俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

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試合開始③

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「もちろん構いませんよ。ワシヤミアさん。私も、使える魔法は全て使って、貴方に勝たせていただきますから」

 微笑みと共にそう返すと、ナナークは獣面でもはっきりわかる笑みを浮かべた。……うーん。めちゃくちゃ爽やかなお人だ。これは好感度高いわ。

「それでは、そうさせてもらおう」

 そう言うと、ナナークは目の前で服を脱ぎ、3メートルほどのホワイトタイガーの姿に変わった。
 しょっちゅうアストルディアが目の前で裸になって獣化していることからもわかるように、獣人は裸になって獣化することに一切羞恥を覚えないらしい。
 けど俺としては獣面二足歩行の状態の全裸がどんな感じかとか知りたくなかったので、隠れてやって欲しかった。トラちんこもにゃんたまも、しっかり見えたし。
 ……なるほど。獣面状態のにゃんたまは毛が生えてんだな。人化状態のアストルディアのわんたまは、生えてなかった気がするけど。
 嫌な豆知識が、また一つ増えてしまった。

「それでは、立ち位置につこうか」

 ああ、兵団長。獣化状態で後ろ向いたら、ご立派な真っ白にゃんたまがさらに丸だしです。狼と違って尻尾が細いから、全然隠れておりません。
 生温い気持ちになりながらも、兵団長の後を追うように立ち位置につく。

「ーーはじめ!」

 主審がそう告げるなり、ホワイトタイガー姿のナナークが飛びかかってきた。
 速い。巨体なのに、2試合目のジャッカルの獣人と変わらない速さだ。
 身体強化の上に重力魔法を重ねがけ、より俊敏に動けるようにして、迫りくる爪をよける。
 地割れのように床を引き裂いたその爪痕を見て、驚愕した。

「床が……凍ってる?」

 まさか。獣人は魔法を使えないはずでは。
 驚く俺に、ゆっくり体勢を立て直したナナークが迫る。

「驚いたかい? 基本的に獣人は魔法は使えないが……稀に私のように、攻撃に所有する魔力の性質が現れるものもいる」

 頬を掠めた爪を寸でのところで除けたが、掠ったところが凍傷になった。

「私の爪は、傷つけた獲物を凍らせる。……さて、エドワード君は、これにどう対抗する?」

 正直獣人の爪や歯の威力を考えれば、こちらの得物が模造刀だと言うのはフェアじゃない気がしてきたが、今さらな話だ。だいたい俺には結界もあるわけだし。
 すぐに結界魔法を展開し、今度はこちらから攻撃を仕掛ける。
 向こうが氷ならば、こちらは火だ。
 しかし、放った火魔法は、ナナークに当たった瞬間霧散した。……くそ。強力な身体強化が結界並みに魔法を弾くって、まじだったか。

「君が結界を張ってくれて、嬉しいよ。私の爪が、結界にどれくらい対抗できるか、試してみたかったんだ」

 一度爪を結界を弾かれたナナークが、今度は俺ではなく結界そのもの狙って爪で切りつける。
 次の瞬間、パリンと音をたてて結界にひびが入ったのがわかった。
 ……さすが獣人の王宮兵団長。俺が今まで戦ってきた、どんな魔物より強い。
 このままじゃ、俺の魔法がナナークにダメージを与える前に、結界が破れる。まあ、そうなればそうなったで、何度でも結界を貼り直せばいいだけな話だが、ダメージを与える手段が思いつかない限り、それは時間稼ぎにしかならない。
 ……というわけで、ここはいっちょ、魔力譲渡を試してみる時でしょう! 
 正直対獣人戦の奥の手だから、ヴィダルスまでは使わない方が良いのかなとも思っていたが、相手は王宮兵団長。魔力譲渡が身体強化に与える影響をみるサンプルとしては、なかなか望ましい相手だ。やっぱり実験は、複数の対象で試しておかなくては。
 作戦はシンプル。ナナークの隙をついて魔力譲渡をし、すぐさま先ほど弾かれた中級程度の火魔法をぶち込む。身体強化が弱体化したなら、今度は攻撃が通るはずだ。
 さて、はりきってやってみよー!
 ナナークが結界のひびを割り広げている間に、片手で火魔法の魔法陣を書きながら、素早く魔力譲渡の魔法を詠唱した。
 計算通り、魔法陣を書き終わる前に、魔力譲渡の魔法が発動した。

「っ!」

 ナナークの目が見開かれたと同時に、魔法陣から放たれた火の矢がナナークを襲う。
 ナナークの悲鳴と共に、白く美しい毛皮が燃えあがる。
 よっしゃあ、計算通り! ……て、やばい。やばい。このままじゃ、ナナーク死んじゃうかも。

「業火に焼かれし者に、水の癒しを! 【水救癒】!」


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