95 / 132
第5章 冒険者4か月目
91話 5年の歳月
しおりを挟む
今回ばかりは、オレの出る幕はない。
これは、サディエルたち3人の問題である。
彼らの5年間を正確に知らない以上、オレが無理に突っついても仕方がないことだ。
3人からゆっくりと離れると、ふいに肩を叩かれる。
視線を向けると、そこには苦笑いしたアークさんが居た。
「こうなるって、予想していた顔してるな」
「実は、試合前に2人にお願いされていたんです。オレの作戦で、"最後に残すのはサディエルにしてくれ" って」
========================
「じゃあさ……武器を交換するってのは、どうかな?」
「武器を?」
「そう、武器。アルムは剣、リレルが弓で、オレが……まぁ投げ槍ぐらいは出来るから、槍を交換。最初からじゃなくて、途中から」
オレは駒を動かしながら、2人に説明する。
「急に武器を交代するってことは、あちらだって驚く。今まで、各々メインとなる武器しか使っていなかったわけだし。使えると知っていても、やっぱり驚くはずだ。とにかく、あっちの動きを細かく止めていかないと」
アルムの駒をレックスさんへ。
オレとリレルの駒を、バークライスさんと、サディエルへ。
とりあえず、予想される流れはこんな感じかな。
「オレが少し注意を引いている間に、サディエルがレックスさんの所へ行くなら、バークライスさんを。そうじゃないならレックスさんを潰す。その後に、サディエルを……」
「あ、まってくださいヒロト。1つ、お願いしたいのですが」
「ん? なに、リレル」
「最後に残すのを、サディエルにして頂けませんか」
リレルの言葉に、オレは首を傾げる。
「えっと、何で?」
「ヒロトには迷惑を掛けませんよ。少しばかり、私たちもお話が必要だと思ったので」
「だな。ちょーっとばかり、腹ん中開いて話すだけだ」
腹ん中って。
物理的にってわけじゃないはずだし、それじゃあまるで3人が腹の内を見せない間柄みたいな……
……え? 嘘だろ。
言葉の意味を理解して、オレは信じられない表情をして2人を見たと思う。
それに気づいたアルムとリレルは、苦笑いを浮かべる。
「何で? だって、3人とも……そんな風には……」
「仲良さそうだったってか」
「うん。軽口も叩けるし、遠慮も無かったし……それこそ、普通の……」
言い終わるよりも先に、2人がオレの頭に手を置いた。
わしゃわしゃと撫でまわしつつ、言葉が続く。
「まだまだ甘いなヒロト。僕らはこうみえて、デコボコのツギハギだらけだよ」
「もし、ヒロトがそうだと思ってくれているとしたら、それはきっと私たちの成長の証です。だって、私もアルムも、元々は誰も信じようとしない、重度の人間不信だったんですから」
重度の人間不信。
それこそ信じられない。
だって、2人ともそんな雰囲気は一切なかった。
いや、最初の頃は確かにサディエルがメインで話してくれて、時折会話に混ざるぐらいだったけど。
それでも、最初の街についてすぐに彼らと会話した時に聞いた言葉も、内容も、全然……
「心配しないでください。私たちもいい加減、向き合ってこなかったことに、向き合わないといけません……見守って、いただけますか? ヒロト」
「大丈夫、終われば今まで通りの僕らに戻るから」
========================
「ただ、サディエルがあそこまで怒るとも、3人で大喧嘩始めるとも、思ってなかったけど」
「聞いてないっぽいな。サディの奴の地雷っつーか、トラウマ」
「詳しくは、です。試合前に、やっと少し教えて貰ったぐらいで……」
アークさんは肩を落として、3人を見る。
サディエルの性格とこれまでの言動から、仲間が傷つくことを極端に恐れていることは想像に難しくなかった。
そうじゃないと、ガランドに操られる可能性を提示した時、あれほど動揺したりはしない。
そのくせ、自分のことにはトコトン無頓着どころか、むしろ自分が被害食らって良かったといけしゃあしゃあと言い放つ。
何度も思った、典型的な光属性の主人公だって。
それのお手本のような彼を間近で見続けたこの3か月、いや、もうそろそろ4か月か。
アルムとリレルが定期的にやきもきしていたのは知っていたし、オレもそんなサディエルに何度頭を痛めたのかは分からない。
だけど、その行動の根本こそが、彼のトラウマに繋がっている。
危うく失いかけた恐怖から来る、2人への懇願。
「2人に何かあると嫌だから、まずは自分を犠牲にしろって言ったって」
「……で、それを当時のあいつらは、何も考えずに頷いちまったと。スタートでミスっていやがる。どういうつもりで、パーティ組ませたんですか? バークライスさん」
アークさんは、こちらに近づいてくるバークライスさんに声を掛ける。
少し遅れて、レックスさんも合流してきた。
「当時、あの2人は様々な要因が重なって、人間不信になっていた。あまりにも酷すぎて、このままでは自暴自棄で何をしでかすか分からなかったぐらいだ」
今からだと考えられないけど、アルムとリレルも相当荒れていたらしい。
アルムは、当時はまだこのエルフェル・ブルグに籍を置いていた尊敬する軍師であり、師である人物に対する周囲の理解の無さと、何を言っても『お前はあいつの一番弟子だから』と聞き入れて貰えなかったこと。
リレルは、この国の名医でもある師が、どうしても救えない命があったり、トリアージによる命の選択によって切り捨てざる負えない患者がいた時、その家族から酷い誹謗中傷があったらしい。
もちろん、家族にとってはぶつけようのない怒りと悲しみの矛先だったわけだが、それを間近で聞き続け、どれだけ賢明な処置をしても、報われない多くの場面を見てきたこと。
「そんな時、サディエルがこの国にやってきた」
「クレイン様を護衛しながら。金欠な上にヘロヘロでしたけど」
荒れに荒れまくった2人と、クレインさんの元でフットマンとして働いていた所を、バークライスさんを介して出会ったサディエル。
彼がどういう思いで、アルムやリレルとパーティを組もうと決めたのか。
それは、サディエルにしか分からない。
「あの2人には、粗治療がどうしても必要だった。その為には、まったくの第三者でありながら、馬鹿正直なぐらい真っ直ぐで、諦めず、他者を否定せずに、無条件で愛してくれる人物と共に、環境を変える必要あった」
「なにその聖人君主な条件……に、当てはまっちゃったんだよな、サディエルが」
オレが力なく言った言葉に、バークライスさんは頷いた。
「唯一の失敗を申し上げるならば……会わせるタイミングが悪すぎたこと、ぐらいでしょうか」
「おれの件がなければ、最高だったんでしょうけどね」
レックスさんとアークさんが続けるようにそう言った。
その結果が、最初の1歩を踏み違えての今。
だからこそ、オレは3人の間に割って入ることは出来ない。
それをしてしまったら、3人の関係は本当の意味で破綻するから。
「なーに、仲良く喧嘩させとけばいいのさ」
「仲良くって……」
「色々後回しにし過ぎたことを、ヒロト君が加わったことで直視せざる負えなかったアホ共なんだ。それよりも……見守てやってくれ。あいつらが、ちゃんと向き合うって決めたんだから」
「はい。もちろんです」
オレに出来る事はそれぐらいしかない。
だけど、それこそがオレの役目でもあるから。
目の前では、サディエルの剣とリレルの槍がぶつかり合っている。
オレらが会話している間も、怒号が飛び交っていた。
それはもう、5年分のうっ憤を晴らすかの如く、怒涛のマシンガントークの勢いだ。
「最初に約束しただろ、俺らの方針はそれで行くって! それをいきなりこんな形で喧嘩売ってきやがって!」
サディエルの口調が荒っぽすぎる。
完全にご乱心、いや、激怒しているよ……
「そうですね。5年前の私たちでしたらそれでも良かったのです。いきなりわけの分からない人を連れてきて、そいつと旅に出ろ、お前らの為だからとか、事実上の国外追放みたいなことをされて!」
「そのくせお前は、危なかったら自分が犠牲にって言うから、仮にそうなったら、とっとと適当に国外に亡命してやろうと思ってた!」
聞けば聞くほど、何でパーティ組んだの? って口に出そうになる。
流石にお人よしの化身なサディエルも、こればかりは反論があるらしく、槍を弾きながら怒鳴った。
「お前らがそんなこと考えていたのぐらい知っていたさ! そのまま利用すりゃ良かっただろ、今になって前言撤回するっていうのか!」
「あぁそうだ」
「はい、撤回させて貰います」
はっきりと言い切られて、サディエルの動きが止まる。
「あのな。僕ら、何年一緒に旅をしてきた。5年だぞ5年。お前にほだされるには十分過ぎる時間だ」
「ですが、私たちも最初に頷いてしまった手前、もうやめて欲しいと、言えなかったんです。サディエル、貴方に否定されるのが、怖かったんです」
人間不信の原因は様々だが、共通しているのは『これ以上、傷つきたくない』と言う強い感情だ。
人間関係でつらい思いをした人は、相手が好意的に接してくれていても、心のどこかに不安や恐怖があり、うまく人付き合いができなくなる。
「お前が僕らに傷ついて欲しくない、死ぬような目にあって欲しくないと思うように……僕らだって、ずっとそう思っているんだ。いつからか、って言われたら……もう忘れたけどな」
「アルム……」
「本来ならば、もっと早く私たちが自分の口で言えばよかったのです……怖くて、全部ヒロトに押し付けていました。貴方がパーティを離脱すると言った時も、痣の効果で弱体化したと分かった時も、他にもたくさん」
「リレル……」
サディエルを説得する時、2人は常にオレの味方になってくれていた。
けど、それも理由があった。
2人は怖かったんだ……素直にサディエルにそう言うことで、今みたいに約束が違うと拒絶されることが。
最初が最初だったせいで、本当に彼を心配しているのだと言う事が、伝わらないんじゃないかと。
だから、2人は自然な流れでオレの背中を押しつつも、代弁させていたってことか。
「サディエル、約束をしなおそう。何かあったら、みんなで何とかする。お前1人がまず犠牲になるんじゃない」
「貴方と、私と、アルムと、そして……」
2人はこちらに視線を向けてくる。
「ヒロトと、4人で。今も、何か隠していらっしゃいますよね? 教えてください」
「………そんなに、分かりやすかったか?」
「はい、今回は珍しく」
「いつもだったら分からなかったけどな。それだけお前も切羽詰まってたんだ」
アルムたちの言葉を聞いて、サディエルは視線を逸らす。
だけど、観念したのか両手を挙げる。
「「と言うわけで」」
スッ、と2人は自身の武器を振り上げる。
そのまま遠慮なくサディエルの両肩に直撃させた。
「――――っっ!!」
声にならない悲鳴と共に、サディエルは両肩を抑えて蹲る。
「ほい、サディエルも戦闘不能。ったく、この大馬鹿リーダーはホントさ」
「仕方ないですよね。今更ですけど」
そんなサディエルを無視して、2人はオレの所にやって来た。
「ヒロト、お前にも謝っとかないとな。色々悪かった」
「私たちが言いづらかったこと、結果的に貴方に全部押し付けておりました」
「それはいいよ。オレも2人に背中を何度も押してもらったから、お相子だよ」
オレの返答に、アルムとリレルは嬉しそうに笑う。
全く、出会った当初からそんな雰囲気を欠片もださなかったってのが、本当に信じられないよ。
この、似た者同士の、お互いを本当に信頼し合ってたのに、その信頼故に5年も言い出せず、猫かぶりしまくっていた面倒な3人組はさ。
これは、サディエルたち3人の問題である。
彼らの5年間を正確に知らない以上、オレが無理に突っついても仕方がないことだ。
3人からゆっくりと離れると、ふいに肩を叩かれる。
視線を向けると、そこには苦笑いしたアークさんが居た。
「こうなるって、予想していた顔してるな」
「実は、試合前に2人にお願いされていたんです。オレの作戦で、"最後に残すのはサディエルにしてくれ" って」
========================
「じゃあさ……武器を交換するってのは、どうかな?」
「武器を?」
「そう、武器。アルムは剣、リレルが弓で、オレが……まぁ投げ槍ぐらいは出来るから、槍を交換。最初からじゃなくて、途中から」
オレは駒を動かしながら、2人に説明する。
「急に武器を交代するってことは、あちらだって驚く。今まで、各々メインとなる武器しか使っていなかったわけだし。使えると知っていても、やっぱり驚くはずだ。とにかく、あっちの動きを細かく止めていかないと」
アルムの駒をレックスさんへ。
オレとリレルの駒を、バークライスさんと、サディエルへ。
とりあえず、予想される流れはこんな感じかな。
「オレが少し注意を引いている間に、サディエルがレックスさんの所へ行くなら、バークライスさんを。そうじゃないならレックスさんを潰す。その後に、サディエルを……」
「あ、まってくださいヒロト。1つ、お願いしたいのですが」
「ん? なに、リレル」
「最後に残すのを、サディエルにして頂けませんか」
リレルの言葉に、オレは首を傾げる。
「えっと、何で?」
「ヒロトには迷惑を掛けませんよ。少しばかり、私たちもお話が必要だと思ったので」
「だな。ちょーっとばかり、腹ん中開いて話すだけだ」
腹ん中って。
物理的にってわけじゃないはずだし、それじゃあまるで3人が腹の内を見せない間柄みたいな……
……え? 嘘だろ。
言葉の意味を理解して、オレは信じられない表情をして2人を見たと思う。
それに気づいたアルムとリレルは、苦笑いを浮かべる。
「何で? だって、3人とも……そんな風には……」
「仲良さそうだったってか」
「うん。軽口も叩けるし、遠慮も無かったし……それこそ、普通の……」
言い終わるよりも先に、2人がオレの頭に手を置いた。
わしゃわしゃと撫でまわしつつ、言葉が続く。
「まだまだ甘いなヒロト。僕らはこうみえて、デコボコのツギハギだらけだよ」
「もし、ヒロトがそうだと思ってくれているとしたら、それはきっと私たちの成長の証です。だって、私もアルムも、元々は誰も信じようとしない、重度の人間不信だったんですから」
重度の人間不信。
それこそ信じられない。
だって、2人ともそんな雰囲気は一切なかった。
いや、最初の頃は確かにサディエルがメインで話してくれて、時折会話に混ざるぐらいだったけど。
それでも、最初の街についてすぐに彼らと会話した時に聞いた言葉も、内容も、全然……
「心配しないでください。私たちもいい加減、向き合ってこなかったことに、向き合わないといけません……見守って、いただけますか? ヒロト」
「大丈夫、終われば今まで通りの僕らに戻るから」
========================
「ただ、サディエルがあそこまで怒るとも、3人で大喧嘩始めるとも、思ってなかったけど」
「聞いてないっぽいな。サディの奴の地雷っつーか、トラウマ」
「詳しくは、です。試合前に、やっと少し教えて貰ったぐらいで……」
アークさんは肩を落として、3人を見る。
サディエルの性格とこれまでの言動から、仲間が傷つくことを極端に恐れていることは想像に難しくなかった。
そうじゃないと、ガランドに操られる可能性を提示した時、あれほど動揺したりはしない。
そのくせ、自分のことにはトコトン無頓着どころか、むしろ自分が被害食らって良かったといけしゃあしゃあと言い放つ。
何度も思った、典型的な光属性の主人公だって。
それのお手本のような彼を間近で見続けたこの3か月、いや、もうそろそろ4か月か。
アルムとリレルが定期的にやきもきしていたのは知っていたし、オレもそんなサディエルに何度頭を痛めたのかは分からない。
だけど、その行動の根本こそが、彼のトラウマに繋がっている。
危うく失いかけた恐怖から来る、2人への懇願。
「2人に何かあると嫌だから、まずは自分を犠牲にしろって言ったって」
「……で、それを当時のあいつらは、何も考えずに頷いちまったと。スタートでミスっていやがる。どういうつもりで、パーティ組ませたんですか? バークライスさん」
アークさんは、こちらに近づいてくるバークライスさんに声を掛ける。
少し遅れて、レックスさんも合流してきた。
「当時、あの2人は様々な要因が重なって、人間不信になっていた。あまりにも酷すぎて、このままでは自暴自棄で何をしでかすか分からなかったぐらいだ」
今からだと考えられないけど、アルムとリレルも相当荒れていたらしい。
アルムは、当時はまだこのエルフェル・ブルグに籍を置いていた尊敬する軍師であり、師である人物に対する周囲の理解の無さと、何を言っても『お前はあいつの一番弟子だから』と聞き入れて貰えなかったこと。
リレルは、この国の名医でもある師が、どうしても救えない命があったり、トリアージによる命の選択によって切り捨てざる負えない患者がいた時、その家族から酷い誹謗中傷があったらしい。
もちろん、家族にとってはぶつけようのない怒りと悲しみの矛先だったわけだが、それを間近で聞き続け、どれだけ賢明な処置をしても、報われない多くの場面を見てきたこと。
「そんな時、サディエルがこの国にやってきた」
「クレイン様を護衛しながら。金欠な上にヘロヘロでしたけど」
荒れに荒れまくった2人と、クレインさんの元でフットマンとして働いていた所を、バークライスさんを介して出会ったサディエル。
彼がどういう思いで、アルムやリレルとパーティを組もうと決めたのか。
それは、サディエルにしか分からない。
「あの2人には、粗治療がどうしても必要だった。その為には、まったくの第三者でありながら、馬鹿正直なぐらい真っ直ぐで、諦めず、他者を否定せずに、無条件で愛してくれる人物と共に、環境を変える必要あった」
「なにその聖人君主な条件……に、当てはまっちゃったんだよな、サディエルが」
オレが力なく言った言葉に、バークライスさんは頷いた。
「唯一の失敗を申し上げるならば……会わせるタイミングが悪すぎたこと、ぐらいでしょうか」
「おれの件がなければ、最高だったんでしょうけどね」
レックスさんとアークさんが続けるようにそう言った。
その結果が、最初の1歩を踏み違えての今。
だからこそ、オレは3人の間に割って入ることは出来ない。
それをしてしまったら、3人の関係は本当の意味で破綻するから。
「なーに、仲良く喧嘩させとけばいいのさ」
「仲良くって……」
「色々後回しにし過ぎたことを、ヒロト君が加わったことで直視せざる負えなかったアホ共なんだ。それよりも……見守てやってくれ。あいつらが、ちゃんと向き合うって決めたんだから」
「はい。もちろんです」
オレに出来る事はそれぐらいしかない。
だけど、それこそがオレの役目でもあるから。
目の前では、サディエルの剣とリレルの槍がぶつかり合っている。
オレらが会話している間も、怒号が飛び交っていた。
それはもう、5年分のうっ憤を晴らすかの如く、怒涛のマシンガントークの勢いだ。
「最初に約束しただろ、俺らの方針はそれで行くって! それをいきなりこんな形で喧嘩売ってきやがって!」
サディエルの口調が荒っぽすぎる。
完全にご乱心、いや、激怒しているよ……
「そうですね。5年前の私たちでしたらそれでも良かったのです。いきなりわけの分からない人を連れてきて、そいつと旅に出ろ、お前らの為だからとか、事実上の国外追放みたいなことをされて!」
「そのくせお前は、危なかったら自分が犠牲にって言うから、仮にそうなったら、とっとと適当に国外に亡命してやろうと思ってた!」
聞けば聞くほど、何でパーティ組んだの? って口に出そうになる。
流石にお人よしの化身なサディエルも、こればかりは反論があるらしく、槍を弾きながら怒鳴った。
「お前らがそんなこと考えていたのぐらい知っていたさ! そのまま利用すりゃ良かっただろ、今になって前言撤回するっていうのか!」
「あぁそうだ」
「はい、撤回させて貰います」
はっきりと言い切られて、サディエルの動きが止まる。
「あのな。僕ら、何年一緒に旅をしてきた。5年だぞ5年。お前にほだされるには十分過ぎる時間だ」
「ですが、私たちも最初に頷いてしまった手前、もうやめて欲しいと、言えなかったんです。サディエル、貴方に否定されるのが、怖かったんです」
人間不信の原因は様々だが、共通しているのは『これ以上、傷つきたくない』と言う強い感情だ。
人間関係でつらい思いをした人は、相手が好意的に接してくれていても、心のどこかに不安や恐怖があり、うまく人付き合いができなくなる。
「お前が僕らに傷ついて欲しくない、死ぬような目にあって欲しくないと思うように……僕らだって、ずっとそう思っているんだ。いつからか、って言われたら……もう忘れたけどな」
「アルム……」
「本来ならば、もっと早く私たちが自分の口で言えばよかったのです……怖くて、全部ヒロトに押し付けていました。貴方がパーティを離脱すると言った時も、痣の効果で弱体化したと分かった時も、他にもたくさん」
「リレル……」
サディエルを説得する時、2人は常にオレの味方になってくれていた。
けど、それも理由があった。
2人は怖かったんだ……素直にサディエルにそう言うことで、今みたいに約束が違うと拒絶されることが。
最初が最初だったせいで、本当に彼を心配しているのだと言う事が、伝わらないんじゃないかと。
だから、2人は自然な流れでオレの背中を押しつつも、代弁させていたってことか。
「サディエル、約束をしなおそう。何かあったら、みんなで何とかする。お前1人がまず犠牲になるんじゃない」
「貴方と、私と、アルムと、そして……」
2人はこちらに視線を向けてくる。
「ヒロトと、4人で。今も、何か隠していらっしゃいますよね? 教えてください」
「………そんなに、分かりやすかったか?」
「はい、今回は珍しく」
「いつもだったら分からなかったけどな。それだけお前も切羽詰まってたんだ」
アルムたちの言葉を聞いて、サディエルは視線を逸らす。
だけど、観念したのか両手を挙げる。
「「と言うわけで」」
スッ、と2人は自身の武器を振り上げる。
そのまま遠慮なくサディエルの両肩に直撃させた。
「――――っっ!!」
声にならない悲鳴と共に、サディエルは両肩を抑えて蹲る。
「ほい、サディエルも戦闘不能。ったく、この大馬鹿リーダーはホントさ」
「仕方ないですよね。今更ですけど」
そんなサディエルを無視して、2人はオレの所にやって来た。
「ヒロト、お前にも謝っとかないとな。色々悪かった」
「私たちが言いづらかったこと、結果的に貴方に全部押し付けておりました」
「それはいいよ。オレも2人に背中を何度も押してもらったから、お相子だよ」
オレの返答に、アルムとリレルは嬉しそうに笑う。
全く、出会った当初からそんな雰囲気を欠片もださなかったってのが、本当に信じられないよ。
この、似た者同士の、お互いを本当に信頼し合ってたのに、その信頼故に5年も言い出せず、猫かぶりしまくっていた面倒な3人組はさ。
0
あなたにおすすめの小説
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。
かの
ファンタジー
孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。
ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様でも、公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する
鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。
突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。
しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。
魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。
英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。
外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています
スキル『レベル1固定』は最強チートだけど、俺はステータスウィンドウで無双する
うーぱー
ファンタジー
アーサーはハズレスキル『レベル1固定』を授かったため、家を追放されてしまう。
そして、ショック死してしまう。
その体に転成した主人公は、とりあえず、目の前にいた弟を腹パンざまぁ。
屋敷を逃げ出すのであった――。
ハズレスキル扱いされるが『レベル1固定』は他人のレベルを1に落とせるから、ツヨツヨだった。
スキルを活かしてアーサーは大活躍する……はず。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜
もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。
ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を!
目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。
スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。
何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。
やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。
「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ!
ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。
ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。
2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる