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第2章 無限の力
ニューヴェルの真価
しおりを挟む「………」
そこには、重たい沈黙が落ちていた。
部屋にいる誰もが黙り込んで、それぞれの顔に決して明るいとは言えない表情を浮かべている。
「レイキーか……」
ぽつりとそう呟いたのは、尚希だった。
「あまり、いい話は聞かないな。」
「………っ」
不穏な尚希の言葉に、向かいに座っていた桜理が怯えたように肩を震わせ、膝に乗せていたユエを抱き締める腕にぎゅっと力を込めた。
まるで、そうすることで感情をやりすごすように。
「そうなのか?」
拓也の問いかけを、尚希は淡々と肯定する。
「ああ。とはいえ、表向きは至って平和なんだ。国勢が傾いてるわけでもないし、機械文明はこっちより発達してる。オレとしては、いい商売相手なんだけどな…。ただ、人身売買だったり武器の密造だったりと、仄暗い裏の顔を持つって噂もある。あくまでも噂だから真に受けちゃいないけど……レイキーからの密書や密偵が多い手前、たかが噂と切り捨てられないのが現実だ。」
「密書や密偵が、お前のところに来るのか?」
拓也は少しだけ意外そうに言うが、尚希はそれに「いや…」と首を振った。
「正確には、ニューヴェルに対してだ。ニューヴェルは、世界でも珍しい多国籍貿易の中心だからな。現時点ではどの国も契約の優先権を持ってないことも特徴的だ。」
「え…? アズバドルですらか?」
これには本気で驚愕したのか、拓也が目をまんまるにしている。
それに、尚希はこくりと頷いた。
「オレたちは商売人なんでね。商品のやり取りに、国による優劣なんて必要ないだろ? どんなものであれ、互いに認めた価値で等価交換だ。ニューヴェルには、オレの家を筆頭にそういう考えの連中が集まって、独自の商業連合を作り上げているんだ。地理的にはアズバドルに属しているが、それはたまたまってやつだな。」
語る尚希は、どこか自慢げである。
「実際のところ、独立国家を作るくらいの政治力と軍事力は持ってるんだよ。国に恩っていう恩があるわけでもないし、国が妙な動きをしようものなら、さっさと手続きを済ませて独立するだけさ。そうなった時にしがらみを作らないために、爵位の授与だってずっと断り続けてきたしな。だからこそ、国もニューヴェルの顔色を窺うことに必死で、滅多なことでは介入してこない。ニューヴェルから得られる利潤を失いたくはないからな。」
と、そこで尚希はにやりと微笑む。
「さて、そんな大都市が味方につけば……一国すら揺るがす強力な切り札になると思わないか?」
「!!」
その問いかけに、拓也と桜理は揃って息を飲んだ。
昔から、ニューヴェルは何かと特別視されることが多かった。
国に対する特殊課税がありはするものの、税率や法律を始め、様々なことが国の関わらない独自ルールで回っているそうだ。
もはや、実質的には独立していると言っても過言ではあるまい。
とはいえ、ニューヴェルと国の関係性を知った後ならば、その特別措置にも納得がいく。
知恵の園で尚希が優遇されていたのも、ニューヴェルを敵に回さないための配慮だったのだろう。
多国籍の人々が集まるが故に一枚岩とはいかない商業連合とはいえ、長年そこを率いてきたアイレン家の一声は強力なはず。
尚希の機嫌を損ねることは、それこそ国の大損失に直結する。
彼は、それだけの権力を持っていたのだ。
「色々と、納得がいったような顔だな。」
拓也のどこか青ざめた顔に、尚希はくすりと笑い声を漏らした。
「そういうわけで、国としてはオレを知恵の園に召集できてラッキーだったんだ。教育課程で上手く洗脳できれば、ニューヴェルを自分たちの言いなりにすることも可能だからな。だけど……」
「だけど?」
「型破りな師匠にオレの世話を任せたのが全ての間違い。リラステの件が片付いたらさっさと独立してしまえなんて言う師匠の下じゃ、帰属意識が芽生えるはずもないんだよなー。」
「……ああ。あの人なら、間違いなくそう言うな。」
型破りな師匠というのが誰を指しているのかは明確。
故に、拓也は苦笑を返すしかない。
きっと、実がこの話を聞いても同じような反応をするだろう。
「だろ? あくまでも、商売人として平等にっていうのがオレの考えだ。今後のことは分からないけど、今のところはどこかに優先的に味方する気はない。そう思えるからこそ、師匠には多大な恩義を感じてるよ。」
尚希がそう言うのも無理はない。
尚希がニューヴェルの矜持を失わなずに済んだのは、エリオスが国の悪質な洗脳から尚希を守ったから。
本人にそのつもりがなかったとしても、エリオスは尚希を介してニューヴェルを救ったと言えるわけだ。
尚希がやたらと実を気にかける理由の一端には、エリオスへの恩を返したいという思いもあるのだろう。
「そうは言ったものの、秘密主義を徹底しているアイレン家の方針なんざ、外部の奴らは知らんってのが現実でな。隙あらばの精神でニューヴェルにコンタクトを取ってくる奴は多い。その筆頭に上がるのが、レイキーの一部だ。」
「………っ」
軽い思い出話を経て本題が舞い戻ってきて、拓也は改めて背筋を伸ばす。
尚希の表情にも、固く険しい雰囲気が滲んでいた。
「色んな角度からアプローチをかけては、ニューヴェルの協力を欲していたよ。今までは、胡散臭くて相手にしてこなかったんだけどな…。さっき話したきな臭い噂を前提に入れて話をするなら、レイキーに実を狙う奴がいたとしても意外ではないだろう。」
確かに、どんな形であれ実を利用できたなら、世界中を揺るがすことも容易になるだろう。
実が持つ力は計り知れないと、自分は身を持って知っている。
しかし……
「でも、あの実なんだ。仮に捕まったとしても、簡単に逃げてくるんじゃないか?」
何度も命の危険に瀕しながら、最後には無事に帰ってきた実だ。
こちらが絶望的になっても、実ならその状況を打破する手を探して打ってくる。
だから今回も、実はけろっとした顔で戻ってくるだろうと。
拓也はそう思って疑わなかった。
「それは……難しいかも。」
だが、そこで桜理が首を横に振った。
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