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第6章 3日目――決着
最後は、心のままに―――
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想定外の展開に、後ろを振り返る死神。
そんな彼に向けて―――
「返してもらうぞ。」
そう笑ったのはレティルだった。
まさかの人物の登場に、死神だけではなく拓也と尚希も瞠目する。
「お主……何故…っ」
「この空間の創造主は私だ。それに、こいつを保護していたのも私だぞ。この間は、随分と恥をかかされたからな。ささやかな仕返しだ。」
「―――……」
それを聞いた刹那、死神の表情から感情という感情が消え去った。
かなりの間を置いて死神の顔に表れたのは、諦観をたたえた笑み。
「なるほど……私の運命は、もう決まっていたようだ。」
死神は肩をすくめる。
すでに、指一本動かす力もない。
自分はこのまま、ここで消えるしかないだろう。
「別に、死にはしないさ。眠るだけだ。……こいつらと一緒に。」
「?」
怪訝そうな死神の前で、実は静かに両手を空中に差し出す。
その後、その手が淡く光を発した。
次に、実が何かを手繰るように指を躍らせた。
すると―――
―――ふわ
死神の周りに、淡く光る球体が大量に現れた。
「これは……」
言葉を失う死神。
「あんたが狩った魂たちだよ。すでに世界から切り離されて、行き場のない奴らだ。あんたが最後まで連れていけ。」
そう語る実は、先ほどまでとは打って変わって優しげな口調だった。
その手の中には、とある一つの魂が。
「もっと早く……気付いてやればよかったのにな。この子は本当にあんたを愛して、死んでも心ごとここにいたのに。」
ゆっくりと魂を掲げる実。
「最後は……自分の心のままに、自由に行くんだ。」
慈しむように魂へ語りかけ、実は目を閉じる。
実の手の中がきらめいて―――淡い光は、一人の少女へと姿を変えた。
「―――っ!!」
死神の目が、零れ落ちそうなほどに見開かれる。
実に背中を押され、少女は駆け出した。
ふわり、ふわりと地を蹴って。
どこまでも行けそうなくらい、軽やかな足取りで。
たった一人の―――愛しい彼の元へ。
飛び込んできた華奢な体を、死神は力が入らないはずだった両手でしっかりと抱き留めた。
少女は幸せそうに顔をすり寄せ、愛しげな手つきで死神のフードに手をかけた。
フードがばさりと術の風にはためき、その奥の翡翠色の瞳が露わになる。
少女はその瞳を見つめ、頬をなで、再び死神の首に腕を回した。
「―――、―――――。」
少女の口が何かを囁く。
それを聞いた死神の目が一層見開かれ、そこから一筋の涙が流れ落ちた。
死神は少女を必死に掻き抱く。
それを見た実は、柔らかく微笑んだ。
少女がなんと言ったのか。
それは、あの二人だけのもの。
だから、偶然聞こえてしまったこの言葉は、ひっそりと胸にしまっておくことにする。
「気は済んだか?」
投げかけられた言葉にそちらを見ると、レティルがふてくされたような顔でこちらを見ていた。
「このお人好しめ。余計なことばかりしたがりよって。」
心底呆れている口調だ。
「悪かったな、お人好しで。あのままなのが、どうも気持ち悪かったんだよ。お前に負担はかけてないだろ。」
「問題の種類が違う。不安定なくせに、無駄な力ばかり使うなと言いたいのだ。もういいだろう?」
「ああ。見たかったもんは、ちゃんと見届けたよ。」
「ならば、お前も眠れ。今度無茶をする時は、きちんと肉体を伴ってからだ。」
「はいはい。」
やれやれと溜め息をついた実は、満足そうな表情で目を閉じた。
そんな実の姿が、風に溶けるように消える。
レティルはそれを確認して、実の魂が入ったかごの扉を開いた。
次いで、服の内からガラスの箱を取り出す。
それを揺らすと、継ぎ目なく密閉されていたはずのガラス箱から力の核が飛び出した。
魂と力の核は引かれ合うように近付き、一つの球体になる。
その瞬間、実の魂が今までとは比べ物にならないほどの光をまき散らした。
「さあ、早く戻れ。」
レティルが言うと、それはふっとそこから消えた。
「さて……このまま終わるのも、面白みに欠けるな。」
レティルは一つ呟き、死神の前にしゃがんだ。
「……なんだ? 最後に私を笑いにきたか?」
不思議そうにレティルを見つめる少女を強く抱き寄せ、死神はレティルを睨む。
しかし、レティルはそれに否と答えた。
「いや? どうせ最後だ。土産に、お前の疑問に答えてやろうと思ってな。」
「疑問だと?」
「そうだ。あいつに、随分と複雑な疑問をぶつけたそうじゃないか。」
「………」
思い当たる節があった死神は、なんとも言えない雰囲気で顔をしかめた。
レティルはそんな死神の耳元に、そっと唇を持っていく。
「―――っ!!」
死神の表情が、驚愕に染まった。
しかしそれはほんの一瞬で、直後には納得したような笑みが彼の表情を彩っていく。
「なるほど、どうりで…。あやつは元々、私が触れてはならない者だったのか。」
死神はぽつりと呟き、次に虚空を見上げた。
自分の世界が、終焉を告げる。
ぐるりと自分の周りに漂う魂たちを見回し、最後に腕の中の少女を見つめる。
少女は自分と目が合うと、何もかも分かっている様子で頷いた。
それを見て、彼は微笑む。
―――長い長い、眠りにつこう。
今まで犯した業を背負って。
この腕に、誰よりも愛した人間を抱いて。
どこの世界にも属さない、次元の果てで。
少女を強く抱き締めると、少女もそれに応えて抱き締め返してくる。
少女がまた、何かを呟いた。
「ああ…」
優しく一言答えて、死神は少女と一緒に目を閉じた。
―――続きは、果てなく続く夢の中で。
この時、神と神との間で交わされた短い会話を、その他の誰もが聞くことはなかった。
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