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未来のために
幸せの始まり
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その日は、風の穏やかな朝だった。
ダリオはカタリーナを馬車に乗せ、街を少し離れた静かな丘の上へと向かった。
季節は初夏。野花が咲き、草の香りが風に混じる。
見晴らしのいい高台には、小さな東屋があった。
その周囲には人の気配もなく、空と緑だけが、ふたりの世界を包んでいた。
「……いいところね」
「気に入ってもらえて、よかった」
並んで腰を下ろしたベンチ。言葉よりも、静けさの方が心地よく感じられた。
けれど、ダリオは小さく深呼吸し、意を決して口を開いた。
「カタリーナ」
そう言って、ダリオは静かに彼女の前に跪いた。
その動作は、まるでひとつの祈りのように真っ直ぐで、優しかった。
カタリーナが驚いたように目を見開く。
けれど次の瞬間、彼女の手は、自然と差し出されていた。
ダリオはその手をそっと取り、ゆっくりと指先を包み込む。
「もう、ずっと言いたかったことがあるんです。
でも、タイミングを見ていたら、いつの間にか一年が過ぎていた」
「あなたに、もう一度出会えたことが……奇跡だと思ってます」
まっすぐに彼女を見上げるその瞳は、揺るぎのない決意に満ちていた。
彼は懐から、小さな箱を取り出した。
彼女の目が、わずかに見開かれる。
「あなたと……子どもたちと、これから一緒に暮らしていきたい。
喜びも、迷いも、日常のすべてを、共に重ねていきたいんです」
「もう、離したくない。
どんな時も、あなたのそばで生きていきたい。
子どもたちと一緒に、あなたと一緒に‥‥ひとつの家族として、これからの人生を歩んでいきたいんです」
ダリオはそっと懐から箱を取り出した。
小さなベルベットの箱を開けると、
中には優しい光をたたえた指輪が静かに横たわっていた。
「これは、あなたのために選びました。
どうか、受け取ってくれませんか。
……もう、片時も離れたくない。
これから先の人生を、あなたと一緒に生きたいんです」
「どうか……この先もずっと、僕の隣にいてくれますか?」
カタリーナは、じっと指輪を見つめたまま動かなかった。
沈黙の中で、風がそっと二人の間を通り抜ける。
風の音さえも静まったような沈黙の中、カタリーナは目を潤ませ、震えるように小さく笑った。
「……こんなに心が静かなのは、はじめて。
ありがとう、ダリオ。私も、同じ気持ちよ。私も、あなたとなら‥もう一度、信じてみたいと思ってた」
その言葉を受けた瞬間、ダリオの顔にふわりと笑みが広がった。
そう言って、そっと彼に手を差し出す。
彼は指輪を取り出し、カタリーナの薬指に、丁寧に、慎重に通す。
彼女の指に指輪をはめた瞬間、ふたりの間に、過去も不安もすべて静かに溶けていったように思えた。
そして、小さな光がその指先にきらりと揺れた。
それは、過去の涙や痛みを静かに越えて、
今ここにある“ふたりの未来”を照らす、小さな祝福の光だった。
***
その週末の午後、カタリーナの家には穏やかな陽射しが差し込んでいた。
リヴィオは、窓際で小さな模型を組み立てながら、ちらちらと時折母の様子をうかがっていた。
ティモシオはソファで本を読みながら、静かに時間を過ごしている。
そんな中、カタリーナがリビングに現れ、優しく声をかけた。
「ねえ、ちょっと話したいことがあるの。……ふたりとも、こっちに来てくれる?」
母のその言い方に、ティモシオが少し首をかしげ、リヴィオはぱっと顔を上げた。
その週末の午後、カタリーナは子どもたちに「今日は少し、話したいことがあるの」とだけ伝えていた。
リヴィオとティモシオがリビングに集まると、扉の向こうから控えめなノックの音が響く。
「入っていい?」
ダリオの声に、兄弟が同時に顔を上げる。
「……ダリオさん?」
カタリーナが小さく頷くと、ダリオがゆっくりと部屋へ入ってきた。
彼が隣に立つと、ふたりは自然とその方へ視線を向けた。
「なんか、重大発表……って感じ?」
リヴィオが言うと、ティモシオが小さく笑って「それっぽい」と呟いた。
カタリーナは、ダリオと目を合わせ、一度深く頷いてから、ふたりの息子に向き直った。
「実はね……ダリオさんと、私たち、これから一緒に暮らすことにしたの」
一瞬、静まりかえる空気。
けれどそれは、戸惑いではなく、噛みしめるような間だった。
ティモシオがゆっくりと顔を上げた。
「……つまり、家族になるってこと?」
「うん。そう。そういうこと」
カタリーナがそう答えると、ティモシオはゆっくりと立ち上がり、まっすぐダリオの前に来た。
「……つまり、家族になるってこと?」
「うん。そういうこと」
カタリーナが頷くと、ティモシオは一瞬だけ黙って、それからぽつりと呟いた。
「……この前来たとき、さりげなくお皿洗ってたよね。
ああいうの、母様……すごく嬉しそうだったんだ」
ダリオの目がふっと和らぐ。
「ありがとう、ティモシオ。君にそう言ってもらえるのが、一番嬉しいよ」
その横で、リヴィオも少し照れたように言った。
「母様のこと、ちゃんと大事にしてくれるなら……僕もいいよ」
ダリオが思わず笑みをこぼす。
「もちろんだ」
ダリオは少し膝を折って、リヴィオの目線に合わせて応えた。
「ふたりが大切にしてきたお母様を、俺もこれからずっと大切にしたいんだ」
リヴィオは少し照れながらも、小さく頷いた。
その姿を見て、カタリーナは胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
家族としてのはじまりは、静かで、けれど確かな温もりを帯びていた。
ダリオの言葉に、ティモシオとリヴィオが素直に頷き、
小さな笑顔がリビングの空気をやわらかく包んでいく。
その光景を見つめながら、カタリーナは胸の奥にそっと手を当てた。
頬に触れる陽の光さえ、やさしく感じられる。
――こんな家族を、私はずっと待っていた。
誰かの許しや期待に縛られない。
傷つきながらも、歩み寄り、理解し合い、温め合える関係。
これが、カタリーナが心のどこかでずっと思い描いていた、
「本当に欲しかった家族」のかたちだった。
静かに目を閉じると、そこにあったのは不安ではなく、
やわらかく差し込む、希望の光だった。
ダリオはカタリーナを馬車に乗せ、街を少し離れた静かな丘の上へと向かった。
季節は初夏。野花が咲き、草の香りが風に混じる。
見晴らしのいい高台には、小さな東屋があった。
その周囲には人の気配もなく、空と緑だけが、ふたりの世界を包んでいた。
「……いいところね」
「気に入ってもらえて、よかった」
並んで腰を下ろしたベンチ。言葉よりも、静けさの方が心地よく感じられた。
けれど、ダリオは小さく深呼吸し、意を決して口を開いた。
「カタリーナ」
そう言って、ダリオは静かに彼女の前に跪いた。
その動作は、まるでひとつの祈りのように真っ直ぐで、優しかった。
カタリーナが驚いたように目を見開く。
けれど次の瞬間、彼女の手は、自然と差し出されていた。
ダリオはその手をそっと取り、ゆっくりと指先を包み込む。
「もう、ずっと言いたかったことがあるんです。
でも、タイミングを見ていたら、いつの間にか一年が過ぎていた」
「あなたに、もう一度出会えたことが……奇跡だと思ってます」
まっすぐに彼女を見上げるその瞳は、揺るぎのない決意に満ちていた。
彼は懐から、小さな箱を取り出した。
彼女の目が、わずかに見開かれる。
「あなたと……子どもたちと、これから一緒に暮らしていきたい。
喜びも、迷いも、日常のすべてを、共に重ねていきたいんです」
「もう、離したくない。
どんな時も、あなたのそばで生きていきたい。
子どもたちと一緒に、あなたと一緒に‥‥ひとつの家族として、これからの人生を歩んでいきたいんです」
ダリオはそっと懐から箱を取り出した。
小さなベルベットの箱を開けると、
中には優しい光をたたえた指輪が静かに横たわっていた。
「これは、あなたのために選びました。
どうか、受け取ってくれませんか。
……もう、片時も離れたくない。
これから先の人生を、あなたと一緒に生きたいんです」
「どうか……この先もずっと、僕の隣にいてくれますか?」
カタリーナは、じっと指輪を見つめたまま動かなかった。
沈黙の中で、風がそっと二人の間を通り抜ける。
風の音さえも静まったような沈黙の中、カタリーナは目を潤ませ、震えるように小さく笑った。
「……こんなに心が静かなのは、はじめて。
ありがとう、ダリオ。私も、同じ気持ちよ。私も、あなたとなら‥もう一度、信じてみたいと思ってた」
その言葉を受けた瞬間、ダリオの顔にふわりと笑みが広がった。
そう言って、そっと彼に手を差し出す。
彼は指輪を取り出し、カタリーナの薬指に、丁寧に、慎重に通す。
彼女の指に指輪をはめた瞬間、ふたりの間に、過去も不安もすべて静かに溶けていったように思えた。
そして、小さな光がその指先にきらりと揺れた。
それは、過去の涙や痛みを静かに越えて、
今ここにある“ふたりの未来”を照らす、小さな祝福の光だった。
***
その週末の午後、カタリーナの家には穏やかな陽射しが差し込んでいた。
リヴィオは、窓際で小さな模型を組み立てながら、ちらちらと時折母の様子をうかがっていた。
ティモシオはソファで本を読みながら、静かに時間を過ごしている。
そんな中、カタリーナがリビングに現れ、優しく声をかけた。
「ねえ、ちょっと話したいことがあるの。……ふたりとも、こっちに来てくれる?」
母のその言い方に、ティモシオが少し首をかしげ、リヴィオはぱっと顔を上げた。
その週末の午後、カタリーナは子どもたちに「今日は少し、話したいことがあるの」とだけ伝えていた。
リヴィオとティモシオがリビングに集まると、扉の向こうから控えめなノックの音が響く。
「入っていい?」
ダリオの声に、兄弟が同時に顔を上げる。
「……ダリオさん?」
カタリーナが小さく頷くと、ダリオがゆっくりと部屋へ入ってきた。
彼が隣に立つと、ふたりは自然とその方へ視線を向けた。
「なんか、重大発表……って感じ?」
リヴィオが言うと、ティモシオが小さく笑って「それっぽい」と呟いた。
カタリーナは、ダリオと目を合わせ、一度深く頷いてから、ふたりの息子に向き直った。
「実はね……ダリオさんと、私たち、これから一緒に暮らすことにしたの」
一瞬、静まりかえる空気。
けれどそれは、戸惑いではなく、噛みしめるような間だった。
ティモシオがゆっくりと顔を上げた。
「……つまり、家族になるってこと?」
「うん。そう。そういうこと」
カタリーナがそう答えると、ティモシオはゆっくりと立ち上がり、まっすぐダリオの前に来た。
「……つまり、家族になるってこと?」
「うん。そういうこと」
カタリーナが頷くと、ティモシオは一瞬だけ黙って、それからぽつりと呟いた。
「……この前来たとき、さりげなくお皿洗ってたよね。
ああいうの、母様……すごく嬉しそうだったんだ」
ダリオの目がふっと和らぐ。
「ありがとう、ティモシオ。君にそう言ってもらえるのが、一番嬉しいよ」
その横で、リヴィオも少し照れたように言った。
「母様のこと、ちゃんと大事にしてくれるなら……僕もいいよ」
ダリオが思わず笑みをこぼす。
「もちろんだ」
ダリオは少し膝を折って、リヴィオの目線に合わせて応えた。
「ふたりが大切にしてきたお母様を、俺もこれからずっと大切にしたいんだ」
リヴィオは少し照れながらも、小さく頷いた。
その姿を見て、カタリーナは胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
家族としてのはじまりは、静かで、けれど確かな温もりを帯びていた。
ダリオの言葉に、ティモシオとリヴィオが素直に頷き、
小さな笑顔がリビングの空気をやわらかく包んでいく。
その光景を見つめながら、カタリーナは胸の奥にそっと手を当てた。
頬に触れる陽の光さえ、やさしく感じられる。
――こんな家族を、私はずっと待っていた。
誰かの許しや期待に縛られない。
傷つきながらも、歩み寄り、理解し合い、温め合える関係。
これが、カタリーナが心のどこかでずっと思い描いていた、
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