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運命の分岐③
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セネーバ独立以前、リシス王国にはシュドゥル家という、王家に並ぶ権力を持つ一族がいた。
闇魔法と付与魔法に特化したかの一族は、魔法の施行者自身の精神汚染を防いだ状態で、【隷属】効果のある魔道具を生み出すことに成功。それを活用して、まだ対等な関係だった獣人を一網打尽に奴隷化し、奴隷商として莫大な富を得た。
獣人達を食い物にし、悲惨な運命を強いたシュドゥル家は数百年に渡って繁栄したが、アルデフィア主導の獣人達の反乱によっていの一番に滅ぼされた。獣人達のシュドゥル家に対する怨恨はあまりに深く、一族のものを女子どもに至るまで一人残らず惨殺。彼らが生み出した隷属効果のある魔道具も一つ残らず壊し尽くし、その製法も全て闇に葬り去ったと伝えられている。
俺の首につけられた【隷属の首輪】も、そんなシュドゥル家が作りだした魔道具の一つ。主として登録されたものの命令には逆らえず、主の許可がなければ、攻撃や魔法の行使はもちろん、自死することすら許されない。
奴隷の人権を完全に無視した、あまりに非人道的な魔道具が、現存していたなんて。自然と唇が震えた。
「シュドゥル家が作りだした魔道具はほとんど廃棄されましたが、この【隷属の首輪】だけは王家の宝物庫で保管されていました。この首輪は、かつて私の番であるニルカグルの首に嵌っていたもの。父アルデフィアの首輪は母が破壊した為、せめてこれだけはと残していたらしいです。アルデフィアが、無属性の力を使って壊さずに外してくれたものだから、と。ニルカグルにとっては、首輪の呪われた歴史よりも、父との思い出の方が大切だったのでしょう。まさかそれが、今になって自身の無念を晴らす為に使われるとは、思ってもみなかったでしょうね」
静かに席を立ったエルディア女王は、扉に向かって大声で呼びかけた。
「罪人を捕縛なさい!」
跪いた体勢のまま、部屋になだれ込んで来た兵士によって拘束される。
廊下の外では、チルシアさんが暴れ叫ぶ声が聞こえてきたが、すぐに静かになった。チルシアさんは、剣の腕は確かだが、純粋な身体能力では他の王宮兵に劣る。恐らく俺同様に拘束され、無力化されたのだろう。
「何故です……女王陛下、何故こんなことを……」
「知らないふりをするのは、やめなさい。心当たりはあるのでしょう? ……今朝、ニルカグルがベッドの上で死んでいるのが発見されました」
「なっ!?」
「眠るような穏やかな顔で亡くなっていたので、当初は自然死だと思われていましたが、信用できる医者に検死を行わせた所、デワリュセの樹液による他殺だと言う事が判明したのです」
「……デワリュセ……」
デワリュセの樹液は、以前ブラッドリーが俺を暗殺しようと目論んだ時に、針に染み込ませていた毒だ。被害者を眠らせ、ゆっくりと体の機能を止める遅効性の毒。
まさかこんなにすぐ、またこの名称を聞くことになるだなんて。
「死亡推定時刻から逆算した結果、その時間にニルカグルと接触したものは一人だけでした。デワリュセのせいで酷い眠気に襲われたニルカグルは、朝まで誰も室内に入れないようその人物に言付けして、死体が発見されるまでの間、他の誰も自分に近づけないようにしたのです。……もっともそれが、本当にニルカグルの意思だったかは怪しい所ですが」
そう言ってエルディア女王は、自嘲するように笑った。
「その最後にニルカグルと接触した者が、アストルディアです」
「っ」
「そして殺害に使われたデワリュセは、セネーバ国内には生えていない植物です。リシス王国のものでなくては、まずこの毒は手に入れられない。……エドワード・ネルドゥース。貴方を、王配ニルカグル殺害教唆の容疑で捕縛します」
頭の中が、真っ白になった。
アストルディアが、ニルカグルを殺した?
そして、その毒を手に入れたのが、俺だと疑われている?
闇魔法と付与魔法に特化したかの一族は、魔法の施行者自身の精神汚染を防いだ状態で、【隷属】効果のある魔道具を生み出すことに成功。それを活用して、まだ対等な関係だった獣人を一網打尽に奴隷化し、奴隷商として莫大な富を得た。
獣人達を食い物にし、悲惨な運命を強いたシュドゥル家は数百年に渡って繁栄したが、アルデフィア主導の獣人達の反乱によっていの一番に滅ぼされた。獣人達のシュドゥル家に対する怨恨はあまりに深く、一族のものを女子どもに至るまで一人残らず惨殺。彼らが生み出した隷属効果のある魔道具も一つ残らず壊し尽くし、その製法も全て闇に葬り去ったと伝えられている。
俺の首につけられた【隷属の首輪】も、そんなシュドゥル家が作りだした魔道具の一つ。主として登録されたものの命令には逆らえず、主の許可がなければ、攻撃や魔法の行使はもちろん、自死することすら許されない。
奴隷の人権を完全に無視した、あまりに非人道的な魔道具が、現存していたなんて。自然と唇が震えた。
「シュドゥル家が作りだした魔道具はほとんど廃棄されましたが、この【隷属の首輪】だけは王家の宝物庫で保管されていました。この首輪は、かつて私の番であるニルカグルの首に嵌っていたもの。父アルデフィアの首輪は母が破壊した為、せめてこれだけはと残していたらしいです。アルデフィアが、無属性の力を使って壊さずに外してくれたものだから、と。ニルカグルにとっては、首輪の呪われた歴史よりも、父との思い出の方が大切だったのでしょう。まさかそれが、今になって自身の無念を晴らす為に使われるとは、思ってもみなかったでしょうね」
静かに席を立ったエルディア女王は、扉に向かって大声で呼びかけた。
「罪人を捕縛なさい!」
跪いた体勢のまま、部屋になだれ込んで来た兵士によって拘束される。
廊下の外では、チルシアさんが暴れ叫ぶ声が聞こえてきたが、すぐに静かになった。チルシアさんは、剣の腕は確かだが、純粋な身体能力では他の王宮兵に劣る。恐らく俺同様に拘束され、無力化されたのだろう。
「何故です……女王陛下、何故こんなことを……」
「知らないふりをするのは、やめなさい。心当たりはあるのでしょう? ……今朝、ニルカグルがベッドの上で死んでいるのが発見されました」
「なっ!?」
「眠るような穏やかな顔で亡くなっていたので、当初は自然死だと思われていましたが、信用できる医者に検死を行わせた所、デワリュセの樹液による他殺だと言う事が判明したのです」
「……デワリュセ……」
デワリュセの樹液は、以前ブラッドリーが俺を暗殺しようと目論んだ時に、針に染み込ませていた毒だ。被害者を眠らせ、ゆっくりと体の機能を止める遅効性の毒。
まさかこんなにすぐ、またこの名称を聞くことになるだなんて。
「死亡推定時刻から逆算した結果、その時間にニルカグルと接触したものは一人だけでした。デワリュセのせいで酷い眠気に襲われたニルカグルは、朝まで誰も室内に入れないようその人物に言付けして、死体が発見されるまでの間、他の誰も自分に近づけないようにしたのです。……もっともそれが、本当にニルカグルの意思だったかは怪しい所ですが」
そう言ってエルディア女王は、自嘲するように笑った。
「その最後にニルカグルと接触した者が、アストルディアです」
「っ」
「そして殺害に使われたデワリュセは、セネーバ国内には生えていない植物です。リシス王国のものでなくては、まずこの毒は手に入れられない。……エドワード・ネルドゥース。貴方を、王配ニルカグル殺害教唆の容疑で捕縛します」
頭の中が、真っ白になった。
アストルディアが、ニルカグルを殺した?
そして、その毒を手に入れたのが、俺だと疑われている?
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