世界の十字路

時雨青葉

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第3章 新たな異世界

疑念の目

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「そっか……」


 ようやく落ち着きを取り戻した晴人に事情を説明すると、晴人はただ一言そう返してきた。


 実はそんな晴人の隣に座り、そこから広い庭を一望する。


 庭の所々に、何人かの姿が確認できる。
 顔までは分からないので断言はできないが、おそらくは今までの被害者たちだろう。


「ねえ、晴人。一ついい?」


 訊ねると、晴人は首を傾げた。


「ここには、晴人の他に誰がいるの?」


「ああ……みんないるよ。さすがに全員の顔を知ってるわけじゃないけど、先生とかもいたし…。多分、今まで行方不明になってた人たちがみんないるんだと思う。それと……」


 晴人が言葉をにごす。


「華奈美を見た。」
「―――っ!!」


 不覚にも、驚いてしまった。


 決して、華奈美のことを忘れていたわけではない。
 ただ……


 華奈美もここにいるのなら、晴人と華奈美が会う可能性はいくらでもあると。
 そのことを、すっかり失念していたのだ。


 しかし、晴人が華奈美に会ったのなら、華奈美がここにいないという今の現状に違和感を覚える。


 それを訊こうと思った矢先、晴人の方から口を開いてくれた。


「なんか、ぼーっとした目をしてさ…。オレたちをここに連れてきた奴らと一緒に、どこかに行くところだった。声をかけようと思って追いかけたんだけど、後ろから押さえられて……気付いたら、ベッドの上だったよ。」


 膝の上で握った手に肌が白くなるほど力がこもり、そして小さく震え出す。


「華奈美……大丈夫かな。」


 奥歯を噛み締める晴人に、実は何も返せる言葉がなかった。


 おそらく、華奈美は無事だろうと思う。


 彼らはこちらに危害を加えるつもりはないと言っていたし、晴人の話のニュアンスから察するに、華奈美は無理やり連れていかれたわけではなさそうだ。


「………」


 眉を険しく寄せて考える実。


 昨日からずっと気になっているのだが、彼らの目的が全く分からない。


 こちらに危害を加えるつもりもなければ、何かを強制するわけでもない。


 ならば、彼らは何をしたいのだろうか……


「実…」


 呼ばれて、顔を上げる。
 こちらと目が合った晴人は何かを言いかけ、気まずそうに口を閉ざした。


 まるで、言うのを躊躇ためらっているような。
 そんな素振りだ。


「何?」
「いや……」


 やはり言いよどむ晴人は、こちらから目をらす。


 しばらく待っていると、晴人は目を合わせないまま、おそるおそるといった様子で口を開いた。


「オレさ……実の家に行ったよね。華奈美がいなくなった時。」
「―――っ!!」


 実の顔が、即座に強張った。
 実の方を見ていない晴人は、それに気付くことなく話を続ける。


「思い出したんだ。実、その時〝忘れててくれ〟って言ったよな? そっからの記憶がなくて……次の日から、本当に華奈美がいなくなったことを忘れてた。今考えると、ぞっとするくらい気持ち悪い。」


 晴人はそこまで言うと、意を決して実を見つめる。
 その顔は、疑念と不安に満ちあふれていた。




「実……オレに、何したの?」




 その問いかけに、息も止まりそうになった。


「………っ」


 今度は、こちらが目をらす番だった。


 ……やはり、こう訊かれてしまうか。


 晴人からここで華奈美に会ったと聞いた時から、自分が細工をしたことを晴人が思い出してしまったんじゃないかと、そんな恐れが胸の中に渦巻いていた。


 悪い予感ほどことごとく当たってしまうのだから性質たちが悪い。


 晴人への言い訳をぐるぐると考えていると、急に遠くの方で誰かが騒ぐ声がした。


「?」


 実が庭の向こうを見たので、晴人も同じ方を見て首を傾げる。


「どうしたの?」
「声がする。」


 女性の声だ。
 しかも、かなり切羽詰まった声。


 晴人からの疑惑への後ろめたさもあったのかもしれない。
 自然と腰が浮いて、声の方に歩き出していた。


「え……ちょっと、実!」


 晴人が慌てて追いかけてくる。


「待てって。声なんて、どこから……」


 晴人の言葉は、尻すぼみに消えていった。
 道を進んだことで、晴人にもその声が聞こえてきたのだ。


「誰か!」


 声は、助けを呼んでいた。
 しばらく進むと、植木の隙間から声の主が見えてくる。


 叫んでいたのは、自分たちとそう歳が変わらない少女だ。
 そして、少女の傍には彼女の友人と思われる少女が倒れている。


 実は眉をひそめた。


 様子がおかしい。
 助けを求める少女ではなく、その周りにいる人々の様子が。


 少女たちの周囲には、他の被害者たちが数人いる。
 しかし、その誰もが彼女たちを助けようとはしないのだ。


 無関心なのかと言えば、それは少し違う。


 少女たちを見ている彼らは皆、疲れきったような生気のない顔で消沈としている。


 そこから微かにうかがえる同情の色が、〝助けたいが、自分にもそんな余裕はないのだ〟と言っているように感じられた。


「また、誰か倒れたんだ……」


 隣で息をつく晴人も、よく見れば顔色が少し悪い。


 状況の異常さに、実は言葉を失う。


 しかし、何が起こっているのかを考えようとする前に、少女の悲痛な叫びが再び耳朶じだを打った。


 ……仕方ない。


 実は少女たちに近付くと、倒れている少女を抱き起した。


 額に触れてみたが、熱はない。
 多分だが、寝不足か貧血だろう。


「とりあえず、部屋に運ぶか…。場所、分かる?」


 突然現れた実に驚いて目を丸くしながらも、少女は何度も頷いた。
 実はそれを受けて、倒れた少女の体を軽々と抱き上げる。


「どこ?」
「こ……こっち。」


 戸惑いながらも、彼女は先を導くように歩き始める。
 その後ろに実が続き、晴人も同じようについていくのであった。

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