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運命の分岐②
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「……申し訳ありません。女王陛下からは、エドワード様だけをお通しするように言付かっております」
馴染みらしき王宮兵の言葉に、俺とアストルディアの結婚を機に王宮兵団を辞め、俺専属となったチルシアさんが眉間に皺を寄せる。
「馬鹿を言わないでください。護衛の一人もつけずに、第二王子妃をただ一人で行かせられるはずがないでしょう」
「女王陛下自身も、室内には護衛はもちろん使用人一人入れておりません。それに、エドワード様は既に一度、結婚の挨拶の時に同じ状況を受け入れられただとか」
「結婚前と、今では立場が違います! それに、エドワード様は身重のお体なのですよ。私はアストルディア殿下に、片時も離れずエドワード様とお腹の子をお守りするよう頼まれているのです。いくら女王陛下のご命令とあれど、そのようなことは承知できません!」
「エドワード様も、同じお考えですか?」
「……いえ、私は」
リシス王国基準では、チルシアさんの考え方が正しいけれど、ここはセネーバ。力こそが、王族の地位を確立する国。
ならば以前同様、臨月でもなお問題なく戦える姿勢を示していた方が周囲の支持を得られるし、何よりここでチルシアさんと一緒でなければとごねてしまえば、言外に女王陛下を信頼していない表明になってしまう。以前一度、同じ状況に同意したのだから尚更だ。
ただ信頼してないと思われるならともかく、叛意を抱いていると邪推されてしまえば、次期王になる決意を固めているアストルディアの足を引っ張ることになってしまう。
「チルシアさん。女王陛下とのお話が終わるまで、ここで控えて頂いてもよろしいですか?」
「ですが、エドワード様!」
「女王陛下は私を信頼して、部屋に護衛を入れず二人きりで話そうとしてくださっているのです。私はその信頼に応えなければいけません」
渋るチルシアさんを言い含めて、一人部屋に入る。
部屋の中には、いつか嗅いだ檜の匂いが立ち込めていた。
部屋の中央で、豪奢な椅子に座ったエルディア女王が、優雅にお茶を飲みながら俺を一瞥する。
「……ああ、良く来てくれました。エドワード殿。至急内密で、貴方に話さなければならないことができたのです」
光を感じない、黒曜石の瞳が俺を射抜いた。
「万が一にも、外の兵士に聞かれたら困る話題です。耳が良い獣人にも聞こえないよう、もっと近寄ってください。耳元でお話したいので」
「よろしければ、防音魔法を展開しますが」
「そんなこともできるなんて、魔法と言うものは便利ですね。でも、生憎魔法と縁なく育った私は、魔法そのものを信頼できないのです。そのようなものに頼らず、ただ黙って耳をお貸しください」
「……でも」
……さすがにそんな内緒話の距離で、女王陛下と話すなんて色々まずい気がするんだよな。室内で二人きりなら、特に。
躊躇って動かない俺を、エルディア女王は暫く黙って見つめた後、細いため息を吐いた。
「……恥ずかしながら、話したいのはルルーのことです」
「え?」
「貴方にしか相談できないんです。どうかよろしくお願いします」
……つまり、これは女王への恩売りチャンスってこと?
突然降って湧いた絶好の機会に、俺は浮かれて警戒心を無くした。
どれほど至近距離にいたとしても、エルディア女王なら勝てるという驕りもあった。
「……そう言うことでしたら」
すぐそばまで近づいて、女王陛下に向かって耳を傾ける。
次の瞬間だった。
「エドワード殿……貴方が思っていたよりも、浅慮で助かりました」
「……え?」
殺気はなかった。魔力の気配も一切なかった。
気づいた時には、既に手遅れだった。
「【跪きなさい】」
カチリとした金属音。首元に感じる重み。
それを意識するよりも先に、体が勝手に女王の命令に従っていた。
まさか、そんなはず。
その場に跪いた俺は、だらだらと冷たい汗が流れるのを感じながら、首元に手を這わせる。
「……【隷属の首輪】」
そこには、半世紀前の戦争で製法ごと失われたと言われていた呪われた魔道具が嵌められていた。
馴染みらしき王宮兵の言葉に、俺とアストルディアの結婚を機に王宮兵団を辞め、俺専属となったチルシアさんが眉間に皺を寄せる。
「馬鹿を言わないでください。護衛の一人もつけずに、第二王子妃をただ一人で行かせられるはずがないでしょう」
「女王陛下自身も、室内には護衛はもちろん使用人一人入れておりません。それに、エドワード様は既に一度、結婚の挨拶の時に同じ状況を受け入れられただとか」
「結婚前と、今では立場が違います! それに、エドワード様は身重のお体なのですよ。私はアストルディア殿下に、片時も離れずエドワード様とお腹の子をお守りするよう頼まれているのです。いくら女王陛下のご命令とあれど、そのようなことは承知できません!」
「エドワード様も、同じお考えですか?」
「……いえ、私は」
リシス王国基準では、チルシアさんの考え方が正しいけれど、ここはセネーバ。力こそが、王族の地位を確立する国。
ならば以前同様、臨月でもなお問題なく戦える姿勢を示していた方が周囲の支持を得られるし、何よりここでチルシアさんと一緒でなければとごねてしまえば、言外に女王陛下を信頼していない表明になってしまう。以前一度、同じ状況に同意したのだから尚更だ。
ただ信頼してないと思われるならともかく、叛意を抱いていると邪推されてしまえば、次期王になる決意を固めているアストルディアの足を引っ張ることになってしまう。
「チルシアさん。女王陛下とのお話が終わるまで、ここで控えて頂いてもよろしいですか?」
「ですが、エドワード様!」
「女王陛下は私を信頼して、部屋に護衛を入れず二人きりで話そうとしてくださっているのです。私はその信頼に応えなければいけません」
渋るチルシアさんを言い含めて、一人部屋に入る。
部屋の中には、いつか嗅いだ檜の匂いが立ち込めていた。
部屋の中央で、豪奢な椅子に座ったエルディア女王が、優雅にお茶を飲みながら俺を一瞥する。
「……ああ、良く来てくれました。エドワード殿。至急内密で、貴方に話さなければならないことができたのです」
光を感じない、黒曜石の瞳が俺を射抜いた。
「万が一にも、外の兵士に聞かれたら困る話題です。耳が良い獣人にも聞こえないよう、もっと近寄ってください。耳元でお話したいので」
「よろしければ、防音魔法を展開しますが」
「そんなこともできるなんて、魔法と言うものは便利ですね。でも、生憎魔法と縁なく育った私は、魔法そのものを信頼できないのです。そのようなものに頼らず、ただ黙って耳をお貸しください」
「……でも」
……さすがにそんな内緒話の距離で、女王陛下と話すなんて色々まずい気がするんだよな。室内で二人きりなら、特に。
躊躇って動かない俺を、エルディア女王は暫く黙って見つめた後、細いため息を吐いた。
「……恥ずかしながら、話したいのはルルーのことです」
「え?」
「貴方にしか相談できないんです。どうかよろしくお願いします」
……つまり、これは女王への恩売りチャンスってこと?
突然降って湧いた絶好の機会に、俺は浮かれて警戒心を無くした。
どれほど至近距離にいたとしても、エルディア女王なら勝てるという驕りもあった。
「……そう言うことでしたら」
すぐそばまで近づいて、女王陛下に向かって耳を傾ける。
次の瞬間だった。
「エドワード殿……貴方が思っていたよりも、浅慮で助かりました」
「……え?」
殺気はなかった。魔力の気配も一切なかった。
気づいた時には、既に手遅れだった。
「【跪きなさい】」
カチリとした金属音。首元に感じる重み。
それを意識するよりも先に、体が勝手に女王の命令に従っていた。
まさか、そんなはず。
その場に跪いた俺は、だらだらと冷たい汗が流れるのを感じながら、首元に手を這わせる。
「……【隷属の首輪】」
そこには、半世紀前の戦争で製法ごと失われたと言われていた呪われた魔道具が嵌められていた。
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