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33. 貴重な木
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慌てて小屋に入る。
中には小さめのテーブルと椅子。
あとはスコップやシャベル、大きなザルのようなものが、いろいろ大雑把に置いてある。
そこはちょっとした作業部屋になっていた。
奥にもいくつか部屋があるようだ。
もの珍しくてキョロキョロしていると、その奥の部屋からカイルさんが木箱を一つ抱えて戻ってきた。
「むっ、ふ、ふっ、とっておきだぞ! これだ」
木箱をテーブルの上ではなく、わたしの足元に見やすいように置いてくれる。
上から覗き込むと木箱の中には、ちょっと白っぽい木材や原木が数本、ゴチャっと入っていた。
「……これは、なんの木?」
まってましたとばかりにカイルさんは、あごをクイっと突き出してニヤリと笑う。
「その木の匂いを、かいでみな」
ん、木の匂いをかぐ?
言われたので、小ぶりの木を一本手に持ち、鼻に近づけてみる。
ふわっとちょっと甘いような、それでいて落ち着くような、そんな香りが少しだけした。
「わーっ! なんだかいいにおいがする!」
「この木はな、このヘデラの森のずっと奥に数本だけ生えていた木でな、先々代の庭師がこの木を見つけて、それからその場所を言い伝えてきた木なのさ」
「……大切な木なんだね」
「貴重な木だな」
「そんな大切な木は使えないよ。カイルさんには、しおりを作るのに適した木の種類だけ教えてもらって、それから自分で木を探して、少し剪定させてもらうつもりでいたんだから……こんなに大切な木じゃなくってもいいんだよ」
「……これでいい。この木を使え」
えー、こんな貴重な木……高そうだよ。
「……いくらで、譲ってくれるの?」
「金か? そんなもんいらん。ちょっと、ついてこい」
カイルさんはそれだけいうと小屋をでて、奥の茂みの中へどんどん入っていく。
「まって!」
慌てて遅れないように小走りで追いかけていった。
数分歩くと急に小道が現れ、その奥にちょっと大きめの小屋が姿を現す。
こんなところに、もう一つ小屋があったんだ。
これは、人から隠している小屋だよね……
「着いたぞ」
カイルさんはおもむろに自分の胸元に手を突っ込み、首からぶら下げていた鍵を取り出すと、慣れた手つきで小屋の鍵を開け、サッと中へ消えていった。
今回は迷うことなく、わたしも素直について入っていく。
小屋の中は簡素なつくりの小部屋になっていて、テーブルに椅子、ノコギリや斧がおいてある。
あれっ、さっきと同じ作りかな?
でもこの匂いは……
カイルさんはまっすぐに、もう一つの部屋の戸を開けて入っていく。
後ろから続けて中に入るとモワーッと、もう一段いい香りがして驚ろかされる。
部屋の中は長い木も楽に置ける広い空間になっているようで、丸太が数本と枝や根っこが丁寧に並べて置いてあった。
これは、木のための部屋だな。
「この部屋の木はな先先代の庭師、オレのじいちゃんが森で偶然見つけて、今の辺境伯様の曾祖父様にお知らせしてから守り続けているものだ。これは木の事業の一環で、なにかのときに辺境伯家の切り札にするために、珍しいこの木を密かにここに集め、ため続けているのさ」
「えーっ! そんな秘密、教えないでよー!」
は、は、は、はっ
笑いごとじゃないでしょ!
「そんなことを知ったら、余計にこの木は貴重すぎて使えないよー」
カイルさんは丸太を撫でながら、優しい目をして話し続ける。
「今の辺境伯様もこの木の事業を大切に受け継いでいてな。もう七十年は続けているが、まだ十本分の木材も集まっていない。いろいろ調べていくうちに寿命も長くて九十年ぐらいだとわかってきた。まわりの木を枯らして自分も枯れる面倒くさい木で、オヤジと一緒にタネから苗木も育てていたんだ。最近もまた新しく植えて……ついにな、育てることに成功したんだよ。今はあちこちに百本近くは植えてあるぞ」
「すごいねー」
一大プロジェクトになってるじゃないか!
カイルさんのおじいちゃんも辺境伯様の曾祖父様も先見の明があったんだね。
「でだ、最近この木をどう使うか考えてくれと辺境伯様に頼まれていてな。そのためならこの木を好きなだけ使って良いと、言ってくださっているんだよ。 本当に悩んでいたんだ……そこにパールだ! これはオレにとったら渡りに船だな」
「なんだよ、それ!? そんな大役、怖いよー」
「パールなら大丈夫だ。それにルート様に渡すものだろ? ちょうどいいんだよ」
「えーっ。じゃあ、アース様には渡さないほうがいいの?」
「そうだな……辺境伯様に聞いてみようか?」
「やっぱり、たいそうじゃない。イヤだ! 使いたくない。別のにする!」
「まあまあ、そう言わずに。そうだっ、辺境伯様の分も作って渡せば、問題ないだろう。喜ばれるぞ!」
うそ、ひとつ作るの増えたよっ……
あは、は、は、は、はぁっ
笑ってごまかされてる気がする。
ハァーーっ
楽しそうな笑い声と一緒に……
大きなため息がひとつ。
香りをまとって、小屋に響いた。
中には小さめのテーブルと椅子。
あとはスコップやシャベル、大きなザルのようなものが、いろいろ大雑把に置いてある。
そこはちょっとした作業部屋になっていた。
奥にもいくつか部屋があるようだ。
もの珍しくてキョロキョロしていると、その奥の部屋からカイルさんが木箱を一つ抱えて戻ってきた。
「むっ、ふ、ふっ、とっておきだぞ! これだ」
木箱をテーブルの上ではなく、わたしの足元に見やすいように置いてくれる。
上から覗き込むと木箱の中には、ちょっと白っぽい木材や原木が数本、ゴチャっと入っていた。
「……これは、なんの木?」
まってましたとばかりにカイルさんは、あごをクイっと突き出してニヤリと笑う。
「その木の匂いを、かいでみな」
ん、木の匂いをかぐ?
言われたので、小ぶりの木を一本手に持ち、鼻に近づけてみる。
ふわっとちょっと甘いような、それでいて落ち着くような、そんな香りが少しだけした。
「わーっ! なんだかいいにおいがする!」
「この木はな、このヘデラの森のずっと奥に数本だけ生えていた木でな、先々代の庭師がこの木を見つけて、それからその場所を言い伝えてきた木なのさ」
「……大切な木なんだね」
「貴重な木だな」
「そんな大切な木は使えないよ。カイルさんには、しおりを作るのに適した木の種類だけ教えてもらって、それから自分で木を探して、少し剪定させてもらうつもりでいたんだから……こんなに大切な木じゃなくってもいいんだよ」
「……これでいい。この木を使え」
えー、こんな貴重な木……高そうだよ。
「……いくらで、譲ってくれるの?」
「金か? そんなもんいらん。ちょっと、ついてこい」
カイルさんはそれだけいうと小屋をでて、奥の茂みの中へどんどん入っていく。
「まって!」
慌てて遅れないように小走りで追いかけていった。
数分歩くと急に小道が現れ、その奥にちょっと大きめの小屋が姿を現す。
こんなところに、もう一つ小屋があったんだ。
これは、人から隠している小屋だよね……
「着いたぞ」
カイルさんはおもむろに自分の胸元に手を突っ込み、首からぶら下げていた鍵を取り出すと、慣れた手つきで小屋の鍵を開け、サッと中へ消えていった。
今回は迷うことなく、わたしも素直について入っていく。
小屋の中は簡素なつくりの小部屋になっていて、テーブルに椅子、ノコギリや斧がおいてある。
あれっ、さっきと同じ作りかな?
でもこの匂いは……
カイルさんはまっすぐに、もう一つの部屋の戸を開けて入っていく。
後ろから続けて中に入るとモワーッと、もう一段いい香りがして驚ろかされる。
部屋の中は長い木も楽に置ける広い空間になっているようで、丸太が数本と枝や根っこが丁寧に並べて置いてあった。
これは、木のための部屋だな。
「この部屋の木はな先先代の庭師、オレのじいちゃんが森で偶然見つけて、今の辺境伯様の曾祖父様にお知らせしてから守り続けているものだ。これは木の事業の一環で、なにかのときに辺境伯家の切り札にするために、珍しいこの木を密かにここに集め、ため続けているのさ」
「えーっ! そんな秘密、教えないでよー!」
は、は、は、はっ
笑いごとじゃないでしょ!
「そんなことを知ったら、余計にこの木は貴重すぎて使えないよー」
カイルさんは丸太を撫でながら、優しい目をして話し続ける。
「今の辺境伯様もこの木の事業を大切に受け継いでいてな。もう七十年は続けているが、まだ十本分の木材も集まっていない。いろいろ調べていくうちに寿命も長くて九十年ぐらいだとわかってきた。まわりの木を枯らして自分も枯れる面倒くさい木で、オヤジと一緒にタネから苗木も育てていたんだ。最近もまた新しく植えて……ついにな、育てることに成功したんだよ。今はあちこちに百本近くは植えてあるぞ」
「すごいねー」
一大プロジェクトになってるじゃないか!
カイルさんのおじいちゃんも辺境伯様の曾祖父様も先見の明があったんだね。
「でだ、最近この木をどう使うか考えてくれと辺境伯様に頼まれていてな。そのためならこの木を好きなだけ使って良いと、言ってくださっているんだよ。 本当に悩んでいたんだ……そこにパールだ! これはオレにとったら渡りに船だな」
「なんだよ、それ!? そんな大役、怖いよー」
「パールなら大丈夫だ。それにルート様に渡すものだろ? ちょうどいいんだよ」
「えーっ。じゃあ、アース様には渡さないほうがいいの?」
「そうだな……辺境伯様に聞いてみようか?」
「やっぱり、たいそうじゃない。イヤだ! 使いたくない。別のにする!」
「まあまあ、そう言わずに。そうだっ、辺境伯様の分も作って渡せば、問題ないだろう。喜ばれるぞ!」
うそ、ひとつ作るの増えたよっ……
あは、は、は、は、はぁっ
笑ってごまかされてる気がする。
ハァーーっ
楽しそうな笑い声と一緒に……
大きなため息がひとつ。
香りをまとって、小屋に響いた。
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