66 / 98
第二部・最終章 最高の騎士
第二十八話
しおりを挟む
精神を支配されたカズヤを前にした時、カムイは瞬時に判断した。
彼の意思はまだ、残ってる。
赤く光る双眸には、まだほんの少しだけ、人間味のある感情が宿っている。それが何かは分からないが、人ならざる存在が持たないものなのははっきりと分かる。
今ならまだ、助け出せるかもしれない。
だが、生半可な語りかけでは無理だ。脆弱した彼の精神を呼び戻すのは、外からの呼び掛けだけでは到底戻りはしない。
となれば、方法は一つ。
剣を交えて、うちに眠る意思を呼び起こす。
人界の剣は、己の命を預けるがゆえに、刃に込められたものは相手の魂にまで届く。憎しみから解き放たれた剣は、時として言葉を超える交感を生み出す。それを利用して、彼の意思を内側から呼び掛ければ、きっと蘇る。
しかし、それも難しい。今の彼の体は、邪教神との戦闘で限界が来ている。少しでも力加減の調整に失敗すれば、最悪体が壊れてしまうかもしれない。
どうすればいい、必死に思慮を巡らせている間に、カズヤが突然身を翻し、背後の焔天剣と向き合う。
すると突然、焔天剣に突き刺さる亡骸──かつての肉体を雑に抜き取り、遠くへ投げ捨てた。突き立つ剣を抜くと、平然とした表情で向き直り、剣を構えてきた。
「……不思議だ。この剣の方が、妙にしっくりくるぞ」
感慨深く呟くと、カズヤの両眼に殺気が灯る。
途端、カムイは竦み上がった。全身が強張ってしまい、微かに震えているのが分かる。
まるで、蛇に睨まれたカエルのように、身動き一つ取れない。
この感覚は、意思だけじゃない。体の全細胞が怯えているんだ。目の前に立つ、絶対的な強者に。
カムイはそんな時、ある思慮が浮き出た。
──僕たちの任務は、カズヤくんの救出。それが失敗に終わった今、ここに留まる理由はない。
取るべき選択は撤退だ。
カズヤを見捨てるしかない。我々騎士が一人でも欠けるだけで、人界にとっては取り返しのつかない痛手になる。
酷な選択ではあるが、撤退の選択は間違ってはいない。彼を失うのは残念だが、今は人界の未来を最優先にしなければならない。
と、頭では理解している。
実際、カムイの選択は正しい。創世神の命令にも、無茶な真似はするなとも言われている。ここで撤退し、機を改めること自体は、何一つ間違っていない。
だが、離れに立つセレナも同様に、二人は撤退する気など毛頭ない。
創世神の任務を終えた今、意思決定は騎士自身に委ねられる。此処に残り、彼を助けるために戦うかどうかは、己自身で決められる。
此処で彼を見捨てる選択は、騎士としては許せない。
人界に貢献した若者を見捨て、自分たちだけ無傷で撤退するなど、騎士のプライドに泥を塗るようなもの。そのような無様な真似をするぐらいならば、無茶な真似をした方がいいに決まっている。
二人は全く同じことを考え、思考がカズヤ寄りになっていることさえ一緒に考えた。
彼という存在は、騎士である僕らにも多大な影響を与えた。カズヤという存在を失うことも、人界にとっては大きな痛手になるだろう。
屁理屈のような理屈だが、彼ならきっと、それだけの理由で迷いなく動く。
──なら僕も、それに倣おう。君の無鉄砲で危険を恐れない行動力を、今だけ真似させてもらうよ。
大きく息を吸い、ゆっくりと吐いてから、激凍剣の切っ先をカズヤに向ける。
「我が名は天界の騎士カムイ! 堕天の神邪教神よ、創世神様が愛する人界の民を誑かした罪、貴様の命を持って償え!」
カズヤは口許の笑みを消し、無表情のまま告げた。
「面白い。貴様の腕、見せてもらおうか」
両者が同じ構えを取った。
一秒後。
カムイとカズヤは、同時に大地を蹴った。
カズヤの握る焔天剣と、僕が握った激凍剣が、薄暗い空間に鮮やかな光跡を描いた。
その軌道は、完全なるシンメトリー。剣尖が軌道の頂点に通過するタイミングも、白銀と漆黒の刀身が激突したタイミングも全く同じだった。
カムイは、技をただ出しただけではない。足の蹴りと体の捻り、腕の振りによって斬撃に三重の加速を与えている。
にもかかわらず、カズヤの斬撃は一秒たりとも遅れなかった。つまり、彼もまた技を最大限に加速させたのだ。この技術は、生半可な努力では到底なし得ない技術なのに。
──凄い。
この卓越した剣裁き、鍛錬された剣の冴え、全てが一朝一夕で仕上がるモノじゃない。
きっと、毎日類稀なる努力と研鑽で磨き続けたんだろう。中都までの旅で培った多くの経験を糧に、彼の剣技は磨かれたんだろう。
剣を交える者なら分かる。今の彼の剣は、邪教神の精神だけでは決して再現できるものじゃないと。
地道に、愚直に、剣を振り続けたからこそ、騎士である僕と渡り合えるだけの剣士になれたんだ。
「…………絶対に、助ける」
交差する剣を激しく鬩ぎ合わせながら、低い声を押し出した。
「彼の剣技は、貴様のような悪が利用していい物なんかじゃない。彼の剣は、愛する人……セレナちゃんを守るためのものだ」
「…………」
一歩も引かずに僕の剣を受け止め続けるカズヤは、引き結んだ唇を動かそうとしない。セレナの名前を聞いた瞬間、暗闇の瞳の奥で仄かな光が揺れた気がしたが、一瞬で深い闇に呑まれてしまう。あるいはそれすらも、二本の刀身が放つ燐光が見せた錯覚だったのか。
このまま均衡状態が続けば、数秒後に超高速の近接戦が開始されるだろう。そうなればもう思案に暮れる余裕はない。残されたわずかな時間で、懸命に考える。
彼の精神を呼び戻すには、内側からの呼び掛けが必要になってくる。だが、それは彼と密接な関係にいた者が行って初めて成立する。
彼──カズヤと一番密接な関係にいたのは、間違いなく、ほんの十数メル離れたところに立つセレナだ。
しかし、セレナはまだ若輩。鍛錬された彼の連続剣技を受けさせるわけにはいかない。いや、それ以前の問題だ。
セレナとカズヤが剣を交えるなんて、絶対に認めない。密接な関係である二人が戦い合うなんて、残酷すぎる。
カズヤは僕だけの手で止める。状況によっては、解放術を使わざるを得ない──。
ここまで考えた時、交差する二本の剣が跳ね返される。オレンジ色の火花が飛び散る中、きつく歯を食い縛る俺と、表情を崩さないカズヤは、再び剣を振りかぶる。
「おおッ!」
「……ッ!」
有声と無言の気合を迸らせつつ、完璧に同期したモーションから右上段斬りを繰り出す。激突し、弾き返される刃を、次は右横から撃ち込む。噛み合う刃を滑らせ、左斜め斬り下ろし。これもがっちりと受け止められる。
二度目の鍔迫り合いに移行しながら、カムイは内心で改めて舌を巻いていた。
剣のスペックは同等だが、それを握る人間は同条件ではない。こちらは分厚いプレートアーマー姿に対して、カズヤは上下とも服だけで左腕を損失し身軽になっている。彼の何倍もの重量を身に纏っているのに、斬撃には一秒の遅れもない。
やはり、精神を支配しても身体能力が上昇したわけではないということか。
もしくは、彼はまだ抗っているのか。邪教神の支配を逃れるために、今も戦い続けているに違いない。
氷のように冷たい瞳の奥には、まだ熱く燃えるものが残っている。僕はそう信じる。
それを呼び覚ますためにも、今出来ることを全力でするだけだ。
「……カズヤくん」
あらん限りの力で剣を押し込みながら、囁いた。
「君は本当に、人界の民とは思えないほど勇敢で、立派な剣士なんだよ」
かつては明るく煌めいていたカズヤの瞳は、光を失って濃紺に見える。その奥底を懸命に見詰めつつ、言葉を続ける。
「一年前の、彼女を救い出した君の姿は、本当に素晴らしかった。それだけじゃない。実力差のある暗黒騎士相手に、逃げずに立ち向かっていた。今では、その相手すら圧倒するほどの強さを手に入れていた。……考えたんだよ。本気で剣を交えたら、どちらが勝つのか、ってね。……正直に言えば、いつか君には追い抜かれるだろうって、思ってる」
カズヤは瞬き一つせずに俺の視線を受け止め──いや遮断している。現在の彼にとって、僕は駆除すべき敵に過ぎない。わずかでも隙を見せれば、その瞬間に斬られるだろう。しかし、言葉の欠片ひとつくらいは支配された心にも届くと信じて、締めくくりのフレーズを投げかける。
「……でも、いまはまだ駄目だ。自分の意思じゃなく、邪教神に支配された君じゃ、悪いが俺には勝てない! それをいま、証明する!」
言い終えると同時に、俺は息を止め、全身からかき集めた力を剣に乗せた。
カズヤの眉間にかすかな皺が刻まれ、俺の剣を押し返そうとしてくる。
そのタイミングで、一気に剣を引く。
ぎゃりん! と刃が滑り、薄闇に一直線の火花が咲く。俺は後方に押しやられ、カズヤは前につんのめる。
ここで踏み留まろうとすれば、速やかに体勢を立て直したカズヤの一撃を食らうだろう。勢いに逆らわず、背中から地面へと倒れ込む。視界の隅で、騎士セレナの右腕が左腰へと伸び始める。俺が敗北したと見て取り、華焔剣を抜いて割り込むつもりか。
だが、その判断は二秒ばかり早すぎる。勝敗を決めるのは、俺の仕掛けが奏功するか否か。
背中が地面に叩きつけられる寸前、俺は右足を鋭く振り上げる。
この体術は、彼が爆煙竜火山で暗黒騎士に対し放った、独自の研鑽で身に付けた流派の一部。騎士として体術の訓練も受けているが、彼の異質なものとは根本が違うため完璧には習得できてはいないが、使えないわけではない。
もし、邪教神がカズヤの記憶から此方の剣の癖を読み取っているなら、これは回避できない。この技は、カズヤに見せたことはないのだから。
──決着をつけてやる、邪教神!
胸中でそう叫びながら、俺は彼の顎目掛けて右足を振り抜いた。
この状況でも、カズヤの両眼は乾いた冷気に満たされている。表情を変えないまま上体を捩り、俺の蹴りを回避しようとする。だが、鍔迫り合いから前のめりに倒れかけた勢いがまだ残っている。鎧で保護された爪先が、無防備な下顎に吸い込まれていく。
「ッ……!」
カズヤの口から、鋭い気合が発せられた。
焔天剣を握る右腕が、ぶんっと唸りを上げて真横に動く。だが、今更どんな斬撃を繰り出そうと、俺の蹴りの方が確実に速い。無視して撃ち抜けば先に届く…………
違う。
カズヤ──邪教神の狙いはカウンター攻撃ではない。剣の刀身ではなく柄頭で、俺の体ではなく右足を迎撃しようとしている。
逆手握りでの柄当て。剣技の華麗さや勇壮さを重んじる人界の剣技を学ぶ、人界の民とは使えるとは思えない実戦的テクニックだ。騎士の中でも、実戦慣れした者以外こんな技は使わなかった。
蹴り足を横から打たれたら、軌道を逸らされ隙が生まれてしまう。
ならば、狙うべきは。
「────!」
歯を食い縛り、今に撃ち出されようとしている右足を懸命に引きとどめた。感覚的には一秒半だけ技の出を遅らせ、カズヤの右手を先行させる。
────いま!
ガシィン!!
と硬質な衝撃音が轟いた。
足蹴りは当初狙ったカズヤの下顎ではなく、剣を握る右手の甲を捉えた。鎧の殴打をもろに受け、骨が砕けるのを感じ取れる。
カズヤの右手は真上に跳ね上げられ、手中の焔天剣も弾き飛ばされて、くるくる回転しながら舞い上がり、カムイの後方に突き刺さった。
その様子を、高速で流れる視界の端に捉えながら、俺は後方宙返りからの着地直後に追撃を放つべく激凍剣を握り直した。
右足の靴底が、地面に触れる。膝を曲げ、衝撃を吸収し、体勢が安定するや否や全力で蹴り飛ばす。左足を思い切り深く踏み込み、カズヤの半壊した胸当てめがけて、左下から右上へと斬り上げを繰り出す──。
「────!?」
極端に前傾した姿勢から、斬撃を放とうと起き上がった俺が見たのは、こちらに向けて突き出されたカズヤの右手と、掌の中央に浮かび上がる光点だった。
俺の剣が、カズヤの胸に食い込む、その寸前。
「亡き者となれ」
カズヤの唇から、冷ややかな呟きが発せられた。光点──炎素が炸裂し、発生した爆発的な火炎放射が俺を呑み込んだ。単なる解放だというのに、何重もの魔術構文よりも勝る炎素の奔流に、とても踏み留まれずに襤褸切れの如く吹き飛ばされる。
「ぐあっ……!」
呻き声を漏らしながら、両手を広げて懸命に姿勢を安定させる。殺人的な衝撃に翻弄されつつもどうにか体の回転を止め、地面に両足を向ける。
着地した瞬間、強烈な衝撃が脳天まで突き抜け、しばしその場に立ち尽くしたまま全身の痺れをやり過ごす。さっと顔を上げると、当然ながらカズヤもかなり後方まで反動で押しやられている。腰を落とした姿勢から悠然と直立するその顔は、小憎らしいまでの無表情を貫いている。
遅れて俺も立ち上がると、右側からかすかな声が届いた。
「……本当に、あの者はカズヤなのですか」
そう訊ねるのは、今まで戦いを見守っていたセレナだ。俺は白銀をまとう女性騎士に一瞬だけ視線を向けてから、同じく囁き声で問い返した。
「意味が分からない。あれは……精神こそ違えど、まごうことなきカズヤくんだ」
「それはそうですが……何といえばいいのか……」
珍しく口ごもってから、セレナは思わぬ言葉を口にした。
「たったいま使った炎素術の質は異常すぎます。以前の彼ですら、あそこまでの術は使用できなかったはず……」
「……邪教神が体を操っているからね。もしかしたら、魔術自体は奴の力かもしれないよ」
「ありえません。魔界の神が、なぜ我ら人界の魔術を扱えるのですか」
「それも、そうだね。……でも、なら、さっきのはどういうことなんだ……。カズヤくんの意思でもなく、邪教神の仕業でもないとなると、あの魔術は一体……」
「だから問うたのです。あれは本当にカズヤなのか、と」
「…………」
俺は口を引き結び、不気味な燐光を放つ剣を持ち、ゆっくりとこちらに歩み始める剣士を凝視した。
邪教神でもなく、カズヤくんでもない、全く別の存在がまだ、あの中に眠っているというのか? なら、今まで俺たちが話していたカズヤくんは、一体何者──。
「……カズヤくんだ」
俺は、掠れ声で呟く。
瞳に光なく、頬に血の気なく、口許に笑みがなくとも、あの剣士はカズヤ本人だ。過去に重大な罪を犯した俺だが、これだけは確信できる。
彼の体に邪教神以外の意思が存在しようとも、斯くなったからには俺の為すべきことはたった一つ。
自分の全てを剣に乗せ、撃ち込む。それだけだ。
大きく息を吸い、吐いて、激凍剣を握り直す。
カズヤは黒い剣を、ぴたりと中段に構えた。一切の隙がない立ち姿を見て、セレナが小さく囁いた。
「加勢しましょうか」
「駄目だ」
即座に否定してから、俺も愛剣を体の正面で構える。互いの記憶と意識がないとはいえ、二人を戦わせるわけにはいかないし、何よりカズヤの眼を醒させるのは、俺の役目だ。
いつもなら一言申す彼女も、今は何も言わずに下がり、突き立つ焔天剣を抜き取り、胸の前に抱き抱えた。たとえ俺が斬られようとも手を出さないという彼女の意思表示に、
「……すまない」
と小さな呟きで応え、俺は意識を切り替えた。
今この瞬間から、戦闘に必要ないことは全て忘れる。剣と一体化し、身につけた技の限りを尽くして挑む。そうしなければ邪教神に勝てないし、傷ついた肉体の奥に存在するはずのカズヤの心にも何も届かない。
──頼むよ、激凍剣。
──俺に、力を貸してくれ。
右手の愛剣に向けてそう念じると、俺はもう一度深く息を吸い、ぐっと止めた。
あらゆる雑音が、背景が、温度までもが遠ざかる。世界には俺と激凍剣、カズヤと邪教神しか存在しない。
──行くぞ、邪教神!!
無音の咆哮を迸らせながら、猛然と大地を蹴り飛ばす。
邪教神は中段に構えたまま動かず、俺の撃ち込みを待ち受ける。
いまや剣技と魔術が騎士同等にまで跳ね上がった彼に、小細工は通用しない。
十五メルの距離を瞬時に駆け抜け、突進のスピードを余さず乗せた右上段斬りを放つ。
対する邪教神は、大地を割り砕かんばかりの踏み込みから、片手持ちの右下段斬り上げを繰り出してくる。
黒と白銀の刃が激突し、眩い閃光を放って跳ね返る。この間合いでは、片手より両手の方が有利と判断し、柄頭に左手を添えて両手持ちに移行。重い剣に宿る慣性に逆らわず、最短の軌道を描いて大上段に構えると、
「オオオッ!」
溜めていた息を全て気合に変えながら振り下ろす。
剣のスペックと剣士の技倆が互角ならば、全力の垂直斬りを、横斬りあるいは斜め斬りでの迎撃は不可能。可能な対処は相打ち覚悟で同じ技を繰り出すか、剣の間合いから逃れるか、二つに一つだ。
しかし、今のカズヤの肉体では相打ち覚悟で同じ技は出せない。片腕を損失しているから、どうしても力で劣る。また、体の重心も右に傾いているので即座に後ろへ跳ぶこともできない。今度こそ、届く──!
技を鈍らせる躊躇いを振り捨て、俺は剣を振り抜いた。
剣は甲高い金属音を放って装甲に食い込み、刹那の抵抗感を残して真下へと振り抜かれる。カズヤの左の肩当てから胸当てにかけて、一直線の光の筋が走る。
直後、硝子質の破砕音を響かせて、半壊していた装甲が砕け散った。
宙に舞う金属の細片に、真紅の飛沫が入れ混じる。手応えからして深傷ではないにしろ、限界に達した体にはキツい負傷かもしれない。そしてついに、俺の剣がカズヤの体を切り裂いたことになる。
彼を傷つけたと認識した瞬間、俺も同じ場所に、我が身を斬られたような痛みを覚える。避けがたく顔を歪むが、ここで手を止めるわけにはいかない。垂直斬りが床に達した瞬間に手首を返し、全身のバネを使って追撃の斬り上げを──
寸前、カムイは見た。
カズヤの両眼から流れる、一筋の涙を。
──泣いている……のか。
まさか、彼の意思が目覚めたのか。
一瞬の迷いが剣を動かす手を止める。
ガッ、と鈍い衝撃とともに、剣が真横へと弾かれた。
左肩から胸にかけてを斬られたばかりのカズヤが、一瞬たりとも痛みに身を竦ませることなく、右足で俺の剣を蹴り飛ばしたのだ。
その動作が、反撃のための踏み込みでもあることを悟り、戦慄しつつも懸命に体を傾ける。同時に、黒い剣が唸りを上げて左側から迫る。
辛くも首への直撃を回避したが、完全には躱せず、左肩を横一文字に切り裂かれる。痛みではなく凍り付くような冷たさを感じながら、右足で思い切り土を蹴り飛ばし、剣を振り抜いた直後のカズヤめがけて傷ついた左肩から体当たりをぶちかます。
今度こそ目も眩むような激痛が弾け、鮮血の雫が宙に舞った。
赤い霧の向こうに、倒れまいと左足を踏ん張るカズヤの姿があった。
あの体勢から、即座の反撃は不可能。俺は片手持ちに戻した愛剣を右上に構え、跳躍する。
右肩めがけて、斜め斬りを繰り出す。これが当たれば、両肩に傷を負ったカズヤはこれまでのようには剣を振れなくなるはずだ。
「は……あっ!」
叫び、技を放とうとした、その刹那。
カズヤの体の向こうから、赤い閃光が迸った。
炎素の光。
驚愕に眼を見開きつつも、もはや剣を止めることはできず、俺はそのまま振り下ろした。
一瞬遅れて、カズヤの体が、反時計回りに猛然と回転した。左から、青紫色の光の軌跡を引く水平斬りが迫る。
俺の剣と邪教神の剣が激突し、今度は俺だけの剣が大きく弾き返された。
左肩から鮮血の破線を引きながら、俺と邪教神は吸い寄せられるように、全く同じ動きで剣を真上に振りかぶった。
今度はこちらも、炎素を宿す。
二本の刃が、深いレッドの光を迸らせる。
眩いスパークを散らし、鬩ぎ合う。
二本の剣たちは、互いを喰い合うかのように交差したまま、オレンジの火花とレッドの光芒を大量に迸らせた。三度目の鍔迫り合いに入った俺と邪教神は、至近距離で顔を突き合わせながら、斬撃を完遂するべく剣と右腕をぎりぎりと軋ませた。
飛び散る火花越しにカズヤの瞳を凝視しつつ、俺は食い縛った歯の間から問いかけた。
「何故貴様が、魔術を使える」
凍てついた水面のような表情のまま、カズヤは呟いた。
「我は意思を吸い取る存在……過去の戦で何万もの人界の民を殺したことによって、魔術を扱うことができる」
「……ふざけるな。魔術は表面上の意思だけで扱える代物じゃない。人界の民にしか扱えない、聖なる力だ」
「聖なる力か……下らん」
「なんだと」
交わる剣にありったけの力を注ぎ込みながらも、俺は再び訊ねた。
少しして、応えがくる。
「聖なる力。貴様らの掲げる正義など、所詮は己の行為を正当化するための詭弁に過ぎない」
俺と同じく全力を振り絞っているはずなのに、声も表情も冷たく乾き切っている。
「存在しない貴様ら騎士どもが掲げる正義など、なんの価値もない偽りの信念だ」
「…………黙れッ!」
嚙み合う二本の剣の軋む音が、対消滅するように薄れていく。
ここで、残っている力を最後の一滴まで出し尽くす。
俺の全てを、彼の心に届けるために。
「目を覚ませ、カズヤくんッ!!」
絶叫しながら剣を振りかぶった。
渾身の撃ち込み。弾かれる。邪教神の斬撃。剣の根本で弾く。二人とも足を止め、最短の間合いで剣を振るい続ける。剣戟の衝撃と火花が途切れることなく生まれ、周囲の空間を音と光で満たしていく。
「オ……オ、オオオ────ッ!!」
俺が吼える。
「ハ……ア、アアア────ッ!!」
邪教神も、初めて雄叫びを放つ。
速く。もっと速く。
型も技もない本能的な連続攻撃に、片腕を失ったカズヤの体はまったく遅れることなくついてくる。
絶妙な角度で激突した黒い剣と激凍剣が互いの威力を抑え込み、またしても交差状態で静止した。
「…………カズヤくん……?」
俺の口から零れた囁きに。
カズヤの唇が、かすかな動きで応えた。
声は聞こえなかったが、俺には解った。確かに彼は、俺の名を呟いたことを。
白く滑らかな額に、鋭い谷が刻まれる。わずかに開いた唇の奥では歯がきつく食い縛られ、暗く沈む両眼には淡い光の粒が瞬く。
その瞳が、俺の肩越しに、後方に佇むセレナを捉えた。
再び、唇が震える。
「……セ、レ……ナ」
酷く掠れているが、はっきりと聞こえた。
「カズヤくん……目覚めたのか、カズヤくん!?」
俺は夢中で呼びかけた。その弾みで剣が滑り、黒い剣の圧力を支え切れずに後ろへ押しやられる。
大きく体勢を崩し、倒れるまいとたたらを踏む俺は隙だらけだったはずだ。しかしカズヤは追撃しようとせず、剣を中途半端に掲げたまま立ち尽くしている。
セレナの近くまで後退してからようやく踏み留まった俺は、いっぱいに息を吸い込み、出せる限りの声で剣士の名を呼んだ。
「カズヤ──!!」
剣士の体がびくりと震え、俯けられていた顔がゆっくりと持ち上がった。
顔色は相変わらず蒼白だったが、そこには確かに表情らしきものが存在した。混乱、焦燥、悔恨、そして苦慮……人間が誰でも持つ負の感情の中に隠れた、仄かな笑み。
「…………カムイ、さん」
少しあいだを空けて、
「セレナ…………」
今度こそ、確かに聞こえた。カズヤが、俺たちの名を呼ぶその声が。
届いたのだ。俺の剣が、彼の心に。
「カズヤくん…………」
もう一度呼びかけると、剣士の口許に浮かぶ笑みは一瞬で消え、突然悶え苦しみだした。
そして、カズヤの右眼が赤く染まりだし、冷ややかな声が聞こえた。
『死に損ないが!! 我の邪魔をするな!』
カズヤは右手の剣を落とし、赤く染まる右眼を押さえつける。しかし声は止まらずに続いた。
『貴様のような脆弱な存在は、我に操られていればいいのだ!』
押さえつけられた右眼から、ドス黒い蒸気が立ち昇りだす。
「ガァァァァァァ────ッ!!」
途端、カズヤが絶叫しだした。そのまま膝を曲げ、右眼を必死に押さえつけている。
「カズヤくん!」
尋常じゃない苦しみ方をするカズヤに駆けよろうとした寸前──。
「俺は、お前の……」
酷く掠れているが、確かな声が聞こえた。
「道具じゃ、ない!!」
カズヤは右手を振り払い、天を仰ぎながら、叫んだ。
『グ、ァァァ────ッ!!』
今度は、邪教神の叫び声が轟く。右眼からの蒸気が勢いを上げて吹き出し始めると、上空は一気に黒く染め上がる。
右眼からの噴出が収まると、カズヤは糸の切れた人形のように、前のめりに倒れた。
「カズヤ!」
隣に立つセレナが助け起こすと、変わり果てた姿に再度息を呑んでから、傷ついた体を強く抱きしめた。両眼から零れる涙はカズヤの頰に次々と落ちている。
微笑ましい光景を眺めているも、すぐに真逆の、おぞましい光景が出現する。
上空の黒い蒸気が、先程まで焔天剣に刺さっていた遺体に入っていく。蒸気が無くなると、体に大きな穴を開けた遺体が、何事もなかったように起き上がる。
「……やはり、こっちの方がしっくりくるな」
邪教神は平然と言い放つや、此方に殺意の視線を向けてくる。
対峙すれば分かる。この存在は、今の僕らには手に余る存在だと。下手に戦えば、全滅する。
かといって、創世神様の力で転送させてもらうのも厳しい。既に警戒している奴は、僕らの不穏な動きを一切見逃さない。
となれば、導かれる選択肢は一つ──。
カムイは、カズヤの体を抱きしめるセレナに囁いた。
「セレナちゃん。僕が奴を引きつけるから、君はカズヤくんを連れて逃げるんだ」
「……ッ! 馬鹿なこと言わないでください!」
セレナは、此方の案に有無を言わせずに否定した。
「騎士であるカムイ殿を失うことは、人界にとって痛手になると、ご自身が言っていたではありませんか」
「そうなんだけど、誰かが隙を作らなきゃ逃げられないんだよ。カズヤくんは今すぐ治療しなきゃいけないし、君は彼の側にいなきゃいけないだろ」
「何を馬鹿なことを……」
「騎士セレナ。君の任務は、その少年の救出だろう。ならば今は、任務を成功させることだけを考えていなさい」
正論を言われてしまい、セレナは口を紡ぐ。カムイは微笑を浮かべながら、剣を構え直した。
「……僕が前に出たと同時に、創世神様の名を叫ぶんだ。いいね」
「分かりました……いつでも、構いません」
カズヤの体をしっかりと抱きしめながら、こくりと頷いて見せた。
カムイは呼吸を落ち着かせ、邪教神に向かって突撃する寸前──。
「今だ!!」
セレナに向かって叫ぶ。同時に背後から──。
「創世神様! 今です!」
天に向かって叫ぶ声が聞こえた。
瞬間、背後から眩い輝きが放たれる。輝きが収まってから、ちらりと確認すると、そこにもう彼らの姿はなかった。
彼の意思はまだ、残ってる。
赤く光る双眸には、まだほんの少しだけ、人間味のある感情が宿っている。それが何かは分からないが、人ならざる存在が持たないものなのははっきりと分かる。
今ならまだ、助け出せるかもしれない。
だが、生半可な語りかけでは無理だ。脆弱した彼の精神を呼び戻すのは、外からの呼び掛けだけでは到底戻りはしない。
となれば、方法は一つ。
剣を交えて、うちに眠る意思を呼び起こす。
人界の剣は、己の命を預けるがゆえに、刃に込められたものは相手の魂にまで届く。憎しみから解き放たれた剣は、時として言葉を超える交感を生み出す。それを利用して、彼の意思を内側から呼び掛ければ、きっと蘇る。
しかし、それも難しい。今の彼の体は、邪教神との戦闘で限界が来ている。少しでも力加減の調整に失敗すれば、最悪体が壊れてしまうかもしれない。
どうすればいい、必死に思慮を巡らせている間に、カズヤが突然身を翻し、背後の焔天剣と向き合う。
すると突然、焔天剣に突き刺さる亡骸──かつての肉体を雑に抜き取り、遠くへ投げ捨てた。突き立つ剣を抜くと、平然とした表情で向き直り、剣を構えてきた。
「……不思議だ。この剣の方が、妙にしっくりくるぞ」
感慨深く呟くと、カズヤの両眼に殺気が灯る。
途端、カムイは竦み上がった。全身が強張ってしまい、微かに震えているのが分かる。
まるで、蛇に睨まれたカエルのように、身動き一つ取れない。
この感覚は、意思だけじゃない。体の全細胞が怯えているんだ。目の前に立つ、絶対的な強者に。
カムイはそんな時、ある思慮が浮き出た。
──僕たちの任務は、カズヤくんの救出。それが失敗に終わった今、ここに留まる理由はない。
取るべき選択は撤退だ。
カズヤを見捨てるしかない。我々騎士が一人でも欠けるだけで、人界にとっては取り返しのつかない痛手になる。
酷な選択ではあるが、撤退の選択は間違ってはいない。彼を失うのは残念だが、今は人界の未来を最優先にしなければならない。
と、頭では理解している。
実際、カムイの選択は正しい。創世神の命令にも、無茶な真似はするなとも言われている。ここで撤退し、機を改めること自体は、何一つ間違っていない。
だが、離れに立つセレナも同様に、二人は撤退する気など毛頭ない。
創世神の任務を終えた今、意思決定は騎士自身に委ねられる。此処に残り、彼を助けるために戦うかどうかは、己自身で決められる。
此処で彼を見捨てる選択は、騎士としては許せない。
人界に貢献した若者を見捨て、自分たちだけ無傷で撤退するなど、騎士のプライドに泥を塗るようなもの。そのような無様な真似をするぐらいならば、無茶な真似をした方がいいに決まっている。
二人は全く同じことを考え、思考がカズヤ寄りになっていることさえ一緒に考えた。
彼という存在は、騎士である僕らにも多大な影響を与えた。カズヤという存在を失うことも、人界にとっては大きな痛手になるだろう。
屁理屈のような理屈だが、彼ならきっと、それだけの理由で迷いなく動く。
──なら僕も、それに倣おう。君の無鉄砲で危険を恐れない行動力を、今だけ真似させてもらうよ。
大きく息を吸い、ゆっくりと吐いてから、激凍剣の切っ先をカズヤに向ける。
「我が名は天界の騎士カムイ! 堕天の神邪教神よ、創世神様が愛する人界の民を誑かした罪、貴様の命を持って償え!」
カズヤは口許の笑みを消し、無表情のまま告げた。
「面白い。貴様の腕、見せてもらおうか」
両者が同じ構えを取った。
一秒後。
カムイとカズヤは、同時に大地を蹴った。
カズヤの握る焔天剣と、僕が握った激凍剣が、薄暗い空間に鮮やかな光跡を描いた。
その軌道は、完全なるシンメトリー。剣尖が軌道の頂点に通過するタイミングも、白銀と漆黒の刀身が激突したタイミングも全く同じだった。
カムイは、技をただ出しただけではない。足の蹴りと体の捻り、腕の振りによって斬撃に三重の加速を与えている。
にもかかわらず、カズヤの斬撃は一秒たりとも遅れなかった。つまり、彼もまた技を最大限に加速させたのだ。この技術は、生半可な努力では到底なし得ない技術なのに。
──凄い。
この卓越した剣裁き、鍛錬された剣の冴え、全てが一朝一夕で仕上がるモノじゃない。
きっと、毎日類稀なる努力と研鑽で磨き続けたんだろう。中都までの旅で培った多くの経験を糧に、彼の剣技は磨かれたんだろう。
剣を交える者なら分かる。今の彼の剣は、邪教神の精神だけでは決して再現できるものじゃないと。
地道に、愚直に、剣を振り続けたからこそ、騎士である僕と渡り合えるだけの剣士になれたんだ。
「…………絶対に、助ける」
交差する剣を激しく鬩ぎ合わせながら、低い声を押し出した。
「彼の剣技は、貴様のような悪が利用していい物なんかじゃない。彼の剣は、愛する人……セレナちゃんを守るためのものだ」
「…………」
一歩も引かずに僕の剣を受け止め続けるカズヤは、引き結んだ唇を動かそうとしない。セレナの名前を聞いた瞬間、暗闇の瞳の奥で仄かな光が揺れた気がしたが、一瞬で深い闇に呑まれてしまう。あるいはそれすらも、二本の刀身が放つ燐光が見せた錯覚だったのか。
このまま均衡状態が続けば、数秒後に超高速の近接戦が開始されるだろう。そうなればもう思案に暮れる余裕はない。残されたわずかな時間で、懸命に考える。
彼の精神を呼び戻すには、内側からの呼び掛けが必要になってくる。だが、それは彼と密接な関係にいた者が行って初めて成立する。
彼──カズヤと一番密接な関係にいたのは、間違いなく、ほんの十数メル離れたところに立つセレナだ。
しかし、セレナはまだ若輩。鍛錬された彼の連続剣技を受けさせるわけにはいかない。いや、それ以前の問題だ。
セレナとカズヤが剣を交えるなんて、絶対に認めない。密接な関係である二人が戦い合うなんて、残酷すぎる。
カズヤは僕だけの手で止める。状況によっては、解放術を使わざるを得ない──。
ここまで考えた時、交差する二本の剣が跳ね返される。オレンジ色の火花が飛び散る中、きつく歯を食い縛る俺と、表情を崩さないカズヤは、再び剣を振りかぶる。
「おおッ!」
「……ッ!」
有声と無言の気合を迸らせつつ、完璧に同期したモーションから右上段斬りを繰り出す。激突し、弾き返される刃を、次は右横から撃ち込む。噛み合う刃を滑らせ、左斜め斬り下ろし。これもがっちりと受け止められる。
二度目の鍔迫り合いに移行しながら、カムイは内心で改めて舌を巻いていた。
剣のスペックは同等だが、それを握る人間は同条件ではない。こちらは分厚いプレートアーマー姿に対して、カズヤは上下とも服だけで左腕を損失し身軽になっている。彼の何倍もの重量を身に纏っているのに、斬撃には一秒の遅れもない。
やはり、精神を支配しても身体能力が上昇したわけではないということか。
もしくは、彼はまだ抗っているのか。邪教神の支配を逃れるために、今も戦い続けているに違いない。
氷のように冷たい瞳の奥には、まだ熱く燃えるものが残っている。僕はそう信じる。
それを呼び覚ますためにも、今出来ることを全力でするだけだ。
「……カズヤくん」
あらん限りの力で剣を押し込みながら、囁いた。
「君は本当に、人界の民とは思えないほど勇敢で、立派な剣士なんだよ」
かつては明るく煌めいていたカズヤの瞳は、光を失って濃紺に見える。その奥底を懸命に見詰めつつ、言葉を続ける。
「一年前の、彼女を救い出した君の姿は、本当に素晴らしかった。それだけじゃない。実力差のある暗黒騎士相手に、逃げずに立ち向かっていた。今では、その相手すら圧倒するほどの強さを手に入れていた。……考えたんだよ。本気で剣を交えたら、どちらが勝つのか、ってね。……正直に言えば、いつか君には追い抜かれるだろうって、思ってる」
カズヤは瞬き一つせずに俺の視線を受け止め──いや遮断している。現在の彼にとって、僕は駆除すべき敵に過ぎない。わずかでも隙を見せれば、その瞬間に斬られるだろう。しかし、言葉の欠片ひとつくらいは支配された心にも届くと信じて、締めくくりのフレーズを投げかける。
「……でも、いまはまだ駄目だ。自分の意思じゃなく、邪教神に支配された君じゃ、悪いが俺には勝てない! それをいま、証明する!」
言い終えると同時に、俺は息を止め、全身からかき集めた力を剣に乗せた。
カズヤの眉間にかすかな皺が刻まれ、俺の剣を押し返そうとしてくる。
そのタイミングで、一気に剣を引く。
ぎゃりん! と刃が滑り、薄闇に一直線の火花が咲く。俺は後方に押しやられ、カズヤは前につんのめる。
ここで踏み留まろうとすれば、速やかに体勢を立て直したカズヤの一撃を食らうだろう。勢いに逆らわず、背中から地面へと倒れ込む。視界の隅で、騎士セレナの右腕が左腰へと伸び始める。俺が敗北したと見て取り、華焔剣を抜いて割り込むつもりか。
だが、その判断は二秒ばかり早すぎる。勝敗を決めるのは、俺の仕掛けが奏功するか否か。
背中が地面に叩きつけられる寸前、俺は右足を鋭く振り上げる。
この体術は、彼が爆煙竜火山で暗黒騎士に対し放った、独自の研鑽で身に付けた流派の一部。騎士として体術の訓練も受けているが、彼の異質なものとは根本が違うため完璧には習得できてはいないが、使えないわけではない。
もし、邪教神がカズヤの記憶から此方の剣の癖を読み取っているなら、これは回避できない。この技は、カズヤに見せたことはないのだから。
──決着をつけてやる、邪教神!
胸中でそう叫びながら、俺は彼の顎目掛けて右足を振り抜いた。
この状況でも、カズヤの両眼は乾いた冷気に満たされている。表情を変えないまま上体を捩り、俺の蹴りを回避しようとする。だが、鍔迫り合いから前のめりに倒れかけた勢いがまだ残っている。鎧で保護された爪先が、無防備な下顎に吸い込まれていく。
「ッ……!」
カズヤの口から、鋭い気合が発せられた。
焔天剣を握る右腕が、ぶんっと唸りを上げて真横に動く。だが、今更どんな斬撃を繰り出そうと、俺の蹴りの方が確実に速い。無視して撃ち抜けば先に届く…………
違う。
カズヤ──邪教神の狙いはカウンター攻撃ではない。剣の刀身ではなく柄頭で、俺の体ではなく右足を迎撃しようとしている。
逆手握りでの柄当て。剣技の華麗さや勇壮さを重んじる人界の剣技を学ぶ、人界の民とは使えるとは思えない実戦的テクニックだ。騎士の中でも、実戦慣れした者以外こんな技は使わなかった。
蹴り足を横から打たれたら、軌道を逸らされ隙が生まれてしまう。
ならば、狙うべきは。
「────!」
歯を食い縛り、今に撃ち出されようとしている右足を懸命に引きとどめた。感覚的には一秒半だけ技の出を遅らせ、カズヤの右手を先行させる。
────いま!
ガシィン!!
と硬質な衝撃音が轟いた。
足蹴りは当初狙ったカズヤの下顎ではなく、剣を握る右手の甲を捉えた。鎧の殴打をもろに受け、骨が砕けるのを感じ取れる。
カズヤの右手は真上に跳ね上げられ、手中の焔天剣も弾き飛ばされて、くるくる回転しながら舞い上がり、カムイの後方に突き刺さった。
その様子を、高速で流れる視界の端に捉えながら、俺は後方宙返りからの着地直後に追撃を放つべく激凍剣を握り直した。
右足の靴底が、地面に触れる。膝を曲げ、衝撃を吸収し、体勢が安定するや否や全力で蹴り飛ばす。左足を思い切り深く踏み込み、カズヤの半壊した胸当てめがけて、左下から右上へと斬り上げを繰り出す──。
「────!?」
極端に前傾した姿勢から、斬撃を放とうと起き上がった俺が見たのは、こちらに向けて突き出されたカズヤの右手と、掌の中央に浮かび上がる光点だった。
俺の剣が、カズヤの胸に食い込む、その寸前。
「亡き者となれ」
カズヤの唇から、冷ややかな呟きが発せられた。光点──炎素が炸裂し、発生した爆発的な火炎放射が俺を呑み込んだ。単なる解放だというのに、何重もの魔術構文よりも勝る炎素の奔流に、とても踏み留まれずに襤褸切れの如く吹き飛ばされる。
「ぐあっ……!」
呻き声を漏らしながら、両手を広げて懸命に姿勢を安定させる。殺人的な衝撃に翻弄されつつもどうにか体の回転を止め、地面に両足を向ける。
着地した瞬間、強烈な衝撃が脳天まで突き抜け、しばしその場に立ち尽くしたまま全身の痺れをやり過ごす。さっと顔を上げると、当然ながらカズヤもかなり後方まで反動で押しやられている。腰を落とした姿勢から悠然と直立するその顔は、小憎らしいまでの無表情を貫いている。
遅れて俺も立ち上がると、右側からかすかな声が届いた。
「……本当に、あの者はカズヤなのですか」
そう訊ねるのは、今まで戦いを見守っていたセレナだ。俺は白銀をまとう女性騎士に一瞬だけ視線を向けてから、同じく囁き声で問い返した。
「意味が分からない。あれは……精神こそ違えど、まごうことなきカズヤくんだ」
「それはそうですが……何といえばいいのか……」
珍しく口ごもってから、セレナは思わぬ言葉を口にした。
「たったいま使った炎素術の質は異常すぎます。以前の彼ですら、あそこまでの術は使用できなかったはず……」
「……邪教神が体を操っているからね。もしかしたら、魔術自体は奴の力かもしれないよ」
「ありえません。魔界の神が、なぜ我ら人界の魔術を扱えるのですか」
「それも、そうだね。……でも、なら、さっきのはどういうことなんだ……。カズヤくんの意思でもなく、邪教神の仕業でもないとなると、あの魔術は一体……」
「だから問うたのです。あれは本当にカズヤなのか、と」
「…………」
俺は口を引き結び、不気味な燐光を放つ剣を持ち、ゆっくりとこちらに歩み始める剣士を凝視した。
邪教神でもなく、カズヤくんでもない、全く別の存在がまだ、あの中に眠っているというのか? なら、今まで俺たちが話していたカズヤくんは、一体何者──。
「……カズヤくんだ」
俺は、掠れ声で呟く。
瞳に光なく、頬に血の気なく、口許に笑みがなくとも、あの剣士はカズヤ本人だ。過去に重大な罪を犯した俺だが、これだけは確信できる。
彼の体に邪教神以外の意思が存在しようとも、斯くなったからには俺の為すべきことはたった一つ。
自分の全てを剣に乗せ、撃ち込む。それだけだ。
大きく息を吸い、吐いて、激凍剣を握り直す。
カズヤは黒い剣を、ぴたりと中段に構えた。一切の隙がない立ち姿を見て、セレナが小さく囁いた。
「加勢しましょうか」
「駄目だ」
即座に否定してから、俺も愛剣を体の正面で構える。互いの記憶と意識がないとはいえ、二人を戦わせるわけにはいかないし、何よりカズヤの眼を醒させるのは、俺の役目だ。
いつもなら一言申す彼女も、今は何も言わずに下がり、突き立つ焔天剣を抜き取り、胸の前に抱き抱えた。たとえ俺が斬られようとも手を出さないという彼女の意思表示に、
「……すまない」
と小さな呟きで応え、俺は意識を切り替えた。
今この瞬間から、戦闘に必要ないことは全て忘れる。剣と一体化し、身につけた技の限りを尽くして挑む。そうしなければ邪教神に勝てないし、傷ついた肉体の奥に存在するはずのカズヤの心にも何も届かない。
──頼むよ、激凍剣。
──俺に、力を貸してくれ。
右手の愛剣に向けてそう念じると、俺はもう一度深く息を吸い、ぐっと止めた。
あらゆる雑音が、背景が、温度までもが遠ざかる。世界には俺と激凍剣、カズヤと邪教神しか存在しない。
──行くぞ、邪教神!!
無音の咆哮を迸らせながら、猛然と大地を蹴り飛ばす。
邪教神は中段に構えたまま動かず、俺の撃ち込みを待ち受ける。
いまや剣技と魔術が騎士同等にまで跳ね上がった彼に、小細工は通用しない。
十五メルの距離を瞬時に駆け抜け、突進のスピードを余さず乗せた右上段斬りを放つ。
対する邪教神は、大地を割り砕かんばかりの踏み込みから、片手持ちの右下段斬り上げを繰り出してくる。
黒と白銀の刃が激突し、眩い閃光を放って跳ね返る。この間合いでは、片手より両手の方が有利と判断し、柄頭に左手を添えて両手持ちに移行。重い剣に宿る慣性に逆らわず、最短の軌道を描いて大上段に構えると、
「オオオッ!」
溜めていた息を全て気合に変えながら振り下ろす。
剣のスペックと剣士の技倆が互角ならば、全力の垂直斬りを、横斬りあるいは斜め斬りでの迎撃は不可能。可能な対処は相打ち覚悟で同じ技を繰り出すか、剣の間合いから逃れるか、二つに一つだ。
しかし、今のカズヤの肉体では相打ち覚悟で同じ技は出せない。片腕を損失しているから、どうしても力で劣る。また、体の重心も右に傾いているので即座に後ろへ跳ぶこともできない。今度こそ、届く──!
技を鈍らせる躊躇いを振り捨て、俺は剣を振り抜いた。
剣は甲高い金属音を放って装甲に食い込み、刹那の抵抗感を残して真下へと振り抜かれる。カズヤの左の肩当てから胸当てにかけて、一直線の光の筋が走る。
直後、硝子質の破砕音を響かせて、半壊していた装甲が砕け散った。
宙に舞う金属の細片に、真紅の飛沫が入れ混じる。手応えからして深傷ではないにしろ、限界に達した体にはキツい負傷かもしれない。そしてついに、俺の剣がカズヤの体を切り裂いたことになる。
彼を傷つけたと認識した瞬間、俺も同じ場所に、我が身を斬られたような痛みを覚える。避けがたく顔を歪むが、ここで手を止めるわけにはいかない。垂直斬りが床に達した瞬間に手首を返し、全身のバネを使って追撃の斬り上げを──
寸前、カムイは見た。
カズヤの両眼から流れる、一筋の涙を。
──泣いている……のか。
まさか、彼の意思が目覚めたのか。
一瞬の迷いが剣を動かす手を止める。
ガッ、と鈍い衝撃とともに、剣が真横へと弾かれた。
左肩から胸にかけてを斬られたばかりのカズヤが、一瞬たりとも痛みに身を竦ませることなく、右足で俺の剣を蹴り飛ばしたのだ。
その動作が、反撃のための踏み込みでもあることを悟り、戦慄しつつも懸命に体を傾ける。同時に、黒い剣が唸りを上げて左側から迫る。
辛くも首への直撃を回避したが、完全には躱せず、左肩を横一文字に切り裂かれる。痛みではなく凍り付くような冷たさを感じながら、右足で思い切り土を蹴り飛ばし、剣を振り抜いた直後のカズヤめがけて傷ついた左肩から体当たりをぶちかます。
今度こそ目も眩むような激痛が弾け、鮮血の雫が宙に舞った。
赤い霧の向こうに、倒れまいと左足を踏ん張るカズヤの姿があった。
あの体勢から、即座の反撃は不可能。俺は片手持ちに戻した愛剣を右上に構え、跳躍する。
右肩めがけて、斜め斬りを繰り出す。これが当たれば、両肩に傷を負ったカズヤはこれまでのようには剣を振れなくなるはずだ。
「は……あっ!」
叫び、技を放とうとした、その刹那。
カズヤの体の向こうから、赤い閃光が迸った。
炎素の光。
驚愕に眼を見開きつつも、もはや剣を止めることはできず、俺はそのまま振り下ろした。
一瞬遅れて、カズヤの体が、反時計回りに猛然と回転した。左から、青紫色の光の軌跡を引く水平斬りが迫る。
俺の剣と邪教神の剣が激突し、今度は俺だけの剣が大きく弾き返された。
左肩から鮮血の破線を引きながら、俺と邪教神は吸い寄せられるように、全く同じ動きで剣を真上に振りかぶった。
今度はこちらも、炎素を宿す。
二本の刃が、深いレッドの光を迸らせる。
眩いスパークを散らし、鬩ぎ合う。
二本の剣たちは、互いを喰い合うかのように交差したまま、オレンジの火花とレッドの光芒を大量に迸らせた。三度目の鍔迫り合いに入った俺と邪教神は、至近距離で顔を突き合わせながら、斬撃を完遂するべく剣と右腕をぎりぎりと軋ませた。
飛び散る火花越しにカズヤの瞳を凝視しつつ、俺は食い縛った歯の間から問いかけた。
「何故貴様が、魔術を使える」
凍てついた水面のような表情のまま、カズヤは呟いた。
「我は意思を吸い取る存在……過去の戦で何万もの人界の民を殺したことによって、魔術を扱うことができる」
「……ふざけるな。魔術は表面上の意思だけで扱える代物じゃない。人界の民にしか扱えない、聖なる力だ」
「聖なる力か……下らん」
「なんだと」
交わる剣にありったけの力を注ぎ込みながらも、俺は再び訊ねた。
少しして、応えがくる。
「聖なる力。貴様らの掲げる正義など、所詮は己の行為を正当化するための詭弁に過ぎない」
俺と同じく全力を振り絞っているはずなのに、声も表情も冷たく乾き切っている。
「存在しない貴様ら騎士どもが掲げる正義など、なんの価値もない偽りの信念だ」
「…………黙れッ!」
嚙み合う二本の剣の軋む音が、対消滅するように薄れていく。
ここで、残っている力を最後の一滴まで出し尽くす。
俺の全てを、彼の心に届けるために。
「目を覚ませ、カズヤくんッ!!」
絶叫しながら剣を振りかぶった。
渾身の撃ち込み。弾かれる。邪教神の斬撃。剣の根本で弾く。二人とも足を止め、最短の間合いで剣を振るい続ける。剣戟の衝撃と火花が途切れることなく生まれ、周囲の空間を音と光で満たしていく。
「オ……オ、オオオ────ッ!!」
俺が吼える。
「ハ……ア、アアア────ッ!!」
邪教神も、初めて雄叫びを放つ。
速く。もっと速く。
型も技もない本能的な連続攻撃に、片腕を失ったカズヤの体はまったく遅れることなくついてくる。
絶妙な角度で激突した黒い剣と激凍剣が互いの威力を抑え込み、またしても交差状態で静止した。
「…………カズヤくん……?」
俺の口から零れた囁きに。
カズヤの唇が、かすかな動きで応えた。
声は聞こえなかったが、俺には解った。確かに彼は、俺の名を呟いたことを。
白く滑らかな額に、鋭い谷が刻まれる。わずかに開いた唇の奥では歯がきつく食い縛られ、暗く沈む両眼には淡い光の粒が瞬く。
その瞳が、俺の肩越しに、後方に佇むセレナを捉えた。
再び、唇が震える。
「……セ、レ……ナ」
酷く掠れているが、はっきりと聞こえた。
「カズヤくん……目覚めたのか、カズヤくん!?」
俺は夢中で呼びかけた。その弾みで剣が滑り、黒い剣の圧力を支え切れずに後ろへ押しやられる。
大きく体勢を崩し、倒れるまいとたたらを踏む俺は隙だらけだったはずだ。しかしカズヤは追撃しようとせず、剣を中途半端に掲げたまま立ち尽くしている。
セレナの近くまで後退してからようやく踏み留まった俺は、いっぱいに息を吸い込み、出せる限りの声で剣士の名を呼んだ。
「カズヤ──!!」
剣士の体がびくりと震え、俯けられていた顔がゆっくりと持ち上がった。
顔色は相変わらず蒼白だったが、そこには確かに表情らしきものが存在した。混乱、焦燥、悔恨、そして苦慮……人間が誰でも持つ負の感情の中に隠れた、仄かな笑み。
「…………カムイ、さん」
少しあいだを空けて、
「セレナ…………」
今度こそ、確かに聞こえた。カズヤが、俺たちの名を呼ぶその声が。
届いたのだ。俺の剣が、彼の心に。
「カズヤくん…………」
もう一度呼びかけると、剣士の口許に浮かぶ笑みは一瞬で消え、突然悶え苦しみだした。
そして、カズヤの右眼が赤く染まりだし、冷ややかな声が聞こえた。
『死に損ないが!! 我の邪魔をするな!』
カズヤは右手の剣を落とし、赤く染まる右眼を押さえつける。しかし声は止まらずに続いた。
『貴様のような脆弱な存在は、我に操られていればいいのだ!』
押さえつけられた右眼から、ドス黒い蒸気が立ち昇りだす。
「ガァァァァァァ────ッ!!」
途端、カズヤが絶叫しだした。そのまま膝を曲げ、右眼を必死に押さえつけている。
「カズヤくん!」
尋常じゃない苦しみ方をするカズヤに駆けよろうとした寸前──。
「俺は、お前の……」
酷く掠れているが、確かな声が聞こえた。
「道具じゃ、ない!!」
カズヤは右手を振り払い、天を仰ぎながら、叫んだ。
『グ、ァァァ────ッ!!』
今度は、邪教神の叫び声が轟く。右眼からの蒸気が勢いを上げて吹き出し始めると、上空は一気に黒く染め上がる。
右眼からの噴出が収まると、カズヤは糸の切れた人形のように、前のめりに倒れた。
「カズヤ!」
隣に立つセレナが助け起こすと、変わり果てた姿に再度息を呑んでから、傷ついた体を強く抱きしめた。両眼から零れる涙はカズヤの頰に次々と落ちている。
微笑ましい光景を眺めているも、すぐに真逆の、おぞましい光景が出現する。
上空の黒い蒸気が、先程まで焔天剣に刺さっていた遺体に入っていく。蒸気が無くなると、体に大きな穴を開けた遺体が、何事もなかったように起き上がる。
「……やはり、こっちの方がしっくりくるな」
邪教神は平然と言い放つや、此方に殺意の視線を向けてくる。
対峙すれば分かる。この存在は、今の僕らには手に余る存在だと。下手に戦えば、全滅する。
かといって、創世神様の力で転送させてもらうのも厳しい。既に警戒している奴は、僕らの不穏な動きを一切見逃さない。
となれば、導かれる選択肢は一つ──。
カムイは、カズヤの体を抱きしめるセレナに囁いた。
「セレナちゃん。僕が奴を引きつけるから、君はカズヤくんを連れて逃げるんだ」
「……ッ! 馬鹿なこと言わないでください!」
セレナは、此方の案に有無を言わせずに否定した。
「騎士であるカムイ殿を失うことは、人界にとって痛手になると、ご自身が言っていたではありませんか」
「そうなんだけど、誰かが隙を作らなきゃ逃げられないんだよ。カズヤくんは今すぐ治療しなきゃいけないし、君は彼の側にいなきゃいけないだろ」
「何を馬鹿なことを……」
「騎士セレナ。君の任務は、その少年の救出だろう。ならば今は、任務を成功させることだけを考えていなさい」
正論を言われてしまい、セレナは口を紡ぐ。カムイは微笑を浮かべながら、剣を構え直した。
「……僕が前に出たと同時に、創世神様の名を叫ぶんだ。いいね」
「分かりました……いつでも、構いません」
カズヤの体をしっかりと抱きしめながら、こくりと頷いて見せた。
カムイは呼吸を落ち着かせ、邪教神に向かって突撃する寸前──。
「今だ!!」
セレナに向かって叫ぶ。同時に背後から──。
「創世神様! 今です!」
天に向かって叫ぶ声が聞こえた。
瞬間、背後から眩い輝きが放たれる。輝きが収まってから、ちらりと確認すると、そこにもう彼らの姿はなかった。
0
あなたにおすすめの小説
封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する
鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。
突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。
しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。
魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。
英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~
名無し
ファンタジー
主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。
自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる