446 / 714
第5章 血の罪
尚希からの頼まれ事
しおりを挟む
夜闇が満ちる林の中を、実は風のように走り抜けていた。
色々と世話を焼いてくれた老婆には申し訳ないが、のんびりと休んでいる暇もないのだ。
まだ手足は痛むが、それに構っている余裕もない。
林を走り抜け、噴水がある庭を通り過ぎ、庭に面する建物の中に忍び込む。
『悪いな、実。一つ、頼まれてほしい。』
あの時、尚希は口には出さずにこう頼んできた。
『知恵の園の西館に行ってくれ。そこは貴族用の宿舎だから、見た目で分かるはずだ。そこの最上階、奥から一つ手前に、木の葉が彫られた扉の部屋がある。今はどうだか分からないが、そこがオレの部屋だった。その部屋の左奥の隅に、分かりにくいだろうけどカラクリがあるんだ。そこに隠してあるものを取ってきてほしい。』
当然、その願いを断る理由もない。
そういうわけで、実はいとも簡単に知恵の園へと忍び込んでいた。
建物に入ってからは、念のために足音を忍ばせて中を進む。
基本的に魔法で安全を管理しているこの国は、少しばかり物理的なセキュリティが弱い。
それ故に、魔法を使わないだけで忍び込むのはかなり簡単になるのだ。
階段を上って廊下を進み、木の葉のレリーフがかかった扉を見つけて、そっとそれを開けた。
特に人の気配も感じなかったので、ゆっくりと部屋の中を覗き込む。
ベッド、机、クローゼットに本棚。
家具はあるものの、中に人の姿は全くなかった。
今の部屋の主が誰かは知らないが、人がいないならその方が都合がいい。
実は部屋に入って素早く扉を閉めると、尚希が言っていた左奥を目指した。
遠目から見ていても分からないので、膝をついてそこを凝視する。
「………?」
しかし、どれだけ目を凝らしても、カラクリらしきものは見つからなかった。
不思議に思って手をかざし、ようやく違和感に気付く。
「微妙に、空間が歪んでる……」
実は左腕に手を伸ばして、腕輪を外した。
ほんの少しの魔力を込めてその空間の歪みに触れると、歪みは簡単に晴れた。
そこに現れたのは、床にある小さな窪みだ。
腕輪をはめながら、実は感心する。
本当に綺麗に隠されている。
空間の歪みも、触れてみないと気付かないほどに微少なものだ。
これは本人から言われない限り、こんなカラクリがあることは分からないだろう。
窪みに指をかけてみると、板張りの床の溝に沿って、板の一部が蓋のように開いた。
中は小さな空洞になっている。
そして、そこには五センチ四方ほどの木箱が収まっていた。
「これか……ん?」
箱を取り上げて、箱の蓋に紙切れが挟まっているのに気付いた。
引っ張ると、小さく折り畳まれた紙切れはすぐに出てくる。
一瞬考えて、紙切れを開く。
「―――っ!!」
そこに書かれた短い文章を読んで、実は息を飲んだ。
―――どうか、あの子を助けてあげてほしい。私の血も使いなさい。
そんな簡単な文章と、その下に捺されたひどく見慣れた印。
「……はは。」
開いた口から乾いた笑いが零れるのを、他人事のような心地で聞いた。
「何これ…。これも、予知どおりってわけ? ……父さん。」
これは参った。
実は髪を掻き上げる。
あの人は、どこまで先の未来を見ているのだろう。
その目に何を映して、今はなんのために、どこで何をしているのだろうか。
いくら考えても、想像がつかない。
「ほんと……敵わないな。」
今にも泣きそうな笑顔を浮かべ、実はそう呟いた。
紙切れをポケットにしまい、再び箱に意識を向ける。
そっと箱を開けると、中には綿と柔らかい布の包みが入っていた。
「ん? ……なんだ、これ?」
中身をあらためた実は、首を捻る。
それは、親指と人差し指でつまめる程度の小さな石だった。
磨かれたそれは透き通る淡い紫色をしていて、形も綺麗に整えられている。
月明かりにかざしてみると、石はキラキラと光を反射して輝いた。
それをまじまじと眺めていると、ふいに光が増えた。
月明かりだけではなく、視界の下の方からも淡い光が差しているのだ。
光源を探して、実は目を瞠る。
もう一つの光は、自分の胸元から漏れていたのだ。
自分の胸元を探り、光源だと思われるものを引きずり出してみる。
光っていたのは、以前の事件で手に入れたネックレスだった。
そして、ネックレスの存在に共鳴したのか、石の方も淡く発光しだす。
「もしかして……」
実はネックレスを見つめる。
〝多分、それを使う時はそう遠くないから―――〟
ネックレスを手に入れた時に託された手紙の内容が、ふと思い出される。
このネックレスには、十字架の中心に何かをはめるような窪みがある。
思い至った瞬間、手が動いていた。
吸い寄せられるように、石はネックレスの窪みに近付く。
そして、石がぴったりと窪みにはまる。
次の瞬間、今まで以上に強い光がネックレスから放たれた。
「!?」
視界の全てが光に焼かれて、真っ白に染まる―――
色々と世話を焼いてくれた老婆には申し訳ないが、のんびりと休んでいる暇もないのだ。
まだ手足は痛むが、それに構っている余裕もない。
林を走り抜け、噴水がある庭を通り過ぎ、庭に面する建物の中に忍び込む。
『悪いな、実。一つ、頼まれてほしい。』
あの時、尚希は口には出さずにこう頼んできた。
『知恵の園の西館に行ってくれ。そこは貴族用の宿舎だから、見た目で分かるはずだ。そこの最上階、奥から一つ手前に、木の葉が彫られた扉の部屋がある。今はどうだか分からないが、そこがオレの部屋だった。その部屋の左奥の隅に、分かりにくいだろうけどカラクリがあるんだ。そこに隠してあるものを取ってきてほしい。』
当然、その願いを断る理由もない。
そういうわけで、実はいとも簡単に知恵の園へと忍び込んでいた。
建物に入ってからは、念のために足音を忍ばせて中を進む。
基本的に魔法で安全を管理しているこの国は、少しばかり物理的なセキュリティが弱い。
それ故に、魔法を使わないだけで忍び込むのはかなり簡単になるのだ。
階段を上って廊下を進み、木の葉のレリーフがかかった扉を見つけて、そっとそれを開けた。
特に人の気配も感じなかったので、ゆっくりと部屋の中を覗き込む。
ベッド、机、クローゼットに本棚。
家具はあるものの、中に人の姿は全くなかった。
今の部屋の主が誰かは知らないが、人がいないならその方が都合がいい。
実は部屋に入って素早く扉を閉めると、尚希が言っていた左奥を目指した。
遠目から見ていても分からないので、膝をついてそこを凝視する。
「………?」
しかし、どれだけ目を凝らしても、カラクリらしきものは見つからなかった。
不思議に思って手をかざし、ようやく違和感に気付く。
「微妙に、空間が歪んでる……」
実は左腕に手を伸ばして、腕輪を外した。
ほんの少しの魔力を込めてその空間の歪みに触れると、歪みは簡単に晴れた。
そこに現れたのは、床にある小さな窪みだ。
腕輪をはめながら、実は感心する。
本当に綺麗に隠されている。
空間の歪みも、触れてみないと気付かないほどに微少なものだ。
これは本人から言われない限り、こんなカラクリがあることは分からないだろう。
窪みに指をかけてみると、板張りの床の溝に沿って、板の一部が蓋のように開いた。
中は小さな空洞になっている。
そして、そこには五センチ四方ほどの木箱が収まっていた。
「これか……ん?」
箱を取り上げて、箱の蓋に紙切れが挟まっているのに気付いた。
引っ張ると、小さく折り畳まれた紙切れはすぐに出てくる。
一瞬考えて、紙切れを開く。
「―――っ!!」
そこに書かれた短い文章を読んで、実は息を飲んだ。
―――どうか、あの子を助けてあげてほしい。私の血も使いなさい。
そんな簡単な文章と、その下に捺されたひどく見慣れた印。
「……はは。」
開いた口から乾いた笑いが零れるのを、他人事のような心地で聞いた。
「何これ…。これも、予知どおりってわけ? ……父さん。」
これは参った。
実は髪を掻き上げる。
あの人は、どこまで先の未来を見ているのだろう。
その目に何を映して、今はなんのために、どこで何をしているのだろうか。
いくら考えても、想像がつかない。
「ほんと……敵わないな。」
今にも泣きそうな笑顔を浮かべ、実はそう呟いた。
紙切れをポケットにしまい、再び箱に意識を向ける。
そっと箱を開けると、中には綿と柔らかい布の包みが入っていた。
「ん? ……なんだ、これ?」
中身をあらためた実は、首を捻る。
それは、親指と人差し指でつまめる程度の小さな石だった。
磨かれたそれは透き通る淡い紫色をしていて、形も綺麗に整えられている。
月明かりにかざしてみると、石はキラキラと光を反射して輝いた。
それをまじまじと眺めていると、ふいに光が増えた。
月明かりだけではなく、視界の下の方からも淡い光が差しているのだ。
光源を探して、実は目を瞠る。
もう一つの光は、自分の胸元から漏れていたのだ。
自分の胸元を探り、光源だと思われるものを引きずり出してみる。
光っていたのは、以前の事件で手に入れたネックレスだった。
そして、ネックレスの存在に共鳴したのか、石の方も淡く発光しだす。
「もしかして……」
実はネックレスを見つめる。
〝多分、それを使う時はそう遠くないから―――〟
ネックレスを手に入れた時に託された手紙の内容が、ふと思い出される。
このネックレスには、十字架の中心に何かをはめるような窪みがある。
思い至った瞬間、手が動いていた。
吸い寄せられるように、石はネックレスの窪みに近付く。
そして、石がぴったりと窪みにはまる。
次の瞬間、今まで以上に強い光がネックレスから放たれた。
「!?」
視界の全てが光に焼かれて、真っ白に染まる―――
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!!
2巻2月9日電子版解禁です!!
紙は9日に配送開始、12日発売!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる