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15 たくさんの友達が僕にしてくれたこと
夏のある日、商人たちが牧草用トウモロコシとアスパラガスを売りに来た。
見たこともないほど大きな葉付きトウモロコシに驚くアーサーに、かつて種をくれた若い商人がニカっと笑う。
「辺境伯家がまるで農家に──実家を見れば納得しますよ」
我が家はどうなっちゃってるの? 疑問は尽きない。
夏は牧場にとって最も忙しい季節だ。人の出入りも多い。
徒歩で一時間も歩けば村もあるし、荷車を馬やロバで曳いて来られるなら町も日帰りコースである。
従業員は荷車いっぱいに品を積んで、町まで売りに行っては日常品のあれこれを買い込んで戻ってくる。
燻製肉は、すっかりここの名物になっていた。
繁殖用のとっても立派な種雄牛を連れてきた人がいたので、アーサーは迷わず連絡先を控えた。
毎日毎日土を掘り返す。コツコツと。
アクアオッジ家門は積み重ねることを厭わない一族だった。
アーサーの手はマメが出来て潰れてを繰り返し、手の平はどんどん硬くなっていった。
もうなまっちろい、とは誰も思わない身体になっていた──
今日も朝日と共に支度を済ませ、朝ごはんを頂いて館を出る。
昼まで荒地を耕し、昼ごはんをリーさん一家と頂く。
そのあとは日没までまた同じことの繰り返しだ。
まるで太陽と一緒に、世界の一部になったみたいに思える──
山々のシルエットの向こうに沈んでいく太陽を見上げれば、黄色やオレンジ、赤に紫……いろんな色が混ざり合った空がどこまでも広がっている。
アーサーは夕暮れ時が一番好きだった。
優しい色に心が温かくなるから……
……ふと思う。
この空を家族も見ているだろうか……手が自然に祈りの形になった。
ここで出会った仲間たちや、生き物たちにも感謝しながら──
その感謝が、思いがけない形で返ってくるのは翌日のことだった。
──渡り鳥の旅立ちの日がやってきた。
その日もいつものように土を耕す。
耳に入るのは鍬で土を掘り返す音と、自分の息、遠くで鳴く牛の声──今日はいつもより牛たちがソワソワしてるような気がする。
(クローバーを植えて根付かせるのは大変だなあ……)
そんなことを考えていると、空がふいに翳った。
顔を上げると、渡り鳥たちが起こす羽ばたきのざわめきが風を揺らし、賑やかな鳴き声と共にたちまち空いっぱい飛んでいる。
上空を覆い尽くさんばかりの鳥の影が牧場に落ちると、農家のみんなが気が付いて、何が起こるのかという予感に空を指さしながら一斉に見上げた。
その後の光景を誰が予想しただろう──
渡り鳥たちがクローバーを嘴に咥えていて、アーサーとミミズたちが夏の間耕した荒野に一斉に落としたのだ──
すっかり驚いているアーサーの足元では、ミミズたちが"旅立つときにてつだうっていってたうー""土つくりてつだうまいうー"そう言ってる気がした。
……そういえば、どこに根付かせるかをリーさんと話し合っていた時も、渡り鳥やミミズたちが側にいたっけ……
移動を始めた渡り鳥の中に、アーサーがこの農場に来た頃からずっと見守ってくれていた一羽を見つけ、胸の奥が熱くなる。
羽がギザギザで、長くは飛べないのではと心配していたけれど……
羽が力強く空を切るその後ろ姿は、まるで "大丈夫" と告げているようだった。
【動物スキル?】のおかげで出来たたくさんの友達が、南に旅立つ最後の日にアーサーが一番求めていたことをしてくれたのだ──
クローバーを落とし終えた渡り鳥たちの隊列はぐんぐん小さくなり、南の彼方へと吸い込まれていった。
一人でやるのはきっと大変だったから、お礼を言いたかったのに。
ありがとう。
胸の奥が熱くなり、言葉が大気に溶けていく。
君たちの旅の無事を祈ってるよ……
夕食の時間になり、アーサーはみんなの質問攻めにあうが、「【動物スキル?】のおかげです」とだけ静かに答える。
みんなが優しく、それ以上は何も言わず抱きしめてくれるので、ずっと涙が止まらなかった……
翌日、クローバー生息予定地に向かうと、アーサーは絶句する。
真っ当ではないクローバーたちは見事に根付いていた。
母の【育成スキル】の影響を、渡り鳥たちはちゃんと知っていたのだ──
残り少ない夏の日に、緑の波が風に揺れてはそよぐ。
──まるで、この土地の未来を託すように。
見たこともないほど大きな葉付きトウモロコシに驚くアーサーに、かつて種をくれた若い商人がニカっと笑う。
「辺境伯家がまるで農家に──実家を見れば納得しますよ」
我が家はどうなっちゃってるの? 疑問は尽きない。
夏は牧場にとって最も忙しい季節だ。人の出入りも多い。
徒歩で一時間も歩けば村もあるし、荷車を馬やロバで曳いて来られるなら町も日帰りコースである。
従業員は荷車いっぱいに品を積んで、町まで売りに行っては日常品のあれこれを買い込んで戻ってくる。
燻製肉は、すっかりここの名物になっていた。
繁殖用のとっても立派な種雄牛を連れてきた人がいたので、アーサーは迷わず連絡先を控えた。
毎日毎日土を掘り返す。コツコツと。
アクアオッジ家門は積み重ねることを厭わない一族だった。
アーサーの手はマメが出来て潰れてを繰り返し、手の平はどんどん硬くなっていった。
もうなまっちろい、とは誰も思わない身体になっていた──
今日も朝日と共に支度を済ませ、朝ごはんを頂いて館を出る。
昼まで荒地を耕し、昼ごはんをリーさん一家と頂く。
そのあとは日没までまた同じことの繰り返しだ。
まるで太陽と一緒に、世界の一部になったみたいに思える──
山々のシルエットの向こうに沈んでいく太陽を見上げれば、黄色やオレンジ、赤に紫……いろんな色が混ざり合った空がどこまでも広がっている。
アーサーは夕暮れ時が一番好きだった。
優しい色に心が温かくなるから……
……ふと思う。
この空を家族も見ているだろうか……手が自然に祈りの形になった。
ここで出会った仲間たちや、生き物たちにも感謝しながら──
その感謝が、思いがけない形で返ってくるのは翌日のことだった。
──渡り鳥の旅立ちの日がやってきた。
その日もいつものように土を耕す。
耳に入るのは鍬で土を掘り返す音と、自分の息、遠くで鳴く牛の声──今日はいつもより牛たちがソワソワしてるような気がする。
(クローバーを植えて根付かせるのは大変だなあ……)
そんなことを考えていると、空がふいに翳った。
顔を上げると、渡り鳥たちが起こす羽ばたきのざわめきが風を揺らし、賑やかな鳴き声と共にたちまち空いっぱい飛んでいる。
上空を覆い尽くさんばかりの鳥の影が牧場に落ちると、農家のみんなが気が付いて、何が起こるのかという予感に空を指さしながら一斉に見上げた。
その後の光景を誰が予想しただろう──
渡り鳥たちがクローバーを嘴に咥えていて、アーサーとミミズたちが夏の間耕した荒野に一斉に落としたのだ──
すっかり驚いているアーサーの足元では、ミミズたちが"旅立つときにてつだうっていってたうー""土つくりてつだうまいうー"そう言ってる気がした。
……そういえば、どこに根付かせるかをリーさんと話し合っていた時も、渡り鳥やミミズたちが側にいたっけ……
移動を始めた渡り鳥の中に、アーサーがこの農場に来た頃からずっと見守ってくれていた一羽を見つけ、胸の奥が熱くなる。
羽がギザギザで、長くは飛べないのではと心配していたけれど……
羽が力強く空を切るその後ろ姿は、まるで "大丈夫" と告げているようだった。
【動物スキル?】のおかげで出来たたくさんの友達が、南に旅立つ最後の日にアーサーが一番求めていたことをしてくれたのだ──
クローバーを落とし終えた渡り鳥たちの隊列はぐんぐん小さくなり、南の彼方へと吸い込まれていった。
一人でやるのはきっと大変だったから、お礼を言いたかったのに。
ありがとう。
胸の奥が熱くなり、言葉が大気に溶けていく。
君たちの旅の無事を祈ってるよ……
夕食の時間になり、アーサーはみんなの質問攻めにあうが、「【動物スキル?】のおかげです」とだけ静かに答える。
みんなが優しく、それ以上は何も言わず抱きしめてくれるので、ずっと涙が止まらなかった……
翌日、クローバー生息予定地に向かうと、アーサーは絶句する。
真っ当ではないクローバーたちは見事に根付いていた。
母の【育成スキル】の影響を、渡り鳥たちはちゃんと知っていたのだ──
残り少ない夏の日に、緑の波が風に揺れてはそよぐ。
──まるで、この土地の未来を託すように。
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