世界の十字路

時雨青葉

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第3章 襲撃

とある人を頼って

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 化け物と尚希が対峙する教会を後にし、実は日が暮れきった街へ飛び出した。


 ほとんどが家に入った後なのか、人通りはかなり少ない。


 その中でもさらにひとが少ない住宅地の裏道を、実は夜目を頼りに走り続ける。


 そして、尚希の家から十分に離れた場所まで辿り着いたところで、実は静かに速度を落とした。


 ここまで来れば、多分大丈夫だろう。
 噴き出る冷や汗を拭い、実は肩で大きく呼吸をする。


「くっ…」


 途端に両手足に激痛が戻ってきて、実は顔を歪めた。


 自分の走ってきた道を振り返ると、地面や壁に血が飛び散ってしまっているのが分かる。


 いくら人通りがほとんどないとはいえ、こんな満身そうの姿を誰かに見られては騒ぎになってしまうだろう。

 
 そうなる前に、なんとかしなくては……


 実は、痛む足を引きずるように歩を進める。


 必死に走っていた時は痛みも忘れていられたが、今はもう少しずつ歩くだけで精一杯だ。


 地面に足を下ろす度に、痛みが爆発して脳裏を白く焼く。


 少し歩いて、実はとある民家の柵の中に入り込んだ。
 ドアの横にもたれかかって、呼び鈴を鳴らす。


 玄関の明かりが灯って中から人が出てくるまでの時間が、いつもの何倍も長く感じた。


「お前さん…っ。なんだい、そのなりは!?」


 中から姿を現した老婆は、首を巡らせた先にいた実の姿に驚愕の表情を浮かべた。


「すみません。とにかく……入れてください。」


 老婆をやんわりと押しやり、実は扉の内側に倒れ込む。
 老婆は扉を閉めると、倒れた実の傍に膝を落とした。


「しっかりおし。一体何があったんだい? こんなに傷だらけで……治癒はどうしたんだい?」


「止まら……ないんです。」


 実は大きく息を吐き出す。


 走りながら腕輪を外して何度か止血を試みたのだが、どういうわけか全く効かなかったのだ。


 血が止まらない状況では、まともに動くことはおろか、考えることだってままならない。


 悩んだ結果、昔は知恵のそのにいたというこの老婆を頼ることにしたわけだ。


「なるほど…。占いで見た時、もう一人の子よりお前さんの姿がはっきりと見えたのは、お前さんがもう一度ここに来るって意味だったのか。ちょっと待ってなさい。」


 そんな老婆の言葉の後、柔らかい熱が足に降りかかった。
 薄目を開けてそちらを見れば、老婆がこちらの足に両手をかざしている。


「無理……しないでください。」


「なめるんじゃないよ。現役を引退しても、私はお前さんのかなり先輩だよ? これくらいの力はまだ残ってるさ。」


 どこかふてぶてしい口調で言った彼女は、次に思案げな表情で実の傷を見下ろす。


「ふむ……何をされたのか知らないけど、厄介だね。血が止まりにくくなるよう細工されてるよ。これは、ちょいと時間がかかるね。」


 老婆は丁寧に、実の怪我を治療していく。
 彼女の言うとおり時間はかかったが、その分実の顔色は着実に回復していった。


「まあ……今はこれが限界かね。」


 老婆がようやく息をついたのは、治療を始めてからすでに一時間以上が過ぎ去った頃だった。


「傷はなんとか塞いだけど、無茶は禁物だよ。すぐに傷が開いちまうからね。」
「はい…。ありがとうございます。」


 体力も気力も限界に近い実は、力なく頷くしかない。


 とにかく玄関でいつまでも寝ているのはまずいと思って体を起こすと、途端に両手足に電流のように痛みが駆け抜けた。


「………っ」


 押し殺したうめき声をあげる実に、老婆は溜め息をつく。


「そんな深手じゃ、治癒が行き届かないのも無理はない。しばらくは我慢するんだね。」


「はい…」


「それにしても、何があったんだい? こんな大怪我をして……連れの子は?」


 老婆の問いかけに実はしばし迷い、静かに口を開いた。


「詳しくは、話せません。でも、一つ訊きたいことがあります。なんでもいい……人を食らう何かの伝承を、知っていたりしませんか?」


「人を食らう…?」


 老婆の口調が、明らかに不穏な響きをたたえる。
 そんな彼女の前で、実は力を込めて口を閉ざす。


 本来なら、自分を助けてくれた彼女には事情を話すべきなのだろう。


 だが、尚希があれだけ必死に隠してきたのだ。
 そう簡単に口にすることはできなかった。


 老婆は実をまじまじと見つめていたが、やがて小さく息をつくとゆっくり立ち上がった。


 実がそれに顔を上げると、彼女は一人奥の部屋に向かう。


「ついておいで。確か、似たような話があったはずだよ。」
「!?」


 まさか、いきなり手応えのある答えが返ってこようとは。
 自分で訊いておいて、実は驚いてしまう。


 何はともあれ、情報が得られるに越したことはない。
 実はなるべく傷を刺激しないように気を遣いながら、老婆の後についていった。

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