オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃

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第5章 冒険者4か月目

91話 5年の歳月

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 今回ばかりは、オレの出る幕はない。
 これは、サディエルたち3人の問題である。
 彼らの5年間を正確に知らない以上、オレが無理に突っついても仕方がないことだ。

 3人からゆっくりと離れると、ふいに肩を叩かれる。

 視線を向けると、そこには苦笑いしたアークさんが居た。

「こうなるって、予想していた顔してるな」
「実は、試合前に2人にお願いされていたんです。オレの作戦で、"最後に残すのはサディエルにしてくれ" って」

========================

「じゃあさ……武器を交換するってのは、どうかな?」

「武器を?」
「そう、武器。アルムは剣、リレルが弓で、オレが……まぁ投げ槍ぐらいは出来るから、槍を交換。最初からじゃなくて、途中から」

 オレは駒を動かしながら、2人に説明する。

「急に武器を交代するってことは、あちらだって驚く。今まで、各々メインとなる武器しか使っていなかったわけだし。使えると知っていても、やっぱり驚くはずだ。とにかく、あっちの動きを細かく止めていかないと」

 アルムの駒をレックスさんへ。
 オレとリレルの駒を、バークライスさんと、サディエルへ。

 とりあえず、予想される流れはこんな感じかな。

「オレが少し注意を引いている間に、サディエルがレックスさんの所へ行くなら、バークライスさんを。そうじゃないならレックスさんを潰す。その後に、サディエルを……」
「あ、まってくださいヒロト。1つ、お願いしたいのですが」
「ん? なに、リレル」

「最後に残すのを、サディエルにして頂けませんか」

 リレルの言葉に、オレは首を傾げる。

「えっと、何で?」

「ヒロトには迷惑を掛けませんよ。少しばかり、私たちもお話が必要だと思ったので」
「だな。ちょーっとばかり、腹ん中開いて話すだけだ」

 腹ん中って。
 物理的にってわけじゃないはずだし、それじゃあまるで3人が腹の内を見せない間柄みたいな……

 ……え? 嘘だろ。

 言葉の意味を理解して、オレは信じられない表情をして2人を見たと思う。
 それに気づいたアルムとリレルは、苦笑いを浮かべる。

「何で? だって、3人とも……そんな風には……」

「仲良さそうだったってか」
「うん。軽口も叩けるし、遠慮も無かったし……それこそ、普通の……」

 言い終わるよりも先に、2人がオレの頭に手を置いた。
 わしゃわしゃと撫でまわしつつ、言葉が続く。

「まだまだ甘いなヒロト。僕らはこうみえて、デコボコのツギハギだらけだよ」
「もし、ヒロトがそうだと思ってくれているとしたら、それはきっと私たちの成長の証です。だって、私もアルムも、元々は誰も信じようとしない、重度の人間不信だったんですから」

 重度の人間不信。
 それこそ信じられない。
 だって、2人ともそんな雰囲気は一切なかった。

 いや、最初の頃は確かにサディエルがメインで話してくれて、時折会話に混ざるぐらいだったけど。

 それでも、最初の街についてすぐに彼らと会話した時に聞いた言葉も、内容も、全然……

「心配しないでください。私たちもいい加減、向き合ってこなかったことに、向き合わないといけません……見守って、いただけますか? ヒロト」
「大丈夫、終われば今まで通りの僕らに戻るから」

========================

「ただ、サディエルがあそこまで怒るとも、3人で大喧嘩始めるとも、思ってなかったけど」

「聞いてないっぽいな。サディの奴の地雷っつーか、トラウマ」
「詳しくは、です。試合前に、やっと少し教えて貰ったぐらいで……」

 アークさんは肩を落として、3人を見る。

 サディエルの性格とこれまでの言動から、仲間が傷つくことを極端に恐れていることは想像に難しくなかった。
 そうじゃないと、ガランドに操られる可能性を提示した時、あれほど動揺したりはしない。
 そのくせ、自分のことにはトコトン無頓着どころか、むしろ自分が被害食らって良かったといけしゃあしゃあと言い放つ。

 何度も思った、典型的な光属性の主人公だって。

 それのお手本のような彼を間近で見続けたこの3か月、いや、もうそろそろ4か月か。
 アルムとリレルが定期的にやきもきしていたのは知っていたし、オレもそんなサディエルに何度頭を痛めたのかは分からない。

 だけど、その行動の根本こそが、彼のトラウマに繋がっている。
 危うく失いかけた恐怖から来る、2人への懇願。
 
「2人に何かあると嫌だから、まずは自分を犠牲にしろって言ったって」
「……で、それを当時のあいつらは、何も考えずに頷いちまったと。スタートでミスっていやがる。どういうつもりで、パーティ組ませたんですか? バークライスさん」

 アークさんは、こちらに近づいてくるバークライスさんに声を掛ける。
 少し遅れて、レックスさんも合流してきた。

「当時、あの2人は様々な要因が重なって、人間不信になっていた。あまりにも酷すぎて、このままでは自暴自棄で何をしでかすか分からなかったぐらいだ」

 今からだと考えられないけど、アルムとリレルも相当荒れていたらしい。
 アルムは、当時はまだこのエルフェル・ブルグに籍を置いていた尊敬する軍師であり、師である人物に対する周囲の理解の無さと、何を言っても『お前はあいつの一番弟子だから』と聞き入れて貰えなかったこと。

 リレルは、この国の名医でもある師が、どうしても救えない命があったり、トリアージによる命の選択によって切り捨てざる負えない患者がいた時、その家族から酷い誹謗中傷があったらしい。
 もちろん、家族にとってはぶつけようのない怒りと悲しみの矛先だったわけだが、それを間近で聞き続け、どれだけ賢明な処置をしても、報われない多くの場面を見てきたこと。

「そんな時、サディエルがこの国にやってきた」
「クレイン様を護衛しながら。金欠な上にヘロヘロでしたけど」

 荒れに荒れまくった2人と、クレインさんの元でフットマンとして働いていた所を、バークライスさんを介して出会ったサディエル。
 彼がどういう思いで、アルムやリレルとパーティを組もうと決めたのか。
 それは、サディエルにしか分からない。

「あの2人には、粗治療がどうしても必要だった。その為には、まったくの第三者でありながら、馬鹿正直なぐらい真っ直ぐで、諦めず、他者を否定せずに、無条件で愛してくれる人物と共に、環境を変える必要あった」

「なにその聖人君主な条件……に、当てはまっちゃったんだよな、サディエルが」

 オレが力なく言った言葉に、バークライスさんは頷いた。

「唯一の失敗を申し上げるならば……会わせるタイミングが悪すぎたこと、ぐらいでしょうか」
「おれの件がなければ、最高だったんでしょうけどね」

 レックスさんとアークさんが続けるようにそう言った。

 その結果が、最初の1歩を踏み違えての今。
 だからこそ、オレは3人の間に割って入ることは出来ない。

 それをしてしまったら、3人の関係は本当の意味で破綻するから。

「なーに、仲良く喧嘩させとけばいいのさ」
「仲良くって……」
「色々後回しにし過ぎたことを、ヒロト君が加わったことで直視せざる負えなかったアホ共なんだ。それよりも……見守てやってくれ。あいつらが、ちゃんと向き合うって決めたんだから」

「はい。もちろんです」

 オレに出来る事はそれぐらいしかない。
 だけど、それこそがオレの役目でもあるから。
 
 目の前では、サディエルの剣とリレルの槍がぶつかり合っている。

 オレらが会話している間も、怒号が飛び交っていた。
 それはもう、5年分のうっ憤を晴らすかの如く、怒涛のマシンガントークの勢いだ。

「最初に約束しただろ、俺らの方針はそれで行くって! それをいきなりこんな形で喧嘩売ってきやがって!」

 サディエルの口調が荒っぽすぎる。
 完全にご乱心、いや、激怒しているよ……

「そうですね。5年前の私たちでしたらそれでも良かったのです。いきなりわけの分からない人を連れてきて、そいつと旅に出ろ、お前らの為だからとか、事実上の国外追放みたいなことをされて!」
「そのくせお前は、危なかったら自分が犠牲にって言うから、仮にそうなったら、とっとと適当に国外に亡命してやろうと思ってた!」

 聞けば聞くほど、何でパーティ組んだの? って口に出そうになる。
 流石にお人よしの化身なサディエルも、こればかりは反論があるらしく、槍を弾きながら怒鳴った。

「お前らがそんなこと考えていたのぐらい知っていたさ! そのまま利用すりゃ良かっただろ、今になって前言撤回するっていうのか!」

「あぁそうだ」
「はい、撤回させて貰います」

 はっきりと言い切られて、サディエルの動きが止まる。

「あのな。僕ら、何年一緒に旅をしてきた。5年だぞ5年。お前にほだされるには十分過ぎる時間だ」
「ですが、私たちも最初に頷いてしまった手前、もうやめて欲しいと、言えなかったんです。サディエル、貴方に否定されるのが、怖かったんです」

 人間不信の原因は様々だが、共通しているのは『これ以上、傷つきたくない』と言う強い感情だ。
 人間関係でつらい思いをした人は、相手が好意的に接してくれていても、心のどこかに不安や恐怖があり、うまく人付き合いができなくなる。

「お前が僕らに傷ついて欲しくない、死ぬような目にあって欲しくないと思うように……僕らだって、ずっとそう思っているんだ。いつからか、って言われたら……もう忘れたけどな」
「アルム……」

「本来ならば、もっと早く私たちが自分の口で言えばよかったのです……怖くて、全部ヒロトに押し付けていました。貴方がパーティを離脱すると言った時も、痣の効果で弱体化したと分かった時も、他にもたくさん」
「リレル……」

 サディエルを説得する時、2人は常にオレの味方になってくれていた。
 けど、それも理由があった。

 2人は怖かったんだ……素直にサディエルにそう言うことで、今みたいに約束が違うと拒絶されることが。

 最初が最初だったせいで、本当に彼を心配しているのだと言う事が、伝わらないんじゃないかと。
 だから、2人は自然な流れでオレの背中を押しつつも、代弁させていたってことか。

「サディエル、約束をしなおそう。何かあったら、みんなで何とかする。お前1人がまず犠牲になるんじゃない」
「貴方と、私と、アルムと、そして……」

 2人はこちらに視線を向けてくる。

「ヒロトと、4人で。今も、何か隠していらっしゃいますよね? 教えてください」

「………そんなに、分かりやすかったか?」

「はい、今回は珍しく」
「いつもだったら分からなかったけどな。それだけお前も切羽詰まってたんだ」

 アルムたちの言葉を聞いて、サディエルは視線を逸らす。
 だけど、観念したのか両手を挙げる。

「「と言うわけで」」

 スッ、と2人は自身の武器を振り上げる。
 そのまま遠慮なくサディエルの両肩に直撃させた。

「――――っっ!!」

 声にならない悲鳴と共に、サディエルは両肩を抑えて蹲る。

「ほい、サディエルも戦闘不能。ったく、この大馬鹿リーダーはホントさ」
「仕方ないですよね。今更ですけど」

 そんなサディエルを無視して、2人はオレの所にやって来た。

「ヒロト、お前にも謝っとかないとな。色々悪かった」
「私たちが言いづらかったこと、結果的に貴方に全部押し付けておりました」

「それはいいよ。オレも2人に背中を何度も押してもらったから、お相子だよ」

 オレの返答に、アルムとリレルは嬉しそうに笑う。
 全く、出会った当初からそんな雰囲気を欠片もださなかったってのが、本当に信じられないよ。

 この、似た者同士の、お互いを本当に信頼し合ってたのに、その信頼故に5年も言い出せず、猫かぶりしまくっていた面倒な3人組はさ。
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