示す二つ名の多くは、その秀でた外見が含まれているものが殆どだ。
「おや、それはリウが僕を美形だと思ってくださっている?」
「一般的に見ればそうだろう」
 ズイと顔を寄せてくるラーゴは、明らかに自分の外見が持つ効果を理解している。
 そのくせリウから褒めほしいとでも言わんばかりの行動をするのだ。
 十人いれば十人がその美しさを称えるだろう美貌を持った男が、今更リウの言葉を欲する必要などないだろうに。
「おいラーゴ……!」
「リウには、僕だけを見ていてほしいです」
 腰にラーゴの腕が回され、逃げ場がなくなる。
 周囲からは女性達の悲鳴にも似た声が上がるが、リウはこの腕の中からどうにか穏便に逃げようと必死で、それには全く気付いていない。
 そんな二人に穏やかな声がかけられた。
「女性陣が浮き足立っていると思ったら、なるほどこれは珍しいな。氷像の魔法使いが微笑んでいるとは」
 式典の時とはまた違う盛装に身を包みむ白髪交じりの男性は、この国の宰相であるゴッドランドだった。
 ゴッドランド宰相と同じ年頃のその貴婦人は、王族から降嫁したゴッドランド夫人だ。美しい夫人を余裕を持ってエスコートするその姿には、成熟した男性の色香が漂っている。
「なにかご用ですか」
 ラーゴは浮かべていた笑みを一瞬で引っ込め、無表情でこの国の宰相に用件を問う。
 あまりに失礼な態度に、リウは慌ててラーゴの頭を掴んで下げた。
「す、すみません!」
「よいよい。型破りな天才魔法使いを、貴族の枠に嵌めようなどと思っていない」
 鷹揚に嗤うゴッドランド宰相は隣にいた夫人に目配せをすると、夫人は静かに挨拶をして場を移動する。
 人払いをするような話をこんな目立つ場所でしようというのか。
「ラーゴ殿。遮音魔法を頼む」
「はあ、あとで請求しますからね」
 面倒臭そうにラーゴが手のひらを広げると、周囲から音が消えた。
 そういえばゴッドランド宰相はラーゴの後援者だったことを思い出す。
「いつも眉一つ動かさない認定魔法使い殿が、見たことのない笑顔でエスコートしているせいで、女性陣が煩くてかなわないな」
「はあ……」
 なんと返事をしたらいいのか分からず、リウは曖昧に言葉を濁す。
 眉一つ動かさないと言われるが、ラーゴはリウの前ではいつも上機嫌だ。どちらかといえば今見ている真顔のラーゴの方が、リウにとっては珍しい。
「僕は今も煩いおじさんに絡まれて迷惑していますよ」
「こらっリウ! 申し訳ありません……」
「はっはっは。よいよい。仲が良さそうでなによりだ。二人とも今日の服装が良く似合っている」
 急に服の話を振られ首を傾げるリウだったが、ラーゴと共に着ているそれは殆ど同じデザインだったことを思い出す。
 言われればまるで周囲に見せつけるような格好だったと思いだし、アタフタと慌てるリウの手をラーゴがすくい上げる。
「綺麗ですよ、リウ」
「ありが……いや、そういうことじゃないっ」
「はっはっは。先ほどは随分な目に遭っていたようだが、その心配はないようだな。さすがはラーゴ殿が選んだ男だ」
 ゴッドランド宰相の朗らかさとは裏腹に、ラーゴの纏う空気が張り詰める。
 ゆっくりとリウを見つめるその瞳には、嘘偽りは許さないと言わんばかりの圧力があった。
「随分な目、とは? リウ、どういうことですか」
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