『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人

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こぼれ話:友達の渡り鳥のこと 

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 潰れたマメだらけで、痛む手を抱えて眠れなかった日々も。
 やがて手のひらが硬くなるまで何度も作業を繰り返した日々も──アーサーのそばには、いつも友達がいました。
 種族も食物連鎖も大きさも超えて集まった、あたたかで多種多様な輪。
 その中心にいるのは、動物たちにとっても大切な友達、アーサーです。
 
 ある日、渡り鳥たちは荒れ地で働くミミズたちに尋ねました。

 農家の敷地内にいれば、矢を放たれることもなく、仲間が集まってくるのを安全に待つことができました。そんな場所のきっかけとなったアーサーに、恩返しをしたかったのです。

「アーサーの願いって、なんだろう?」

 ミミズたちは、のんびりとため息をつくアーサーを思い浮かべて答えました。
「クローバーを植える作業が、大変だなあって言ってる」

 それを聞いた渡り鳥たちは、ミミズたちとこっそり結託して、南へ旅立つその日まで“秘密の作戦”を始めることにしたのです。

 もちろん、ミミズは食べてはいけません。ですが他の食べ物は豊富にあり、栄養も十分でした。

 農家の人々も、アーサーのあとをちょこちょこ歩く渡り鳥たちをたいそう可愛がり、アクアオッジ家から届いたトウモロコシを砕いて餌として与えていたのです。

 渡り鳥の寿命は、本来なら二十年ほど。しかし長く過酷な旅をするうちに、若くして力尽きてしまう仲間も多く、種としての平均寿命はおおよそ二年ほどにまで短くなってしまいます。

 それが分かっていてもなお──南の空を見つめ、胸の奥で小さく翼を震わせました。
 本能というものはそれだけ深く刻み込まれるものなのでしょう。



 どこまでも空の青が広がり、いつもとは違う、冷たい風が羽毛を揺らして……渡り鳥たちはとうとうその日がやってきたことを悟りました。

 出発の朝。

 それぞれが小さな嘴にクローバーを咥えていきます。
 去り難く郷愁の念に包まれながらも、新しい未知の世界に胸を躍らせていました。

 アーサーは同じ時刻、毎日の規則正しい生活で朝食を終え、鍬をかかえて外へ出ました。

 荒れ地に向かい合い、今日もいつもの作業を始めたその頭上で、羽ばたく音やさえずる声が耳朶に響きます。
 思わず顔を上げると、じきに秋を迎えるであろう鮮やかな──けれどどこか憂いを帯びた青い空に、たくさんの鳥たちの姿が重なっていきました。

 そうして渡り鳥たちの羽音がふっと静まり──

 驚きで目を見開くアーサーの前で、一斉にクローバーが舞い降ります。
 

 その様は、たくさんの鳥たちの影とは対照的に、陽光を纏った緑の小さな命が、キラキラと風に乗り、一つ一つが確かな軌跡を描いて地上に舞い降りると……まるで地上に黄金のじゅうたんが敷かれたような光景だった──と語り草になりました。


 やがて厳しい冬を超え、根付いたクローバーが見事に花を咲かせる春がやって来ます。



 アーサーの友達の渡り鳥たちは、きっと春の訪れと共に、無事にアクアオッジ領に戻ってくることでしょう。


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