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第1章 隠し事
実の知り合い
しおりを挟む「いって!」
急に地面に落とされ、尚希は思わず声をあげた。
その隣で綺麗に着地を決めた実は、尻餅をついたままの尚希を見下ろして―――
「大丈夫ですか?」
と、暢気に訊ねる。
「実! お前、移動はできないんじゃなかったのか!?」
状況が把握できず、混乱する尚希。
そんな尚希の言葉に不思議そうに首を傾げた実だったが、ふと何かに思い至ったように手を叩くと、その表情に柔らかな微笑みを浮かべた。
「すみません、説明不足でしたね。あいつは、俺に地球に帰ってほしくないだけですよ。だから、アズバドル内での移動は邪魔されません。」
「は? お前、いつの間にそんなことを検証して……」
「拓也に移動を頼む前に、ちゃちゃっと確認しときました。」
「………」
あの数秒のどこにそんな時間があったのか。
信じられない気持ちになった尚希だったが、記憶を取り戻してからの実の能力を考えれば、それも十分になせる業なのかもしれないと思い直す。
「……まあ、いいや。それにしても、ここどこなんだ?」
気を取り直して辺りを見回せば、ここがどこかの路地裏であることが分かった。
「ああ、ここはですね―――」
「あんた、今度はそこで何してるのよ?」
ふいに、実の後ろから声が聞こえてきた。
実は声の方向を向くと、笑みを少しわざとらしく深める。
「よ、エーリリテ。」
実の口調には、親しげな響きが含まれていた。
尚希は実と同じ方向へ目を向ける。
そこには、数人の護衛を引き連れた一人の女性が立っていた。
年齢は、尚希と同じくらいといったところだろうか。
内側に緩やかに丸まった淡い茶髪。
勝気な茶色い目には自信があふれていて、どこか気高い気品を感じさせる。
大きく肩を見せた黒いドレスは、女性の細く白い肌をより一層美しく際立たせていた。
思わず振り返って二度見をする男性が多そうな容姿だ。
女性―――エーリリテは額に手を当て、盛大な溜め息をついた。
「あのね……あんた、少しは穏やかな用件でこっちに来れないわけ?」
「ごめんって。普段は俺が悪いけど、今日は色々と事情があって……」
ちらりと、後ろの尚希たちを見る実。
「あら?」
エーリリテはそこで尚希たちに気付いたらしく、優雅な仕草で小首を傾げた。
「俺の連れ。ちょっと、訳があってこの状況でさ。寝かしてあげたいんだけど、大丈夫?」
「まあ、部屋なら有り余ってるからいいんだけど…。その子、大丈夫なの? 病気とかじゃないわよね?」
心配そうな表情で拓也を覗き込むエーリリテ。
「それは大丈夫。言ってしまえば、疲れてるだけって表現が近いかな。」
「ならいいんだけど……その言葉、信じるわよ?」
「大丈夫。なんかあったら、俺が対処できるし。」
「ふうん……分かった。」
実の言葉にエーリリテは一つ頷き、屈めていた腰を上げる。
それと同時に、実の肩を思い切り掴んだ。
「って!」
その瞬間、実が痛みをこらえるように顔を歪める。
「じゃあ、あんたが先よ。まーた怪我を増やしたわね? それに、そんな格好でいつまでも立っていられたら、大騒ぎになって迷惑なのよ。ほらっ、いらっしゃい! そこのあなた、ぼーっとしてないでついてきなさい。その子、風邪引くわよ。」
「あ……はい……」
呆気に取られる尚希には目もくれず、エーリリテは実を引っ掴んだまま、ずんずんと歩き出した。
「いててててっ……一人で歩けるから!」
「自業自得じゃない。」
「……乱暴。」
「なんですって?」
「あいたっ」
減らず口を叩く実とそれをあしらうエーリリテに、尚希はしばし茫然と立ち尽くす。
こちら側の世界に、実とあそこまで親しげな人物がいたとは。
ここは一体どこなのか。
そして、彼女は一体誰なのか。
そんなことを考えている間に、次第に小さくなる二人の姿。
ハッとした尚希は、慌てて二人を追いかけた。
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