異世界転生 剣と魔術の世界

小沢アキラ

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第一部・三章 魔術の街・アースリア

第二十三話

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 衝突した刀身から火花が散り、そのまま鍔迫り合いに持ち込む。
 俺は、ジュウオンジが使用する剣に驚愕した。
 最初は、真正面から衝突した瞬間剣が折れ──まではせずとも弾けると思い込んでいた。
 だが対峙する男の剣は、折れるどころか刃こぼれ一つしていない。
「驚いたぜ……」
 こちらの考えを読んだのか。拮抗状態にも関わらず、余裕の笑みを浮かべたジュウオンジが、不意に言った。
「俺の剣は少し特別性でね。並の代物なら、今のでへし折れてるのに、お前の剣は折れてない。かなりの業物な証拠だ」
「……それはこちらの台詞だ」
 短くそう答え、お互い後方へ飛び退く。
 着地すると同時に、鍔迫り合いの間に蓄えていた炎素を詠唱し、掌の上に野球ボールサイズの炎素を灯す。
 《形状変化・スピア》と《加速》の構文を加え、細い槍と化した炎素を投擲する。昨晩編み出した魔術《炎の槍砲》だ。
 槍は弾丸の如き勢いで目標へと向かっていく。
 まだジュウオンジは着地していない。完璧に不意を突いた一撃に、観客はざわつく。
「…………オラァッ!!」
 だがざわつきは、裂帛の気合い声によってかき消された。
 鋼色の刀身が煌き、横薙ぎする。
 炎素の槍は折れており、光の結晶となり散った。
 不意を突き、加速された魔術を、筋力だけでへし折るなんて。
 これがジュウオンジ。改めて、アースリアの上位修剣士なのだと認識させられる。
 だからと言って、諦めたわけじゃない。
「一本で駄目なら、当たるまで撃ち続けるだけだ!」
 叫び、指輪に炎素を宿す。
 そして前方に、巨大な魔術陣を展開する。
 観客は一際ざわつき、ジュウオンジの顔にも驚愕の色が滲み出ていた。
 魔術陣は、高位魔術を使用する時に現れるサークル。
 魔術陣にも構文を加えることが出来る他、中に別の魔術を発動待機させることが出来る。
 指輪に宿った炎素に《形状変化・アロー》と《複数》の構文を加える。
 右足を前に踏み込み、拳を勢いよく突き出す。
 指輪に宿った炎素は数百本の矢となり、展開された魔術陣目掛けて飛んでいく。
 そして、魔術陣を通過した矢の姿が変貌する。
 待機させていた鋼素によって矢の強度が上がり、先ほどと同じ《加速》の作用によって、更に勢いを強める。
 複合魔術《鋼炎の雨》。弾丸と化した炎素の矢は、全てジュウオンジに向かって飛翔している。
 一本でも当たれば致命傷になりかねない威力。それが無数にあるんだ。全部避けるのは無理だ。
 勝利を確信した、次の瞬間。
「はああああ!!」
 再度裂帛の気合が迸る。右手に握った剣を、鋭く前に突き出す。
 まっすぐ伸ばされた剣は、思いも寄らない軌道を描いた。眼にも止まらぬ速さで閃く五指を中心に、風車の如く回転したのだ。
 目を見張るのは、回転速度だ。一体指をどう動かしているのか、刀身は視認が不可能なほどの勢いで旋回し、そこに半透明の盾が出現したように見える。
 降り注ぐ炎素の矢が、半透明の盾に接触した。
 鋼素で強度が増した矢は、回転する刃によって幾千にも引き千切られ、放射状に飛び散る。
 回転する刃の勢いが収まる頃には、ジュウオンジの周囲に光の結晶が飛び散っていた。
「中々面白い策だが、似たような策をアイツとの決闘時に味わってんだ。対処法は心得てるつもりだ」
 未だ余裕の笑みを浮かべながら言われ、カズヤは僅かながら焦りを見せた。
「だったら!」
 焦りを隠すように叫び、剣を力任せに振り下ろす。
 空間を斬り裂き、不可視の斬撃波が出現。斬撃波は、音もなくジュウオンジに向かっていく。
 遠距離からの斬撃など卑怯だが、そんな余裕などない。
 この男に勝つ。その一心で振るった斬撃波だったが、それをもジュウオンジは余裕な動作で対処してみせた。
 余裕の袈裟懸け一つで、斬撃波はガラスが割れたような音を立てて粉砕された。
 剣を振り下ろした体勢のまま、思わず硬直する。
 こちらの策が、一つも通用しない。
 得意魔術の炎素による魔術も、剣による斬撃波も、全て破られた。昨晩、ワタルとサヤが一緒に考えてくれた策が、呆気なく破られるなんて……。
 情けなくも、観客席にいるワタルたちに視線を向けた。彼もまた、俺と同じぐらい驚いている。
 すぐに顔を戻し、俺は何個もの策を検討した。だが結果は全て粉砕か消滅のどちらかだ。
「どうした。もう終わりか」
 挑発的な言葉を投げかけられるも、反応など示さず沈黙する。だがジュウオンジは、続けて言った。
「期待はずれだな。剣は一級品でも、使い手が点で駄目だ」
 その発言に、俺は僅かながら反応した。
「策が効かなかっただけで落ち込み、自ら前に出て攻めようとする度胸もない。あるのは、少しだけ使える脳だけだ。なんでお前みたいな奴が、そんな剣を持ってるのか不思議なくらいだな」
 長々とした説教が終わると、カズヤの中で、ありとあらゆる策を脇に押しやる、一つの感情が音を立てて弾けた。
 具体的には、結構カチーンと来た。
 反射的に返した言葉は、心に思ってるものだった。
「だったら証明してやるよ! 俺がこいつに相応しいことをな!」
 子供みたいな言い分に驚いたのか、それとも呆れたのか定かではないが、ジュウオンジの顔に笑みが刻まれた。
「面白い……なら、打ち合いで決めるか」
「望むところだ……」
 ジュウオンジは両手で緩やかに剣を持ち上げていく。刀身に陽炎のように揺らぐのは、炎素が付与された証拠だ。
 ズッ、と一際重々しい揺らぎを放ち、最初と同じ、大上段の構えを完成させた。
 カズヤは、緩やかに動く黒い剣の切っ先がピタリと据えられると、刀身に炎素を宿す。
 剣が燃えるように炎素が付加されると、剣を担ぐように構える。
 二人の闘争心が最大限に膨れ上がった、刹那──。
 開始同様、地を蹴り急接近する。
 ジュウオンジは上段斬りを、カズヤは袈裟懸けを繰り出した。
 強烈な衝撃音が修剣場全体に鳴り響き、二本の剣が咬み合う。
「う……おおッ!」
「ぬう……んッ!」
 同時に唸り声を漏らし、互いに相手の剣を弾こうと力を振り絞った。
 先程まで余裕の笑みを浮かべていたジュウオンジだが、既に笑みは消えており、眉間に深い谷を刻んでいた。
 一瞬でも力を緩めれば負ける。二人は同じことを考えた。
 切り結ばれた剣の交差点が白熱し、細かいスパークが散る。巨大な圧力を受け止めている試合場の分厚い床板がみしみしと悲鳴を上げる。
 宿っていた魔術が干渉し、互いに消滅していく。空気は熱を帯びて灼熱の息吹と化し、修剣場に熱気がこもる。
 均衡状態が二秒、三秒、四秒続いた──その時。
 ピキンッ。
 と、何かが弾ける音が、二人の耳に届く。
 次に、視界の端に何かの欠片が入ってきた。
 ジュウオンジの刀身に、微かな亀裂が生じる。
 目を凝らさなければ見えないほど小さいそれであったが、極限状態に陥った双方は見逃さなかった。
 亀裂を見たジュウオンジが一瞬動揺を見せ、剣に込められる力が微かに緩む。
 俺は、それを見逃さなかった。
「うおおおおっ!!」
 千載一遇のチャンス。気合声を迸らせ、片手持ちから両手持ちに切り替え、全体重を乗せる。
 だがしかし、剣は弾けなかった。
 その時俺は、剣を通じてジュウオンジの想いが伝わってきた。
 ──負けられないんだよ! 俺は!
 そんな咆哮が聞こえた気がした、次の瞬間。俺の両腕を、これまでに数倍する圧倒的な重圧が襲った。
 一際強く燃える炎素を纏った剣が、俺の黒い剣をギリギリと軋ませながら押し込んでくる。懸命に踏みとどまろうとするが、両足が少しずつ後ろに後退する。
 これが、この男の強さの根源。絶対に負けられない思いが、男の剣に重さを加えたのか。
 そんなことがありえるだろうか。人の思いが、剣に通じるなんて。
 もしそれがあり得るなら、勝機はある。
 ──俺にだって、負けられない理由がある!
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 それだけじゃない。ここで躓いていたら、魔術剣修道学園の卒業なんて、夢のまた夢だ。
「負ける……ものか!!」
 声ならぬ声で叫んだ、その一言と呼応するように──。
 剣に宿る炎素が、一際激しく燃える。
 漆黒の刃に宿る炎素は、相手の炎素すら取り込み、完全に消滅──いや、呑み込んだ。ワタルが俺にしたのと、同じように。
「なんだと!?」
 驚愕の声を上げるやすぐに、俺は剣を押し込んだ。
 魔術の宿った剣と魔術の宿らない剣。それらの衝突で生まれる未来。それは、魔術の宿った剣の勝利しかない。
 亀裂は徐々に広がっていき、やがて刀身全体を覆うと、剣は豪快な炸裂音を鳴らし砕け散った。
 それはまるで、試合終了を知らせるように、修剣場に静かに鳴り響いた。
 この時点で、勝敗は決していた。
 武器を失ったジュウオンジに、カズヤの攻撃を防ぐ術はない。
 このまま剣を納めれば、カズヤの勝利としてこの決闘は幕を閉じる。
 だが決闘は終わらなかった。
 柄しか残っていない剣を放り投げると、ジュウオンジは片手で炎素を形成。
 至近距離で炎素が解放され、俺とジュウオンジは後方へと吹き飛ばされた。
 瞬時に炎素だと判断したカズヤは、咄嗟に風素を詠唱し、衝撃を逃すために後方へ一歩早く吹き飛んでいた。
 二人とも倒れることを拒否し、前傾姿勢を保ったまま足を踏ん張る。靴の底が、試合場の床板と擦れて煙を上げる。
 それぞれ二本の焦げ跡を刻みつつも、両者境界線ぎりぎりで踏みとどまった。
 瞬時に体勢を立て直し、剣を中段に構える。
 そして、目を見張った。
 武器を失ったジュウオンジに、俺の斬撃を防ぐ術はない。残された選択肢は降参しかない……。
 はずなのに、ジュウオンジから放たれる気迫は緩まず、むしろ増している。降参する気など毛頭もなく、武器を失ってなお戦いを続行する覚悟が、スチームブルーの双眸から放たれている。
 凄まじい気迫に押されていると、ジュウオンジは近くに落ちていた柄を拾い、両手で持った。
「はああああー!!」
 長い気勢を迸らせると、刀身があった空間に、鋼素に変換された魔素が集約していく。
 視認可能な量が集約されると、眩い輝きを放ち始める。
 輝きが収まると、失われた刀身ほどではないが、美しくも立派な剣が出来上がっていた。
「まじかよ……」
 衝撃的な事象に対し、無意識に漏れた。
 魔術で物質を形成するのは困難を極めるが、不可能ではない。高位魔術師の中には、鋼素から矢を形成するものもいる。
 鋼素で刀身を作り上げるのも、論文で不可能ではないと証明されている。だがそれを実現出来る人間は、限りなく少ないとされている。
 長剣ほどの刀身を鋼素で一から作るとなれば、絶大な集中力と、強い創造力、そして意志の強さが求められる。
 魔術は使用者の精神状態が大きく左右される。
 使用者が負の感情──恐怖や憎悪を背負っていると、魔術の質は格段に下がる。逆に、常に凛々しく、高貴な精神を持ち合わせていれば、魔術の質は格段に上がる。
 ──あの男を動かしてるのは、一体なんなんだ。
 背中に伝う冷や汗を意識しつつ、胸内で呟く。
 そこまでして勝ちたい理由とは、一体……。
 でも、何故だか解る気がする。
「剣士だから……か」
 ジュウオンジを動かしているのは理屈なんかじゃない。剣士としてのプライドと誇りが、彼を突き動かしている。
 強い意志で形成された長剣を見た時、俺の中に眠る感情が刺激された。
 気高く凛々しい誇りに魅入られてなのか、口許が自然と笑みを刻んだ。
 意志によって強化された魔術は、高位魔術に匹敵することがある。
 ジュウオンジが形成した魔術は、確実に高位魔術と同等──いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。
 そんな剣と真正面から対峙したら、一体どうなるのか。その結果を、この場にいる誰もが知る術はない。
 いや、誰かが知るものでも決めるものでもない。
 戦いの決着は、最後まで立っていたものが……意地の張り合いに勝った者が勝者だ。その結果を決めるのは、剣を交えてる二人だ。
「…………ハァァッ!!」
「うおおおおッ!!」
 互いに裂帛の気合を迸らせ、前に出る。
 魔術形成された刀身が、淡い輝きの軌跡を宙に引きながら、右水平斬りが轟然と迫る。
 剣に炎素をありったけ宿し、飛び込み気味の前斬りを放つ。
 ギャイン! と甲高い金属音が響くと同時に、右手を途轍もない衝撃が襲った。
 先程まで手を抜いていたのかと疑いたくなるほどの重さ。一瞬でも気を緩めた瞬間、剣は弾き飛ばされ、体は深々と切り裂かれるだろう。
 だが、引くわけにはいかない。
 友のためとか、そんなのはもうどうでもいい。
 俺はただ……勝ちたい!
「お……おおおおおおッ!!」
 あらん限りの筋力を振り絞り、右足を一歩──前へ。
 ずん、と踏み込んだ途端、二本の剣の交差点に凝縮されたエネルギーが、密度に耐えかねたかのように弾けた。
 先程の炎素に負けず劣らずの暴発を起こし、双方再度後方へと吹き飛ばされた。
 双方とも、剣は大きく跳ね上げられたままだ。
「せいああッ!!」
 短い気勢を迸らせ、俺は地面を蹴った。剣を後方に大きく振りかぶり、もう一度上段斬りを繰り出す、が──。
 ちっ、とわずかに胸元を掠め、床板の寸前で停止した。
 俺とジュウオンジは至近距離から顔を見合わせ、生まれたごく短い停滞を、鋭い声が切り裂いた。
「そこまで!!」
 反射的に飛び退り、十分過ぎるほど間合いを取ってから剣を下げる。正面では、ジュウオンジも同じように戦闘姿勢を解いている。
 それを確認してから、審判なしの決闘に、一体誰が口を挟んだのだろうと思いながら、声の方向を見やった。
 そこに、最初に会った講師の姿があり、驚愕のあまり絶句した。
 何故彼女が審判のような真似を。
 という疑問に囚われて立ち尽くしていると、魔術の消えた柄を持ったジュウオンジが、すたすたと近づいてきた。
 難癖でも付けにきたのかと警戒したが、出された言葉は的外れなものだった。
「あの講師の裁定ならば、従わなきゃな」
「……え、ええと……なんで?」
「知らないのか。あの人は、五年前の中都剣術統一大会に於ける、第一代表剣士なんだぞ」
 ええ────!?
 と目を剥く俺に視線を戻すと、ジュウオンジは、またもや意外な発言をした。
「中々やるじゃねぇか。見直したぞ、カズヤ」
 初めて名前で呼ばれた衝撃は、絶句した俺の口をこじ開けた。
 今、俺のこと褒めたのか? その事実が、どうしても頭から抜けなかった。
「……今回は、俺の負けにしといてやる」
 またもや放たれた意外な言葉に、今度は口を出せた。
「な、なんでだ。今回の決闘は、どう見ても相打ちじゃ……」
「お前如きに苦戦するようじゃ、ワタルに挑めねぇよ。だから、今回は手を引いてやる」
 物分かりの良すぎる発言に、思わず口を閉じ、同時に身を翻す。
 悠然とフロアを横切り、出入り口から外へと消えた瞬間──。
 うわあっ、という大歓声と拍手が修剣場いっぱいに響き渡った。ぎょっとして左右を見回すと、いつの間にか観客席全てに座る生徒や講師たちまでが盛んに両手を打ち鳴らしている。
 これだけの人数に歓迎された経験などなく、少しだけ照れながら、右手に提げていた剣をちらりと眺めた。
 無理させてごめん。今日はゆっくり休んでくれ。
 相棒に労いの言葉を送り、左腰の鞘にチンと音を立てて納める──や否や、
 ばしん!
 と猛烈な勢いで後ろから両肩を叩かれ、軽く飛び上がった。肩を掴む手は乱暴に俺を反転させ、すると目の前にあったのは、顔をくしゃりと歪めたサヤの顔だった。
「…………無茶して……斬られたと思ったじゃない」
 俺にしか聞こえないであろうボリュームの掠れ声に、こくりと頷く。
「そうだな……俺も、本気で斬られると思ったよ」
「…………馬鹿。そう思ったんなら……降参しなさいよ」
 瞼がぎゅっと閉じられ、長い睫毛が小刻みに震え、大きく深呼吸してから目を開けた。深い紺色の瞳には、かつてないほど優しい光が浮かぶ。
「でも……いい戦いだったよ。剣も魔術も、今まで培ってきた知識のお陰ね」
「それは、サヤとワタルが……手伝ってくれた…………から、だよ」
 言い終わると同時に、全身から一気に疲労がこみ上げてきた。膝に力が入らず、そのまま前に倒れる。
 次に俺は、最悪な事態を招いてしまった。
 倒れていく体が、突如勢いを止め静止した。
 視界は一気に暗くなり、鼻腔には甘い香りが入り込んでくる。一体何で止められたのか知らないが、凄く気持ち良くて、不思議な気持ちになる。
「あ……あんたね……」
 耳に届いたのは、怒りで震えた声だった。
 そして俺は、今自分が何に持たれているのか理解した。
「人の胸で寝るな!!」
 腹パンを見事に直撃し、カズヤは空中に浮き、くの字に折れ曲がった。
 そのまま呆気なく地に伏し、意識を失った。

   ***

「ジュウオンジさん」
 修剣場から去ろうとする男の名を呼ぶと、ゆっくりと振り返ってきた。
「……何だ」
「聞きたいことがあるんだ」
「さっきの決闘のことか……」
 意外と察しがいいことに感嘆しながら、続けた。
「あの決闘、あなたなら勝てた筈だ。なのに何故、自分から負けを認めるような真似を」
 そう。
 あの決闘、あのままいけばカズヤは善戦した後に敗れていた。
 敗因は、体力切れ。既に二度も──一方は複合魔術を使い、剣に炎素を何回も宿した時点で、カズヤはかなり消耗していた。
 ましてや全部が最大の威力を出していたため、精神にも疲労をきたしていた。
 それはジュウオンジも承知のはず。あの方の裁定に従ったのは分かるが、こうもあっさり引き下がるとは思えない。
 そんな葛藤を見透かしたように、ジュウオンジは仕方なさそうに答えた。
「別に、ただの気まぐれだ」
「気まぐれ……?」
「俺がカズヤに勝てば、あの剣は俺のものになっていた。だが手に入れたところで、あいつ以上に使いこなせないと察したから負けを認めたんだよ。お前と善戦したあいつ以上に剣を扱えなきゃ、お前には勝てないからな」
 そう言うとジュウオンジは、もう用はないと言わんばかりに身を翻し、その場を去って行った。
 ──あのジュウオンジが認めるなんて、カズヤは本当に面白いな。
 その時僕は、思わずこう叫んだ。
「ジュウオンジさん! もしまだ僕に挑む気があるなら、いつでも申し込んで下さい! その度に、返り討ちにしてあげるから!」
 それを聞いたジュウオンジは右手を上げるだけで、それ以外の反応を示さなかった。
 彼の姿が見えなくなると、僕は今回の勝者の元へ赴くために、修剣場へと戻って行った。
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