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06.イグナシオ・デ・グスマン=アブスブルコ(2)
しおりを挟む「だから何度も言っているだろう!私は突き飛ばしてなどいない!」
「そうは仰いましてもねサンルーカル子爵。目撃証言が多数上がっているのですよ」
憲兵騎士に冷めた目でそう告げられ、イグナシオは喘いだ。
確かに少々大袈裟に手を振って追い払おうとしたのは間違いなく、それにセリアが驚いていたのにも気付いていたのだから、違うと強弁するのも無理がある、と自分自身が解ってしまっている。
「しかし、私は決して…!」
「事実など、この際どうでもいいのですよ」
なおも言い逃れようとしたその言葉は、憲兵騎士の被せた言葉に塗り潰された。
「なに………?」
「そう見えた、それだけで充分なのです」
その時の憲兵騎士の、表情をなくした仮面のような顔。それはイグナシオにとって、死刑宣告とも言える絶望の具現化だった。
「あれだけの衆目の面前でセリア嬢は倒され、気絶してしまわれた。それが貴方の振り払った手で起きたことであるのは間違いないのです。
であるならば、貴方の意図がどうであれそれは貴方が引き起こしたことなのですよ。
その罪からは逃れられない。貴方は一生、彼女を害した乱暴者として我が国の社交界で語り継がれることでしょうな」
「そ、そんな…」
イグナシオはそれ以上抵抗の気力を無くして項垂れた。
確かに、憲兵騎士の言う通りだ。あれだけの数の貴族子女に見られた以上、次代の社交界でイグナシオの汚名が消えることなどないと、自分でも納得できてしまったのだ。
セリアへの断罪を揉み消されないために選んだ卒業記念パーティーの会場、それがまさか自身の消えない傷を刻みつけるとは。
「我が国では、貴族に対する暴行行為は厳しい罰則がございます。それは貴族同士の暗殺行為や私闘も含めて防止して、治安を維持するための法ではありますが、今回の件にも適用されます」
イグナシオはもはや、黙って聞いているしかなかった。
「子爵に対しては良くて罰金刑、下手をすると禁錮処分かあるいは懲役となるでしょう」
「量刑は………」
「はい?」
「量刑は、どうやって決まる………?」
「基本的には司法官が捜査ののち裁判を開いて決定しますが、被害者感情のいかんによっても左右されますな」
それはつまり、セリアとモンテローサ伯爵家が量刑に不服を申し立てられるということだ。
あれほど嫌っていたセリアに、自分の命運を決められる立場にイグナシオは堕ちたのだ。
「それまでは、こちらの貴族牢にて過ごして頂きます。裁判の場には出頭を求められますので、その際には憲兵騎士の護衛のもと出頭して頂きます」
淡々と、決定事項のみを告げられる。
もはや文句を言い返す気力もなかった。
だがもうひとつ、確認しておかなければならない事がある。
「ベリンダは、ベリンダはどうなる?」
「それは貴方が関与なさることではありませんよ」
しかし、にべもなく拒絶された。
あたかもあの時セリアを拒絶した自分と同じように、憲兵騎士には取り付く島もなかった。
話を終えて、憲兵騎士たちが貴族牢を出て行き、イグナシオは独り取り残される。
「どうして、こうなったんだ………」
彼のその呟きは、もはや聞いてやる者さえいなかった。
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