最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職

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第35話 くさいセリフは自分でも恥ずかしい

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『ダンジョンに向かったBランク探索者遠藤良平氏が帰還しないまま1週間。安否が心配される彼の捜索に雇用主である【佐藤ジャーキー】のCEOが自社で雇用している探索者を派遣する公表、しかし探索者達はこれを拒否。探索者を危険な場所と知りながら向かわせる事に対するデモ運動が本日も本社の前にて行われています。他の企業で雇用されている高レベルの探索者にCEOは呼びかけも行っているようですが、これに応じる探索者は未だ見つからず、こうしている間にも遠藤氏の安否が――』

「まさか遠藤さんがまだ帰ってこれてないなんて……」

「細江も知ってるとは思うが、【NO5】は耐久力の高いオークが群れるダンジョン。最下層を狙っているなら10日くらいかかる可能性も――」

「小鳥遊さんは本当にそう思ってるんですか?」

「そう思っていたいなかったとして、何だっていうんだ? もしかして細江あんな奴を助けに行く気か?」

「いや、別に……。探索者はその資格を得るにあたってダンジョン内での死を覚悟していなければいけない。無理な派遣などを除く死亡責任は会社も国も負わない。今回あいつは自分で企画、動画撮影を決行って報道されてたし……ダンジョンで死亡しててもそれは自分の責任、ただの事故」

「非情だと思うだろうが他の探索者、企業に入れ込むのは止めろ」

「……そう、ですね」


 休憩室で流れたニュースを見て、細江君と小鳥遊君が口論を始め、落ち着いた。


 『佐藤ジャーキー』との提携を前向きに考えようと切り替えていこうと思えたあの日から、遠藤は俺の前に現れる事はなかった。

 連絡をしてくる事もなく、SNSでの批判コメントなんかも減っていた。


 おかしいとは思っていたけど、まさかこんな事になっているとは……。


「みなさん、お騒がせしました。あの……俺、夜の準備始めますね」


 細江君は場の雰囲気を読んでそっと休憩室を出た。


 店長と一ノ瀬さんがもう準備を始めているみたいだからそれに混ざりに行ったのだろう。


「……細江は遠藤に、あいつに虐められてはいたんですけど、最初の頃は良くしてもらってたみたいで……。その時の優しい仮面をかぶっていた時の遠藤の面影が消えないみたいなんですよね。だから、反論も連絡を切る事も非情になる事も出来ないんですよ」

「別に知ってる人が死亡したかもしれないってなったらあの反応は普通な気がするけど……」

「神は探索者としての歴は長いかもしれませんが、探索者同士のいざこざってあんまり知らないから、そう思うのかもしれません」

「そうなのかな?」

「そうですよ。僕は他社に知り合いの、幼馴染の探索者がいました。でも、お互い違う企業に雇用されてからは、ぎくしゃくしちゃって。終いには俺が病院に運ばれるような大怪我をした時、そいつは俺の心配をするどころか他社の働き盛りの探索者が大けがを負ったって事をにやけ面で報告してたんですよ。……あの時、探索者ってのは非情にならないとって――」

「でも小鳥遊君は俺の強さに近づきたくて、ここに来たんだろ?」

「それは……」

「俺は自分が見習うべき存在じゃないってそう思ってたし、小鳥遊君の方が若いのにしっかりしてるな位に思ってた。でも、その考え方に関しては自分の方が正しいって思うよ」

「……神」

「俺はこの店をもっともっと大きくして、店長や景さんに恩返ししたいっていうのが目的なんだけど……もう1つ加える事にするわ」


 俺はすうっと息を吸うと、小鳥遊君の目を見つめた。


 本当は面倒な事を増やすのは避けたいんだけど……チートステータスになってしまったからには他の人が出来ないような事もやっていく、やらないとといけない気がするのよな。


「今回のをきっかけに探索者の意識改革も目標にする。企業同士の競合? そんなものがしがらみになってるなら、俺がダンジョン関係は全部まとめて管理……出来たらいいなぁ」


 言い切った方がカッコいいのは分かるけど、ちょっと目標が大きすぎて語尾が微妙になっちゃた。


 夢は世界征服! とか海賊〇に俺はなる! とかああいう名言が恥ずかしく感じる歳なのよ俺も。


「……神、それが理想な事は分かりますけど、僕にはなかなか――」

「前例は、道は俺が作るから、ゆっくりついてくればいい。細江君もゆっくり、な」

「――はいっ!」


 俺のどうしようもなくくっさいセリフに小鳥遊君は目を潤ませながら、返事をしてくれた。


 ああ、言っておいて、めっちゃ恥ずかしくなってきた。


 俺もここから出るか。


「――あ」


 休憩室の扉を開けると、細江君と一ノ瀬さんがそこにいた。


 細江君は小鳥遊君と同じように目を潤ませ、一ノ瀬さんはにやにやしながら俺の顔を見てくる。


 細江君の反応は別にいいんだけど、一ノ瀬さんのは――


「ダンジョン関係の企業、取引を全部まとめて……気が遠くなるような夢ですけど、楽しそうではありますね。県外のダンジョンに住むモンスターの素材も触れますし……。それにしてもくっさいセリフをよくもまぁあんな簡単に言えますね」


 やっぱり冷やかしてきたよ。


 この人時間が経つにつれてどんどん俺に対しての扱いが雑になるな。


「宮下君は実は熱血系だから。――宮下君これからダンジョンに行くんでしょ? 帰りが明日以降になるようなら電話だけ頂戴」


 一ノ瀬さんの後ろから景さんがひょっこり顔を出した。


 うわぁ、今の景さんにも聞かれてたのかよぉ……。


 しかも熱血系って……そんな風に思われてたの俺。
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