異世界転生 剣と魔術の世界

小沢アキラ

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第二部・第三章 天界の騎士・セレナ

第十六話

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 二人の足音だけが響き渡る階段。隙だらけのようで全く隙のない背中。余裕のある足取りで動く両足。
 大男の後ろを歩きながら、俺は騎士を観察し続けた。一挙一動隈なく眼を見張り、不穏な動きをしないか観察するも、大男は一切不穏な動きを見せずに、顎を撫でながら歩いている。
 本気なのか? 隙がないとはいえ、何者か知らない俺を背後に置いて、大剣に手を置かずに歩いて、何故この人はこうも余裕たっぷりなんだ?
 清々しいほどの態度なのも、俺如きなら身構える必要もないと言いたいのか。いや、俺だけじゃない。
 人界に住む……平和ボケした奴に、背中を見せるぐらいどうってことないと言いたいのか。
 行き場のない苛立ちに腹を立てながら下りていくと、前を歩く大男が足を止め、振り返ってきた。
「着いたぜ。ここが、俺たち天界の騎士が使う修剣場だ」
 階段から下りて見渡すと、つい唖然としてしまう。
 学園の修練場と、何もかも違う。体育館二個分はあるんじゃないのかと思うほどの広大さ。床は木材ではなく、大理石が隙間なく敷き詰められている。
 一人稽古用の丸太は、最高級の金樫木が使われている。壁に取り付けてある特殊鉱石の的の内部には、純度の濃い暗黒石が使われている。
 それだけじゃない。壁に立て掛けてある稽古用の木剣は、どれも中都の職人が何日も掛けて作り上げたように磨かれており、本当に切れてしまうのではないかと疑うほど鋭い。
 質量も実剣以上もあり、これ一本でも並の衛士が扱う剣よりも価値がある可能性がある。
「さて……それじゃ、始めようか」
 見渡してる間に、大男は修練場の中央に立ち尽くしており、余裕綽々な顔で待っていた。
 俺は肩に乗った幼竜を下ろし、中央に近づいて行く。五メルほど離れた所で立ち止まると、カズヤは言った。
「……本当なんですよね。俺が勝ったら、セレナについて教えてくれるって約束」
 カズヤの問いに、男は軽く首を傾げたが、すぐに「ああ」と声を出した。
「少年が俺に一太刀でも入れられたら勝ちにしてやるよ。そうでもしなきゃ、一生終わらないからな」
「……分かりました。なら、ここの剣をお借りしますね」
 壁に立て掛けてある長剣に視線を向けながら言うと、男はとんでもない発言をしてきた。
「少年の腰にある剣、それで構わないぜ」
「は!?」
 男の発言に、声を荒げてしまった。いや、荒げる他ない。
 一太刀でも入れられたら勝ちと言ったが、焔天剣で斬られれば、腕一本を失うことになる。最悪の場合、首を切ることにもなる。
 騎士の実力を見誤ってるわけではないが、流石にそれは了承できない。暗黒騎士ならまだしも、人界の戦力たる騎士を、自らの手で殺めるのだけは勘弁だ。
「……貴方は知らないでしょうが、焔天剣の斬れ味を侮らないほうがいいですよ。四肢を失う覚悟が、必要になりますからね」
 大袈裟な脅しのように聞こえるが、事実を述べると、偉丈夫は肩をすくめる。
「余計な心配は不要だぜ。オレはお前さんに負けるつもりはねぇからな」
 なんなんだ、この人は……余程自分の剣技に自信があるのか、それとも俺を舐めているのか。人界の緩い剣技なんか、脅威でもなんでもないといいたいのか。
 奥歯を噛み締める音が響き、カズヤは剣の柄をきつく握った。両眼にいっそう力を込め、挑発的な台詞をぶつける。
「貴方の要望通り、愛剣で相手をしてあげます。もし腕が斬れても、恨まないでくださいよ」
「ふっふ、安心しな。お前さんの剣に当たる気も、当てられる気もないからよ」
 にやっと笑い、男は肩から外した大剣を右手でゆっくり抜いた。左手に残った鞘を、幅広の帯に無造作に差す。
 少し黒ずんだ肉厚の刀身は、丁寧に磨き込まれているものの、全面にうっすらと残る無数の古傷が天井からの灯りを反射してぎらぎらと光った。鍔も柄も、刀身と同じ材質の鋼でできているようだが、これまで出会った騎士たちが携えていた武器と違って華美な装飾は一切施されていない。
 と言って、決して軽んじていい武器ではないことは遠目にも明らかだ。気の遠くなるような年月の間に膨大な量の血を吸い込んできたのだろう、ある種の妖気のようなものが鈍色の刃にまとわりついている。
 
 すーっと長く息を吸い込みながら、カズヤも左腰の愛剣を鞘走らせた。
 男は、その偉軀に見合った勇壮な動作で、右手の剣をほとんど垂直に掲げながら右足を引き、どっしりと腰を沈めた。見栄え重視の基本の構えに似ているが、少し違う。あんなに剣をまっすぐ立ててしまっては、剣を振り下ろす際余計な動きが必要となる。
 そう感じたカズヤは、暗黒騎士に対して放った、実戦を想定して編み出した、自己流の構えを取った。
 全身の力みを抜き、剣を右肩に載せるように構えたカズヤを見て、男の眉間に新たな縦皺が刻まれた。
「変わった構えだな、少年。……もしやお前さん、実戦経験があるな?」
「…………!」
 ぼそりと発せられた問いを聞いた瞬間、カズヤは鋭く息を吸い込んでいた。
 構え一つから見抜くとは、やはり男は只者ではない。
 しかし、たとえカズヤに戦闘経験があることを察したとしても、俺の剣筋までは見切れないはずだ。
「……だとしたら、何だって言うんです」
 低い声で問い返すと、男はふん、と鼻を鳴らした。
「人界の民にしては珍しくてな。それに、かなりの場数を踏んでるはずなのに、さっき階段を歩いてる時、やたら隙だらけだったから、意外だなぁ、と思ったんだよ」
「……隙だらけだと?」
 ふざけた冗談が得意なのか? 今ほどではないが、確かに俺は男をかなり警戒していた。常に剣を抜けるよう身構えもした。
 それが、こいつには隙だらけに見えたなんて、信じられない。
「今はさっきに比べればマシだが、お前さんが経験してきたのは、生温い戦闘ばっかりだったんだな」
 唇の片端をねじ曲げてニヤリと笑うと、男は右手でまっすぐ構えた大剣を、いっそう高々と突き上げた。
 直後、カズヤはもう一度息を詰めていた。使い込まれた灰色の刀身が、陽炎のように揺れたのだ。炎素を宿したのかと思ったが、どんなに目を凝らしても、大剣それ自体が揺らいでるようにしか見えない。
 ──まさか、解放術を使っているのか。
 構えを取ったまま、懸命に考える。
 眼前の男の解放術がどのような技なのかはまだ解らない。ならば不用意に近寄らず、焔天剣の斬撃波を飛ばして決着をつける。いや、それでは一太刀には入らない。無理にでも接近しなければならない。
 ならば、残された道は一つ。男が斬撃を繰り出す──解放術を発動する瞬間の隙に斬撃を撃ち込み、勝負を決めるしかない。ここからの跳躍攻撃を繰り出せば、相手は対応できないはずだ。
 肚を決め、カズヤはありったけの集中力を両眼に込めて、男の全身を注視した。
 彼我の距離は約六メル。
 奴の刃圏範囲外。それでも解放術を詠唱し、動かずにいるのは、解放術が斬撃の間合いを伸ばす系統なのだろう。それをどうにか回避して、逆襲の一撃を決める。
 カズヤの読みどおり、男はその場に立ったまま、右腕で垂直に構えた剣をゆっくり振りかぶった。笑みが消えた口から、修練場全体を震わせるほどの大音声が迸った。

「騎士長──ヒサカゲ、参る!!」
 
 騎士長だと!?──という思考が一瞬脳裏に閃いたが、カズヤは雑念をうち捨て、敵の技を見切ることだけに集中した。
 ずしん、と重い音を轟かせ、騎士長を名乗る男の左足が大理石の敷石を踏み締めた。
 恐ろしく早く、それでいながら悠然とした動きで、逞しい腰、胸、肩、そして腕が回転した。まっすぐ掲げられていた剣が、まず右に倒れ、次いで真横に振られていく。膨大な年月を費やした修練のみが実現し得る、無造作でありながら完成された動き。
 しかし、あらゆる型にも、共通する弱点はある。形があまりにも堂々としすぎているが故に、攻撃の軌道を予測できるのだ。騎士長の剣が水平に切り裂き始めた時にはもう、カズヤは左前方に跳んだいた。仮に、解放術が俺のと同じものだとしたら、ギリギリの間合いで回避できるはずだ。
 ぶんっ、と右の耳許で空気が震えた。だが、痛みも衝撃も訪れなかった。
 ──避けれた!
 そう確信したカズヤは、次の踏み込みで、決着をつけようとした。
「お……おおおっ!」
 気合と同時に、剣が煌めく。脳から伝達された指示通りに体が動き、剣を振り終えた体勢の騎士長目掛けて突進する。
 背後でも、先刻回避した剣風が、修練場の壁に命中した大きな音を──……

 いや。
 何も聞こえない。
 騎士長が飛ばしたはずの斬撃波は、そんなに遅かったのか? それとも、背後の壁まで届かずに消えてしまった? 
 まさか。仮にそうだとすれば、騎士長、つまりカムイやキクノより強いはずの男の解放術は、若輩のキクノにすら劣っているということになる。彼女の鎖鎌の解放術は、光のように速く、自らの飛距離を伸ばしていたのだ。
 そんなことがあるはずはない。ならば、騎士長の解放術は、遠隔攻撃系ではないということか。事実、カズヤは一切傷を受けていない。
 じゃあ、男がやったことは、単なる素振りだというのか。学園で初めにする準備運動を、戦闘の最中にしたというのか。
 ──どこまで馬鹿にすれば気が済むんだ!
 ──そこまで見下すなら、見せてやる! あなたが見下す人界の剣技が、人々の努力が、どれだけ素晴らしいのかを!
 そう感じた瞬間、頭の芯がかあっと熱くなった。
 学園の実技で習った型を繰り出そうと、剣を握る手を力む。人界の民を見下す騎士を、平和ボケと蔑んだ民の剣技で、この男に一矢報いる。
 そればかりに考えが巡っていた。
 
 そのせいで、気付くのが遅れた。
 
 天界の騎士は、戦闘になると騎士道精神を重んじる。如何なる相手と対峙しようと、本気で挑んでいる。
 それは、俺自身が一番見てきた。一年前の亜人の群れ、暗黒騎士、そして脱獄した俺に対して、彼等は最初から全力で戦っていた。
 戦闘に於いて、彼等は本性を表す……
 背中に、深い悪寒が走った。反射的に身を翻し、振り下ろそうとした剣を無理矢理、体の前に持ってくる。

 直後、ありえない現象がカズヤを襲った。

 前に出した剣に、半端じゃない衝撃が襲いかかる。カズヤは、突風に煽られたボロ切れの如く吹き飛ばされ、何回転もしながら宙を舞った。衝撃──斬撃を受けた左腕から、大量の血液が螺旋を描いて流れた。
 背中から落下すると、すぐに左腕を右手で摑む。
「ぐ……あっ……!」
 口内の血液を吐き出す。咄嗟に受け身をしたが、それでも完璧に受け流したわけではない。
 荒い呼吸の中、切れ切れに治癒術を唱える。幸い、ここは空間魔素が大量にある。とは言え、カズヤの技量では、これまでの深傷を短時間の施術で完治させることは不可能だが。
 どうにか血止めには成功し、ふらつきながら体を起こしたカズヤを、修練場の中央に立つ騎士長が悠然と見下ろした。既に剣を左腰の鞘に収め、右腕を着物の懐に差し込んでいる。
「今のは中々いい反応だったな、まさかあんな無防備で突っ込んでくるとは思わなかったからよ。悪ぃな、殺しちまうとこだった」
 この期に及んでも真剣味に欠ける台詞だったが、もはや反発する余裕もなく、カズヤは痛む肺から掠れ声を絞り出した。
「い……いまの技は……いったい……」
「……いいだろう、特別にヒントをくれてやる。オレは素振りをしたわけじゃねえぜ。少し、変わった斬撃を放ったのさ」
 騎士長の言葉が、頭の中で具体的な意味を持つまでに少し時間がかかった。灼熱の激痛に苛まれる左腕の疼きが、思考を妨げる。

 ──変わった斬撃を……放った、だって?
 現象としては、確かにそう言える。
 カズヤが接近したのは、間違いなく騎士長が剣を振り抜いた後のことだった。
 仮にあの時、高速の斬撃波が飛んできたとする。俺はそれを間一髪で回避した。だが、斬撃波は壁には命中せず、何故だが俺の背後から襲いかかってきた。
 これから推測するに、斬撃波自身の軌道を自由自在に変えることが出来る。既に回避したにも関わらず、背後から何の音もなく接近したということは、騎士長は斬撃波を何かしらの術で遠隔操作した恐れがある。
 だが、騎士長はそんなことしていたか? 回避してからずっと見ていたが、不穏な動きは全くなかった。剣を振り終えた姿勢で、静止していた。

 落ち着いて考えろ……どんな物事にも、必ずタネはある。
 冷静に、焦らずに解明するんだ。異世界に来てから、常に考えることだけは最後までやめなかったじゃないか。

 騎士長は斬撃波に何かを仕組んだ、というのはまずない。解放術に魔術を加えることは出来ない故に、あの奇妙な技は剣の意思によるものか?
 となれば、斬撃波自身に仕掛けがあることになる。先程の推測では、騎士長が仕組んだと推定したが、それがないとなれば考えられるのは一つだけ。
 
 それは、斬撃波自身に意思があることになる。

 先の現象も、騎士長の発言も説明は出来る。
 確実に回避したはずの斬撃波が、追尾するように向かってきた。
 いや──。より正確に表現するならば、剣によって発生した斬撃の威力そのものが独立化し、剣に秘められた意思──解放術の作用によって意思を持った斬撃波となり、敵を延々と追尾する最悪な存在になると言うべきだろう。吹き飛ばされる直前、カズヤは確かに、空中にゆらゆらと揺れる陽炎のようなものを見た。
 剣による攻撃を命中させるためには、《的確な場所》を《的確な瞬間》に斬らねばならない。場所と時間のどちらかがずれても、剣は敵に当たらない。
 恐らく、騎士長の解放術は、その二つの条件のうち、場所のほうを拡張するんだ。剣を振り終え、斬撃波が発生した途端、敵を斬るまで追尾することで場所が拡張する。
 なんとも恐ろしい解放術だ。言い換えれば、剣が振られる度に厄介な敵が増えるということになる。しかも一本が弱いわけでなく、強固な斬撃波なのが辛い。
 剣と剣による接近戦など、とても望めない。まず、近寄れないのだから。
 ──ならば、斬撃波が放たれる前に接近し、剣で受け止めるしかない。
 騎士長の解放術は、振り終えなければ発動しない。ならば、振り終える前に接近し、剣で受け止めてばこれ以上敵は増えない。
 恐ろく、男の剣速は二秒足らずで振り終える。それを一気に詰めるのは困難だが、しかし、やるしかない。
 一か八かの勝負に出る覚悟を決め、カズヤは右手で左腕に触れてみた。びりっと鋭い痛みが走るが、もうしばらく動いても傷口は開くまい。もちろん完治には程遠く、満足に動かないが、剣だって触れる。
 静かに呼吸を整えるのを、騎士長ほどの使い手がそれを見過ごすはずはない。が、あえてカズヤに時間を与えようとするかの如く、腕組みをしたままのんびりした口調で喋り続ける。
「オレが初めて暗黒騎士と戦ったのは、騎士長の任に就いて間もない頃でなぁ。その時は、そりゃあぐうの音も出ねえほどやられたもんさ。命かながら逃げ帰ってから、なんで負けたのか、何が悪かったのかを、出来の悪い頭で随分と考えたよ」
 騎士長がぐいっと指先で擦った顎の傷痕は、その時のものなのだろうか。
「まあ、解ってみりゃあ難しい話じゃなかったけどな。要は、どれほど強烈な打ち込みだろうと、当たらなきゃあそよ風が吹いたようなもんだしよ……だから、剣の常識をひっくり返したわけよ」
 ひん曲げた唇の端から、ふん、と短く息を吐き出す。
「──しかし、染み付いたモンをすぐさま変えられるほど、オレは器用じゃねえんでなぁ。まったく、創世神どのも、騎士を召喚なさるならもうちっと融通の利くヤツにしとけばいいのによ」
 騎士長は腰の剣に視線を落とし、飄々と語り続ける。
「そんなわけで、足りねえ頭を捻って、どうすりゃあオレの剣が敵に当たるかを考え抜いてな。出した答えが、コイツだよ」
 全体が鋼色の無骨な剣を、鞘の中でかしゃりと鳴らす。
「この剣はもともと、ある不死竜の牙を素材にしてんだよ。その竜はな、首を斬られようが心臓を貫かれようが、敵を噛み殺すことをやめないほど執念深い輩なんだよ。死してなお、その魂は剣に込められてる、てわけだ」
「……だから、斬撃波が執拗に追ってきたんですね」
 剣を構え直しながら、平静を装いながら言い返す。
「正解。どうやらお前さんは、頭の方は回るらしいな」
 騎士長は遥かな過去を覗くかのように眼を細め、再び口を動かした。
「オレの解放術は、斬撃波自体に意思を宿らせ、延々と相手を追いかけるモノを生み出すもんだ。斬撃の質はオレの腕次第で長くも短くも、複数出すことも出来る。銘は《斬穿剣》……斬ると言う常識を穿つ剣だ」
 やはり、騎士長の解放術は先の考え通りの代物だった。しかも、己の腕次第で複数出せるだと?
 騎士長ということは、間違いなく人界最強の男だ。それだけの実力者なら、無限に斬撃波という名の追尾弾を放てるに決まっている。
 奴の剣技はもはや無敵だ。間合いから離れていようが、襲いかかってくるのだから。
 いみじくも騎士長が口にしたように、対抗する手段はただ一つ。場所ではなく、瞬間で勝負するしかない。
 と、カズヤが考えたのと同時に、騎士長はニヤリと笑った。
「となりゃあ近距離から一瞬の隙を狙って攻める手だ、と考えるんだな。オレと剣を交えた奴は、みんな」
 いきなり思考を読まれ、ぎくりとするが、今更考えを改めるつもりはない。近距離攻撃を仕掛けるところまでは予想できても、技の性質を知る術はないはずだ。そんなカズヤの内心を知ってか知らずか、騎士長は軽く肩をすくめる。
「キクノみたいな、オレよりも後に召喚された騎士は、全員瞬間を狙う解放術を選ぶ傾向があるのは、オレと剣を交えたせい……ってのもなくはねえだろうなぁ。しかし言っとくが、オレは部下の立ち合いで負けたことはいっぺんもねぇぜ。もしオレに勝ったら、そいつに騎士長を譲るつもりだしな。もちろん、お前さんにもその権利はあるぜ」
「……余裕、ですね」
 どうやら、騎士長が長広舌を揮っていたのは、本当に俺が万全な状態になる時間を与えるためだったらしい。どのような技であろうとも、絶対に当たらないという確信があるのだろう。
 
 舐めるなよ……俺だって、それなりの意思はある。
 
 数多くの使命を果たさなければいけないんだ。こんなところで躓いてる暇なんて、俺にはないんだ。
「ふっふ、来るかよ、少年。言っとくが、手加減しねぇぜ」
 着物の帯に刺した斬穿剣の、鋼鉄製の柄をぐっと握って騎士長は太く笑った。
 離れた場所で、カズヤも剣を正面に構えた。普段なら、ここで何か言い返しているのだが、口はからからに渇き切って、とても滑らかに動きそうにはなかった。
 もう小細工はなしだ。人界の人たちが積み上げてきた、長い歴史を持つ剣技で、騎士長を倒す!
 その一心を胸に、カズヤは騎士長に突撃した。
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