世界の十字路

時雨青葉

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第3章 新たな異世界

親友との再会

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 その夜は、不思議なくらい深い眠りについた。


 基本的に眠りが浅い性質たちなので、目を開けた時には日が高く昇っていて、とても驚いたくらいだ。


 ひどく懐かしい夢を見ていた気がする。
 幼い頃からの自分を、客観的に見ているような夢だ。




 そう。
 それはまるで、走馬灯のような―――




 ◆ ◆ ◆




 明るくなってから見る庭は、夜とはまた別の美しさを誇っていた。


 屋敷の入り口へと走る道を軸に、左右対称に植木やあずまが配置されている。


 庭の中央には大きな噴水があり、庭のすみの方にもそれぞれ小さい噴水がえられていた。


 綺麗に手入れされた植木には、もれなく色とりどりの薔薇ばらが咲いている。


 そんな庭の一角に、晴人はいた。


 涼やかな水の音を届ける噴水とその周りに咲き誇る薔薇の組み合わせはそれはもう美しい風景だったが、晴人の視界と心にその美しさは届かない。


 晴人はじっと、地面だけを見つめていた。
 そこに―――


「なんだよ、随分しけた顔してんなぁ。晴人。」


 よく知っている声が響いた。


「!?」


 顔を上げると、今はここにいないはずの親友の姿が。
 晴人は思わず、座っていたベンチから立ち上がる。


「なん……で……」


 晴人の表情に怯えが走る。
 それに気付かない実は、安心したように微笑んだ。


「もっとげっそりしてるかと思ったら、案外元気そうじゃん。心配した―――」
「来るな!!」


 一歩近付いた実に、晴人は叫んだ。
 その切羽詰まった叫びに、実は思わず動きを止める。


「なんで…っ」


 晴人は頭を抱える。


「なんで、今出てくるんだよ! 夜だけで勘弁してくれ!! 起きてる時くらい、そっとしておいてくれたって―――」


 ミシッ


 唐突に響く、不穏な物音。
 騒ぎ立てる晴人の頭に、実が無言でかかと落としを食らわせたのだ。


「………?」


 それで、何かがおかしいと思ったらしい。
 晴人の言葉が途切れた。


「……ったく、ようやく見つけたと思ったら、意味分からんことばっかり言いやがって。」


 呆れた口調と溜め息に、晴人はおそるおそる顔を上げる。
 そこには腕を組み、顔をしかめてこちらを見る実の薄茶色の瞳が。


「余計心配になるだろ。一回目を覚ませ、馬鹿晴人。」


 いつもなら軽口を返す晴人だが、この時はそれもなかった。
 ただ驚愕したような、呆けたような表情で、実を凝視するばかりだ。


「……え?」


 間抜けた様子の晴人の視線を、実は不機嫌そうな表情で真正面から受け止めている。


 それからしばらく。
 ふいに、晴人は唇を噛み締めてうつむいた。


「―――み…」
「?」


 微かに震える晴人に、実は首をひねる。
 次の瞬間―――


「みっのる~っ♪」


 ふざけた猫なで声で、晴人は実に向かって手を伸ばした。


「!?」


 実が瞠目して、 肩を大きく震わせる。


 あまりにも唐突かつ想定外の行動に、理性よりも本能がまさってしまう。
 気付いた時には、条件反射で晴人の鳩尾みぞおちに拳を叩き込んだ後だった。


 ハッと我に返って、実は慌てて拳をほどく。


「ご……ごめん、晴人! いつもの癖でつい…っ。なんか、本能的に無理だった!!」
「―――……」


 お決まりの展開で悶絶する晴人。
 しかし、晴人にとってはこのお決まりの展開こそが重要だったのだ。


「いてて…。この反応……」


 ゆっくりと、顔を上げる。


「本当に……実?」


 目の前の事実を確認するような、慎重な表情と口調だ。
 晴人の発言に、実は不可解そうに眉を寄せた。


「はあ? お前、何言っ……て!?」


 途中で不自然に音を外す実の声。
 晴人が勢いよく実に抱きついたからだった。


 今度は晴人の動きの方が断然早く、実は反撃する間もなく、その勢いに負けて尻餅をつくことになる。


「いってー…。なんだよ、いきなり……」


 晴人を引きがそうとする実だったが、晴人はどんどん力を強めるばかりで、実から全く離れようとしない。


「よかった…っ」


 その声に含まれた泣きそうな響きに、実は抵抗をやめざるを得なくなった。
 実の存在を確かめるように、晴人の腕にさらに力がこもる。


「よかった…。本当に……本当に、実なんだな!? オレ……マジで怖くて…っ」


 動くのをやめると、晴人が小さく震えているのが分かる。
 晴人なりに、相当な恐怖を味わったようだ。


 いきなり別世界に引き込まれたのだ。


 何か危害を加えられたわけじゃないとしても、地球の人間にはそれだけで十分な恐怖だろう。


 実は目を閉じると、何も言わずに晴人の頭を優しく叩いてやった。

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