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試合開始②
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「……ふん。逃げずにやって来たようだな」
クリスの結界が張られた試合場で、獣面状態のヤンガルドが立っていた。
俺は腕を延ばしてストレッチしながら、自分の立ち位置に向かう。
「獣化はなさらないのですか。フープスさん。私はどちらでも構いませんよ」
「お前ごとき、獣化するまでもない!」
「……まあ、ならご自由に」
体術の講義で知ったことだが、獣化は一般的に完全に獣化した状態の方が身体能力が向上し、戦闘能力が高くなるらしい。
中には武器を使った戦いの方が得意なものもいるので、絶対に獣化した方がいいわけではないらしいが、ヤンガルドは得物を使わないと言っていたので、獣化してくれた方がまだ勝負になるとは思うのだが……まあ、ここまで力量差がわからない奴が獣化したところで、大した違いがあるとも思えないので、どちらでも構わない。せいぜいヤンガルドの立ってられる時間が、1分長くなるとか、その程度の違いだ。
「ーーはじめ!」
「うおおおおおおおお!」
主審の猫獣人の教師が告げた始まりの合図と共に、ヤンガルドは雄叫びをあげて殴りかかってきた。
脇が甘過ぎる。どこもかしこも隙だらけだ。
身体強化を施した足で、地面を蹴る。
「っ!?」
伸ばされた太い腕の上に着地して、もう一回跳躍。
この時点で、もはや勝負はついていた。
「……準備運動にもなりませんね」
高く振り上げた踵を、ヤンガルドの脳天目掛けて振り下ろす。魔力譲渡で身体強化を弱めるまでもない。
一瞬で昏倒したヤンガルドは、その場にどうっと倒れ込み、その体をクッション代わりにして着地した。
ぴくりぴくり痙攣しながら失神しているヤンガルドの体からどけると、いつの間にか会場が静まりかえっていた。
「……審判さん?」
「あ、ああ……勝負あり! 勝者、エドワード・ネルドゥース」
主審の教師が俺の勝利を告げるなり、会場に歓声があがった。
「……すげぇ! あの巨体を一瞬だ! あんなに細いのに!」
「ヤンガルド、いつも俺らのこと見下してくるから、正直スッキリしたわ! いいぞ、人間!」
「魔力が多くて、あの強さかあ……くそ、臭いがわかればなあ。魔力相性さえ良ければ、アタックしたのに」
「馬鹿言うなよ。あいつ、ヴィダルス様が狙ってんだぞ。下手に言いよったら、消されるわ」
興奮したような生徒の声に、思わず口元が緩む。
そうだ。感嘆しろ。そして、怯えろ。
俺が強いのだと、脳裏に刻み込め。
「…………」
審判員席の方に一瞬だけ視線をやると、楽しげなクリスの隣で、むっつり不機嫌そうなアストルディアの姿が見えた。もっとも俺の部屋以外でのアストルディアは、いつも無駄に威圧感を垂れ流しているから、何を思っているのかはよく読み取れないのだけど。部屋では素直なお耳や尻尾も、人前ではぴくりとも動かなくなるし。
まあ、さっきの怒りの雰囲気は纏ってない気はするので、恐らく後で怒られることはないだろう。
一人そう結論づけて、前を向く。
親善試合は、まだまだこれからが本番だ。
「……すげぇ、あの人間、どこまで勝ち進むんだ」
「2試合目から、あいつが戦ってるの王宮兵の人達だろ……圧勝じゃないか」
「人間って……あんな強いのか」
2試合目に戦ったのは、ジャッカルの剣士だった。
獣化状態よりも剣の方が得意なのだと、試合前に礼儀正しく伝えてくれた彼に敬意を示し、俺も模造刀で戦った。
素早い身のこなしで、ヤンガルドのような隙はなかったが、それほど力は強くない。隙を見て力任せに剣を弾き飛ばし、勝利した。魔法は使わなかった。
3試合目に戦ったのは、サイの獣人だった。彼は試合前から獣化して、こちらに対峙した。
大柄な分、攻撃が単調なので避けるのは難しくなかったが、問題は彼の防御力の高さだった。
元々の皮膚が硬いのか、身体強化が強力なのか、打撃での攻撃は一切通じなかった。剣が模造刀なのも、その一因ではあっただろうが、こうなったら魔法に頼るしかない。
弱い魔法も弾かれてしまったので、中級程度の魔法をいくつか試してみたところ、雷魔法と相性が悪いことがわかった。以後雷魔法を中心に攻撃したところ、麻痺して戦闘不能になった。
勝利してから魔力譲渡で身体強化を弱体化できるかの実験をすれば良かったかなと思い至ったが、まあいい。まだ試合は2戦は残っている。
「驚いた……貴方は本当に強いのだな。【国境の守護者】の名は、伊達でない。うちの兵団に欲しいくらいだ」
そして俺は今、準決勝の対戦相手であるホワイトタイガーの獣人と対峙している。
「私の名前は、ナナーク・ワシヤミア。王宮兵を取りまとめる兵団長をしている。貴方の強さに敬意をはらい、最初から獣化姿で戦いたいのだが、構わないだろうか」
いやさ、何てかさ……王宮兵のみなさん、みんなすげぇ礼儀正しいのな。獣人兵って、めちゃくちゃ荒くれ者のイメージあるのに。下手したらリシス王国の騎士団のが、野蛮だわ。
それなのに、一応王族であるヴィダルスは何であんな蛮族なの? アストルディア見るかぎり王族がああなわけじゃないだろうし、突然変異?
クリスの結界が張られた試合場で、獣面状態のヤンガルドが立っていた。
俺は腕を延ばしてストレッチしながら、自分の立ち位置に向かう。
「獣化はなさらないのですか。フープスさん。私はどちらでも構いませんよ」
「お前ごとき、獣化するまでもない!」
「……まあ、ならご自由に」
体術の講義で知ったことだが、獣化は一般的に完全に獣化した状態の方が身体能力が向上し、戦闘能力が高くなるらしい。
中には武器を使った戦いの方が得意なものもいるので、絶対に獣化した方がいいわけではないらしいが、ヤンガルドは得物を使わないと言っていたので、獣化してくれた方がまだ勝負になるとは思うのだが……まあ、ここまで力量差がわからない奴が獣化したところで、大した違いがあるとも思えないので、どちらでも構わない。せいぜいヤンガルドの立ってられる時間が、1分長くなるとか、その程度の違いだ。
「ーーはじめ!」
「うおおおおおおおお!」
主審の猫獣人の教師が告げた始まりの合図と共に、ヤンガルドは雄叫びをあげて殴りかかってきた。
脇が甘過ぎる。どこもかしこも隙だらけだ。
身体強化を施した足で、地面を蹴る。
「っ!?」
伸ばされた太い腕の上に着地して、もう一回跳躍。
この時点で、もはや勝負はついていた。
「……準備運動にもなりませんね」
高く振り上げた踵を、ヤンガルドの脳天目掛けて振り下ろす。魔力譲渡で身体強化を弱めるまでもない。
一瞬で昏倒したヤンガルドは、その場にどうっと倒れ込み、その体をクッション代わりにして着地した。
ぴくりぴくり痙攣しながら失神しているヤンガルドの体からどけると、いつの間にか会場が静まりかえっていた。
「……審判さん?」
「あ、ああ……勝負あり! 勝者、エドワード・ネルドゥース」
主審の教師が俺の勝利を告げるなり、会場に歓声があがった。
「……すげぇ! あの巨体を一瞬だ! あんなに細いのに!」
「ヤンガルド、いつも俺らのこと見下してくるから、正直スッキリしたわ! いいぞ、人間!」
「魔力が多くて、あの強さかあ……くそ、臭いがわかればなあ。魔力相性さえ良ければ、アタックしたのに」
「馬鹿言うなよ。あいつ、ヴィダルス様が狙ってんだぞ。下手に言いよったら、消されるわ」
興奮したような生徒の声に、思わず口元が緩む。
そうだ。感嘆しろ。そして、怯えろ。
俺が強いのだと、脳裏に刻み込め。
「…………」
審判員席の方に一瞬だけ視線をやると、楽しげなクリスの隣で、むっつり不機嫌そうなアストルディアの姿が見えた。もっとも俺の部屋以外でのアストルディアは、いつも無駄に威圧感を垂れ流しているから、何を思っているのかはよく読み取れないのだけど。部屋では素直なお耳や尻尾も、人前ではぴくりとも動かなくなるし。
まあ、さっきの怒りの雰囲気は纏ってない気はするので、恐らく後で怒られることはないだろう。
一人そう結論づけて、前を向く。
親善試合は、まだまだこれからが本番だ。
「……すげぇ、あの人間、どこまで勝ち進むんだ」
「2試合目から、あいつが戦ってるの王宮兵の人達だろ……圧勝じゃないか」
「人間って……あんな強いのか」
2試合目に戦ったのは、ジャッカルの剣士だった。
獣化状態よりも剣の方が得意なのだと、試合前に礼儀正しく伝えてくれた彼に敬意を示し、俺も模造刀で戦った。
素早い身のこなしで、ヤンガルドのような隙はなかったが、それほど力は強くない。隙を見て力任せに剣を弾き飛ばし、勝利した。魔法は使わなかった。
3試合目に戦ったのは、サイの獣人だった。彼は試合前から獣化して、こちらに対峙した。
大柄な分、攻撃が単調なので避けるのは難しくなかったが、問題は彼の防御力の高さだった。
元々の皮膚が硬いのか、身体強化が強力なのか、打撃での攻撃は一切通じなかった。剣が模造刀なのも、その一因ではあっただろうが、こうなったら魔法に頼るしかない。
弱い魔法も弾かれてしまったので、中級程度の魔法をいくつか試してみたところ、雷魔法と相性が悪いことがわかった。以後雷魔法を中心に攻撃したところ、麻痺して戦闘不能になった。
勝利してから魔力譲渡で身体強化を弱体化できるかの実験をすれば良かったかなと思い至ったが、まあいい。まだ試合は2戦は残っている。
「驚いた……貴方は本当に強いのだな。【国境の守護者】の名は、伊達でない。うちの兵団に欲しいくらいだ」
そして俺は今、準決勝の対戦相手であるホワイトタイガーの獣人と対峙している。
「私の名前は、ナナーク・ワシヤミア。王宮兵を取りまとめる兵団長をしている。貴方の強さに敬意をはらい、最初から獣化姿で戦いたいのだが、構わないだろうか」
いやさ、何てかさ……王宮兵のみなさん、みんなすげぇ礼儀正しいのな。獣人兵って、めちゃくちゃ荒くれ者のイメージあるのに。下手したらリシス王国の騎士団のが、野蛮だわ。
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