よろしい、ならば電柱だ。

てんつぶ

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愛する電柱たちとの交流から始まる、朝。

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 目覚めると俺はすぐにカーテンを開けた。親が無理をして買ったマンション10階、この部屋からは街がよく見える。

「おはよう、電柱」

俺は眼下に広がる街――に無数に立つ電柱をうっとりと眺めた。街を覆う無数の電線、それを繋げているのは俺の愛する電柱たちだ。スッと静かに立つ彼らだが、時には少しだけ傾く電柱を見るのもおつなものだ。重いだろう変圧器を平気な顔をして抱え込み、人々のためにただただそこに根を張り電気を送る電線を差支えているのだ。

「はあ……っイイ……!」

 俺のお気に入りの通りの電柱を見て体がブルリと震えた。ほんの少し背の低いその電柱はこうして部屋から見おろしてもいいし、道路からその姿を見上げるのも最高だ。小さな体で高圧配線、低圧配線、そして他の電柱以上に無数の通信線を支えている。そのいじらしさ、愛らしさに夢中にならない男がいる訳がない。
 
「え、きっも。ミハシ……幼馴染じゃなかったら通報してるわその顔」
 
いつの間にいたのか、デンノが俺の後ろに立っていた。
よかった、今朝は勃起していないからな、セーフだ。
 
「おはよう。お前毎日俺の出迎えホント暇な?」
「鼻血出てるぞ」
「鼻血が出てるんじゃない。出してるんだ」

勃起が抑えられたと思っていたら、代わりに鼻血が出ていたらしい。まあいい、俺の電柱たちへの愛はどこかで零さなければ溢れてしまう。
デンノはぶつくさいいながら、俺の鼻にティッシュを詰め込んだ。
 
「ったく……電柱見てチンコ立たせるわ鼻血出すわ……マジお前変態だからな?顔が人一倍いいから許されてるだけだからな?……ほら、学校行く支度しろ!飯くえ!パン焼いたぞ!」
 
 母親のように甲斐甲斐しくデンノが世話を焼くのもいつもの光景だ。海外出張の父親についていった母親の代わりに、同じマンションのデンノは俺の世話を焼きにやってくる。大学生にもなって必要ないとはおもうのだ、まあありがたいといえばありがたい。俺は生返事をしながらリビングへ向かった。
 
 デンノが焼いてくれたトーストのバターを付けて、上に目玉焼きをのっけて食べる。行儀が悪いかもしれないが、俺はこれが好きだ。何だかんだと俺好みの半熟に仕上げてくれるデンノは優しいのだ。

「あ、そういえば俺明日出かけるから。夕飯いらない」
「うん?明日土曜日だろ?どっか行くのか?誰と行くんだ?帰りは遅いのか?」
「おかんか。あーうん、オフ会あるから。ネットの友達と会って喋ってくる」
「……俺の知らないやつか」

 そりゃそうだろう。世話焼きのデンノとはいえ、さすがにTwitttelのアカウントは教えていない。全国の電柱を愛するフォロワーたちと電柱を愛で語るオフ会なのだ。

「まあ、いい人たちばっかりだし。だいじょーぶだいじょーぶ」
「いや、お前無駄に見た目だけはいいから心配だ。……よし、俺も行く」
「は?いやいやいや、保護者同伴みたいに言うなよ。オフ会に電柱興味ない友達連れて行けないから。空気読んで」

 それに実は……彼らには日々世話焼きのデンノの話をちょこちょこ漏らしている。同伴していくのも気まずいのだ。デンノはじいっと俺を見詰めると、ふいに取り出したスマホを凄いスピードでタッチし始める。うん?

「……はい。いいってさ。明日行くメンバーにちゃんと許可貰っといた」
「うん?って、は!?それ、俺のスマホじゃん!?」

 バッと取り返して見れば、俺のアカウントで電柱オフ会のグループDMにコメントを残している。

『明日、幼馴染も連れて行っていい?』

このコメントは俺――つまりデンノが勝手に俺を語って残したコメントだ。朝の時間にも関わらず、即座に返事が返ってくるこの面子の反応の良さよ。

『例の幼馴染!?おっけ語ろう、シロート相手に電柱の魅力かたっちゃおうぜ!』
『幼馴染くんは連れてきてもいい。だが電柱に触っていいのは俺だけだ』
『ちょw嘘つくなよ~それホントにお前のもんなの?お前の電柱なら、俺の横で寝てるぜ?』
『歓迎歓迎!電柱は何メートルが好きか聞いといて♡俺?断然16m♡レア感たまんね~♡』
 
 大歓迎……だと?嘘だろ。いやまあ分かる。この濃い集まりに参加したいなんて素人さんは珍しい。皆何も知らないやつ相手にあれこれ語りたいんだろうな。

「はあ……デンノ、大人しくしといてくれよ」
「俺はいつでも大人しいけどな。お前の顔面と違って」

 全く、いつも一言多いのだこの幼馴染は。俺は残ったパンを一気に咀嚼して牛乳で流し込んだ。
 
 
 
 
 
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