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第6章 悲しい別れ
幸せすぎる夢
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実の問いに否と答えたエリオスは、うーんと虚空を見上げた。
「実が手紙を受け取ったら、自動的に私と糸が繋がるように細工をしてあったんだよ。実が眠った時に、私も眠って夢で会えるようにね。……ただ難点が、なんの前触れもなく眠気に襲われるってことでねー。今頃、行き倒れ状態かな?」
「えええぇぇっ!?」
それは、笑って言うことじゃない!
目に見えて焦る実の額を、ふいにエリオスが軽く弾く。
「った!」
「冗談。糸が繋がったのは感じてたから、ちゃんと建物の中に避難したよ。」
悪戯っぽく笑うエリオス。
「………っ」
遊ばれた。
そのことに気付いて、かあっと顔に熱が集まる。
「あはは、まだまだ子供だなぁ。素直素直。」
実の頭をわしゃわしゃと掻き回すと、エリオスはその髪を一房すくった。
「でも、本当に大きくなったね。こう言ったらあれだけど、ちょうどこのくらいの時の父さんにそっくりだ。もう少し母さんの面影があってもいいのにって思うんだけど……お父さんっ子だからかな?」
「なっ……んなわけないじゃん! ただの遺伝だよ!」
慌てて否定する実の顔は、隠しようもないほどに赤い。
「本当にそう思わせたいなら、まずはその顔をどうにかしなきゃね。実?」
優しい口調で鋭く痛いところを突いてくるエリオスに、実は悔しげに唇を噛むしかなかった。
楽しそうに笑うエリオスを、実はまじまじと見つめる。
すると、エリオスが不思議そうに首を傾げた。
「それが、今の父さんの姿なの?」
記憶にあるよりも伸びた髪。
アズバドルの人々とは少し違う格好。
父は、自分が影ではないと言った。
ならば、ここにいるのは父本人ということになるのだけど……
「そうだよ。」
こくりと頷くエリオス。
「そっか………老けてないね。苦労してるくせに。」
最初に浮かんだ感想はそれ。
さすがに予想外だったらしく、父はポカンとこちらを見て、次の瞬間に思い切り噴き出した。
「そ、そこ…? まあ、なんたって年齢だけはまだ若いからね。実だって、本当はまだこんなでしょ? その姿は地球で難なく暮らせるように、実の魔力を少しずつ引き出して成長速度を地球に合わせてるだけだし。実の意志一つで、ここでの本来の姿に戻ることは可能だよ。むしろ、その方が余計な力を使わずに済むけども。」
「やめてよ…。俺はまだ地球で暮らしてるんだからさ。いきなりちっさくなったら、それこそ異常じゃん。それに、力だって今で十分に有り余ってる。これ以上化け物になるのはごめんだよ。」
それは、心の奥底からの本音だった。
しかしその言葉が響いた刹那、エリオスの瞳が複雑そうに曇ってしまう。
「……そうだね。」
小さく零れたエリオスの言葉に自虐的な響きを感じ取って、実は自分の失言に気付いた。
「ごめん、父さん! 別にこれは、父さんのせいじゃ―――」
言いかけた実の口を、エリオスの人差し指が優しく塞いだ。
びっくりして口をつぐむ実に、エリオスは頷く。
「分かってる。これは父さんのせいでも、ましてや実のせいでもない。分かってるけど、どうしようもなく自分を責めたくなるんだよ。」
「………っ」
エリオスの発言に、実は目を見開いて固まるしかなかった。
知っている。
今父が感じているであろう、その気持ちを。
「父さん……」
何も言えない。
かといって、何もできない。
もどかしさばかりが募って、それをどうにかごまかしたくて……無意識のうちに、手が動いていた。
ゆっくりと、躊躇いがちに。
自分から父の手に触れる。
本当は、これは自分が見ている都合のいい夢なんじゃないか。
父に触れたら、彼の姿が幻のように消えてしまうのではないか。
心の片隅で、そう思っている自分がいた。
衝動的に殴りかかったくせに、今さらながらに少し怖い。
でも、これ以外にできることがなかったのだ。
次の瞬間―――
「―――っ!?」
急に引き寄せられる。
視界が大きく揺れて、気付けば父に抱き締められていた。
「……―――」
微かに動く、エリオスの唇。
耳元で囁かれたその言葉に、心臓が大きく脈打った。
「ごめんね……本当なら、今すぐにでも飛んでいきたいのに…っ」
「父……さん……」
実は、そこから一歩も身動きができなかった。
恥ずかしい話だが、今こうして父に抱き締められていることが想定外で、どうすればいいのか分からなかったのだ。
父は自分を抱く腕に、どんどん力を込めてくる。
その顔は自分には見えなかったが、なんとなく分かる。
きっと父は、今までにないほどにつらそうな顔をしているだろう。
ほどなくして、エリオスは静かに腕をほどいた。
実を見つめるその顔は、慈愛に満ちている。
そしてその時、彼の体が淡く発光して周辺に光の粒子が舞い始めた。
それに驚いた実は手を伸ばしかけて、その変化がエリオスだけではなく自分の身にも起こっていることに気付く。
「もう、時間がないね。世界を隔てて夢で会うのには、色々と制限がかかるから。それに、そろそろ戻らないと……お互いに、この夢から抜け出せなくなりそうだ。」
「………っ」
エリオスの言葉に、実は大きく顔を歪めた。
父の言うことは正しい。
この夢は、お互いにとって幸せすぎるもの。
「実。」
父が改めて名を呼ぶ。
でも今は、そう呼ばれても虚しさが胸を満たすだけで……
そんな実の瞳を真正面から見つめ、エリオスは穏やかに笑った。
実が抱える寂しさも悲しみも虚しさも、全部を包み込むように。
「いいかい? この先、色んなことが起こる。悩むこともたくさんあるだろう。でもね、封印がどうとか、他人がどうとか、そんなことは考えなくていい。君は心のままに、君にとって最良の選択をすればいいんだ。君がどんな選択をしようとも、父さんは最後まで君の味方だ。」
優しく笑うエリオスが、かすれていく。
「父さんっ!!」
嫌だ。
まだ夢を見ていたい。
必死に手を伸ばす。
でも、その手は空を掻くだけで―――
意識が、周囲の闇とは別の黒に塗り潰されていく……
「実が手紙を受け取ったら、自動的に私と糸が繋がるように細工をしてあったんだよ。実が眠った時に、私も眠って夢で会えるようにね。……ただ難点が、なんの前触れもなく眠気に襲われるってことでねー。今頃、行き倒れ状態かな?」
「えええぇぇっ!?」
それは、笑って言うことじゃない!
目に見えて焦る実の額を、ふいにエリオスが軽く弾く。
「った!」
「冗談。糸が繋がったのは感じてたから、ちゃんと建物の中に避難したよ。」
悪戯っぽく笑うエリオス。
「………っ」
遊ばれた。
そのことに気付いて、かあっと顔に熱が集まる。
「あはは、まだまだ子供だなぁ。素直素直。」
実の頭をわしゃわしゃと掻き回すと、エリオスはその髪を一房すくった。
「でも、本当に大きくなったね。こう言ったらあれだけど、ちょうどこのくらいの時の父さんにそっくりだ。もう少し母さんの面影があってもいいのにって思うんだけど……お父さんっ子だからかな?」
「なっ……んなわけないじゃん! ただの遺伝だよ!」
慌てて否定する実の顔は、隠しようもないほどに赤い。
「本当にそう思わせたいなら、まずはその顔をどうにかしなきゃね。実?」
優しい口調で鋭く痛いところを突いてくるエリオスに、実は悔しげに唇を噛むしかなかった。
楽しそうに笑うエリオスを、実はまじまじと見つめる。
すると、エリオスが不思議そうに首を傾げた。
「それが、今の父さんの姿なの?」
記憶にあるよりも伸びた髪。
アズバドルの人々とは少し違う格好。
父は、自分が影ではないと言った。
ならば、ここにいるのは父本人ということになるのだけど……
「そうだよ。」
こくりと頷くエリオス。
「そっか………老けてないね。苦労してるくせに。」
最初に浮かんだ感想はそれ。
さすがに予想外だったらしく、父はポカンとこちらを見て、次の瞬間に思い切り噴き出した。
「そ、そこ…? まあ、なんたって年齢だけはまだ若いからね。実だって、本当はまだこんなでしょ? その姿は地球で難なく暮らせるように、実の魔力を少しずつ引き出して成長速度を地球に合わせてるだけだし。実の意志一つで、ここでの本来の姿に戻ることは可能だよ。むしろ、その方が余計な力を使わずに済むけども。」
「やめてよ…。俺はまだ地球で暮らしてるんだからさ。いきなりちっさくなったら、それこそ異常じゃん。それに、力だって今で十分に有り余ってる。これ以上化け物になるのはごめんだよ。」
それは、心の奥底からの本音だった。
しかしその言葉が響いた刹那、エリオスの瞳が複雑そうに曇ってしまう。
「……そうだね。」
小さく零れたエリオスの言葉に自虐的な響きを感じ取って、実は自分の失言に気付いた。
「ごめん、父さん! 別にこれは、父さんのせいじゃ―――」
言いかけた実の口を、エリオスの人差し指が優しく塞いだ。
びっくりして口をつぐむ実に、エリオスは頷く。
「分かってる。これは父さんのせいでも、ましてや実のせいでもない。分かってるけど、どうしようもなく自分を責めたくなるんだよ。」
「………っ」
エリオスの発言に、実は目を見開いて固まるしかなかった。
知っている。
今父が感じているであろう、その気持ちを。
「父さん……」
何も言えない。
かといって、何もできない。
もどかしさばかりが募って、それをどうにかごまかしたくて……無意識のうちに、手が動いていた。
ゆっくりと、躊躇いがちに。
自分から父の手に触れる。
本当は、これは自分が見ている都合のいい夢なんじゃないか。
父に触れたら、彼の姿が幻のように消えてしまうのではないか。
心の片隅で、そう思っている自分がいた。
衝動的に殴りかかったくせに、今さらながらに少し怖い。
でも、これ以外にできることがなかったのだ。
次の瞬間―――
「―――っ!?」
急に引き寄せられる。
視界が大きく揺れて、気付けば父に抱き締められていた。
「……―――」
微かに動く、エリオスの唇。
耳元で囁かれたその言葉に、心臓が大きく脈打った。
「ごめんね……本当なら、今すぐにでも飛んでいきたいのに…っ」
「父……さん……」
実は、そこから一歩も身動きができなかった。
恥ずかしい話だが、今こうして父に抱き締められていることが想定外で、どうすればいいのか分からなかったのだ。
父は自分を抱く腕に、どんどん力を込めてくる。
その顔は自分には見えなかったが、なんとなく分かる。
きっと父は、今までにないほどにつらそうな顔をしているだろう。
ほどなくして、エリオスは静かに腕をほどいた。
実を見つめるその顔は、慈愛に満ちている。
そしてその時、彼の体が淡く発光して周辺に光の粒子が舞い始めた。
それに驚いた実は手を伸ばしかけて、その変化がエリオスだけではなく自分の身にも起こっていることに気付く。
「もう、時間がないね。世界を隔てて夢で会うのには、色々と制限がかかるから。それに、そろそろ戻らないと……お互いに、この夢から抜け出せなくなりそうだ。」
「………っ」
エリオスの言葉に、実は大きく顔を歪めた。
父の言うことは正しい。
この夢は、お互いにとって幸せすぎるもの。
「実。」
父が改めて名を呼ぶ。
でも今は、そう呼ばれても虚しさが胸を満たすだけで……
そんな実の瞳を真正面から見つめ、エリオスは穏やかに笑った。
実が抱える寂しさも悲しみも虚しさも、全部を包み込むように。
「いいかい? この先、色んなことが起こる。悩むこともたくさんあるだろう。でもね、封印がどうとか、他人がどうとか、そんなことは考えなくていい。君は心のままに、君にとって最良の選択をすればいいんだ。君がどんな選択をしようとも、父さんは最後まで君の味方だ。」
優しく笑うエリオスが、かすれていく。
「父さんっ!!」
嫌だ。
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